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★ピタラス諸島第一、イゲンザ島編★

225:淡い光

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「寒空の下~♪ 君を~ずっと~待っていたのに~♪ どうして君は~♪ どうして君は~♪ 彼のところへ行ってしまったの~♪ うっ……、ぐすんっ……、うっうっうっ……」

「……ねぇカービィ。そろそろ正気に戻ってくれないかなぁ?」

「それでも僕は~♪ それでも僕は~♪ 君を信じて待っていたよ~♪ アイウォンチューベイベー♪ アイラービューベイベー♪ ぐすっ……、うぅっ……、うおぉおぉ~!!!」

   ……あ~、うるせぇ。

   洞窟内に響くカービィの嗚咽に、俺とギンロは双方共にウンザリな顔をしていた。

   手に持った松明と、望みの羅針盤を頼りに、真っ暗闇が続く洞窟を行くことしばらく……
   先程までニマニマと笑いながら後を付いてきていたカービィが、突然悲しげな歌を歌い出したかと思えば、何を思い出しているのか、泣きべそをかきだしたのだ。
 あまりの奇行ぶりから考えるに、どうやら本当に頭を打ったらしい。
 大事にならなければいいのだが…… 
 それにしても……

   歌詞からして、どうやら失恋の痛手を思い出しているらしいが、これがうるさいのなんのってもう……、うるせぇっ!!!
   この洞窟には恐ろしい魔物が棲んでいるんだぞ!?
   そんな大声出して、魔物が襲ってきたらどうするんだよぉっ!??

   と、思いつつも……
   カービィの迷惑行為はさておき、俺とギンロは、この洞窟には魔物などいないのでは? と考え始めていた。

   ギンロにも、先程カービィから聞いた話と、グレコから聞いた話を伝えて、魔物がいつどこから襲ってくるか分からないから気をつけて行こう! と伝えたのだが……
   魔物の姿は愚か、動物一匹の気配さえもないし、周りを見る限りでは、何かがここに棲んでいたり、通り道にしているような形跡も全くないのだ。
 あるのは苔のような植物と、キノコのみ。

「モッモよ、本当にここが、恐ろしい魔物の住処なのか?」

「ん~……、カービィはそう言ってたんだけどぉ~……。何の臭いもしないよね?」

「うむ。臭いもだが、音も、魔物や獣らしきものは聞こえてこぬ」

「そうだよね。なんかこう……、小動物が歩くような音はたま~に聞こえてくるんだけど、姿が見えないし、すっごく小さいか、どっか狭い穴の中にいるのかも……」

「ふむ。しかし、油断は禁物であるな。カービィとノリリアがこのような状態なのだ、敵には出くわさぬ方が良い」
 
 その通りだ。
 ギンロは眠るノリリアを抱えているし、俺は泣きじゃくるカービィを連れている。
 この状況で、恐ろしい魔物なんかに襲われでもしたらひとたまりもないだろう。

 洞窟内は、グレコが言っていたような迷路ではなかった。
 目覚めた場所から少し北へ歩くと、そこからはほぼほぼ真っ直ぐに、西と東に延びる広い一本道しかなかったのだ。
 途中、幾本か、北と南から伸びているのであろう細い通路が現れたものの、望みの羅針盤のおかげで俺たちが迷う事はなかった。
 
 随分と歩き、悲しい歌が終わって、泣き疲れたのかカービィが朦朧とし始めた頃、俺の後ろを歩いてきているギンロが足を止めた。

「……ん? どうしたのギンロ??」

 ギンロは、背後の来た道を振り返っている。
 何かの気配を感じたのだろうか?

「モッモよ……、少しばかり、松明の火を遠ざけてくれぬか?」

 火を遠ざけるって、どう……、すれば? 
 
 俺は、少し離れた場所の壁際の地面に、松明をサクッと刺して立て、ギンロの元へと戻った。

「どうしたのさ?」

「うむ……。あれを見てみろ」

「あれって? ……ん? おぉ、綺麗~」

 ギンロが振り返って見ていたものは、様々な色をした淡い光だ。
 暗い洞窟の、壁際の地面に点々と、赤青黄色に緑、紫に白にピンクといった、様々な色の光が灯っている。
 それはまるで、どこぞのテーマパークのアトラクションの中に入り込んだような、とても幻想的で美しい光景だ。

「何これ、すごぉ~い♪」

 先ほどまで、泣き疲れてフラフラとしていたカービィが、乙女のような声を出してパァッと笑顔になった。
 良かった、視覚は無事なようですね、うん。

「モッモよ、妙だと思わぬか?」

「え、何が?」

 目の前の光景に、ただただ美しいとしか感じていなかった俺は、ギンロの言葉に首を傾げる。
 
「このような光、お主が通る前には存在したか?」

 ……え、……あ、……え?

