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★虫の森、蟷螂神編★
77:やっぱり、ポポも……
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ドワーフの洞窟を出発した、その晩。
日が落ちて、真っ暗になった森の中、俺とギンロはキャンプをする事にした。
いつもはグレコがテキパキと準備をしてくれるので、何をどうすればいいのか、少し迷ったが……
ギンロと一緒に、グレコがやっていた事を思い出しながら、グレコに借りた簡易テントを立て、焚き火を焚き、見様見真似で料理をした。
それなりの見栄えの夕食が出来たものの、調味料の配合が上手くいかず、なんだか薄味で、味気なくて……
ギンロは食べてくれたけど、作った本人である俺は食が進まなかった。
グレコが共に旅をしてくれている事の有り難みを、鍋に残った具材を見つめながら、ひしひしと俺は感じていた。
今現在、森の中は静かで、以前と変わりないように思えるが……
昼間、ここに至るまでの道のりでは、そこら中に様々な種類の虫型魔物が徘徊していて、かなり穏やかではない様子だった。
俺たちの活躍により、森の主であるカマーリスはいなくなり、配下であった鎌手の虫型魔物もほぼ死滅。
よって、これまで身を潜めて暮らしていた他の虫型魔物の動きが、活発になっているようなのだ。
そこかしこで、新たな縄張り争いだろうか、虫型魔物同士の戦闘が繰り広げられていて、森の中は血生臭い匂いに満ちていた。
しかしながら、例によって、虫型魔物の返り血を浴び、その臭いが体に染み付いているギンロが一緒なので、虫型魔物が不用意に此方に近づいて来る事は無く、特に襲われたりする事は無かった。
夕食後、世界地図を広げて、ぼんやりと眺める俺。
俺たちの現在地を示す白い光が、地図上でチカチカと点滅している。
ここまで来れば、明日の昼までにはダッチュ族の里へと辿り着けるだろう。
しかし、そこには誰かいるだろうか?
俺が行く意味は、果たしてあるのだろうか??
あの惨状の中、ポポは、生き延びているのだろうか……???
最悪の事態が頭をよぎり、ズーンと暗くなる俺。
すると……
「モッモ。少し、話をしようか」
俺の隣に座るギンロが、声を掛けてきた。
「え? あ……、うん」
二人きりになってからは、ほとんど口をきいていなかったので、ちょっぴりドギマギしちゃう俺。
ここへ来るまでの道中、ギンロは驚くほどに無口だった。
いや、もしかしたら本当は、これまでもずっと無口だったのかも知れない。
いつもは俺とグレコがペラペラお喋りしていたもんだから、気付かなかっただけなのかも……
ギンロはふーっと大きく息を吐き、背筋をピンと延ばして、真っ直ぐに俺を見ている。
……急に改まった様子で、どうしたんだろう?
何か大事な話なのかな??
俺は世界地図を鞄にしまい、ギンロの方を向いて、出来るだけ姿勢が良く見えるように座り直した。
「モッモ、お主は以前、我に尋ねたな。我の種族……、我が何者なのか? と」
「あ、……うん」
そういや、そんな話をしたっけな。
その後が忙しかったから、今の今までコロッと忘れていましたよ。
「そして我は答えた。我はフェンリルである。しかし、それは半分である、と」
「うん」
そうそう、そうだったよ。
フェンリルで、その半分だって、言ってたねギンロ。
……で、それって何? どういう事?
「半分というのは、明確に言うと、我は純粋なフェンリルではない、という事なのだ」
「うん」
ギンロさんよ、さすがに俺でもそこは理解してますよ。
勿体ぶった言い方をしなさるな。
「つまりそれは、我が、俗に言う【パントゥー】であるという事だ」
「うん、……うん?」
ギンロ、今なんてった?
パントゥー??
え……、パンツ???
