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★港町ジャネスコ編★
160:誰か知らないけどぉっ!!!
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『出て来い、虚無の穴』
イヤミーの掌から、赤と青の光が入り混じった、黒く渦巻く禍々しい球体が現れた。
内から外へ、外から内へと、イヤミーの掌の上で気味悪く回る球体。
その真ん中には、真っ暗な闇の穴がポッカリと口を開けている。
そこから聞こえてくる、怨霊の叫び声のような、なんとも言えない悲壮感たっぷりの様々な声に、俺は思わず身震いした。
『これは、どんなものでも無に帰す闇の玉だ。この穴に吸い込まれたら最後、そのものは二度とこの世界には戻って来られない。……いや、どの世界にも戻る事は出来ない。例え命が尽きて、肉体が滅びようとも、魂は冥界に送られる事もなく、永遠に虚無の世界を回り続けるのさ』
世にも恐ろしい球体の説明をしながら、にやにやと厭らしい笑みを浮かべるイヤミー。
やっべぇ~、こいつマジでいかれた奴だわ~。
何? その趣味の悪いボーリングの球みたいなやつは??
見るからに、呪われてる感満載なんですけどぉ……
「ふむ。では、それでこの結界を吸ってくれ♪」
ひぇ~、普通にそんな事言っちゃうサカピョンもなかなかにいかれてるぞぉっ!?
吸ってくれ♪ って!??
自分も一緒に吸われちゃったらどうしよう!? とか考えないのかねっ!???
『生憎、俺の契約主はこっちでね。さぁ、どうするんだよ?』
イヤミーの光る目が、ギロリと俺を睨む。
……う、ぐぐぐ。
睨んでもいいから、その球体をこっちに向けないで、恐ろしい。
「あ、じゃあ、あの紫色の結界を処分してください」
イヤミーの機嫌を損ねないように、丁寧にお願いしたつもりだったのだが……
『ちっ、良い子ぶりやがって……。つくづくムカつく野郎だぜ』
逆に燗に触ってしまったようである。
本日二度目の舌打ちと、歪んだ顔。
……もう、何が何だかわからんから、早く済ませて帰っておくれ。
『彼のものを虚無へと誘え……。吸引』
イヤミーが、呪文のような言葉を唱えると、ズゾゾゾゾ~!! という轟音を立てながら、虚無の穴は周りの空気を吸い込み始めた。
きゃあぁあぁぁ~!?
おっそろしぃいぃぃ~!??
何この恐怖の掃除機っ!?
家電屋で、大安売りの一台千円! とかでも絶対に買いたくないわぁっ!!!
……てか、吸引力は如何程なのかね?
まさか、周りのもの全部吸い込んじゃったりしないよねぇっ!???
ドキドキ、ビクビク、ドキドキドキ、ビクビクビク
万が一に備えて、檻の鉄棒にしがみつく俺。
しかし、俺の心配を他所に、虚無の穴の狙いはサカピョンの檻の魔結界のみだった。
ベリベリベリ! という鈍い音と、眩いばかりの紫色の閃光を放ちながら、魔結界は檻から強制的に剥がされ、ヒラヒラと宙を舞い、ズゾゾゾゾ~!! と虚無の穴へと飲み込まれていった。
全てが終わって、虚無の穴の轟音が止むと、辺りはシーンと静まり返っていた。
先程まで騒いでいたはずの周りの動物たちも、虚無の穴が放つ異様なオーラを察知したのであろう、いつの間にか静かになっていて、鳴き声一つ出さずに、自らの存在を察知されないようにと息を殺しているようだ。
イヤミーは、仕事を終えた虚無の穴を、掌の中へスーッとしまい込んだ。
あいつ、あんな恐ろしいものを体内に隠し持っているとは……
なんて野郎だまったくぅっ!
『これでいいかよ、契約主様ぁ?』
「は、はい、結構です。ご、ご苦労様でした」
深々とお辞儀をして、とっとと帰ってくれと願う俺。
するとイヤミーは、無表情になってこう言った。
『……一つ忠告しておく。レイアは、もう長くもたねぇぞ。一日でも早く、バハントムに行く事だな』
え? それって……??
