上 下
195 / 800
★港町ジャネスコ編★

187:一千万

しおりを挟む
「くっ、はぁ、はぁ、はぁ、参ったかクソチビめ……」

「はぁ、はぁ、そっちこそ……、疲れたんだろクソ親父……」

   全力の攻防の末、身体中は汗びっしょり、息も絶え絶えになりながら、ほぼ同時に力尽き、二人揃って床にゴロンと寝そべっても尚、罵り合うザサークとライラ。
   とりあえず、今日のところは引き分けでいいんじゃないですか?

「二人共、お疲れ様~」

   ヘラヘラと笑いながら、カービィが声を掛ける。
   すると、ザサークとライラはハッ!  と我に返ったように立ち上がった。

「こりゃすまねぇっ!  客人の前でとんだ失態を見せちまった!!」

「ご、ごめんなさいっ!」

   慌てて謝罪するザサークとライラ。
   ……うん、きっと仲が良いんだろうなこの二人は、そんな気がする。

「いいって。それより、乗船の件なんだけどよ……。おいら達四人もなんとか船に乗せて貰えないかなぁ?」

「あ~、確かさっきもそんな事を言っていたな……。俺様としては乗せてやりたい気持ちなんだが、ちょいとばかり面倒な事になっていてなぁ……」

   額の汗を拭いながら、船長椅子にドカッと腰掛けるザサーク。
   ライラは、すぐ近くの小さな椅子に座って、事の成り行きを静観している。

「面倒な事?  なんかあったのか??」

「ん~……、てめぇらは総合管理局の船舶運営部に行ってきたんだろ?」

「そうだ」

「そこで聞かなかったか?  団体客が入っていて、船室に飽きがないって」

「聞いたけど、とりあえずお願いしに来たんだ」

   カービィの言葉に、ザサークは困ったかのように難しい顔をして、う~んと唸る。 
   
「やっぱり、もう船室がいっぱいなの?」

   今の今まで存在を消していたグレコが尋ねる。

「いや、船室はなんとでもなるんだが……。その団体客ってのが、魔法王国フーガの王立ギルドの連中でなぁ」

「え、フーガの王立ギルド……!?」

   ザサークの言葉に、カービィの表情が険しくなる。
   眉間に皺を寄せ、口をタコのように前に突き出して……、どう見てもふざけているようにしか見えない顔だが、俺にはわかる。
   常にヘラヘラしているカービィのこのような表情は、出会ってから初めて見るので、ふざけているわけではなく本当に何かまずい事があるのだろう。

「なんでも、ピタラス諸島に存在する、古代の魔導師の墓を探索する~とかなんとか言っててな……。で、本来なら一つの島に三日ほどの停泊予定だったんだが、探索時間が必要だからって、島一つにつき七日間の停泊を要求してきてよぉ。正直、積荷の中には生肉なんかもあるから、それは無理だと言ったんだが……。さすがフーガの王立ギルドに所属する魔導師だ、食品は鮮度を損なわないように保存魔法をかけるとか言い出すもんでよ。いや~、そんな事が可能なのかと驚いたよなぁ」

   保存魔法かぁ……、俺の神様仕様の魔法鞄と同じ原理だろうか?
   俺の鞄の中も、時が止まったかのように、食べ物やその他のものも腐敗したり劣化したりしないのである。
   神様だからこその魔法だと思っていたが……、そうか、そんな魔法が使える魔導師が存在するのだな。

   ……ていうか、島一つにつき七日間って。
   島をいくつ経由するのか知らないけど、かなり日数がかかりそう。

   でも、その、古代の魔導師の墓を探索する~っていうのは、昨日カービィが言っていた大魔導師アーレイク・ピタラスの塔の事だろうか?
   けれど……、島一つにつき七日間も必要って事は、塔は複数あるって事なのかなぁ??
   ……そんなに沢山、自分のお墓が欲しかったのか、そのアーレイク・ピタラスは???