聞き慣れない言葉に、俺は自然と首を傾げていた。
「ぬ? パントゥーを知らぬか?? パントゥーとは、異なる種族の間に産まれた者の事を言う。つまり、父と母が、同種族で無い事を指すのだ。我は、フェンリルを父に、他の種族を母に持つ、いわゆる混血のフェンリルなのだ」
「あ~……、なるほど!」
そうか、つまり……、雑種ってやつだな、うん。
一人納得した俺は、満足気にうんうんと頷く。
そんな俺を見て、ギンロは……
「……なんとも思わぬか?」
どこか不安気な表情で、そう尋ねてきた。
「へ? なんともって??」
ギンロの問い掛けの意味が分からず、間抜けな声を出す俺。
そんな俺を見つめるギンロの表情は、なんだかいつもより曇っていて……
「もともとフェンリルは、人化の術を使う魔獣族。故に、普段の姿は巨大な狼の如き獣の風貌であるが、時に人の姿になる事も出来る。しかしながら、我はこの様な半人半獣の姿が常。自ら告白せぬ限りは、我がフェンリルのパントゥーであると見抜く輩は限りなく少ないであろう。ドワーフ族のボンザ殿のように、どこぞの獣人と見紛われる事がほとんどである。しかしながら、曲がりなりにもフェンリルである我は、この姿形の他に、人化も獣化も会得しておる。よって、人化の術を行使する際は、我の年と相応の人の姿へと変わる事が出来る。が……、獣化の術を行使したとて、我はパントゥー故、完全なるフェンリルにはなれぬ。つまり我は、純粋なフェンリルに比べると……、その………」
あ~……、う~~………、ん~~~?
だから、え~っと…………??
もしかして、あれだろうか、雑種だとやっぱ差別とか、そういうのがあるのだろうか???
パンツ……、いや、パントゥーに対する蔑視とか、嫌煙する感じが、世間一般的な反応……、みたいな????
ギンロの不安気な様子からして、恐らくそういう事なんだろうなと、俺は推測する。
自信無さげに俯き、尻尾をシュンと垂らしているギンロのその姿は、出会ってから一番カッコ悪くて、頼り無い。
だけども何故か、その姿に親近感が沸いた俺は、まったりとした気分でギンロを見つめている。
あんなに強いギンロでも、こんな風に、自分に自信が無くて落ち込んだりするんだな~、なんて思いながら……
しかしまぁ残念ながら、ギンロが心配している事は、俺にとっては全く重要ではない。
「つまりギンロは、半分はフェンリルだけど、半分はフェンリルじゃない……、って事だよね? それが何か問題なの?? 僕はなんとも思わないよ。だって、ギンロはギンロでしょ???」
俺は、努めて明るい声で、そう言ってみた。
ギンロが、本当はフェンリルだとか、半分だとか、そんな事はどうでもいいんだ。
確かに、何の種族なのかな~? って、気になってはいたけども……、それはただの好奇心であって、差別をしたり、蔑んだりする為では決して無い。
それに、何の種族だって、ギンロはギンロだ。
優しくて、強くて、カッコイイ剣士!
だから、ギンロが思っているような不安は感じなくてもいいよって、伝えたくて……
「僕は、今のまんまのギンロが好きだよ!」
世界で最も愛らしいピグモルスマイルで、俺そう言った。
するとギンロは、驚いたのか、大きな口を小さく開けたまま固まって、その大きな目をシパシパと何度も瞬きした。
……しばしの沈黙。
俺の反応が予想外だったのだろう、瞬きはしているものの、ギンロは時が止まってしまっているかのように動かない。
その様子を見て、今度は俺が焦り始める。
あっ!?
まさかとは思うけど、愛の告白だと思われたかっ!!?
違うっ! 違うぞギンロ!!
俺は断じて、ノーマルだからなっ!!!
俺が一人、心の中で冷や汗を流していると……
「そうか……。感謝する、モッモ」
凄く安心した様子でギンロは微笑み、彼の時間が動き出した。
その表情を見て、どうやら変な解釈はされていないようだと、俺もホッと一安心した。
「してモッモよ、明日の事だが……」
おおうっ!?
切り替えが早いですねギンロさんっ!!?
別に良いけどねっ!!!?
