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★虫の森、蟷螂神編★

60:たららんらん♪

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「わーい! わーい!! 森の主を倒してくれてありがとう!!! これであたい、里に帰れるよぉっ!!!!」

   無残にも、バラバラになった鎌手の虫型魔物の死骸を見て、ポポは小躍りしている。

   さっきまで居眠りしていたくせに、調子のいい奴だな……
   それに、このバラバラ死骸を見ても臆さないとは、なかなか肝が座ってらっしゃる。
   俺なんて、さっきからずっと吐きそうだし、ちびりそうだ!

「礼には及ばぬ。しかし、これが本当に森の主か? 呼び名にそぐわぬ弱さであった」

   い、いや~……、それはたぶん、あなたがかなりの手練れだからですよ、ギンロさん。
   俺とグレコなんて、こいつに崖まで追い詰められて、河に落っことされたんですからね。

「では一度、我が住処へと戻ろう。お主たちも疲れたであろ? 今宵はもう、休もうではないか」

「はーい!」

   ギンロの言葉に、ポポは元気よく返事をしたが……

   え? ギンロの住処で休むだと??
 あの落ち葉だらけの……、落ち葉の上で???
   あんな場所で、眠れるのか……????

   一抹の不安を抱きつつも、俺はギンロに従うしかなかった。
   だって、あの鎌手の虫型魔物を、一瞬で御陀仏にしちゃったんだぞ?
   言うこと聞いておかないと、怖いじゃないか……

 歩き出したギンロとポポの後ろを、俺はトボトボとついて行った。







「あぁ……。ほとんど眠れなかったぁ~」

   朝靄の中、俺は小さく呟いた。
   うーんと伸びをして、妙に凝り固まってしまっている体をほぐす。
   俺の隣には、大の字になって眠るポポと、犬のように身体を丸めて眠るギンロ。

   よくもまぁ、揃いも揃って神経が図太いこと。
   晴れていたからいいものの、屋根もないこんな場所じゃあ、雨が降ればずぶ濡れですよ?

   正直これまで、世界最弱の種族であるピグモルは、世界で最も文明が遅れているに違いない! なんてことを考えていたのだが……、それは大きく間違っていたらしい。
   ほら見て、ここにいる二匹。
   とっても野生的で、とっても非文明的!
   ただの落ち葉の山で、屋根も壁もない場所で、平気でぐ~すか眠れるなんて……  
   それだけじゃないぞ、こいつら寝る前に歯も磨かなかったんだ!!
 全く、信じられないっ!!!

   ……とまぁ、辟易してても仕方がない。
   とりあえず今日こそは、なんとしてもグレコを探し出さねば。

   首から下げた望みの羅針盤を見る。
   金色の針は、ほとんど真北を指している。

   グレコ、待っててね。
   俺が必ず見つけるからっ!
   どうか、無事でいてねっ!!

   気持ちを新たにした俺は、ポポが目覚める前に朝食を済ましてしまおうと、ゴソゴソと鞄を漁ってムギュのパンを取り出し、そっとジャムを塗って口へと運んだ。
   






「たららんらん♪ たららんらん♪ たったらたららん、たららんらん♪」

   よ分からない単調なメロディーを、延々と口ずさみながら歩くポポ。
   その後ろを俺が歩き、最後尾にはギンロが歩く。

   ギンロの住処(落ち葉の掃き溜め)を発つこと数時間。
   森を北へ北へと進んでいくと、ダッチュ族の里へと辿り着いた。
   そこには見たことのない、森の木々を切り倒して作られた、苔むした三角形の木の家が立ち並んでいた。
   家々の間には、複数のダッチュ族の姿が見える。
   みんな、木の皮と葉っぱで作った服を着て、ポポとよく似た顔形をしているが、大人のダッチュ族の体の大きさは、想像以上に大きくてガッシリしていた。
   彼らのその姿を見て俺が連想したのは、前世の記憶の中にある飛べない鳥、ダチョウだった。

「わーい! 里だぁ!! おっかぁ~、おっとぉ~!!! 帰ってきたよぉっ!!!!」

   上機嫌で駆け出すポポ。
   本当に、見た目通りの子どもだなぁ。

   ポポの母ちゃんと父ちゃんらしき二人が、驚いた顔でポポを出迎えた。
   母ちゃんの胸に飛び込んだポポは泣き出して、それにつられて二人も泣いている。
   うん、まさしく感動の再会だ!

「良かった、無事に里に辿り着けたのだな」

   後ろで、ギンロが安堵の声を漏らした。
   その言葉に頷くも、俺の心境はいささか複雑だ。

「して、モッモはどうする? まだ仲間が見つかっていないが……」

 ギンロの問い掛けに、俺は俯く。

 そう……、グレコが見つかっていないのだ。
 望みの羅針盤は北を指していたから、もしかしてと思ったのだが……

 泣きそうになる俺。
 だけど、泣いていたって始まらないし、ギンロの前で泣くのは嫌だった。

「うん……。とりあえず、方角はこっちであっていると思うから……。この里の者たちに、聞き込みをしてみようと思う!」

 涙と鼻水をしまって、俺は力強くそう言った。

「そうか。ならば……、我も手伝おうか?」

「えっ!? いいの!??」

   こくんと頷くギンロに、俺は満面の笑みで笑った。

   本当は、少し……、いや、かなり心細かったのだ。
   ポポは里に帰れたからいいだろうけれど、俺は今からグレコを探さなくてはならない、しかも一人で……
   そう思うと、とってもとっても心細くて……

   ギンロが優しい奴で良かったぁ。
   あんな風に、魔物は容赦無くギタギタに斬り刻んじゃうような奴だし、顔が狼でちょっと怖いけど……
   一人でいるよりは全然いい!
 
   と、そう思った次の瞬間……

「モッモ!?」

   聞き覚えのある、懐かしい声に名前を呼ばれ、俺は素早くその声の主を探す。
   そして、目に映ったその姿に、しまったはずの涙が、ブワワッ! と溢れ出した。

「ぐうっ!? グレコぉおぉぉっ!!!」

   雄叫びに似た奇声を上げながら、俺は駆け出した。
 涙をボロボロと流しながら、笑うグレコに向かって一直線!
   全速力で、その胸に飛び込んだ!!

「グレコぉっ! グレコぉおぉっ!! えぐっぅっううっ!!!」

「も~、モッモ~? 泣きすぎよぉ~??」

   人目も憚らずに俺は、グレコに全力で抱きついた。
   後で恥ずかしい思いをするとも知らずに、顔中涙と鼻水まみれで、大号泣していた。
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