最弱種族に異世界転生!?小さなモッモの大冒険♪ 〜可愛さしか取り柄が無いけれど、故郷の村を救う為、世界を巡る旅に出ます!〜

玉美-tamami-

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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

279:馬鹿者めぇっ!!!

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 巨大な頭蓋骨の中にあるベンザの家は、その造りや置かれている家具はオマルやネフェの家となんら変わりないが、雰囲気が違っていた。
 オマルの家のような動物の毛皮や骨が……、ここには全く飾られておらず、代わりに香草だろうか、様々な干した草花の束が吊るされている。
 そのためか、部屋の中には獣臭や血生臭さなど一切なく、爽やかな草原のような、美しい花畑のような良い香りが満ちているのだ。
 久しぶりに気分がスッキリする部屋だな、と俺は思った。

「それは頂いておこう」

 そう言って、ベンザはオマルからの手土産であるリーラットの籠を受け取った。
 そして、部屋に複数ある扉のうち、鍵のかかった一際頑丈そうな扉を開くベンザ。
 ぷるぷると怯える五匹のリーラットが入った籠を抱えたまま、その向こう側へと姿を消した。

 ……ごめんね、野ネズミさんたち。
 せめて、安らかに逝ける事を願っているよ。

 扉に向かって、両手を合わせて合掌する俺。

「なんだかこう……、雰囲気が独特ね」

 例によって、大きな木の囲炉裏端にある丸太の椅子に腰かけて、部屋を見渡すグレコ。
 オマルもネフェもサリも、既に椅子に座っている。
 俺は……、従魔の設定だから、椅子には座らない方がいいだろうか?
 ……いや、椅子ぐらい座ってもいいだろう。
 そう思って、グレコの隣に腰掛けた。

「あら? あそこにあるのは書物??」

 グレコの視線の先にあるものは、開かれたままの扉の先にある隣の部屋の、背の低い本棚。
 そこにはぎっしりと本が詰まっている。

「あぁ、勉坐の一族は代々、文字を扱う事に長けていてな。あそこにある書物には、紫族のこれまでの歴史や、様々な知恵が記されているらしい。……と言っても、俺自身は文字なんざ扱えねぇから、何が書かれているのか知らねぇけどな」

 ふむ、なるほど……
 確かに、ネフェの家にもオマルの家にも、歩いてきた村の風景の中にも、一切書物や本は見当たらなかったな。
 文字が書かれている物も見ていないし……
 てっきり、鬼族は文字を使わないものだと思っていたが、少なくとも一人は扱える者がいるという事か。

 そんな事を考えながら、ぼんやりと本棚にある古びた本の背表紙を眺めていた俺は、ある事に気付いた。

 んん? あれって……、漢字か??

 背表紙に書かれている文字が、何やら見覚えのある、俺の前世の世界で使われていた文字、漢字にそっくりなのだ。
 遠目だから確信はないが、こう、漢字が少し崩れたような、柔らかい漢字というか……
 でもどうして、前世の文字がここにあるんだ???

「それで……、いつ、泉に古の獣が現れたのだ?」

 いつの間にか部屋に戻って来ていたベンザが、丸太の椅子に腰掛けながらオマルに問い掛けた。
 ……と、ベンザが俺の顔をギロリと睨む。

 ひぃっ!? なっ、何っ!??

 俺の顔……、目、口、鼻、耳、その他全身を細かく、舐め回すかのように観察するベンザ。
 その視線が鋭くて、蛇に睨まれた蛙のように、俺は硬直してしまう。

「一昨日の話だ。つまり、今日が三日目……。目撃したのはうちの村の那洞という男だ。独り身にも関わらず、自分の娘が古の獣に食われたと言って、慌てて村に戻ってきやがった。泉守りになって日も浅い……。前回と同じなら、姫巫女様にあらかじめ通達をせねばと思ってな」

