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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
718:さらばだ!
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「ほんっっっっっとぉ~にっ!? いいポかっ!??」
希望に満ちた、キラキラと輝くつぶらな瞳を見開いて、ノリリアは問う。
「うむ、本当に良い」
胸の前で腕組みをし、プラティックはそう答えた。
「ポォ……、ポポゥ……。や、やった……、ポ……」
腕の中にある茶色い革張りの分厚い書物を、大事そうにギュッと抱きしめながら、ノリリアは目に涙を浮かべて微笑んだ。
生前のアーレイク・ピタラスが残した、様々な解呪魔法が記された書物、その名も【解呪術全書】は、プラティックの許可を得て、ノリリアがその所有権を獲得した。
「それを執筆しながら、アーレイクは言っていた。いつかきっと、これを必要とする者が、ここへとやって来る。そして、その者こそが、この書を引き継ぐに相応しい、次代の解呪魔法の使い手となるだろうとな……。ノリリア、貴様はまだ若い。見たところ、まだまだ磨く余地のある才能を内に秘めている。ギルドの副団長などという堅苦しい場所に留まる事なく、世界を旅して回るが良い。そしてその目で確かめるのだ、世界に存在する様々な呪いを……。それらを解く為の術を、貴様は今、手に入れたのだ。他でも無い自分自身の力でな。存分に活かすが良い。かつてのアーレイクのように」
プラティックの言葉に、ノリリアはポロリと涙を零し、口をへの字に曲げて、こくんと頷いた。
ノリリアの、情けなくも誇らしげな泣き顔を見て、俺も泣きそう……
良かったねノリリア!
大変な思いして、こんな所まで来て……
良かったねぇえっ!!
ほんとぉ~にっ、良かったねぇええっ!!!
「さて、貴様にはこれを渡そう」
「……んへ? ズビッ」
貰い泣きして鼻水を垂らしていた俺に対し、プラティックが何かを差し出してきた。
その手に握られているものは、なんだか何処かで見た事のあるような、真っ黒で綺麗な玉だ。
「ポ? それは……、地下へ向かう為の……??」
玉の正体が理解出来たらしいノリリアが、涙を拭いながらそう言った。
「如何にも。これは、ユディンが眠る地下へと向かう為の、昇降機の鍵である。これ無くば、ユディンの元へは辿り着けん。ユディンを解放するその時に、これが必要となろう。故にモッモよ、これを貴様に授ける」
プラティックから黒い玉を受け取って、繁々と眺める俺。
まだなんというか……、これから自分が成さねばならぬ事が、よく理解出来てません、はい。
えっと、結局……、あん?
「ポポ、つまり……。モッモちゃんはこの先、邪滅の書と自由の剣を持って世界を旅して、神代の悪霊の一柱であるクトゥルーを探し出し、倒す……。その後、再びこの塔へと戻ってきて、その宝玉を使い、地下へ向かって、そこに封印されている悪魔の子ユディンを解放し、魔界へと帰還させる……、という事ポね?」
……なるほど、そういう事なのね。
「如何にも。しかし……、もしかすると…………。いや! 如何にもそうである!!」
おいプラティック、今何か言おうとしてなかったかい?
言葉を飲み込んだように見えましたが??
まさかとは思うけど、何か重要な事を隠してはいないかね、んん???
「ポポゥ、大変ポね、モッモちゃん……」
ねぇノリリア、お願いだからさ、その哀れむような視線を俺に向けないでくれるかな。
めちゃくちゃ不安になるからさ。
「正直なところ、それを貴様に渡すべきか否か、少々悩んだが……。アーレイクが望んだ事だ。我は最後まで、彼の望んだ通りに事を進める事とした。そして、ここから先は貴様の自由だ。何をどうするかは、貴様の心に従って決断せよ」
透き通った水色の瞳で俺を真っ直ぐに見下ろして、プラティックはそう言った。
俺の心に従って、決断する……?
え、それでいいの??
だったら……、出来れば何もしたく無いんですけど……
恐ろしい力を持った旧世界の神とも、上級悪魔とも、金輪際関わりたく無いんですけど!
てかさ、ここまでいろいろ用意しておいてさ、導いておいてさ、最終的には俺の判断でいいってどういう事???
アーレイク先輩も、プラティックも、丸投げにも程があると思うんだけど!!
その辺、どうお考えなんでしょうねっ!!!
