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★始まりの場所、テトーンの樹の村編★

29:光王レイア

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『此の方を、傷つけてはなりません』

 聞き覚えのある優しい声が聞こえて、瞼の向こう側が急に明るくなった。

「ぐぁっ!? まっ、眩しいっ!?? 貴様ぁ……、何者だっ!?!?」

 魔獣が唸る。
 どうやら、声の主は魔獣の仲間ではなさそうだぞ?
 俺は恐る恐る、そっと目を開いて……

「うわっ!? まっぶしっ!!?」

 溢れんばかりの光に、慌てて両手をかざした。
 全くもって何も見えんっ!!!

「モッモ! 大丈夫!?」

 こちらに駆けてきたグレコに体を支えられて、なんとか起き上がる俺。
 薄目を開き、かざした手の指の隙間から、光の出所を見る。
 どうやら、俺の頭上、魔獣の前足が振り下ろされようとしていたまさにその場所に、キラキラと輝く、とてつもなく眩しい大きな光の玉が浮かんでいるようだ。

 な……? なんだ、これ??
 まさかと思うけど……、宇宙人、とか???

『此の方は、時空王より使命を賜りし者。決して、其方そなたの敵ではありません。其方は、この地を守りし勇敢なる者。ならば、真実を受け入れるのです。さぁ、己の過ちに気付きなさい。万が一にも、此の方を傷つければ、其方は虚空の彼方へと消え去る事となるでしょう』

 なんだか小難しい物言いの声を聞きながら、光の玉の放つ輝きに目がだんだんと慣れていくと、そこに見えてきたのは……

「えっ!? 母ちゃん!!?」

 なんと、俺の母ちゃんがいるっ!?

 ……いや違う、違うぞ。
 あれは、母ちゃんでは無さそうだ。
 めちゃくちゃ似てるけど、違う。
 
 そこにいるのは、俺の母ちゃんにそっくりな、見知らぬピグモルだ。
 それも、まるで全身から光を放っているかの様な、不思議ピグモルなのだ。

 結局……、誰なの……?

「えっ!? 父様っ!??」

 え? グレコの父ちゃん??
 どこ??? どこに居るの????

 隣にいるグレコの言葉に、俺はキョロキョロと辺りを見回す。
 しかしながら、それらしき人物……、もといエルフは見当たら無い。
 そして、そう言ったグレコは真っ直ぐに、目の前の光を見ているのだ。
 即ち、俺の母ちゃんにそっくりな、光るピグモルを……

 はて? どういう事だろう??

「お……、お主は……? イザベラ殿??」

 つい数秒前まで怒り狂っていたはずの魔獣は、完全に士気を失い、目を真ん丸に見開いて、驚いたようにそう呟いた。
 此方もグレコと同じく、真っ直ぐに、目の前の光……、俺の母ちゃんにそっくりな、光るピグモルを見つめている。

 えっと……、え? 誰それ??
 あの光るピグモルの名前なのだろうか???

 それぞれに、どこか困惑した様子の俺達に対し、母ちゃんそっくりの光るピグモルは、穏やかに微笑みながらこう言った。

『いいえ。私は、其方の母でも、父でも、想い人でもありません。私は、光王レイア』
 
 両手を高く上げ、大きく広げて、まるで女神の如きポーズをとる光るピグモル。
 すると俺は、何故だが、なんとなくだけど、今目の前で起きている事はとても凄い事なのでは? と思い始める。
 しかしながら、彼女の放つその言葉の意味が、俺にはちんぷんかんぷんだ。
 小首を傾げながら、現状を把握しようと、頭の中を整理していると……

「何ぃいっ!? 光王だとっ!??」

「まさかっ!? そんな……!??」

 光るピグモルの言葉に、共に驚愕する魔獣とグレコ。
 だけど俺には、その「こうおうれいあ」が何なのかがわからない。
 けど一応……

「えっ!?」

 と、驚いておく俺。
 だって、一人だけ無反応なんて、ちょっと恥ずかしいからね。

『時空王に見定められし者、モッモよ。私の国へいらっしゃい。私には、其方が必要です。そして其方にも……。必ず、必ず私の国へ……』

 そう言い残し、光は徐々に消えていって……、光るピグモルの姿も消えていった。
 後には、驚いたままの魔獣とグレコ、何が何だか分からずポカンとする俺と、静寂だけが残った。








