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★ピタラス諸島、後日譚★
772:復習
しおりを挟むノヴァの月15日、午前9時。
アーレイク島の、封魔の塔前ベースキャンプ、テント内の談話室にて。
「それじゃあ……、始めましょうか!」
机の上に羊皮紙を広げ、張り切った様子でグレコがそう言った。
羊皮紙には、端から端まで、細かい文字がビッシリと書かれている。
それ以外にも、羊皮紙の束がいくつか、グレコの手元にはあって……
これから伝えられるであろう情報量の多さに、俺はゴクリと生唾を飲んだ。
昨晩遅く、テトーンの樹の村よりアーレイク島に帰還した俺達は、各々のテントの個室に戻って一夜を過ごした。
いろいろあったし、気分も高揚しているし、なかなか寝付けないな~、なんて考えていた俺だったが……
気がつくと朝になっていて、いつも通り、夜明けと共にグレコに叩き起こされた。
外で騎士団メンバーが用意してくれた朝ご飯を頂いて、テントに戻り、さて今日はどうしましょう? とみんなで相談したところ……
昨晩、睡魔に負けてしまった俺が聞きそびれた、パロット学士のアストレア王国講座。
俺と同じくうたた寝をしていて聞いていなかったギンロと、パロット学士の言葉が難しくて全てをしっかりと理解出来なかったティカの希望もあり、復習も兼ねて、今一度みんなで話をしよう! という事になったのだ。
そこへ、たまたまテントに顔を出してくれたアイビーを交えて、パロット学士のアストレア王国講座、その全編を、グレコが簡潔にまとめて教えてくれた。
●その一:アストレア王国は、およそ6000年前に興り、3000年前に滅亡した。その後数百年(200~300年ほど)の空白期間を経て、アンローク大陸に現存するヴェルハーラ王国が興り、現在まで続くヴェルドラ歴が始まった。ちなみに、現在はヴェルドラ歴2815年である。
●そのニ:アストレア王国には、神の力を秘めた【シーラの一族】と呼ばれる者たちが暮らしていたが、王国の滅亡と共にその一族も滅んだと推測されている。しかしながら、魔法王国フーガのウルテル国王を始めとし、各地に【シーラ】の名を持つ者は多数存在しているという。だが、現状その名前だけでは、かつてのシーラの一族との完全なる血縁であるという証明にはならず、また彼らに神の力は受け継がれていない為、アストレア王国との因果関係は不明である。
●その三:アストレア王国は、旧世界の神々、またの名を神代の悪霊と呼ばれた邪なる異形の神々、それらを倒した後に興った国である。今なお残っている王国の跡地には、戦いの歴史が記された石碑、壁画などが数多く残されている。その一つである王宮跡地の地下には、神代の悪霊を封印したと考えられる、十二の蓋の無い棺が配置された墓地の遺跡が存在し、その場所に【邪滅の書】及び【命の樹の枝】が隠されていたと考えられており、邪滅の書は500年以上前、その墓地の遺跡よりアーレイク・ピタラスが待ち出した。
●その四:およそ3000年もの間、栄華を極めたアストレア王国。その滅亡の原因は定かでは無いが、近年新たな遺跡の発見により、明らかになった事実が二点ある。一点目は、新たなる神の出現。二点目は、神代の悪霊の復活。この二点が、遺跡に残された壁画より明らかとなり、同じく遺跡に残されている石碑の碑文解読が進められている最中であるが、双方共にアストレア王国の滅亡時期とほぼ同時期の出来事であると推察される為、パロット学士はこの二点がアストレア王国の滅亡と深く関わっていると考えているらしい。
●その五:アストレア王国滅亡後、数百年の空白期間を経て、様々な国が世界各地で興り、繁栄と衰退を繰り返して現在の世界が作り上げられたわけであるが、その歴史の中で、神の力を宿す十二人の王、その名も【十二神王】という存在が、世界各地に存在していたと考えられている。しかしながら、ヴェルドラ歴二千年を過ぎた辺りから、その存在に陰りが見え始め、ヴェルドラ歴2815年現在においては、一般的にその存在は空想の産物とされている。けれどもパロット学士は、その十二神王こそが、アストレア王国の血を引く者、神の力を持つシーラの一族の末裔なのでは無いか……、と考えているらしい。根拠としては、アストレア王国跡地の墓地の遺跡において、十二の蓋の無い棺が残されていたが、そのどれもが空であり、一つも遺体が無かった事が挙げられる。それ即ち、かつて旧世界にて神代の悪霊と戦い、その身に封印したという十二人の戦士達が、墓地の遺跡において死を迎える事なく、外の世界へと散って行ったのではないか……、という事らしいが、全くもって確証の無い仮説である為に、パロット学士も明言は避けたそうだ。それでも、一つの仮説として俺達に知っておいて欲しい、と言われたらしい。
とまぁ、いろいろとね……
ざーーーーーーっと説明されたわけだけども……
「へぇ~。なるほどねぇ~」
そんな適当な感想しか、俺は口に出来なかった。
何? 何が、どう??
