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★ピタラス諸島、後日譚★
762:無害
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「ふむ……。どうやら身に覚えがある様だな、時の神の使者殿よ」
右端の小ちゃい奴に変な声でそう言われて、俺の心臓の拍数は更に跳ね上がる。
「モッモちゃん? どういう事ポ……??」
不安気な俺を見て、問い掛けるノリリア。
だけど、俺は俯いたまま顔を上げる事も出来なければ、その問いに答える事も出来そうにない。
そんな、まさか……?
いや、待て待て待て……、なんで??
まさか、あの時から、始まってたっていうのか???
邪神に堕ちたカマーリスを倒し、その三つの頭にある金の瞳を俺が回収しなかったから、クトゥルーがそれを持ち去って……????
ドッドッドッドッと、心臓の音が、どんどん大きくなっていく。
「あの夜、たまたまその場に居合わせた俺とウルテルは、宝物庫から出て来た奴を捕らえようと、共闘を試みた。しかし、奴は魔法では無い何か……、恐らく神力と呼ばれる類の力を使った妙な技で、俺とウルテルの動きを封じ込もうとした。不甲斐無くも、俺は力及ばず、すぐさま戦闘不能になったが、ウルテルが奴の首元を攻撃した。そして、奴の醜い頭が動体を離れ、宙を舞うと同時に、その六つの玉が周囲に飛び散ったんだ。頭の無い姿となった奴は、それでも尚言葉を発していて……、姿を消す直前、最後にこう言った。『それはもう用済みだ、時の神の使者に返しておいてくれ』と……。まさかとは思うが、そこにいる時の神の使者が、悪霊の企みに加担し、神の瞳を譲渡した……、と、考える事も出来る」
ウルテル国王の左側にいるデッカい奴が、先程よりも幾分か少し低い声でそう言った。
怒っているのだろうか、その巨体から、ゆらゆらと赤いオーラを放ちながら。
「ちょっ!? ちょっと待って下さいポッ!?? そんな……、モッモちゃんが、神の瞳をクトゥルーに渡した……? そんな事、あるはずが無いですポよっ!!??」
俺を庇おうと、必死に声を上げるノリリア。
しかし、その言葉に応える者は誰もいない。
台座の上にいる五人の視線は、真っ直ぐに俺に向けられている。
ち、違う……、違うよ!
そんな事してないっ!!
俺はクトゥルーに、神の瞳を渡してなんかいないっ!!!
そう叫んで、否定しなくちゃならないのに、声が出ない。
向けられる視線に心が萎縮して、身体がブルブルと震えて、頭がクラクラして、立っているのがやっとなほどだ。
極度の緊張からから、足元のクリスタルの床が、だんだんと近付いてきているように見えて……
すると、ここまでずっと黙っていたカービィが、ようやく口を開いた。
「なるほどなぁ~。そいでおまいら、ビビって顔も出さねぇのか?」
いつものヘラヘラとした口調ではあるものの、カービィのその言葉、その声色は、とても挑発的で棘がある。
恐らく、あちら側もそれを感じ取ったのだろう、周りを取り巻く空気がピリリと変わった。
「ビビっているなどとは、心外であるな、カービィ・アド・ウェルサーよ。いくらお主とはいえ、言って良い事と悪い事があるぞ?」
右端の小ちゃい奴が、やんわりと釘を刺すも……