「ポポ、貴方様は、この後どうされるのですポ?」
ノリリアの問い掛けに、プラティックは頭上を仰ぎ見た。
板張りの天井には、一部天窓が設けられており、そこからは青い空が見えている。
まるで時が止まっているかのような、いつまでも変わる事のない、真っ青な快晴の空が。
「長い間……、本当に長い間、我は俗世より離れていた。友の願いを叶える為とはいえ、五百年を超える年月を、世界より隔絶されたこの場所で過ごした事は、リバイザデッドの名を継ぐ者としては失格であろうな。しかしながら、我には今しばらく猶予が残されているようだ。この体が老いて、死が迎えに来る事は、まだ先の出来事らしい……。ならば、リバイザデッドの名を継ぐ者として、再び世界に目を向けようと思う」
ふ~ん……、そうかね。
てか、この体が老いてって言うけどさ、あなたさっきのさっきまで、シワシワの小汚い老人でしたよ?
それを、何をどうしてそうなったのか知らんけど、自ら若返ったではありませんか。
老いて死が迎えにくる、なんて事が、今後本当にあるのですか??
「すると……、この塔から出るという事ポ?」
「如何にも。恐らくだが、世界はこれより大きな変革の時を迎えよう。我は、3代目リバイザデッドとして、それを見届け、次代へとその記憶を引き継がねばならぬ。それに、我がここに居た五百余年の間に、世界がどう変わったのかも、この目で見に行かねばなるまいて。レクサンガスの元に置いてきた倅の事も気になるでな」
ほう? 倅とな??
息子さんがいらっしゃるのですか、まぁまぁまぁ。
……仰った事の前半部分は流してもいいですか???
「ポポ、変革の時……。具体的に、何が起きるのポね? 先程の話だと、封印されているはずの旧世界の神々が、次々に復活するとか……、そういう事なのポ??」
俺が聞き流そうとしたところを、深刻な表情で掘り下げるノリリア。
「如何にも、その通りだ……。しかしながら、それもまたアーレイクの予知頼み故、確たるものではない。ただ彼は、五百余年の後、世界の平穏と安寧を打ち砕く、未曾有の危機が数多押し寄せると言っていた。それ即ち、神話時代に封印されし悪霊共が蘇り、世界は再び暗黒の時代へと突入する……、のではないかと、我は考えている」
あ~……、う~……、そんなの嫌だ。
「ポポゥ……。そして、その危機を救う為に、悪霊達に立ち向かって行くのが、モッモちゃんだと……?」
「如何にも」
……いやいや。
いやいやいやいや、そんなそんな。
無理に決まってんじゃん!?
俺にそんな事出来るように見えるっ!??
てか……、二人ともさ、話しながらこっち見て、絶対無理だわって顔するのやめてくんないっ!?!?
俺自身が一番よく分かってますからぁあぁぁあっ!!???
「……ま、案ずるでない。それは所詮、アーレイクの予知した未来の一つに過ぎん。当たるも八卦、当たらぬも八卦である」
ははははと、乾いた笑顔を見せるプラティック。
全然フォローになってませんよっ!?
「ポポ、それもそうポね。今のところ、故アーレイク・ピタラス大魔導の未来予知は、半分くらいしか当たってないポよ。こう言っちゃなんだポが……、アーレイク・ピタラス氏は、解呪魔法に関しては一流でも、未来予知に関しては半人前だったのかも知れないポ。だからモッモちゃん、あまり気負う必要は無いポよ」
こちらも、ポポポポと、気休めな笑い方をするノリリア。
くぅ~、他人事だと思ってぇえっ!!?
「そうだといいのだがな…………」
おいプラティック!
ぼそっと呟くなっ!!
もっと不安になるだろうがっ!!!
「いろいろと教えて頂き、ありがとうございましたポ。あたちはここを出たら一度、フーガに戻りますポね。プラティック・リバイザデッド様……、ここで出会えたのもきっと何かの縁ですポ。長き旅の途中でフーガにお立ち寄りの際は、魔導師ギルド白薔薇の騎士団に是非お越しくださいポ」
そう言って、ノリリアは恭しくお辞儀をした。
どうやらそろそろ、お別れの時間らしい。
まだいろいろと聞きたい事が……、いや、もういいや。
これ以上何か聞いても、不安が大きくなるだけだ。
何も聞かないぞっ!
