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★港町ジャネスコ編★

172:貴様を逮捕する!!

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「モッモ!?  大丈夫!??  怪我したのっ!???」

   血相を変え、悲鳴にも似た声を上げるグレコ。
   プカプカと海面に浮いたまま、ピクリとも体を動かさない俺を見て、かなり御心配されている様子。

   ごめん、グレコ……
   怪我はしてないよ、泳げないだけだ。

「しっかりするのだモッモ!」

「ぬわぉっ!?」

   港に着いた俺の体を、ギンロの手がむんずと掴んで、ぐわっ!  と水から引き揚げた。
   波止場の地面に、乱暴に横たえさせられる俺。
   
「よしっ!  おいらが人工呼吸をっ!!」

   そ~っと近付いてきた、カービィの分厚~い唇……

「やめ~いっ!?  息してますぅっ!!!」

   全力で避け切って、何とかキッスを免れた。

「なんだよ紛らわしぃっ!  おまい、死んだフリなんてするんじゃねぇよぉ~」

   いつもの様に、ヘラヘラと笑うカービィ。

   あっ、あっぶねぇ~。
   ここ最近で一番焦ったわぁ~。

   ドキドキする心臓に手を当てながら、俺はむくっと体を起こした。

「ふぇ、フェイア殿もっ!  だだだっ、大丈夫かぁっ!?」

   ギンロは、かなりドギマギしながらも、フェイアの手を取り、海から上がる手伝いをしている。
   
「あ、ありがとうございます。えっと、あなたは……?」

「ぎ、ぎんっ!?  ギンロと申すっ!!」

   ……うん、どもりすぎだよギンロ。
   それに、俺だから緊張しているんだなって分かるけど、他から見たらかなり変な奴にしか見えないぞ。
   ほら見て?   フェイアも若干引いているじゃないか。
   恋に不器用過ぎるのも考えものだな。
   ……ドンマイ、ギンロ!

「何故あの様な事をっ!?  船にはまだ、密猟された魔物達が乗っておったのですぞっ!??」

   少し離れた場所で、何やら騒ぎが起きている。
   小さな体のお爺さんラビー族、ブーゼ伯爵ことユーク・ブーゼを、大勢の警備隊が取り囲み、声を荒げているのだ。

   周りでは、波止場に泳ぎ着いた茶色ラビー族達が、抵抗する様子もなく警備隊達に捕らえられて行く。
   その中にはタークの姿もあった。
   先程までの元気は何処へやら、項垂れた様子で、かなり参った表情をしている。

「そこの馬鹿共を葬る為じゃわ。人道を外れた者を、我が息子と言えど、生かしておくわけにはいくまい」

   ボソボソと、言い訳じみた言葉を発するユーク。

   やっぱり、さっきの赤い玉はユークが放った物らしい。
   あの小さな体から、あんなに恐ろしい物を生み出すなんて……、魔法って怖~い。

   ユークは、その小さな瞳でタークを睨みつけ、宝石が埋め込まれた杖を強く握りしめている。
   遠目でもわかる、ユークはかなり怒っているのだ。

   だがしかし、本当の黒幕はお前だろうがっ!?
   人道を外れた者って、自分の事じゃないかっ!??
   息子が乗っている船に火を放つなんて、正気の沙汰じゃないっ!!!!
   こっちは危うく、丸焦げになるところだったんだぞぉっ!!!!!

「ユーは、証拠隠滅の為に船を燃やしたのだろう?」

   タークを睨みつけるユークの目の前に、ズイっと、サカピョンとユティナが立ちはだかった。

「お前さんは……、何者だ? お前さんも我が息子によって迷惑を被ったのだろう??  息子に代わって、わしが謝罪し申す、この通りだ」

   深々と、頭を下げるユーク。

   ん~?  あれれ??
   こいつが黒幕なんじゃないのか???