「そう言うって事は、やっぱりモッモが怖ぇ~んだろ? そりゃそうだよなぁ~、得体が知れねぇもんなぁ~。国民の間では、時の神の使者は空想の産物とされている。歴史上、時の神の使者と呼ばれる者の出現と、その活躍を、その時々の君主が揉み消してきたから……、そうなんだろ? アーレイク・ピタラスだってそうだ。大陸大分断の裏には、悪魔のみならず、神代の悪霊の存在まであったってのに、それらを全て無かった事にして、後世に伝えなかったのは、当時の国王及びその周りの臣下達……、つまり、おまいらの先輩、って事になんだろ?? て事は、沢山残ってるはずだよなぁ、時の神の使者に関する情報がよ。何が不都合なのかは知らねぇけど、おいら達のような一般国民に伏せられている事実、真実がそこにはあるはずだ。おまいらはそれを知っていて、モッモの存在を恐れている……、違うのか???」
尚も挑発を続けるカービィ。
……いや、これは挑発などでは無い。
カービィは俺を、守ろうとしてくれているのだ。
その全身から少しずつ、みなぎる闘志のような、虹色の魔力を発しながら。
「口を慎め、カービィ・アド・ウェルサー! アド家の養子である貴様だとて、何もかもが許される訳では無いぞっ!?」
変なフォルムのダリアが叫ぶ。
しかし……
「お黙りダリア! 口を慎むのは貴方の方よっ!! カービィの言う通り……、今夜の貴方達は心底おかしくてよ? 何を恐れて、最大級守護魔法がかけられた魔除けのローブを身につけているのかしら?? それも、顔を見せる事すらも躊躇って……??? それじゃあまるで、食殺を恐れる小鼠のようだわ」
ローズまでもが、嘲笑うかの様な口調で、国王を含めた台座の上の五人を挑発し始めたではないか。
でも、最後の一言は、俺に対する皮肉のようにも聞こえたのだが……、気のせいかな?
カービィとローズの発言、その態度に、俺とノリリアは同じ様なハラハラとした表情で、前方と横に視線をキョロキョロと動かす。
室内の空気は凍り付き、もはや一触即発!? って感じだ。
な、なんでもいいけど……
みんな! 穏便にっ!!
平和にいこうよっ!!!
「はっはっはっはっはぁあっ!!!」
ヒィイッ!?
こっ、今度は何ぃいっ!!?
突然大声で笑ったのは、台座の中央に座するウルテル国王だった。
そのあまりに豪快な笑い声に、室内のピリピリとしていた空気が、一瞬で緩んだ。
「ヤオン、ジェイル、ダリア、もういいだろう? どうだキルシュ、モッモ君の心理は読めたか??」
え? 俺の、心理……、だと??
ウルテル国王の言葉に、その右隣に座っている、椅子が草だらけになっている奴が、ゆっくりとローブのフードを脱ぐ。
するとそこに現れたのは、どこかで見た事があるような無いような、ウェーブがかかった濃い緑色の髪の毛が印象的な、口元にホクロのある、お色気ムンムンの美女だ。
「えぇ、もうとっくに……。そこに居る時の神の使者を名乗る者は、国王の仰った通り、我々の期待を裏切って、全くの無害ですわ」
ふ~っと大きく息を吐きながら、お色気ムンムンの美女はそう言った。
「なっ!? それは真かっ!!?」
小ちゃい奴が、驚いて体を震わせ、より一層高い声を出す。
「えぇ、間違いありませんわ」
諦めたかのような表情で、お色気ムンムンの美女は頷く。
「おいおい、嘘だろぉ……? じゃあ、奴が置いてったそれは、別の使者から譲渡されたものだってのか??」
デッカい奴が、ウルテル国王の右の掌に転がる、六つの神の瞳を指差して問い掛けた。
「いいえ、そうではありません。その神の瞳は間違いなく、邪神に堕ちたカマリリスのもの。そして、そのカマリリスを討伐したのは、紛れもなくそこに居る時の神の使者です。私が鑑定したのですから、間違いありませんわ。問題は……、彼の性格と、それに付随する彼のこれまでの行動です」
今度は呆れた顔をしながら、俺に視線を向けるお色気ムンムンの美女。
……いやん、見つめられると恥ずかしい!
違う意味でドキドキしちゃうぅっ!!
