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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★
301:……桃子、容赦ないな
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ツンツクツン……、ツンツン
んん~? やめろよくすぐったいなぁ……
ツンツクツン……、ツツツツツンッ!
ぐふっ!? それは痛いぞっ!??
「ぶはぁっ!? なんだぁっ!??」
脇腹に過度な刺激を与えられ、俺は目を覚ました。
視界に広がるのは、頭上遥か高くにあるデコボコとした黒い岩の天井と、青い光を放つ半透明の巨大軟体生物。
ムニョムニョと動く口と、ウネウネとうねる体中の突起物が非常に気色悪い。
一体全体、何があったんだ?
確か……、そうだ、アメフラシの記憶を辿っていたはす!
コトコは!? 桃子と志垣はどうなったんだっ!??
……てか、なんか臭いぞっ!?!?
俺は慌てて身を起こす。
すると、ねちょねちょという粘っこい音が聞こえ、何やら体が重く動かし辛いのだ。
まさかと思い、視線を向けると……
「なっ!? んじゃこりゃあぁぁっ!??」
ぶよぶよとした弾力のあるネバネバな粘膜が、俺の頭のてっぺんから足の先まで、ベッタリと付いているではないかっ!?
気持ち悪いっ!!
しかも、見た目の気持ち悪さに比例して、臭いがヤバイ!!!
沼の底に生える水草のような臭いが、俺の獣臭とミックスされて……
ドブの様な臭いがぁあぁ~!!!!
鼻がもげるぅうぅぅ~!!!!!
急いで両手で鼻を塞ぐも、その手ももちろん臭くって……
「ぐはぁあぁぁっ!?」
地獄かぁっ!?
鼻がっ!?? 鼻がぁあぁぁっ!???
すると、頭の上から……
ザパーーーーーンッ!
「ひょぉおおぉぉぉっ!?!?」
不意打ちとはまさにこの事である。
水をたんまりとかけられて、身体中びしょ濡れになった俺は、驚きと冷たさで妙な悲鳴を上げてしまった。
なんっ!? なんなんなんっ!??
わけがわからぬまま、こんな酷い事する奴は何処のどいつだっ!? と、キッと睨み付けながら後ろを振り返ると……
「こうすれば、ドロドロはとれるぞよ」
手に大きな空の木製のバケツを持ち、ニカっと笑う、水色の肌の姫巫女様……、いや、桃子がそこにいた。
「志垣も心配が過ぎるよのぉ。妾はしばし一人でも大事ないと言うのに、わざわざ時の神の使者であるモッモを残すとは……。いつまで経っても頭の中は餓鬼のまんまじゃのぉ」
姫巫女様こと桃子は、社の中から持ってきた麻のタオルを俺の体に巻きながらそう言った。
身体中ずぶ濡れの俺は、冷えて風邪をひかないようにと必死で体を拭く。
なんだってこんな事にぃっ!?
確かにあの気持ち悪い粘膜は取れたし、臭いもちょっとはマシになったけどさぁっ!??
もっと他にやり方あったでしょっ!???
いきなり頭から大量の水ぶっかけるって……、どこのイジメだよおいっ!?!??
せっせと体を拭きながら、隣に立つ桃子を睨む俺。
桃子は、その身に薄く淡い色の着物を羽織っていて、以前会った時とは随分印象が違って見える。
……まぁ、服のせいだけじゃないとは思うけどさ。
「雨子よ、モッモに全てを見せたのか?」
アメフラシに問い掛ける桃子。
『うむ。我が記憶している事は全て、な……』
「そうか……。さすればモッモよ、五百年前に何が起こったか、その小さき頭でしかと理解したか?」
はぁんっ!?
人に水ぶっかけといて、何その言い方っ!??
小さき頭って……、失礼すぎないぃっ!???
「だっ!? 理解しましたよぉっ!!」
「うむ。なれば、二十年前の事と、今起きている事、双方の意味もわかるであろう?」
桃子に問われて、ピタッと動きを止める俺。
……つまりぃ~、えっとぉ~。
「二十年前も、今も……。紫族の子供が関係しているって事ですよね?」
「左様……。五百年前は、妾の兄貴分であった夜霧が、度重なる飢えによる仲間の死を受けて心を病み、己の中にある呪力と、共にいた志垣、天芽、丹乃の呪力を用いて、灰の魔物と呼ばれる邪悪なる者を呼び寄せたのじゃ。夜霧は自らも異形な怪物へと身を貶め、鬼共を殺して回った。あまりの所業に皆は成す術なく、最後は琴子がその身に夜霧を取り込んだと聞いておる……」
ふ~む、なるほど。
「その……、実際にどうなったかは、見てないんですか?」
アメフラシの記憶は、桃子が雨を降らせた場面で終わっていた。
灰の魔物とか、異形な怪物となった夜霧の姿なんかは、一切見ていないのだろうか?