 オマルの言葉で、ベンザはようやく俺から視線を外した。

 はぁあぁぁぁ~……、寿命が縮まったわぁ~。

「なるほど、そういう事か……。先ほど喜勇達に偵察に行かせた故、火の山の様子はすぐにでもわかろう」

「何もなければそれでいいんだが……。何故だか嫌な予感がしてな。あまりに当時と酷似している」

「案ずるな。単なる偶然という事もある。二十年前と同じようになるとは限らぬ」
 
 何だろう、とっても深刻そうだけど……、話が全く読めん。

「あの……、それってどういう……?」

 グレコが話に加わる。

「外者が関われる話では断じてない。そもそも、なぜこやつらを伴ってきた? 理由はあるのだろうな、雄丸!?」

 途端に顔付きが険しくなるベンザ。
 怒りを露わにし、体中から放つ威圧感が半端ない。

「グレコとモッモは、島外の大陸から船でここまでやってきた。そして、北の海で遭難していたところを、祢笛と砂里が助けたそうだ。加えて……、グレコは吸血エルフの一族だ」

   オマルの言葉に、一瞬ベンザは時が止まったかのように固まった。
   そして……

「な……、きっ!? 貴様っ!?? 何故それを先に言わんのだっ!???」

 ベンザは目を見開いて驚き、立ち上がって、オマルを怒鳴りつけた。

「わ、悪い……。ほら、外でだと誰が聞いているかわからんからな、中で話そうと……」

 たじたじするオマル。

「ならば中に入った時点で最も先に私に教えろこの……、馬鹿者めぇっ!!!」

 ベンザの怒りは収まらない。
 怒りの炎をメラメラと背負いながら、言いたい事を聞き取りにくい程の早口で、噛まずに言ってのけたのだ。

 ひえぇぇ……、こえぇぇ……

 もともと小さい体をさらに縮めて、グレコにピッタリとくっつく俺。
   別に俺が怒られているわけではないのだけれど、目が合ったらこちらに飛び火してきそうなのだ。
   出来るだけ目立たぬようにしなければ。

「えっと……、ごめんなさい。鬼族でもない余所者の私が、なんだか大変な時に来ちゃって……、その……」

 さすがのグレコも、あまりのベンザの剣幕に、かなり委縮した様子でそう言った。
 だがしかしベンザは……

「……謝らずとも良い」

 声色を優しくしてそう言ったかと思うと、サッとグレコに向かって頭を下げた。

「えっ!?」

「どっ!?」

 慌てるグレコと俺。
 ネフェとサリも、驚いた様子でベンザを見る。

「先ほどは無礼を働いて済まなかった。私は、吸血エルフの者の成りをよく知らぬ故、外者というだけでそなたを軽視してしまった。非礼を詫びよう、この通りだ」

 ベンザのあまりの変わりように、俺もグレコも、ネフェもサリも、目を白黒させる。

「あ……、頭を上げてください。その……、私は大丈夫ですから、ね?」

 グレコの言葉に、頭を上げたベンザは、出会って初めて微笑んだ。
 お顔が美しいから、笑うと女神のようだな。
 さっきまでは般若かと思っていたけど……

「……ど、どうした勉坐? いくら無礼な物言いをしたとはいえ、外者に頭を下げるなど、お前らしくないぞ??」

 困惑した表情で問い掛けるネフェ。

「ふん……、貴様は物を知らなさすぎるのだ。少しは我ら紫族の歴史を学べばいいものを」

 目を細めて、ネフェを睨むベンザ。
 きょとんとするネフェと、ばつが悪そうな顔をするサリ。

「無理もない。語り部の一族がお前以外いなくなってしまった今となっては、数百年も前の事実を知る者は少ない。若い祢笛や砂里が知らずとて仕方のない話だ」
   
   オマルが二人を優しくフォローする。

「それって……。私が、その、吸血エルフである事が、何か……、シ族の歴史と関係しているのですか?」

 グレコの問い掛けに、ベンザとオマルは目を見合わせる。
 そして、話した方が良いと、二人の間では無言の一致があったのだろう。
 ベンザがグレコに向き直り、こう言った。

「およそ四百八十余年前、我ら紫族を滅びの運命から救い出した者がいた。外界から現れたその者の名は琴子コトコ。この地に飛来した、かの恐ろしき魔物より我々紫族を守ってくれた、勇敢なる救世主……。彼女は、吸血エルフという種族の生まれの者であったと、言い伝えられている」

 なっ!? なんだってぇえぇぇぇっ!??
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