「性格? 性格とは……、どう……??」
まだ素顔を明かさないダリアが尋ねる。
「なんと言いますか……、彼は、物事を深く考えるのが苦手なようですわ。種族性なのかも知れませんが、楽天的で、平和ボケしていて……。加えて、判断力が鈍く、行動に一貫性がありませんの。その場凌ぎ、という言葉がピッタリですわね。記憶力もさほど良く無い為に、邪神カマリリスを倒し、その亡骸から神の瞳が失われていた事を、今の今まで気にも留めずに、忘れていて……。此方の話を聞いて、先ほどようやく思い出したようですわ」
苦笑いで、俺の分析結果を発表するお色気ムンムンの美女。
その言葉に、沈黙する台座の上の皆さん。
……てかっ!?
結構失礼な事を言うわねあなたっ!!?
美女だから他者を愚弄してもいいと、そうお考えですかぁっ!!??
「はっはっはっはっはぁあっ! 聞いたかお前達っ!? だから私が最初に言っただろう? 時の神の使者となり得る者は欲を持たず、争いを好まず、どこか間抜けな者達なのだとっ!! 確かに、彼は奴を……、神代の悪霊クトゥルーを倒した。しかしそれは、彼一人の力では断じて無い。加えて彼は、お前達が危惧するような悪心は持ち得ていないのだ。キルシュの心探魔法でそれが証明された以上、何を警戒する事がある? んんん??」
愉快に笑いながら、未だ顔を隠したままの台座の上の三人に向けて、問い掛けるウルテル国王。
そして……
「ふむ、ならば……。このような布切れに用は無い」
そう言って、小ちゃい奴が、いの一番にローブを脱ぎ捨てた。
顕になったその姿に、俺は目をパチクリさせる。
あ……、あり? 蟻!?
そこに現れたのは、黒光りする光沢のある体に、4本の腕と2本の足が生えた、蟻のような姿の虫人だ。
体長は予想通り10センチ程しかなく、頭には2本の短い触覚があり、上半身には金属の鎧を身につけているが、下半身はほぼ丸出しで、プルンッと丸い大きなお尻がついている。
「くっそ、ビビって損したぜ……」
次にローブを脱いだのは、ウルテル国王の左側にいるデッカい奴だ。
ぶつくさと小声で文句を言いながら、バサッとローブを脱ぎ去ると、そこには想像通りの巨体が現れた。
うっわ……、でっかっ!?
いや、デカいのは分かってたんだけど、なんだろう……、顔が怖いからか、余計デカく見えるぞっ!??
……身長、何センチなんだろう?
薄い銀髪をした彼は、少し色白の、巨大な人間の男性である。
武闘家のようなタンクトップと長ズボンを身に付けており、一見するとかなりラフな格好だ。
ただ、袖の無いタンクトップから伸びる上腕の全面に、魔法陣のような複雑な紋様の青い入れ墨が施されており、それがかなりのインパクトを与えていた。
そして最後に、変なフォルムのダリアが、無言でローブを脱いだ。
現れたその姿形に、俺はまたしても目をパチクリさせる。
あれは……、ハーピー?
いやでも、背中に翼はあるけど、腕はちゃんと生えているし……
それに、下半身が人魚っぽいぞ??
どうなってんだありゃ???
ショートカットの薄いピンク色の髪に、透き通るような白い肌、ビー玉のような水色の瞳。
品のあるワンピースのような衣服を身につけてはいるものの、その背には鳥の様な翼が一対あって、服の裾から覗く下半身は、完全に魚類の尾鰭だった。
視覚からの新情報が多過ぎて、脳内がパニックを起こし始める俺。
するとカービィが……
「で……。結局のところ、そうまでしておいらとモッモにクエストを依頼する目的は何なんだよ? パーラ・ドット大陸には、何が待ち構えてんだ?? そのおまいの左腕の事と、何か関係があんのか???」
青い瞳をキラリと輝かせて問うた。
その言葉に、ウルテル国王は目を細め、ローブを脱ぎ捨てた。
バサッと音を立てて、床に落ちるローブ。
顕になったウルテル国王のその姿に、俺は言葉を失った。
「なっ!? ウルテル!?? その左腕……、いったい……?」
驚き声を上げるローズ。
ハッとした表情でのまま固まって、口を手に当てるノリリア。
目の前に立つウルテル国王の左腕には、得体の知れない、気味の悪い何かが巣食っているではないか。
どこかで見た事があるようなその光景に、俺は眉間に皺を寄せた。
右端の小ちゃい奴に変な声でそう言われて、俺の心臓の拍数は更に跳ね上がる。
「モッモちゃん? どういう事ポ……??」
不安気な俺を見て、問い掛けるノリリア。
だけど、俺は俯いたまま顔を上げる事も出来なければ、その問いに答える事も出来そうにない。
そんな、まさか……?