「これより先、お主にとっては、酷な現実を目の当たりにせねばならぬやも知れん。我も希望を捨て切れぬ故、ここまで来たが……。森の様子から鑑みるに、状況はかなり厳しいであろう」
ギンロの言葉に、今度は俺が沈黙する。
なんとなく分かってはいた事だが、改めてそう言われると、なかなかにキツいものがある。
ギンロの言葉、現状の分析は、恐らく正しいだろう。
正しいからこそ、分かっているからこそ、辛い……
「しかし、これだけは忘れるでないぞ。この先、如何なる結果が待っているにせよ、誰も、悪く無い。全ては自然の摂理、抗えぬ事もある……。故に、お主を責めたりはせん。我も、グレコもな……。故にお主も、決して、己を責めるでないぞ、モッモ」
ギンロの言葉に俺は、涙を流すまいと歯を食いしばる。
この言葉は、ギンロなりの優しさであり、精一杯の励ましだ。
自然の摂理、抗えぬ事……、それはつまり、グレコが言っていた、弱肉強食ってやつだ。
弱者は肉となり、強者に食われる……
至極当然な自然のあり方であり、変えられない現実だ。
でも……、それでも俺は、諦めないぞ。
この目で全てを確かめるまでは、絶対に諦めないぞ。
俺は、ギュッと唇を噛んで、流れ落ちそうになる涙を仕舞い込んだ。
泣くのはまだ早い、まだ諦めるなと、何度も何度も自分に言い聞かせながら……
翌朝、まだ日が登らないうちから、俺とギンロは行動を開始した。
朝靄が森を包み込む中、北へと歩いて行くこと数時間。
眼前に、ダッチュ族の里が見えてきた。
荒らされ放題のその場所には、もはや生きている者は何も存在していない様子だ。
「どうやら……、敵はおらぬようだな。食い物がないと分かって森へ帰ったのだろう」
辺りを見回し、ギンロはそう言った。
昨日テレポートしてきた石碑は、里の入り口であった場所に建てられている。
酷く斜めに傾いているそれは、恐らく、虫型魔物に襲われる最中で、ポポのお母さんが慌てて地面に突き刺したのだろう。
当時の状況を想像し、俺はなんとも言えない気持ちになる。
ギンロの言うように、ここには誰もいない。
耳を澄ましても、何も聞こえてこない。
風にのってやってくるのは、血の乾いた匂いだけ。
余りに絶望的な状況に、立っているのがやっとなほどだ。
だけどそれでも、俺は諦め切れなくて……
「少し離れた場所にある、テトーンの樹まで行ってみよう。ほら、ポポが隠れていた、穴のある樹だよ」
俺の言葉にギンロが頷いて、俺たちは再び歩き出した。
この森には、少ないながらも、テトーンの樹が生えている。
それなりに嗅覚が発達しているのであろう虫型魔物も、獣型魔物と同様、テトーンの樹には近付かない。
ポポが助かっているとしたら、もうあの場所しか……
しばらく歩いて行くと、大きなテトーンの樹が現れた。
根元に穴のあるその樹は、朝日を浴びて、白く輝いているように見えた。
樹の真ん前に立ち、その穴に向かって、俺は小さく呼び掛ける。
「ポポ? ポポ、いるかい?? 僕だよ、モッモだよ」
………返答はない。
微かに辺りに漂っているダッチュ族の匂いは、以前の残り香なのかも知れない。
やっぱり、ポポも……
「うっ、うぅっ……。ポポ、ごめんよぉ。ポポぉ~、うあ~ん」
思わず泣き出してしまった俺に、ギンロが優しく寄り添う。
せめて、遺体だけでも見つけて、埋葬くらいはしたかった……
いや、そんなの嘘だ!
俺は、生きているポポに会いたかった!!
ポポを救いたかったんだ!!!
「うあ~ん! うあ~ん!! ポポぉ~!!!」
次第に嗚咽が大きくなる俺。
虫型魔物に見つかれば攻撃されると分かっているが、俺の気持ちを汲んでか、止めはしないギンロ。
その優しやが、余計に切ない。
……と、その時だった。
「モッモ、あんたなの?」
不意に、どこからか声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声は、小さくて、震えている。
この声は……、この声はっ!?
間違いないっ! きっとそうだっ!!
この声はっ!!!
「ポッ!? ポポ!!? ポポどこっ!?!?」
叫ぶ俺。
涙で滲む景色の中、俺の目はその姿を捉えた。
ポポの不細工な顔が、テトーンの樹の根元の穴から、ピョコっと出てきたその姿を。
あああぁあぁぁっ!!!!!