「妾も雨子も、離れ家にて事が収まるまで雨を降らせ続けていた故……。夜霧の最後も、琴子が何をしたのかも、他の者より後から耳にしたのみなのじゃ。記憶の中に、穂酉という鬼が出てきたか?」
「あ、はい。なんか、勉坐に似た感じの鬼が……」
「穂酉があの日から数日の後に、妾と志垣、雨子を迎えにやってきた。穂酉自身も片腕を無くし重傷だったが、さすがと言うべきか、あの惨劇の中で生き残った一人じゃ……。妾達を村へと連れ帰り、雨乞いの巫女として、紫族復興の礎となって欲しいと頼まれた。そして、岩山の一角にこの雨神の洞を造り、そこから妾の姫巫女としての生活が始まった」
『鬼共は外の者を嫌う。殊に姿形の異なる者に対しての偏見は強い。故に我はこうして今日まで、この暗い洞窟の中で一人寂しく……、うっうっうっ……』
……アメフラシ、泣いてるの?
涙を流しているようには見えないけどね??
「はははっ! 仕方があるまいて。長年の付き合いである妾とて、そなたの気味の悪さには到底慣れぬ故な。年々ぶくぶくと太りおってからに……、少しは体を動かせっ!!」
……桃子、容赦ないな。
洞窟に閉じ込められている相手に対する言葉とは思えない。
でも……、じゃあ……、二十年前は何が?
「五百年前はその……、夜霧さんが異形な怪物になって、灰の魔物を呼び寄せたと……。じゃあ二十年前は、いったい誰が異形な怪物になったんですか? それに……、灰の魔物はコトコさんが倒したんですよね?? だったら、二十年前には現れてないんですよね???」
「それはわからぬ。志垣の調べによれば、二十年前に南の村で起きた惨劇は、志垣の跡を継ぐ予定であった子の一人が引き起こしたと聞いておる。確かに南の村は焼け滅び、火の山の北側まで山火事が広がったが……。灰の魔物が現れたどうかは定かではない。目撃した者もいると聞いたが、その日より数日後に亡くなった故、真相を確かめる事は出来ぬ」
ほう? 志垣の跡を継ぐ予定の??
……えっ、それってもしかしてっ!??
「それって、その……。その子供っていうのは……?」
『砂里と共に試練の洞窟に挑んでいた、灯火という少年だ。紫族の者たちは、その身の内に呪力という力を宿している。わかりやすく説明するならば、それは魔力とそう変わりがない。巫女守りの一族は代々その力が強い。中でも、原因はわからぬが、同じ日に生まれた二人の子供、俗に双魂子と呼ばれる子らは、殊にその力が強いのだ。最初の巫女守りである穂酉は、それはそれは強い呪力の持ち主であった。故に、コトコの持つ魔力の強さに一人気付き、斬鬼の無謀な抵抗を止めた。穂酉の造りしこの雨神の洞は、強大な呪力で守られている。それは、我を外の者より守る為。まぁ、我にとってみれば檻以外の何ものでもないが……』
ちょっ! ちょっと待って!!
話が長いよアメフラシ!!!
ちょっと頭の中を整理させてぇっ!!!!
「ちょちょっ! その灯火って!? どうして灯火が怪物にっ!??」
砂里の話では、灯火は砂里と一緒に、試練の洞窟に一生懸命挑戦していたんじゃなかったの!?
てか……、ある日突然死んだって聞いていたんですけどっ!??
「灯火は、実に真面目な童であった。しかしそれ故に、怖くなったのじゃろう。この先何十年、いや何百年と、姫巫女である妾を守る為の巫女守りになれるのか、志垣の代わりなど務まるのか、とな……。恐怖は心に影を差す。それはやがて闇となって、心を蝕む。灯火の異変に気付いた灯火の親共は、巫女守りの辞退を申し出た。そして皆が止める間もないままに、一家は南の村へと移り住んだのじゃ。……二十年前に何が起きたか、それは定かではない。しかし、南の村で志垣が見たものは、他の誰よりも無残に、誰かもわからぬほどにズタズタに切り裂かれた、灯火の親たちの亡骸じゃった」
んん~? やめろよくすぐったいなぁ……
ツンツクツン……、ツツツツツンッ!