いや、待て待て待て……、なんで??
まさか、あの時から、始まってたっていうのか???
邪神に堕ちたカマーリスを倒し、その三つの頭にある金の瞳を俺が回収しなかったから、クトゥルーがそれを持ち去って……????
ドッドッドッドッと、心臓の音が、どんどん大きくなっていく。
「あの夜、たまたまその場に居合わせた俺とウルテルは、宝物庫から出て来た奴を捕らえようと、共闘を試みた。しかし、奴は魔法では無い何か……、恐らく神力と呼ばれる類の力を使った妙な技で、俺とウルテルの動きを封じ込もうとした。不甲斐無くも、俺は力及ばず、すぐさま戦闘不能になったが、ウルテルが奴の首元を攻撃した。そして、奴の醜い頭が動体を離れ、宙を舞うと同時に、その六つの玉が周囲に飛び散ったんだ。頭の無い姿となった奴は、それでも尚言葉を発していて……、姿を消す直前、最後にこう言った。『それはもう用済みだ、時の神の使者に返しておいてくれ』と……。まさかとは思うが、そこにいる時の神の使者が、悪霊の企みに加担し、神の瞳を譲渡した……、と、考える事も出来る」
ウルテル国王の左側にいるデッカい奴が、先程よりも幾分か少し低い声でそう言った。
怒っているのだろうか、その巨体から、ゆらゆらと赤いオーラを放ちながら。
「ちょっ!? ちょっと待って下さいポッ!?? そんな……、モッモちゃんが、神の瞳をクトゥルーに渡した……? そんな事、あるはずが無いですポよっ!!??」
俺を庇おうと、必死に声を上げるノリリア。
しかし、その言葉に応える者は誰もいない。
台座の上にいる五人の視線は、真っ直ぐに俺に向けられている。
ち、違う……、違うよ!
そんな事してないっ!!
俺はクトゥルーに、神の瞳を渡してなんかいないっ!!!
そう叫んで、否定しなくちゃならないのに、声が出ない。
向けられる視線に心が萎縮して、身体がブルブルと震えて、頭がクラクラして、立っているのがやっとなほどだ。
極度の緊張からから、足元のクリスタルの床が、だんだんと近付いてきているように見えて……
すると、ここまでずっと黙っていたカービィが、ようやく口を開いた。
「なるほどなぁ~。そいでおまいら、ビビって顔も出さねぇのか?」
いつものヘラヘラとした口調ではあるものの、カービィのその言葉、その声色は、とても挑発的で棘がある。
恐らく、あちら側もそれを感じ取ったのだろう、周りを取り巻く空気がピリリと変わった。
「ビビっているなどとは、心外であるな、カービィ・アド・ウェルサーよ。いくらお主とはいえ、言って良い事と悪い事があるぞ?」
右端の小ちゃい奴が、やんわりと釘を刺すも……
「そう言うって事は、やっぱりモッモが怖ぇ~んだろ? そりゃそうだよなぁ~、得体が知れねぇもんなぁ~。国民の間では、時の神の使者は空想の産物とされている。歴史上、時の神の使者と呼ばれる者の出現と、その活躍を、その時々の君主が揉み消してきたから……、そうなんだろ? アーレイク・ピタラスだってそうだ。大陸大分断の裏には、悪魔のみならず、神代の悪霊の存在まであったってのに、それらを全て無かった事にして、後世に伝えなかったのは、当時の国王及びその周りの臣下達……、つまり、おまいらの先輩、って事になんだろ?? て事は、沢山残ってるはずだよなぁ、時の神の使者に関する情報がよ。何が不都合なのかは知らねぇけど、おいら達のような一般国民に伏せられている事実、真実がそこにはあるはずだ。おまいらはそれを知っていて、モッモの存在を恐れている……、違うのか???」
尚も挑発を続けるカービィ。
……いや、これは挑発などでは無い。
カービィは俺を、守ろうとしてくれているのだ。