「ポポォオォォ~~~!?!!?」
「モッモ! あぁあっ!! 来てくれたんだねぇっ!!!」
穴から飛び出して来たポポは、そのままの勢いで俺の体に抱き付き、俺は全力でそれを受け止めた。
お互いにきつく抱きしめ合い、熱い抱擁を交わす俺とポポ。
二人とも、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃで、べちょべちょで、汚くて……
だけど、そんな事は気にせずに、お互いの無事を喜んで、思いっきり声を上げて泣いた。
それな俺たちの背後では、ギンロが優しく微笑んでいた。
日が落ちて、真っ暗になった森の中、俺とギンロはキャンプをする事にした。
いつもはグレコがテキパキと準備をしてくれるので、何をどうすればいいのか、少し迷ったが……
ギンロと一緒に、グレコがやっていた事を思い出しながら、グレコに借りた簡易テントを立て、焚き火を焚き、見様見真似で料理をした。
それなりの見栄えの夕食が出来たものの、調味料の配合が上手くいかず、なんだか薄味で、味気なくて……
ギンロは食べてくれたけど、作った本人である俺は食が進まなかった。
グレコが共に旅をしてくれている事の有り難みを、鍋に残った具材を見つめながら、ひしひしと俺は感じていた。
今現在、森の中は静かで、以前と変わりないように思えるが……
昼間、ここに至るまでの道のりでは、そこら中に様々な種類の虫型魔物が徘徊していて、かなり穏やかではない様子だった。
俺たちの活躍により、森の主であるカマーリスはいなくなり、配下であった鎌手の虫型魔物もほぼ死滅。
よって、これまで身を潜めて暮らしていた他の虫型魔物の動きが、活発になっているようなのだ。
そこかしこで、新たな縄張り争いだろうか、虫型魔物同士の戦闘が繰り広げられていて、森の中は血生臭い匂いに満ちていた。
しかしながら、例によって、虫型魔物の返り血を浴び、その臭いが体に染み付いているギンロが一緒なので、虫型魔物が不用意に此方に近づいて来る事は無く、特に襲われたりする事は無かった。
夕食後、世界地図を広げて、ぼんやりと眺める俺。
俺たちの現在地を示す白い光が、地図上でチカチカと点滅している。
ここまで来れば、明日の昼までにはダッチュ族の里へと辿り着けるだろう。
しかし、そこには誰かいるだろうか?
俺が行く意味は、果たしてあるのだろうか??
あの惨状の中、ポポは、生き延びているのだろうか……???
最悪の事態が頭をよぎり、ズーンと暗くなる俺。
すると……
「モッモ。少し、話をしようか」
俺の隣に座るギンロが、声を掛けてきた。
「え? あ……、うん」
二人きりになってからは、ほとんど口をきいていなかったので、ちょっぴりドギマギしちゃう俺。
ここへ来るまでの道中、ギンロは驚くほどに無口だった。
いや、もしかしたら本当は、これまでもずっと無口だったのかも知れない。
いつもは俺とグレコがペラペラお喋りしていたもんだから、気付かなかっただけなのかも……
ギンロはふーっと大きく息を吐き、背筋をピンと延ばして、真っ直ぐに俺を見ている。
……急に改まった様子で、どうしたんだろう?
何か大事な話なのかな??
俺は世界地図を鞄にしまい、ギンロの方を向いて、出来るだけ姿勢が良く見えるように座り直した。
「モッモ、お主は以前、我に尋ねたな。我の種族……、我が何者なのか? と」
「あ、……うん」
そういや、そんな話をしたっけな。
その後が忙しかったから、今の今までコロッと忘れていましたよ。
「そして我は答えた。我はフェンリルである。しかし、それは半分である、と」
「うん」
そうそう、そうだったよ。
フェンリルで、その半分だって、言ってたねギンロ。
……で、それって何? どういう事?
「半分というのは、明確に言うと、我は純粋なフェンリルではない、という事なのだ」
「うん」
ギンロさんよ、さすがに俺でもそこは理解してますよ。
勿体ぶった言い方をしなさるな。
「つまりそれは、我が、俗に言う【パントゥー】であるという事だ」
「うん、……うん?」
ギンロ、今なんてった?
パントゥー??
え……、パンツ???