「どういう意味? ……あれ?? んん???」
キョロキョロと、辺りを見回す俺。
しかし、もう何処にも、イヤミーの姿は見当たらなかった。
ガチャ! ジャラジャラジャラ
「あ、ありがとう……、ぐすっ……」
魔結界が解けた檻を、顔に似合わない強烈なラビーキック! で蹴り開けたサカピョン。
そのままピョンピョンと俺のところまでやってきて、お次はこれまた顔に似合わないラビーパンチ! で檻の鍵を壊してくれた。
そして最後に、俺の隣にいた、チェリーエルフのフェイアの鎖を解いてやったのだった。
「わわっ!? 血が出てるよっ!??」
見ると、フェイアの両手首からは血が流れ出ている。
手枷に棘があったらしく、食い込んでいたのだろう、手首には無数の小さな穴が開いていた。
そうか……、泣かせるためにわざとこんな事を!?
「サカピョン、何か、回復魔法とか使えないの?」
「ふむ、使えるには使えるのだが……。生憎今は魔力が底切れていてな。ミー自身の姿を変えることすら出来ないのだ」
なるほど、底切れって……
魔力は車でいうガソリン仕様なわけねっ!?
「だ、大丈夫だから……」
目に涙をいっぱい浮かべて、ニッコリと笑うフェイア。
くぅうぅぅ~!?
こんなに可愛い子に、こんな酷い事するなんてっ!!
絶対に許さないぞっ!!!
……誰か知らないけどぉっ!!!!
何か無いかと、鞄の中を漁る俺。
幸い、無害だと思われたのだろう、俺の装備品は全て手元にあったのだ。
ふふん、馬鹿めっ!
万呪の枝をただの木の棒と勘違いした口だなっ!?
後で飛びっきりの呪いをかけて、俺を拉致した事を後悔させてやるぅっ!!!
……誰か知らないけどぉっ!!!!
「あ、あった! これで、なんとかなるはず……」
鞄の中から、擦り傷や切り傷に効くという消毒ポーションを取り出す俺。
グレコの故郷であるエルフの村で頂戴した物である。
そぉ~っと、一滴……、ピチョン。
「……あ、凄い」
ポーションの雫は、傷付いたフェイアの手首にスーッと染み渡って、見る見るうちに血は止まった。
「おぉ~、さすがエルフのポーションだ! ささ、そっちの手も出して!!」
もう片方の手首にも、一滴……、ピチョン。
「あぁ、全然痛く無いわ。ありがとう」
「いえいえ、そんなそんなぁ~」
可愛くお礼を言うフェイアに、柄にもなくデレデレしてしまう俺。
この子、本当に可愛いなぁ~♪
「さて、手当が済んだのならここを出よう!」
「え!? でも……。サカピョンここって……、海の上、だよね??」
どうか、違うと言ってくれ! と願う俺。
しかし……
「イエス。ここは海のど真ん中だろう」
あぁ、やっぱり……
おかしいと思ったんだよ。
この不規則な揺れと、波の音。
磯臭い匂いと、妙に湾曲した壁。
ここは、船の中だ。
それも比較的大きな船で、現在運航真っ最中の。
「てことは……。外に出たら、敵がいっぱいなんじゃ?」
何が敵なのかはさておき、船の上では袋の鼠だ、逃げ場がない。
この部屋の外には、何者かが待ち構えているのは明白だ。
……けど、だからといって、どこへ向かっているとも分からない船に乗ったままでいるわけにもいかないし。
「敵の事は案ずるな。ユティナがこの船のどこかに潜んでいるはずだ。ミーとシーと、ユーならば、何とかなる気がする♪」
……なんだよ、その根拠のないフンワリとした自信は?
「あの、ここは何処なの? 私、確か……、ブーゼ伯爵様のお屋敷に呼ばれて……」
ほほう? ブーゼ伯爵とな??
フェイアの言葉に、俺は思い出す。
港でワニ顔人間とやいやい言っていた時に、横から割って入って助けた気になっていた、あの貴族のお爺さんラビー族の事だな。
「なるほど、ブーゼ伯爵か……。ここは、アンローク大陸に向かう密猟船の中だ。周りを見てみろ、珍しい魔物や獣の幼体ばかりいる。おそらく、オルドール共和国の奴隷市場で売りさばくつもりなのだろう」
うわ~おっ!? どどっ、奴隷市場となっ!??
そんなものが実在するのかっ!???
……え、ちょっと待てよ。
その密猟船の檻の中にいたって事はだなぁ……
「ねぇ。僕たちも、その……、奴隷にする目的で捕まったの?」
「うむ、そうだろう♪」
はぁあぁぁっ!? マジかぁっ!??
これが愛玩動物であったピグモルの宿命なのかぁっ!???
てかサカピョン、なんでそんな笑顔なんすかっ!?
奴隷にされるかも知れないって言うのにぃっ!??
感情がないのかね君はぁっ!???