その全身から少しずつ、みなぎる闘志のような、虹色の魔力を発しながら。
「口を慎め、カービィ・アド・ウェルサー! アド家の養子である貴様だとて、何もかもが許される訳では無いぞっ!?」
変なフォルムのダリアが叫ぶ。
しかし……
「お黙りダリア! 口を慎むのは貴方の方よっ!! カービィの言う通り……、今夜の貴方達は心底おかしくてよ? 何を恐れて、最大級守護魔法がかけられた魔除けのローブを身につけているのかしら?? それも、顔を見せる事すらも躊躇って……??? それじゃあまるで、食殺を恐れる小鼠のようだわ」
ローズまでもが、嘲笑うかの様な口調で、国王を含めた台座の上の五人を挑発し始めたではないか。
でも、最後の一言は、俺に対する皮肉のようにも聞こえたのだが……、気のせいかな?
カービィとローズの発言、その態度に、俺とノリリアは同じ様なハラハラとした表情で、前方と横に視線をキョロキョロと動かす。
室内の空気は凍り付き、もはや一触即発!? って感じだ。
な、なんでもいいけど……
みんな! 穏便にっ!!
平和にいこうよっ!!!
「はっはっはっはっはぁあっ!!!」
ヒィイッ!?
こっ、今度は何ぃいっ!!?
突然大声で笑ったのは、台座の中央に座するウルテル国王だった。
そのあまりに豪快な笑い声に、室内のピリピリとしていた空気が、一瞬で緩んだ。
「ヤオン、ジェイル、ダリア、もういいだろう? どうだキルシュ、モッモ君の心理は読めたか??」
え? 俺の、心理……、だと??
ウルテル国王の言葉に、その右隣に座っている、椅子が草だらけになっている奴が、ゆっくりとローブのフードを脱ぐ。
するとそこに現れたのは、どこかで見た事があるような無いような、ウェーブがかかった濃い緑色の髪の毛が印象的な、口元にホクロのある、お色気ムンムンの美女だ。
「えぇ、もうとっくに……。そこに居る時の神の使者を名乗る者は、国王の仰った通り、我々の期待を裏切って、全くの無害ですわ」
ふ~っと大きく息を吐きながら、お色気ムンムンの美女はそう言った。
「なっ!? それは真かっ!!?」
小ちゃい奴が、驚いて体を震わせ、より一層高い声を出す。
「えぇ、間違いありませんわ」
諦めたかのような表情で、お色気ムンムンの美女は頷く。
「おいおい、嘘だろぉ……? じゃあ、奴が置いてったそれは、別の使者から譲渡されたものだってのか??」
デッカい奴が、ウルテル国王の右の掌に転がる、六つの神の瞳を指差して問い掛けた。
「いいえ、そうではありません。その神の瞳は間違いなく、邪神に堕ちたカマリリスのもの。そして、そのカマリリスを討伐したのは、紛れもなくそこに居る時の神の使者です。私が鑑定したのですから、間違いありませんわ。問題は……、彼の性格と、それに付随する彼のこれまでの行動です」
今度は呆れた顔をしながら、俺に視線を向けるお色気ムンムンの美女。
……いやん、見つめられると恥ずかしい!
違う意味でドキドキしちゃうぅっ!!
「性格? 性格とは……、どう……??」
まだ素顔を明かさないダリアが尋ねる。
「なんと言いますか……、彼は、物事を深く考えるのが苦手なようですわ。種族性なのかも知れませんが、楽天的で、平和ボケしていて……。加えて、判断力が鈍く、行動に一貫性がありませんの。その場凌ぎ、という言葉がピッタリですわね。記憶力もさほど良く無い為に、邪神カマリリスを倒し、その亡骸から神の瞳が失われていた事を、今の今まで気にも留めずに、忘れていて……。此方の話を聞いて、先ほどようやく思い出したようですわ」
苦笑いで、俺の分析結果を発表するお色気ムンムンの美女。
その言葉に、沈黙する台座の上の皆さん。
……てかっ!?