ぐふっ!? それは痛いぞっ!??
「ぶはぁっ!? なんだぁっ!??」
脇腹に過度な刺激を与えられ、俺は目を覚ました。
視界に広がるのは、頭上遥か高くにあるデコボコとした黒い岩の天井と、青い光を放つ半透明の巨大軟体生物。
ムニョムニョと動く口と、ウネウネとうねる体中の突起物が非常に気色悪い。
一体全体、何があったんだ?
確か……、そうだ、アメフラシの記憶を辿っていたはす!
コトコは!? 桃子と志垣はどうなったんだっ!??
……てか、なんか臭いぞっ!?!?
俺は慌てて身を起こす。
すると、ねちょねちょという粘っこい音が聞こえ、何やら体が重く動かし辛いのだ。
まさかと思い、視線を向けると……
「なっ!? んじゃこりゃあぁぁっ!??」
ぶよぶよとした弾力のあるネバネバな粘膜が、俺の頭のてっぺんから足の先まで、ベッタリと付いているではないかっ!?
気持ち悪いっ!!
しかも、見た目の気持ち悪さに比例して、臭いがヤバイ!!!
沼の底に生える水草のような臭いが、俺の獣臭とミックスされて……
ドブの様な臭いがぁあぁ~!!!!
鼻がもげるぅうぅぅ~!!!!!
急いで両手で鼻を塞ぐも、その手ももちろん臭くって……
「ぐはぁあぁぁっ!?」
地獄かぁっ!?
鼻がっ!?? 鼻がぁあぁぁっ!???
すると、頭の上から……
ザパーーーーーンッ!
「ひょぉおおぉぉぉっ!?!?」
不意打ちとはまさにこの事である。
水をたんまりとかけられて、身体中びしょ濡れになった俺は、驚きと冷たさで妙な悲鳴を上げてしまった。
なんっ!? なんなんなんっ!??
わけがわからぬまま、こんな酷い事する奴は何処のどいつだっ!? と、キッと睨み付けながら後ろを振り返ると……
「こうすれば、ドロドロはとれるぞよ」
手に大きな空の木製のバケツを持ち、ニカっと笑う、水色の肌の姫巫女様……、いや、桃子がそこにいた。
「志垣も心配が過ぎるよのぉ。妾はしばし一人でも大事ないと言うのに、わざわざ時の神の使者であるモッモを残すとは……。いつまで経っても頭の中は餓鬼のまんまじゃのぉ」
姫巫女様こと桃子は、社の中から持ってきた麻のタオルを俺の体に巻きながらそう言った。
身体中ずぶ濡れの俺は、冷えて風邪をひかないようにと必死で体を拭く。
なんだってこんな事にぃっ!?
確かにあの気持ち悪い粘膜は取れたし、臭いもちょっとはマシになったけどさぁっ!??
もっと他にやり方あったでしょっ!???
いきなり頭から大量の水ぶっかけるって……、どこのイジメだよおいっ!?!??
せっせと体を拭きながら、隣に立つ桃子を睨む俺。
桃子は、その身に薄く淡い色の着物を羽織っていて、以前会った時とは随分印象が違って見える。
……まぁ、服のせいだけじゃないとは思うけどさ。
「雨子よ、モッモに全てを見せたのか?」
アメフラシに問い掛ける桃子。
『うむ。我が記憶している事は全て、な……』
「そうか……。さすればモッモよ、五百年前に何が起こったか、その小さき頭でしかと理解したか?」
はぁんっ!?
人に水ぶっかけといて、何その言い方っ!??
小さき頭って……、失礼すぎないぃっ!???
「だっ!? 理解しましたよぉっ!!」
「うむ。なれば、二十年前の事と、今起きている事、双方の意味もわかるであろう?」
桃子に問われて、ピタッと動きを止める俺。
……つまりぃ~、えっとぉ~。
「二十年前も、今も……。紫族の子供が関係しているって事ですよね?」
「左様……。五百年前は、妾の兄貴分であった夜霧が、度重なる飢えによる仲間の死を受けて心を病み、己の中にある呪力と、共にいた志垣、天芽、丹乃の呪力を用いて、灰の魔物と呼ばれる邪悪なる者を呼び寄せたのじゃ。夜霧は自らも異形な怪物へと身を貶め、鬼共を殺して回った。あまりの所業に皆は成す術なく、最後は琴子がその身に夜霧を取り込んだと聞いておる……」
ふ~む、なるほど。
「その……、実際にどうなったかは、見てないんですか?」
アメフラシの記憶は、桃子が雨を降らせた場面で終わっていた。
灰の魔物とか、異形な怪物となった夜霧の姿なんかは、一切見ていないのだろうか?