えっと……、え???
もはや、ちんぷんかんぷんを通り越して、あっぱらぱ~である。
途中までは俺も起きていたので、昨晩の事を思い出しながら聞いていたのだが……
アストレア王国滅亡の原因だとか、十ニ人の王様だとかの話は初耳で、且つややこしく、なんのこっちゃ分かりまへん! って感じの内容だからして、全てを理解するにはかなりの時間がかかりそうだ。
……いや、時間をかけたとて、無駄かも知れない。
「なるほどね~って……。モッモ、本当に理解したの?」
首を傾けて、俺を睨むグレコ様。
その仕草がちょっぴりセクシーで、でも恐ろしくって、全身の毛がゾワゾワする俺。
理解したかって? いやいや、そんなの……
出来るわけ無いでしょうがっ!?
ねぇグレコ、よく考えてよ? 僕だよ??
脳味噌が丸っきり小動物の僕ですよ!??
今の説明だけで全部理解するなんて、到底不可能ですよっ!!!
「その、十ニの王、というのが、フーガの、国王が探す……、探している、者たち、……か?」
ようやく話が理解出来たらしいティカが、カービィに尋ねた。
その言葉からしてティカは、昨晩のウルテル国王との謁見時の話まで、しっかりと把握しているらしい。
恐らくカービィに聞いたのだと思われるが、なんていうか……
やっぱり、元近衛兵副隊長はさすがっす! 抜かりないっすねっ!! て思った。
「んだ、その通りだ。けど、十ニ神王の事は、しばらく考えねぇ方がいいぞ。なんせ、本当に存在しているのか、存在しているとして世界の何処にいるのか、何の種族なのかも何も分かんねぇ連中だかんな。ウルテルは探す気満々だったけど……。おいら達が首突っ込むのは、まだ早い気がするっ!」
ドーンと断言するカービィ。
「さすれば我らは、これまで通り、モッモの指針を頼りに進むだけであるな。目指すは【精霊国バハントム】、その国の王である【光王レイア】殿……、であろ?」
ややこしい新情報など全部無視して、本来の目的を再確認したいギンロ。
「そうね。私達の旅の目的は、パーラ・ドット大陸の何処かにあるという精霊国バハントムを探し出し、光王レイアの元へと馳せ参じる事。それ以上でも以下でも無いわ」
答えるグレコ。
「だが、その、光王、というのは、十ニの王、その一人、では? ならば、何故?? 何か……、裏がある???」
む~んと難しい顔をして、考え込むティカ。
「まぁ、ティカの言いてぇ事は分かるけどよ、考えてもきっと分かんねぇぞ? 分かんねぇ事考えると、余計分かんなくなるから、考えねぇ方がいいっ!」
考える事を完全に放棄して、いつものようにヘラヘラするカービィ。
そうは言われても、頑固な性分からか納得出来ず、ティカは考え続けている。
しかしながら俺は、カービィの意見に賛成である。
分からない事をいつまでも考えていても仕方が無い、分かっている事だけを理解していればいいのだ。
……まぁ俺の場合、分かっている事も理解出来てないのだけどね、てへ♪
「少し、僕からもいいかな」
そう言ったのはアイビーだ。
ここまで、グレコの話す言葉に静かに耳を傾けていたアイビーだったが、何かを決心したかのように、神妙な面持ちで、ゆっくりと話し始めた。