聞き慣れない言葉に、俺は自然と首を傾げていた。
「ぬ? パントゥーを知らぬか?? パントゥーとは、異なる種族の間に産まれた者の事を言う。つまり、父と母が、同種族で無い事を指すのだ。我は、フェンリルを父に、他の種族を母に持つ、いわゆる混血のフェンリルなのだ」
「あ~……、なるほど!」
そうか、つまり……、雑種ってやつだな、うん。
一人納得した俺は、満足気にうんうんと頷く。
そんな俺を見て、ギンロは……
「……なんとも思わぬか?」
どこか不安気な表情で、そう尋ねてきた。
「へ? なんともって??」
ギンロの問い掛けの意味が分からず、間抜けな声を出す俺。
そんな俺を見つめるギンロの表情は、なんだかいつもより曇っていて……
「もともとフェンリルは、人化の術を使う魔獣族。故に、普段の姿は巨大な狼の如き獣の風貌であるが、時に人の姿になる事も出来る。しかしながら、我はこの様な半人半獣の姿が常。自ら告白せぬ限りは、我がフェンリルのパントゥーであると見抜く輩は限りなく少ないであろう。ドワーフ族のボンザ殿のように、どこぞの獣人と見紛われる事がほとんどである。しかしながら、曲がりなりにもフェンリルである我は、この姿形の他に、人化も獣化も会得しておる。よって、人化の術を行使する際は、我の年と相応の人の姿へと変わる事が出来る。が……、獣化の術を行使したとて、我はパントゥー故、完全なるフェンリルにはなれぬ。つまり我は、純粋なフェンリルに比べると……、その………」
あ~……、う~~………、ん~~~?
だから、え~っと…………??
もしかして、あれだろうか、雑種だとやっぱ差別とか、そういうのがあるのだろうか???
パンツ……、いや、パントゥーに対する蔑視とか、嫌煙する感じが、世間一般的な反応……、みたいな????
ギンロの不安気な様子からして、恐らくそういう事なんだろうなと、俺は推測する。
自信無さげに俯き、尻尾をシュンと垂らしているギンロのその姿は、出会ってから一番カッコ悪くて、頼り無い。
だけども何故か、その姿に親近感が沸いた俺は、まったりとした気分でギンロを見つめている。
あんなに強いギンロでも、こんな風に、自分に自信が無くて落ち込んだりするんだな~、なんて思いながら……
しかしまぁ残念ながら、ギンロが心配している事は、俺にとっては全く重要ではない。
「つまりギンロは、半分はフェンリルだけど、半分はフェンリルじゃない……、って事だよね? それが何か問題なの?? 僕はなんとも思わないよ。だって、ギンロはギンロでしょ???」
俺は、努めて明るい声で、そう言ってみた。
ギンロが、本当はフェンリルだとか、半分だとか、そんな事はどうでもいいんだ。
確かに、何の種族なのかな~? って、気になってはいたけども……、それはただの好奇心であって、差別をしたり、蔑んだりする為では決して無い。
それに、何の種族だって、ギンロはギンロだ。
優しくて、強くて、カッコイイ剣士!
だから、ギンロが思っているような不安は感じなくてもいいよって、伝えたくて……
「僕は、今のまんまのギンロが好きだよ!」
世界で最も愛らしいピグモルスマイルで、俺そう言った。
するとギンロは、驚いたのか、大きな口を小さく開けたまま固まって、その大きな目をシパシパと何度も瞬きした。
……しばしの沈黙。
俺の反応が予想外だったのだろう、瞬きはしているものの、ギンロは時が止まってしまっているかのように動かない。
その様子を見て、今度は俺が焦り始める。
あっ!?
まさかとは思うけど、愛の告白だと思われたかっ!!?
違うっ! 違うぞギンロ!!
俺は断じて、ノーマルだからなっ!!!
俺が一人、心の中で冷や汗を流していると……
「そうか……。感謝する、モッモ」
凄く安心した様子でギンロは微笑み、彼の時間が動き出した。
その表情を見て、どうやら変な解釈はされていないようだと、俺もホッと一安心した。
「してモッモよ、明日の事だが……」
おおうっ!?
切り替えが早いですねギンロさんっ!!?
別に良いけどねっ!!!?