「うむ、そうさせて貰おう。さて……。モッモよ、我もこれから世界を巡る旅に出る故、またいずれ何処かで出逢う事もあろう。その時までには、是が非でも、悪霊クトゥルーを滅し、ユディンを魔界へ帰還させておくがよいぞ」
ニヤリと笑うプラティック。
「う!? そっ!?? ぐっ!!?? ……ど、努力、します」
くっそぉ~……、最後の最後でプレッシャーかけてきやがってぇえ~……
無理だからねぇええぇぇぇっ!!!!
絶対、無理だからぁあぁああぁぁぁぁっ!!!!!
「では……。さらばだ! ノリリア・ポー!! モッモ!!!」
爽やかな笑顔と、ハツラツとした声でそう言って、プラティックはパチンッ! と指を鳴らした。
すると、プラティックの背後の何も無い空間に、光の渦が発生し、それが徐々に大きくなっていって、プラティックの体を飲み込んだ。
そして、瞬きをした次の瞬間にはもう、プラティックも光の渦も、消えて無くなっていた。
「ポポゥ、さすがはリバイザデッド……。最後まで本当に、凄い空間魔法ポね……」
感嘆の溜め息を漏らすノリリア。
「ほんとにね。くっ……、はぁあ~~~~~」
全然違った意味合いで、深い溜め息を吐く俺。
「ポポ、大丈夫ポよ、モッモちゃん。今ここには居ないポが……、あなたは一人じゃないポ。グレコちゃんにギンロちゃん、ティカちゃんにテッチャさん、それにカービィちゃんも、みんながモッモちゃんを助けてくれるポよ。あたちだって、できる事があれば手伝うポよ。だから、一人で全てを背負わなくていいポね~」
可愛らしく、にっこりと笑うノリリア。
夢を叶え、願いを叶え、求めていた物を手にした者の、なんと清々しい事よ……
ノリリアがそう言うなら、なんか大丈夫な気がしてきたな~。
安堵はしていないものの、考えたって分からないし、ビビっていたって始まらないので、とりあえず俺は頷いた。
そして、ノリリアに続いて、アーレイク・ピタラスが最期の時を過ごしたというこのシンプルな部屋を後にした。
「とにかく、戻って皆に報告するポよ♪ きっとビックリするポォ~?」
軽い足取りで、トントンと階段を降りていくノリリア。
俺は、プラティックから手渡された黒い宝玉を繁々と眺めながら、幾分か遅れて階段を降りていく。
しっかしなぁ……、俺に何をどうしろと? と、尚も悩みながら……
そして、先に階下に降りたノリリアが、封魔の塔内にある昇降機へと戻る為の、あの金の扉のドアノブに手をかけた……、次の瞬間!
「「「「「モッモ!!!!!」」」」」
「ヒャアッ!?!!?」
耳元で、大音量で名前を呼ばれて、俺は飛び上がった。
その声は、グレコ、ギンロ、カービィ、ティカ、テッチャの五人が、同時に絆の耳飾りを使って、俺に呼びかけてきた声だった。
何事かと驚く俺に、返事をする間も与えずに、緊迫した様子で五人は叫ぶ。
「大丈夫っ!?」
「逃げるのだっ!」
「ノリリアいっか!?」
「戦えっ!!」
「生きとるか!??」
なんだなんだ!?
みんなしてどうしたんだっ!!?
「えっ!? ちょっ!!? ……何っ!!??」
慌てて返事をする俺。
こちらを振り返り、訝しげに見るノリリア。
その手は、握り締めているドアノブを、ゆっくりと回し始めていて……
「そこにいるライラックは、偽物よ!」
「そこにいるライラックは、敵である!」
「そこにいるライラックは、偽物だ!」
「そこにいる獣人は、敵だ!」
「そこにいるライラック殿は、偽物じゃ!」
…………………はい?