「パロット学士には既に話した事なんだが……。かつて、僕がアーレイクであった頃、アーレイクはユディンと共に、一度その墓地の遺跡へと足を運んでいる。無論、邪滅の書を手に入れる為にだ。アーレイクはそこで、神代の悪霊の一柱あるニョグタと遭遇し、その身に封印すると共に死の呪いを受けたんだが……。実は、アーレイクがユディンの帰還を、自分自身では無く、後の時の神の使者に託そうと考えた本当の理由が、そこにはあったんだ。それ即ち、命の樹の枝の喪失。アーレイクは予知が得意だったからね、その場に命の樹の枝が無い事は既に知っていただろう。だけども、その現実を目の当たりにした事で、彼には新しい未来が見えたんだよ。次代の時の神の使者が命の樹の枝を手にする、その姿がね。だから、封魔の塔に力場を残し、ユディン自身で封印を守らせた……。はっきり言って、めちゃくちゃな作戦だなと、僕は思う。五百年もの間、二人の友を塔に閉じ込めておくだなんて……。だけども、彼には時間が無かった。ニョグタの呪いのせいで、彼の命の長さは、人としての寿命よりも更に短くなっていたからね。加えて彼は、まだまだ若かった。彼の心には焦りが生まれ、今回、このような結果になったんだと思う……」
ふむ、つまり……?
アーレイク先輩が、自分の力でユディンを魔界に帰さなかったのは、墓地の遺跡に命の樹の枝が無かったから……、なのか??
でも、だとしたら、命の樹の枝はいったい……???
「アーレイク・ピタラスが墓地の遺跡に出向いたのは500年以上前の事だよな? じゃあそれ以前に、その墓地の遺跡から、命の樹の枝を盗んだ奴が他にいたって事になるのか??」
鼻をほじりながら質問するカービィ。
……いや、なんで鼻ほじってるのさっ!?
汚いし失礼だぞっ!!?
「それ、私も気になっていたのよね。パロット学士は、墓地の遺跡に命の樹の枝と邪滅の書が納められそうな石台があって、そこにはそれぞれヴァルディア語のメッセージが残されていたって言っていたけど……。片方はアーレイク・ピタラスのもので間違いないわよね?」
グレコの問い掛けに、頷くアイビー。
「じゃあ、アーレイク・ピタラスがその墓地の遺跡を訪れたのが500年ほど前で、その時既に命の樹の枝は盗まれていた事になるわけで……。だとしたら、いったい誰が、墓地の遺跡から命の樹の枝を盗み出したのかしら? それに、そんな伝説級のものが何故……、今モッモの手に渡っているのかしらね??」
チラリと横目で俺を見つつ、誰に尋ねるでも無くグレコはそう言った。
するとアイビーは、もう一度大きく息を吸って、こう言った。
「実は、気になる記憶が残っていてね。恐らくアーレイクが、アストレア王国跡地に赴いた時の記憶なんだが……。その当時、アストレア王国跡地には、沢山のピグモル・ピグメント……、通称ピグモル族が暮らしていたんだ。モッモ君の祖先に当たる者達だよ」
おおうっ!?
俺の御先祖様がご登場ですかっ!??
当時は、ワラワラといたっていう……
「この時のアーレイクは、まだ神の力を有していたから、ピグモル達の話す言葉が理解出来たようだ。突然の来訪者に驚きつつも、ピグモル達はもの珍し気にアーレイクに近付いてきて……、そして口々にこう言ったんだ。『自由の剣はここには無い。女神が持って行った。世界を創り直す為に』と……」
世界を、創り直す、だと……?
なんかそれ、少し前に聞いたセリフだな。
誰が言っていたっけか??
「世界を創り直す為に、女神が、命の樹の枝を持って行った……? その、女神っていうのは、いったい何者なの??」
問い掛けるグレコ。
「分からない。勿論、アーレイクにも分からなかった。だけど、分かっている事が一つだけ……。その女神と呼ばれる者は、世界を創り直す為に、命の樹の枝を墓地の遺跡より持ち出した。そして実際、アストレア王国の滅亡後に、世界は大きく変革を遂げた。つまりは、その女神と呼ばれる者こそが、今のこの世界を創り上げた者……、即ち、現世界の創造主、【絶対神カオス】であったのではないかと、僕は考えている」
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