「これより先、お主にとっては、酷な現実を目の当たりにせねばならぬやも知れん。我も希望を捨て切れぬ故、ここまで来たが……。森の様子から鑑みるに、状況はかなり厳しいであろう」
ギンロの言葉に、今度は俺が沈黙する。
なんとなく分かってはいた事だが、改めてそう言われると、なかなかにキツいものがある。
ギンロの言葉、現状の分析は、恐らく正しいだろう。
正しいからこそ、分かっているからこそ、辛い……
「しかし、これだけは忘れるでないぞ。この先、如何なる結果が待っているにせよ、誰も、悪く無い。全ては自然の摂理、抗えぬ事もある……。故に、お主を責めたりはせん。我も、グレコもな……。故にお主も、決して、己を責めるでないぞ、モッモ」
ギンロの言葉に俺は、涙を流すまいと歯を食いしばる。
この言葉は、ギンロなりの優しさであり、精一杯の励ましだ。
自然の摂理、抗えぬ事……、それはつまり、グレコが言っていた、弱肉強食ってやつだ。
弱者は肉となり、強者に食われる……
至極当然な自然のあり方であり、変えられない現実だ。
でも……、それでも俺は、諦めないぞ。
この目で全てを確かめるまでは、絶対に諦めないぞ。
俺は、ギュッと唇を噛んで、流れ落ちそうになる涙を仕舞い込んだ。
泣くのはまだ早い、まだ諦めるなと、何度も何度も自分に言い聞かせながら……
翌朝、まだ日が登らないうちから、俺とギンロは行動を開始した。
朝靄が森を包み込む中、北へと歩いて行くこと数時間。
眼前に、ダッチュ族の里が見えてきた。
荒らされ放題のその場所には、もはや生きている者は何も存在していない様子だ。
「どうやら……、敵はおらぬようだな。食い物がないと分かって森へ帰ったのだろう」
辺りを見回し、ギンロはそう言った。
昨日テレポートしてきた石碑は、里の入り口であった場所に建てられている。
酷く斜めに傾いているそれは、恐らく、虫型魔物に襲われる最中で、ポポのお母さんが慌てて地面に突き刺したのだろう。
当時の状況を想像し、俺はなんとも言えない気持ちになる。
ギンロの言うように、ここには誰もいない。
耳を澄ましても、何も聞こえてこない。
風にのってやってくるのは、血の乾いた匂いだけ。
余りに絶望的な状況に、立っているのがやっとなほどだ。
だけどそれでも、俺は諦め切れなくて……
「少し離れた場所にある、テトーンの樹まで行ってみよう。ほら、ポポが隠れていた、穴のある樹だよ」
俺の言葉にギンロが頷いて、俺たちは再び歩き出した。
この森には、少ないながらも、テトーンの樹が生えている。
それなりに嗅覚が発達しているのであろう虫型魔物も、獣型魔物と同様、テトーンの樹には近付かない。
ポポが助かっているとしたら、もうあの場所しか……
しばらく歩いて行くと、大きなテトーンの樹が現れた。
根元に穴のあるその樹は、朝日を浴びて、白く輝いているように見えた。
樹の真ん前に立ち、その穴に向かって、俺は小さく呼び掛ける。
「ポポ? ポポ、いるかい?? 僕だよ、モッモだよ」
………返答はない。
微かに辺りに漂っているダッチュ族の匂いは、以前の残り香なのかも知れない。
やっぱり、ポポも……
「うっ、うぅっ……。ポポ、ごめんよぉ。ポポぉ~、うあ~ん」
思わず泣き出してしまった俺に、ギンロが優しく寄り添う。
せめて、遺体だけでも見つけて、埋葬くらいはしたかった……
いや、そんなの嘘だ!
俺は、生きているポポに会いたかった!!
ポポを救いたかったんだ!!!
「うあ~ん! うあ~ん!! ポポぉ~!!!」
次第に嗚咽が大きくなる俺。
虫型魔物に見つかれば攻撃されると分かっているが、俺の気持ちを汲んでか、止めはしないギンロ。
その優しやが、余計に切ない。
……と、その時だった。
「モッモ、あんたなの?」
不意に、どこからか声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声は、小さくて、震えている。
この声は……、この声はっ!?
間違いないっ! きっとそうだっ!!
この声はっ!!!
「ポッ!? ポポ!!? ポポどこっ!?!?」
叫ぶ俺。
涙で滲む景色の中、俺の目はその姿を捉えた。
ポポの不細工な顔が、テトーンの樹の根元の穴から、ピョコっと出てきたその姿を。
あああぁあぁぁっ!!!!!
「ポポォオォォ~~~!?!!?」
「モッモ! あぁあっ!! 来てくれたんだねぇっ!!!」
穴から飛び出して来たポポは、そのままの勢いで俺の体に抱き付き、俺は全力でそれを受け止めた。
お互いにきつく抱きしめ合い、熱い抱擁を交わす俺とポポ。
二人とも、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃで、べちょべちょで、汚くて……
だけど、そんな事は気にせずに、お互いの無事を喜んで、思いっきり声を上げて泣いた。
それな俺たちの背後では、ギンロが優しく微笑んでいた。
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豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
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