みんなの声が聞こえると同時に、ノリリアの手によって、昇降機へと繋がる扉がゆっくりと開かれた。
そして、少し離れているものの、視力が抜群に良い俺の目は、向こう側に立っている者の姿をハッキリと捉えていた。
そこに立つのは、紫色の毛並みの、一見すると虎のような風貌の獣人。
だがしかし、彼は俺の知っている彼では無さそうだ。
此方を見て、ニッコリと微笑むその顔の、きらりと光る二つの瞳は、いつもと違って虹色に輝いていた。
希望に満ちた、キラキラと輝くつぶらな瞳を見開いて、ノリリアは問う。
「うむ、本当に良い」
胸の前で腕組みをし、プラティックはそう答えた。
「ポォ……、ポポゥ……。や、やった……、ポ……」
腕の中にある茶色い革張りの分厚い書物を、大事そうにギュッと抱きしめながら、ノリリアは目に涙を浮かべて微笑んだ。
生前のアーレイク・ピタラスが残した、様々な解呪魔法が記された書物、その名も【解呪術全書】は、プラティックの許可を得て、ノリリアがその所有権を獲得した。
「それを執筆しながら、アーレイクは言っていた。いつかきっと、これを必要とする者が、ここへとやって来る。そして、その者こそが、この書を引き継ぐに相応しい、次代の解呪魔法の使い手となるだろうとな……。ノリリア、貴様はまだ若い。見たところ、まだまだ磨く余地のある才能を内に秘めている。ギルドの副団長などという堅苦しい場所に留まる事なく、世界を旅して回るが良い。そしてその目で確かめるのだ、世界に存在する様々な呪いを……。それらを解く為の術を、貴様は今、手に入れたのだ。他でも無い自分自身の力でな。存分に活かすが良い。かつてのアーレイクのように」
プラティックの言葉に、ノリリアはポロリと涙を零し、口をへの字に曲げて、こくんと頷いた。
ノリリアの、情けなくも誇らしげな泣き顔を見て、俺も泣きそう……
良かったねノリリア!
大変な思いして、こんな所まで来て……
良かったねぇえっ!!
ほんとぉ~にっ、良かったねぇええっ!!!
「さて、貴様にはこれを渡そう」
「……んへ? ズビッ」
貰い泣きして鼻水を垂らしていた俺に対し、プラティックが何かを差し出してきた。
その手に握られているものは、なんだか何処かで見た事のあるような、真っ黒で綺麗な玉だ。
「ポ? それは……、地下へ向かう為の……??」
玉の正体が理解出来たらしいノリリアが、涙を拭いながらそう言った。
「如何にも。これは、ユディンが眠る地下へと向かう為の、昇降機の鍵である。これ無くば、ユディンの元へは辿り着けん。ユディンを解放するその時に、これが必要となろう。故にモッモよ、これを貴様に授ける」
プラティックから黒い玉を受け取って、繁々と眺める俺。
まだなんというか……、これから自分が成さねばならぬ事が、よく理解出来てません、はい。
えっと、結局……、あん?
「ポポ、つまり……。モッモちゃんはこの先、邪滅の書と自由の剣を持って世界を旅して、神代の悪霊の一柱であるクトゥルーを探し出し、倒す……。その後、再びこの塔へと戻ってきて、その宝玉を使い、地下へ向かって、そこに封印されている悪魔の子ユディンを解放し、魔界へと帰還させる……、という事ポね?」
……なるほど、そういう事なのね。
「如何にも。しかし……、もしかすると…………。いや! 如何にもそうである!!」
おいプラティック、今何か言おうとしてなかったかい?
言葉を飲み込んだように見えましたが??
まさかとは思うけど、何か重要な事を隠してはいないかね、んん???
「ポポゥ、大変ポね、モッモちゃん……」
ねぇノリリア、お願いだからさ、その哀れむような視線を俺に向けないでくれるかな。
めちゃくちゃ不安になるからさ。
「正直なところ、それを貴様に渡すべきか否か、少々悩んだが……。アーレイクが望んだ事だ。我は最後まで、彼の望んだ通りに事を進める事とした。そして、ここから先は貴様の自由だ。何をどうするかは、貴様の心に従って決断せよ」
透き通った水色の瞳で俺を真っ直ぐに見下ろして、プラティックはそう言った。
俺の心に従って、決断する……?
え、それでいいの??
だったら……、出来れば何もしたく無いんですけど……
恐ろしい力を持った旧世界の神とも、上級悪魔とも、金輪際関わりたく無いんですけど!
てかさ、ここまでいろいろ用意しておいてさ、導いておいてさ、最終的には俺の判断でいいってどういう事???
アーレイク先輩も、プラティックも、丸投げにも程があると思うんだけど!!
その辺、どうお考えなんでしょうねっ!!!