結構失礼な事を言うわねあなたっ!!?
美女だから他者を愚弄してもいいと、そうお考えですかぁっ!!??
「はっはっはっはっはぁあっ! 聞いたかお前達っ!? だから私が最初に言っただろう? 時の神の使者となり得る者は欲を持たず、争いを好まず、どこか間抜けな者達なのだとっ!! 確かに、彼は奴を……、神代の悪霊クトゥルーを倒した。しかしそれは、彼一人の力では断じて無い。加えて彼は、お前達が危惧するような悪心は持ち得ていないのだ。キルシュの心探魔法でそれが証明された以上、何を警戒する事がある? んんん??」
愉快に笑いながら、未だ顔を隠したままの台座の上の三人に向けて、問い掛けるウルテル国王。
そして……
「ふむ、ならば……。このような布切れに用は無い」
そう言って、小ちゃい奴が、いの一番にローブを脱ぎ捨てた。
顕になったその姿に、俺は目をパチクリさせる。
あ……、あり? 蟻!?
そこに現れたのは、黒光りする光沢のある体に、4本の腕と2本の足が生えた、蟻のような姿の虫人だ。
体長は予想通り10センチ程しかなく、頭には2本の短い触覚があり、上半身には金属の鎧を身につけているが、下半身はほぼ丸出しで、プルンッと丸い大きなお尻がついている。
「くっそ、ビビって損したぜ……」
次にローブを脱いだのは、ウルテル国王の左側にいるデッカい奴だ。
ぶつくさと小声で文句を言いながら、バサッとローブを脱ぎ去ると、そこには想像通りの巨体が現れた。
うっわ……、でっかっ!?
いや、デカいのは分かってたんだけど、なんだろう……、顔が怖いからか、余計デカく見えるぞっ!??
……身長、何センチなんだろう?
薄い銀髪をした彼は、少し色白の、巨大な人間の男性である。
武闘家のようなタンクトップと長ズボンを身に付けており、一見するとかなりラフな格好だ。
ただ、袖の無いタンクトップから伸びる上腕の全面に、魔法陣のような複雑な紋様の青い入れ墨が施されており、それがかなりのインパクトを与えていた。
そして最後に、変なフォルムのダリアが、無言でローブを脱いだ。
現れたその姿形に、俺はまたしても目をパチクリさせる。
あれは……、ハーピー?
いやでも、背中に翼はあるけど、腕はちゃんと生えているし……
それに、下半身が人魚っぽいぞ??
どうなってんだありゃ???
ショートカットの薄いピンク色の髪に、透き通るような白い肌、ビー玉のような水色の瞳。
品のあるワンピースのような衣服を身につけてはいるものの、その背には鳥の様な翼が一対あって、服の裾から覗く下半身は、完全に魚類の尾鰭だった。
視覚からの新情報が多過ぎて、脳内がパニックを起こし始める俺。
するとカービィが……
「で……。結局のところ、そうまでしておいらとモッモにクエストを依頼する目的は何なんだよ? パーラ・ドット大陸には、何が待ち構えてんだ?? そのおまいの左腕の事と、何か関係があんのか???」
青い瞳をキラリと輝かせて問うた。
その言葉に、ウルテル国王は目を細め、ローブを脱ぎ捨てた。
バサッと音を立てて、床に落ちるローブ。
顕になったウルテル国王のその姿に、俺は言葉を失った。
「なっ!? ウルテル!?? その左腕……、いったい……?」
驚き声を上げるローズ。
ハッとした表情でのまま固まって、口を手に当てるノリリア。
目の前に立つウルテル国王の左腕には、得体の知れない、気味の悪い何かが巣食っているではないか。
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