俺は、常に笑顔を絶やさないサカピョンに、一種の恐怖を感じていた。
イヤミーの掌から、赤と青の光が入り混じった、黒く渦巻く禍々しい球体が現れた。
内から外へ、外から内へと、イヤミーの掌の上で気味悪く回る球体。
その真ん中には、真っ暗な闇の穴がポッカリと口を開けている。
そこから聞こえてくる、怨霊の叫び声のような、なんとも言えない悲壮感たっぷりの様々な声に、俺は思わず身震いした。
『これは、どんなものでも無に帰す闇の玉だ。この穴に吸い込まれたら最後、そのものは二度とこの世界には戻って来られない。……いや、どの世界にも戻る事は出来ない。例え命が尽きて、肉体が滅びようとも、魂は冥界に送られる事もなく、永遠に虚無の世界を回り続けるのさ』
世にも恐ろしい球体の説明をしながら、にやにやと厭らしい笑みを浮かべるイヤミー。
やっべぇ~、こいつマジでいかれた奴だわ~。
何? その趣味の悪いボーリングの球みたいなやつは??
見るからに、呪われてる感満載なんですけどぉ……
「ふむ。では、それでこの結界を吸ってくれ♪」
ひぇ~、普通にそんな事言っちゃうサカピョンもなかなかにいかれてるぞぉっ!?
吸ってくれ♪ って!??
自分も一緒に吸われちゃったらどうしよう!? とか考えないのかねっ!???
『生憎、俺の契約主はこっちでね。さぁ、どうするんだよ?』
イヤミーの光る目が、ギロリと俺を睨む。
……う、ぐぐぐ。
睨んでもいいから、その球体をこっちに向けないで、恐ろしい。
「あ、じゃあ、あの紫色の結界を処分してください」
イヤミーの機嫌を損ねないように、丁寧にお願いしたつもりだったのだが……
『ちっ、良い子ぶりやがって……。つくづくムカつく野郎だぜ』
逆に燗に触ってしまったようである。
本日二度目の舌打ちと、歪んだ顔。
……もう、何が何だかわからんから、早く済ませて帰っておくれ。
『彼のものを虚無へと誘え……。吸引』
イヤミーが、呪文のような言葉を唱えると、ズゾゾゾゾ~!! という轟音を立てながら、虚無の穴は周りの空気を吸い込み始めた。
きゃあぁあぁぁ~!?
おっそろしぃいぃぃ~!??
何この恐怖の掃除機っ!?
家電屋で、大安売りの一台千円! とかでも絶対に買いたくないわぁっ!!!
……てか、吸引力は如何程なのかね?
まさか、周りのもの全部吸い込んじゃったりしないよねぇっ!???
ドキドキ、ビクビク、ドキドキドキ、ビクビクビク
万が一に備えて、檻の鉄棒にしがみつく俺。
しかし、俺の心配を他所に、虚無の穴の狙いはサカピョンの檻の魔結界のみだった。
ベリベリベリ! という鈍い音と、眩いばかりの紫色の閃光を放ちながら、魔結界は檻から強制的に剥がされ、ヒラヒラと宙を舞い、ズゾゾゾゾ~!! と虚無の穴へと飲み込まれていった。
全てが終わって、虚無の穴の轟音が止むと、辺りはシーンと静まり返っていた。
先程まで騒いでいたはずの周りの動物たちも、虚無の穴が放つ異様なオーラを察知したのであろう、いつの間にか静かになっていて、鳴き声一つ出さずに、自らの存在を察知されないようにと息を殺しているようだ。
イヤミーは、仕事を終えた虚無の穴を、掌の中へスーッとしまい込んだ。
あいつ、あんな恐ろしいものを体内に隠し持っているとは……
なんて野郎だまったくぅっ!
『これでいいかよ、契約主様ぁ?』
「は、はい、結構です。ご、ご苦労様でした」
深々とお辞儀をして、とっとと帰ってくれと願う俺。
するとイヤミーは、無表情になってこう言った。
『……一つ忠告しておく。レイアは、もう長くもたねぇぞ。一日でも早く、バハントムに行く事だな』
え? それって……??
「どういう意味? ……あれ?? んん???」
キョロキョロと、辺りを見回す俺。
しかし、もう何処にも、イヤミーの姿は見当たらなかった。
ガチャ! ジャラジャラジャラ
「あ、ありがとう……、ぐすっ……」
魔結界が解けた檻を、顔に似合わない強烈なラビーキック! で蹴り開けたサカピョン。
そのままピョンピョンと俺のところまでやってきて、お次はこれまた顔に似合わないラビーパンチ! で檻の鍵を壊してくれた。
そして最後に、俺の隣にいた、チェリーエルフのフェイアの鎖を解いてやったのだった。
「わわっ!? 血が出てるよっ!??」
見ると、フェイアの両手首からは血が流れ出ている。
手枷に棘があったらしく、食い込んでいたのだろう、手首には無数の小さな穴が開いていた。
そうか……、泣かせるためにわざとこんな事を!?