 俺とギンロは、くるりと向きを変えて、進行方向であった東の方角を見る。
 そこには、真っ暗闇が広がるのみで、七色の光など全く見当たらない。

「これは……、いったい……」

 そしてもう一度、西の方角の通路を振り返ると……、先ほどまで無数にあったはずの様々な色の光が、全て消えて無くなっていた。

「えっ!? なんでっ!??」

 目をパチクリさせる俺。

「何やらただ事ではなさそうだぞモッモ」

 ノリリアを地面に下ろし、腰の鞘にしまっていた魔法剣をスラリと抜き出すギンロ。
 まさか……、まさかまさかの……、やっぱり恐ろしい魔物がいたとかぁっ!?
 ノリリアを支えるふりをして、怖さのあまり、その体をギュッと抱き締める俺。
 すると……

「あぁっ! おいらずっとっ!! おまいらに会いたかったんだあぁ~!!!」

 ギンロが構える前方の暗闇の中から、カービィの嬉々とした叫び声が聞こえた。
 見ると、ついさっきまで俺の隣にいたはずのカービィがいない。

 あいつっ!? 一人で暗闇の中へっ!?? 
 体中ムチでぐるぐるなのにぃっ!???

「わぁっ!? 敵襲!! 敵襲ノコっ!!!」

 敵襲っ!? どこぉっ!??
 ……えっ!??? てか、この声は誰の声っ!????

 聞き覚えのない可愛らしい声が、暗闇の中から聞こえたかと思うと……

「迎え撃つノコ!」

「このっ! ぶくぶく太った獣めぇっ!!」

「足元を狙うノコ! 横倒しにするノコっ!!」

「わぁあぁああっ!!!」

 沢山の可愛らしい声と、小さな生き物が一斉に動いているような、サササササ~、という微かな足音が沢山聞こえてきた。
 そして、プスッ、プスッと、何かに爪楊枝を刺したような時の音が無数に聞こえてきて……

「痛っ!? 痛いっ!?? グレコさん!!! もっと優しくぅっ!!!!」

 まだ頭が治らないらしいカービィの、悲鳴というか、奇声というか……、妙な声も聞こえてきた。

「いったい、何がどうなっておるのだっ!?」

 暗闇に向かって牙を剥き出すギンロ。

「カービィ!? カービィ大丈夫っ!??」
 
 暗闇に向かって叫ぶ俺。

 しかしカービィの声は……

「あぁあんっ! そこはやだぁあっ!!」

 駄目だ、何が起きているのかさっぱり分からない。
 そうこうしている内にも、プスプス音は鳴り止まず……

「もっとノコ! 動きを封じるノコ!!」

「倒れろ怪物ぅっ!!」
 
 奇襲をかけているかのような、何者かの可愛らしい声も止まない。
 すると、しびれを切らしたのであろうギンロが、猛獣のようにグルル~と喉を鳴らし、そして……

「カービィ、状況を……、説明しろぉおぉっ!!!!!」

 おぉおぉぉっ!? びっ、びびったぁあぁっ!!?

 ギンロの、いきなりの吠えるような怒声に、俺は驚いて縮み上がった。
 ギンロの声が、洞窟中に響き渡り、グワングワンと反響する。
 すると、全ての音が、無くなった。

「か……、カービィ?」

 急に訪れた静寂の中で、恐る恐るカービィの名を呼ぶ俺。
 しかし、返事はおろか、頭のおかしな言葉さえも返ってこない。
 それに、先ほどまで聞こえていた何者かの可愛らしい声も、小さな足音も、何も聞こえてこなくなった。

「モッモよ、松明を取ってくるが良い」

「は、はいっ!」

 ギンロの言葉に、ノリリアを抱き締めていた腕をサッと解いて、少し離れた場所にある松明を手に取る俺。
 ギンロは、眠るノリリアを、まるで毛皮のように肩にかけて、双剣を手にしたまま暗闇へと歩き出す。
 遅れないようにと、俺は小走りでギンロの後に続く。
 そして目にしたもの、それは……

「こやつらは……、いったい、何者だ?」 

「わ、わかんないけど……。でもなんか、僕、どこかで見た事があるような、ないような……」

 暗闇の中で、松明の炎が照らし出したもの。
 ギンロの怒号によって気を失ったのであろう、白目で横たわるカービィと、同じく気を失って倒れている、無数の小さな生き物たちの姿。
 それらは、まるでキノコのような姿形をした、小さな小さな魔物だった。
 
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