「ポポ、貴方様は、この後どうされるのですポ?」
ノリリアの問い掛けに、プラティックは頭上を仰ぎ見た。
板張りの天井には、一部天窓が設けられており、そこからは青い空が見えている。
まるで時が止まっているかのような、いつまでも変わる事のない、真っ青な快晴の空が。
「長い間……、本当に長い間、我は俗世より離れていた。友の願いを叶える為とはいえ、五百年を超える年月を、世界より隔絶されたこの場所で過ごした事は、リバイザデッドの名を継ぐ者としては失格であろうな。しかしながら、我には今しばらく猶予が残されているようだ。この体が老いて、死が迎えに来る事は、まだ先の出来事らしい……。ならば、リバイザデッドの名を継ぐ者として、再び世界に目を向けようと思う」
ふ~ん……、そうかね。
てか、この体が老いてって言うけどさ、あなたさっきのさっきまで、シワシワの小汚い老人でしたよ?
それを、何をどうしてそうなったのか知らんけど、自ら若返ったではありませんか。
老いて死が迎えにくる、なんて事が、今後本当にあるのですか??
「すると……、この塔から出るという事ポ?」
「如何にも。恐らくだが、世界はこれより大きな変革の時を迎えよう。我は、3代目リバイザデッドとして、それを見届け、次代へとその記憶を引き継がねばならぬ。それに、我がここに居た五百余年の間に、世界がどう変わったのかも、この目で見に行かねばなるまいて。レクサンガスの元に置いてきた倅の事も気になるでな」
ほう? 倅とな??
息子さんがいらっしゃるのですか、まぁまぁまぁ。
……仰った事の前半部分は流してもいいですか???
「ポポ、変革の時……。具体的に、何が起きるのポね? 先程の話だと、封印されているはずの旧世界の神々が、次々に復活するとか……、そういう事なのポ??」
俺が聞き流そうとしたところを、深刻な表情で掘り下げるノリリア。
「如何にも、その通りだ……。しかしながら、それもまたアーレイクの予知頼み故、確たるものではない。ただ彼は、五百余年の後、世界の平穏と安寧を打ち砕く、未曾有の危機が数多押し寄せると言っていた。それ即ち、神話時代に封印されし悪霊共が蘇り、世界は再び暗黒の時代へと突入する……、のではないかと、我は考えている」
あ~……、う~……、そんなの嫌だ。
「ポポゥ……。そして、その危機を救う為に、悪霊達に立ち向かって行くのが、モッモちゃんだと……?」
「如何にも」
……いやいや。
いやいやいやいや、そんなそんな。
無理に決まってんじゃん!?
俺にそんな事出来るように見えるっ!??
てか……、二人ともさ、話しながらこっち見て、絶対無理だわって顔するのやめてくんないっ!?!?
俺自身が一番よく分かってますからぁあぁぁあっ!!???
「……ま、案ずるでない。それは所詮、アーレイクの予知した未来の一つに過ぎん。当たるも八卦、当たらぬも八卦である」
ははははと、乾いた笑顔を見せるプラティック。
全然フォローになってませんよっ!?
「ポポ、それもそうポね。今のところ、故アーレイク・ピタラス大魔導の未来予知は、半分くらいしか当たってないポよ。こう言っちゃなんだポが……、アーレイク・ピタラス氏は、解呪魔法に関しては一流でも、未来予知に関しては半人前だったのかも知れないポ。だからモッモちゃん、あまり気負う必要は無いポよ」
こちらも、ポポポポと、気休めな笑い方をするノリリア。
くぅ~、他人事だと思ってぇえっ!!?
「そうだといいのだがな…………」
おいプラティック!
ぼそっと呟くなっ!!
もっと不安になるだろうがっ!!!
「いろいろと教えて頂き、ありがとうございましたポ。あたちはここを出たら一度、フーガに戻りますポね。プラティック・リバイザデッド様……、ここで出会えたのもきっと何かの縁ですポ。長き旅の途中でフーガにお立ち寄りの際は、魔導師ギルド白薔薇の騎士団に是非お越しくださいポ」
そう言って、ノリリアは恭しくお辞儀をした。
どうやらそろそろ、お別れの時間らしい。
まだいろいろと聞きたい事が……、いや、もういいや。
これ以上何か聞いても、不安が大きくなるだけだ。
何も聞かないぞっ!