「それに加えて、船を貸し切りにして欲しいと言い出した。渡航期間が大幅に伸びるし、探索に必要な道具や移動用の馬なんかを乗せたいから、出来るだけ広いスペースが欲しい、とかなんとかぬかしてな……」

「何それ、横暴な奴等ね」

   堪らずグレコが声を出す。
   
「だろ?  暗に俺様の船が小せぇと言っているのかと苛立ったが、差し出された札束に目が眩んじまってよぉ。しぶしぶ了承したってわけさ」

   ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるザサーク。

   ほう、結局は金がモノを言う世界なのだな。
   ならば、こちらもそれ相応の金額を提示すればいいと……?

   グレコもそう思ったのだろう、俺に目配せしてきた。

「いくら?  いくら出されたの??」

   金で解決出来るなら、こっちだって蓄えはあるんだ。
   有り金全部はたいて、乗船券を買う事だって出来るんだぞ!

   と、思ったのだが……

「……10000000センスだ」

「なっ!?  一千万っ!??」

   俺たち四人は、全員が目をひん剥いて驚いた。

   だ、ダメだ、足元にも及ばない……
   俺たちの全財産は、手元の十五万足らずと、銀行に預けた五十万、合計して六十五万……
   一千万だなんて……、桁が違いすぎるだろうこの野郎っ!!!

「そういうわけでだな……。正直、船室は空けようと思えば空けられる。荷物を整理したり、野郎共の部屋を移動させたりすればいいからな。だが、その王立ギルドの奴等の了承なしに、俺様の一存でてめぇらを乗船させる事は出来ねぇんだよ、すまねぇな」

   申し訳なさそうな顔をするザサーク。

   ……う~ん、どうしよう。
   このままだとやっぱり、次の航海までこのジャネスコで待つしかないのか?
   けど、今の話だと、次にこの商船がジャネスコに帰ってくるのっていつになるんだ??
   一ヶ月後……、なんて事は無理だろう。
   じゃあ、俺たちがパーラ・ドット大陸に辿り着けるのは……、どれだけ先延ばしになるんだ???

「その……。なんていうギルドだ?  王立ギルドって言っても数がある。なんて名乗っていた??」

「ギルドの名か?  ちょいと待てよ、この辺りに契約書が……、おぉ、あったあった、これだよ」

   カービィに、契約書であろう羊皮紙の巻紙を手渡すザサーク。
   中身を確認したカービィは、途端に無表情になった。
   チーン……、という効果音が似合いそうな、本当に、無の境地っていう顔だ。

「どうしたの?  何が書いてあるの??」

   俺とグレコが揃って契約書を覗き込む。
   乗船に伴う様々な条件と、一千万の金額。
   それに加えて、署名欄にはこう書かれていた。

《魔法王国フーガ/国王ウルテル・ビダ・フーガ認定ギルド:白薔薇の騎士団/副団長:ノリリア・ポー》

   白薔薇の、騎士団……?
   嫌に乙女チックな名前だこと。

「うわぁ、本当に一千万……。白薔薇の騎士団って……、これがどうかしたの?」

   グレコの問い掛けに、カービィは無言を貫く。
   すると、船長室の扉の外から、コンコンとノックの音が聞こえた。
   
「お、そうか、そろそろ時間だったな。ライラ、扉を開けてやってくれ」

   ザサークの言葉に、ライラがゆっくりと扉を開くと……

「お邪魔しますポ。打ち合わせに来ましたポ~♪」

   何やら見覚えがあるような無いような、白いローブを身につけた、ピンク色の毛並みをした小さな獣人が現れた。
   体の大きさは俺やカービィと同じくらいで、女の子なのだろう声がとても可愛らしい。
   パッチリとした小さな目と、ちょんと尖った鼻に三角の耳。
   一見すると……、タヌキのような風貌の獣人なのだが、どこか愛らしい顔つきである。
   胸に白薔薇を象ったブローチをつけ、首からはカービィの物とよく似た土星型のペンダントを下げている。

「げっ!?  ノリリアっ!??」

   無表情だったカービィが声を上げる。
   下顎をあらん限り引き下げて、目玉が飛び出そうな程に目を見開く。
   ……よくもそんな変顔が瞬時に出来るもんだな。

「ポ?  ポポッ!?  カービィちゃんっ!??」

   こちらも、たいそう驚いたのか、愛らしいお顔が台無しの変顔を披露する。

   てか、ポって……、どんな口癖だよ?  アニメかよ??
   
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...