「その様な三文芝居は他でする事だな。不愉快だ、頭を上げろ」

   サカピョンの口調が、表情が、いつになく厳しい。
   いつものニコニコは何処かへ行ってしまったようで、そこにあるのは氷のような、冷徹な無表情だ。

「君は……、何者なんだね?」

   近くにいた警備隊員が、サカピョンに尋ねる。
   するとサカピョンは、シュン!  と音を立てて魔法を解き、本来の姿である黒い毛色に変身した。
   その姿を見て、周りの警備隊員達がざわつく。

「ミーの名はサカティス・クラビィア。ミーはヒーと話がしたい。いいかね?」

「もっ、勿論です!」

   黒サカピョンを前に、急に態度がうやうやしくなる警備隊員たち。
   サカピョンの邪魔をしないようにと、みんなその場から数歩離れた。

   なんだろう?  みんな、サカピョンが時空王の使者だって知っているのかな??
   サカピョン、実は有名人???
   ……あ、いや、有名ラビー????

「モッモ君、先ほどの書類を出してくれないかね?」

   阿呆な事を考えていた俺は、不意にサカピョンに名前を呼ばれて、わたわたする。
   鞄をごそごそと漁り、例の怪しい書類を取り出して、サカピョンの元まで小走りする。

「はいどうぞ!」

   サカピョンに書類を手渡し、警備隊員達と同じように、サササッ!  と後退する俺。

「うむ。警備隊長殿、これを見て頂きたい」

   警備隊長と呼ばれた、ドーベルマンのようないかつい顔をした大きな犬型獣人が、サカピョンからその書類を受け取って中に目を通す。

「こっ!?  これはっ!??」

   警備隊長の驚いた声に、周りの警備隊員達がわらわらと集まり、書類を確認する。

「なっ!?  まさかブーゼ伯爵がっ!??」

「なんという事だっ!!」

   警備隊長同様に、驚き、憤慨する警備隊員たち。
   みんな揃って、ユークをキッ!  と睨む。

「ブーゼ伯爵……、いや、ユーク・ブーゼ!  公国憲法違反により、我ら国営軍所属警備隊が、貴様を逮捕する!!」

   おぉっ!  逮捕の瞬間だっ!!  警備隊長かっけぇっ!!!

   ……と、呑気な俺が思ったのも束の間。

「ふふふ……。ふはははははっ!!!」

   ユークが、気味の悪い高笑いを始めたではないか。
   その体からは、奇妙な黒い煙が上がり始めている。
   生き物の焼ける匂いがする、とても不気味な煙だ。

   危険を察知したのか、警備隊達を再度下がらせ、自らが前に出て、ユークと対峙するサカピョン。

「何がおかしいのかね?」

「ふふふ、無知とは恐ろしいものよ……。貴様らも、そこの阿呆な我が息子もな。このわしに楯突くとは」

   正に悪役!  と言った顔で、ニヤリと笑うユーク。
   しかし、その余裕な表情とは裏腹に、杖を握る両手は、チカラを込めているのか怒っているのか、ブルブルと激しく震えている。

「時にその杖、その魔石……。まさかとは思うが、悪魔石ではないかね?」

「おや?  ご名答。これを知っててもなお、わしに挑むつもりか?  ふふふふふ」
   
   悪魔石?  なんじゃそりゃ??
   
   頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ俺。
   どうやらユークの持っているあの杖に付いている赤い石の事らしいが……

「モッモ!  離れろっ!!」

   後ろからカービィが叫んだ。
   と、同時に、ユークの体から大量の黒い煙が吐き出された。

   グモモモモォオォォ!!!

「おぉおおぉぉぉ~!!!」

   おどろおどろしい唸り声を上げながら、その身に黒い煙を纏うユーク。
   そして、見る見るうちにその体は巨大化していった。

   ぎゃあぁっ!?  ばっ!??  化け物ぉっ!?!?

   警棒を取り出し、慌てふためく警備隊員達。
   サッとバイオリンを召喚するサカピョン。
   不敵に笑いながら、背から斧を下ろすユティナ。
   グレコは弓を、ギンロは二本の魔法剣を構え、カービィは魔導書を持ち出した。

   そんな中、俺はというと……

   やっばいぞこれっ!?
   なんで悪い奴はみんな巨大なんだぁっ!??
   カマーリスといい、トカゲの神様といい……
   小さいままで頑張りなさいよぉっ!???
   
   と、頭の中であれこれ考えるだけで精一杯だった。
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