「サカピョン、何か、回復魔法とか使えないの?」
「ふむ、使えるには使えるのだが……。生憎今は魔力が底切れていてな。ミー自身の姿を変えることすら出来ないのだ」
なるほど、底切れって……
魔力は車でいうガソリン仕様なわけねっ!?
「だ、大丈夫だから……」
目に涙をいっぱい浮かべて、ニッコリと笑うフェイア。
くぅうぅぅ~!?
こんなに可愛い子に、こんな酷い事するなんてっ!!
絶対に許さないぞっ!!!
……誰か知らないけどぉっ!!!!
何か無いかと、鞄の中を漁る俺。
幸い、無害だと思われたのだろう、俺の装備品は全て手元にあったのだ。
ふふん、馬鹿めっ!
万呪の枝をただの木の棒と勘違いした口だなっ!?
後で飛びっきりの呪いをかけて、俺を拉致した事を後悔させてやるぅっ!!!
……誰か知らないけどぉっ!!!!
「あ、あった! これで、なんとかなるはず……」
鞄の中から、擦り傷や切り傷に効くという消毒ポーションを取り出す俺。
グレコの故郷であるエルフの村で頂戴した物である。
そぉ~っと、一滴……、ピチョン。
「……あ、凄い」
ポーションの雫は、傷付いたフェイアの手首にスーッと染み渡って、見る見るうちに血は止まった。
「おぉ~、さすがエルフのポーションだ! ささ、そっちの手も出して!!」
もう片方の手首にも、一滴……、ピチョン。
「あぁ、全然痛く無いわ。ありがとう」
「いえいえ、そんなそんなぁ~」
可愛くお礼を言うフェイアに、柄にもなくデレデレしてしまう俺。
この子、本当に可愛いなぁ~♪
「さて、手当が済んだのならここを出よう!」
「え!? でも……。サカピョンここって……、海の上、だよね??」
どうか、違うと言ってくれ! と願う俺。
しかし……
「イエス。ここは海のど真ん中だろう」
あぁ、やっぱり……
おかしいと思ったんだよ。
この不規則な揺れと、波の音。
磯臭い匂いと、妙に湾曲した壁。
ここは、船の中だ。
それも比較的大きな船で、現在運航真っ最中の。
「てことは……。外に出たら、敵がいっぱいなんじゃ?」
何が敵なのかはさておき、船の上では袋の鼠だ、逃げ場がない。
この部屋の外には、何者かが待ち構えているのは明白だ。
……けど、だからといって、どこへ向かっているとも分からない船に乗ったままでいるわけにもいかないし。
「敵の事は案ずるな。ユティナがこの船のどこかに潜んでいるはずだ。ミーとシーと、ユーならば、何とかなる気がする♪」
……なんだよ、その根拠のないフンワリとした自信は?
「あの、ここは何処なの? 私、確か……、ブーゼ伯爵様のお屋敷に呼ばれて……」
ほほう? ブーゼ伯爵とな??
フェイアの言葉に、俺は思い出す。
港でワニ顔人間とやいやい言っていた時に、横から割って入って助けた気になっていた、あの貴族のお爺さんラビー族の事だな。
「なるほど、ブーゼ伯爵か……。ここは、アンローク大陸に向かう密猟船の中だ。周りを見てみろ、珍しい魔物や獣の幼体ばかりいる。おそらく、オルドール共和国の奴隷市場で売りさばくつもりなのだろう」
うわ~おっ!? どどっ、奴隷市場となっ!??
そんなものが実在するのかっ!???
……え、ちょっと待てよ。
その密猟船の檻の中にいたって事はだなぁ……
「ねぇ。僕たちも、その……、奴隷にする目的で捕まったの?」
「うむ、そうだろう♪」
はぁあぁぁっ!? マジかぁっ!??
これが愛玩動物であったピグモルの宿命なのかぁっ!???
てかサカピョン、なんでそんな笑顔なんすかっ!?
奴隷にされるかも知れないって言うのにぃっ!??
感情がないのかね君はぁっ!???
俺は、常に笑顔を絶やさないサカピョンに、一種の恐怖を感じていた。
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