「妾も雨子も、離れ家にて事が収まるまで雨を降らせ続けていた故……。夜霧の最後も、琴子が何をしたのかも、他の者より後から耳にしたのみなのじゃ。記憶の中に、穂酉という鬼が出てきたか?」
「あ、はい。なんか、勉坐に似た感じの鬼が……」
「穂酉があの日から数日の後に、妾と志垣、雨子を迎えにやってきた。穂酉自身も片腕を無くし重傷だったが、さすがと言うべきか、あの惨劇の中で生き残った一人じゃ……。妾達を村へと連れ帰り、雨乞いの巫女として、紫族復興の礎となって欲しいと頼まれた。そして、岩山の一角にこの雨神の洞を造り、そこから妾の姫巫女としての生活が始まった」
『鬼共は外の者を嫌う。殊に姿形の異なる者に対しての偏見は強い。故に我はこうして今日まで、この暗い洞窟の中で一人寂しく……、うっうっうっ……』
……アメフラシ、泣いてるの?
涙を流しているようには見えないけどね??
「はははっ! 仕方があるまいて。長年の付き合いである妾とて、そなたの気味の悪さには到底慣れぬ故な。年々ぶくぶくと太りおってからに……、少しは体を動かせっ!!」
……桃子、容赦ないな。
洞窟に閉じ込められている相手に対する言葉とは思えない。
でも……、じゃあ……、二十年前は何が?
「五百年前はその……、夜霧さんが異形な怪物になって、灰の魔物を呼び寄せたと……。じゃあ二十年前は、いったい誰が異形な怪物になったんですか? それに……、灰の魔物はコトコさんが倒したんですよね?? だったら、二十年前には現れてないんですよね???」
「それはわからぬ。志垣の調べによれば、二十年前に南の村で起きた惨劇は、志垣の跡を継ぐ予定であった子の一人が引き起こしたと聞いておる。確かに南の村は焼け滅び、火の山の北側まで山火事が広がったが……。灰の魔物が現れたどうかは定かではない。目撃した者もいると聞いたが、その日より数日後に亡くなった故、真相を確かめる事は出来ぬ」
ほう? 志垣の跡を継ぐ予定の??
……えっ、それってもしかしてっ!??
「それって、その……。その子供っていうのは……?」
『砂里と共に試練の洞窟に挑んでいた、灯火という少年だ。紫族の者たちは、その身の内に呪力という力を宿している。わかりやすく説明するならば、それは魔力とそう変わりがない。巫女守りの一族は代々その力が強い。中でも、原因はわからぬが、同じ日に生まれた二人の子供、俗に双魂子と呼ばれる子らは、殊にその力が強いのだ。最初の巫女守りである穂酉は、それはそれは強い呪力の持ち主であった。故に、コトコの持つ魔力の強さに一人気付き、斬鬼の無謀な抵抗を止めた。穂酉の造りしこの雨神の洞は、強大な呪力で守られている。それは、我を外の者より守る為。まぁ、我にとってみれば檻以外の何ものでもないが……』
ちょっ! ちょっと待って!!
話が長いよアメフラシ!!!
ちょっと頭の中を整理させてぇっ!!!!
「ちょちょっ! その灯火って!? どうして灯火が怪物にっ!??」
砂里の話では、灯火は砂里と一緒に、試練の洞窟に一生懸命挑戦していたんじゃなかったの!?
てか……、ある日突然死んだって聞いていたんですけどっ!??
「灯火は、実に真面目な童であった。しかしそれ故に、怖くなったのじゃろう。この先何十年、いや何百年と、姫巫女である妾を守る為の巫女守りになれるのか、志垣の代わりなど務まるのか、とな……。恐怖は心に影を差す。それはやがて闇となって、心を蝕む。灯火の異変に気付いた灯火の親共は、巫女守りの辞退を申し出た。そして皆が止める間もないままに、一家は南の村へと移り住んだのじゃ。……二十年前に何が起きたか、それは定かではない。しかし、南の村で志垣が見たものは、他の誰よりも無残に、誰かもわからぬほどにズタズタに切り裂かれた、灯火の親たちの亡骸じゃった」
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