 太陽は、随分西へと傾いているようだ。
 空はオレンジ色に染まり、辺りは薄暗くなり始めている。

「光王レイアが守りし者……。ピグモルよ、貴様いったい何者だ?」

 闇の魔獣は、先ほどまでの興奮状態とは一変して、とても冷静な口調で俺に問い掛ける。
 どうやらもう、攻撃をしかけてくる事はなさそうだ。

「その前にっ! モッモの妹達を返しなさいっ!!」

 未だ戦闘モードが抜けないグレコが叫ぶ。

「む? ピグモルよ、このわっぱ共は貴様の家族か??」

 揺り籠の中で眠る妹達を見つめながら問い掛ける魔獣に、まだ若干びびりつつも、俺は頷く。

「そうか……。しかし、分からぬ。いったい、何が起きているというのだ?」

 困惑する魔獣。

「何が起きているのか、ですって? 元はと言えば、全部あなたのせいじゃないのっ! あなたがモッモの村を襲って、荒らして、その子達を連れ去ったのよっ!? 全て自分が仕掛けた事なのに、しらばっくれる気!!? まさか……、ボケてるのっ!?!?」

 ガチギレグレコ、めっちゃ怖い……
 そして、恐ろしい魔獣を相手にこのセリフ、さすがです。

「何だとっ!? さっきから聞いておればこの小娘め……。我の何処がボケているというのだっ!!? 訂正しろっ! このっ、このっ……、性悪なブラッドエルフめがぁっ!!」

 ガチギレ魔獣、こっちもめっちゃ怖い……
 だけど、グレコに比べると、セリフが弱い気がする。

 あぁ……、せっかく、何処ぞの見ず知らずのなんちゃらさんのおかげで、丸く収まりそうだったのに……
 このまま血の気の多い二人に任せておくと、ヒートアップしかしないぞっ!?

 意を決して俺は、睨み合う魔獣とグレコに声を掛ける。

「あ、あの……」

 だがしかし……

「誰が性悪よ!? 野蛮で薄汚い魔獣が、偉そうな口を叩かないでっ!!!」

「うっ!? 薄汚いだとぉっ!?? 今すぐその喉元噛み切ってやるわぁっ!!!」

 だっ!? 駄目だぁっ!!?
 俺の体も存在も、二人には小さ過ぎて見えてないっ!?!?
 それに……、うぅ、こ、怖いよぅ……

 ガクブルガクブル

 でも、勇気を出さなくちゃ!
 とりあえず、話し合いをしないとっ!!

「あ、あの……、あのぉ~」

 一歩を踏み出して、先ほどより少しばかり大きな声で話し掛ける俺。
 だがしかし……

「やってみなさいよっ!? 返り討ちにしてやるわっ!!!」

 短剣を抜き取り、構えるグレコ。

「小癪なっ! 死んで後悔するがいいっ!! ガルアァァッ!!!」

 牙を剥き出して、吠える魔獣。

 ひっ、ひえぇ~!?
 二人とも、戦う気満々っ!??
 あわわわわっ!?!?

 ガクブルガクブルガクブル

 完全に戦闘モードになっているグレコと魔獣を前に、俺の全身は激しく震え始める。
 まさに一触即発!?

 ……だけども、ここで引き下がってはいられない。
 グレコは怒っているけれど、俺にはこの魔獣が、食べる為に妹達を攫ったようには見えないのだ。
 きっと、何か訳があるはず。
 だから、なんとかして、二人を止めないとっ!
 
 俺は、震える手をギュッと握り締め、スーッと大きく息を吸い込んで……

「ちょっと待てぇえーーーいっ!!!!!」

 あらん限りの声で、叫んだ。
 その明らかに場違いなセリフに、動きが止まるグレコと魔獣。

 ふぅ……、よし、止まった。

 胸がドキドキ、息はハアハアである。

 怖かった……、めっちゃ怖かったっ!
 でもまぁ、とりあえずだな……

「お互い冷静にっ! 話し合いましょうっ!!」

 鼻息荒く言い放った俺の言葉に、グレコと魔獣は怒りを忘れ、目をパチクリとしていた。
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