「うむ、そうさせて貰おう。さて……。モッモよ、我もこれから世界を巡る旅に出る故、またいずれ何処かで出逢う事もあろう。その時までには、是が非でも、悪霊クトゥルーを滅し、ユディンを魔界へ帰還させておくがよいぞ」
ニヤリと笑うプラティック。
「う!? そっ!?? ぐっ!!?? ……ど、努力、します」
くっそぉ~……、最後の最後でプレッシャーかけてきやがってぇえ~……
無理だからねぇええぇぇぇっ!!!!
絶対、無理だからぁあぁああぁぁぁぁっ!!!!!
「では……。さらばだ! ノリリア・ポー!! モッモ!!!」
爽やかな笑顔と、ハツラツとした声でそう言って、プラティックはパチンッ! と指を鳴らした。
すると、プラティックの背後の何も無い空間に、光の渦が発生し、それが徐々に大きくなっていって、プラティックの体を飲み込んだ。
そして、瞬きをした次の瞬間にはもう、プラティックも光の渦も、消えて無くなっていた。
「ポポゥ、さすがはリバイザデッド……。最後まで本当に、凄い空間魔法ポね……」
感嘆の溜め息を漏らすノリリア。
「ほんとにね。くっ……、はぁあ~~~~~」
全然違った意味合いで、深い溜め息を吐く俺。
「ポポ、大丈夫ポよ、モッモちゃん。今ここには居ないポが……、あなたは一人じゃないポ。グレコちゃんにギンロちゃん、ティカちゃんにテッチャさん、それにカービィちゃんも、みんながモッモちゃんを助けてくれるポよ。あたちだって、できる事があれば手伝うポよ。だから、一人で全てを背負わなくていいポね~」
可愛らしく、にっこりと笑うノリリア。
夢を叶え、願いを叶え、求めていた物を手にした者の、なんと清々しい事よ……
ノリリアがそう言うなら、なんか大丈夫な気がしてきたな~。
安堵はしていないものの、考えたって分からないし、ビビっていたって始まらないので、とりあえず俺は頷いた。
そして、ノリリアに続いて、アーレイク・ピタラスが最期の時を過ごしたというこのシンプルな部屋を後にした。
「とにかく、戻って皆に報告するポよ♪ きっとビックリするポォ~?」
軽い足取りで、トントンと階段を降りていくノリリア。
俺は、プラティックから手渡された黒い宝玉を繁々と眺めながら、幾分か遅れて階段を降りていく。
しっかしなぁ……、俺に何をどうしろと? と、尚も悩みながら……
そして、先に階下に降りたノリリアが、封魔の塔内にある昇降機へと戻る為の、あの金の扉のドアノブに手をかけた……、次の瞬間!
「「「「「モッモ!!!!!」」」」」
「ヒャアッ!?!!?」
耳元で、大音量で名前を呼ばれて、俺は飛び上がった。
その声は、グレコ、ギンロ、カービィ、ティカ、テッチャの五人が、同時に絆の耳飾りを使って、俺に呼びかけてきた声だった。
何事かと驚く俺に、返事をする間も与えずに、緊迫した様子で五人は叫ぶ。
「大丈夫っ!?」
「逃げるのだっ!」
「ノリリアいっか!?」
「戦えっ!!」
「生きとるか!??」
なんだなんだ!?
みんなしてどうしたんだっ!!?
「えっ!? ちょっ!!? ……何っ!!??」
慌てて返事をする俺。
こちらを振り返り、訝しげに見るノリリア。
その手は、握り締めているドアノブを、ゆっくりと回し始めていて……
「そこにいるライラックは、偽物よ!」
「そこにいるライラックは、敵である!」
「そこにいるライラックは、偽物だ!」
「そこにいる獣人は、敵だ!」
「そこにいるライラック殿は、偽物じゃ!」
…………………はい?
みんなの声が聞こえると同時に、ノリリアの手によって、昇降機へと繋がる扉がゆっくりと開かれた。
そして、少し離れているものの、視力が抜群に良い俺の目は、向こう側に立っている者の姿をハッキリと捉えていた。
そこに立つのは、紫色の毛並みの、一見すると虎のような風貌の獣人。
だがしかし、彼は俺の知っている彼では無さそうだ。
此方を見て、ニッコリと微笑むその顔の、きらりと光る二つの瞳は、いつもと違って虹色に輝いていた。
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隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。
ガルフの苦難は続いていき。
武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。
馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。
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