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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
705:気を付けろ
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ガガガガガッ……、ガッシャンッ! ガゴンッ!!
鈍い音を立てて、昇降機が止まる。
ライラックが、ハンドルからゆっくり手を離す。
封魔の塔の最上階に当たる、第八階層。
そこに現れたのは、今まで見てきたものとは少し違う、小さな金の扉だった。
「ポポ、これは……、守護結界?」
扉を見つめて、ノリリアが呟く。
目の前の金の扉には、幾本もの光の糸が張り巡らされており、それは魔法陣のような不思議な模様を描き出していた。
『最上階! 最上階へ到着~!!』
リブロ・プラタが叫ぶ。
言われなくても分かってるってば……
「ポ、リブロ・プラタに問うポよ。この守護結界はどうすればいいのポ?」
ノリリアの問い掛けに、リブロ・プラタは宙をフワフワと飛びながら、その一つ目を細めた。
『貴様達は、七つの試練に打ち勝ち、塔の制覇者となった! 即ち、その結界を解くに相応しい者達である!! 我が解決策を教えずとも、その知恵と勇気で、打開してみせよ!!!』
……なんか難しい事言っちゃってるけど、要は自分らでなんとかしろって事よね?
毎度毎度の事だけど、案内役のくせに、ここに来るまでほとんど案内してねぇじゃねぇかっ!?
役に立つ気は無いのかこんにゃろめっ!!?
「ポポゥ、打開……。でも、魔法は使えないポね。となると……」
リブロ・プラタの言葉に、ノリリアはジーッと金の扉を見つめる。
そして、くるりと俺の方を振り返った。
「モッモちゃん! 出番ポ!!」
「なぬっ!?」
突然の要請に、俺は変な返事をしてしまう。
だけど、そんな事は全く気にも止めずに……
「闇の精霊を呼ぶポ! 結界を解いてもらうポよ!!」
「あ……、なるほどそういう事ねっ!」
封魔の塔の内部では、魔法は使えないが、精霊を呼ぶ事は可能なのだ。
闇の精霊ドゥンケルは、物体も結界も、何もかもを吸い込む技を使える。
だけども……
いや~、ここに来てあいつかよ~。
出来れば、あいつには会いたくないんだよな~。
毎回嫌味ったらしいし、陰気臭いし、怖いし……
しかし、他に方法が思い付かない以上、奴を呼ぶしか無い。
俺は、抑揚のない声でその名を呼んだ。
「イヤミー、出てきて~」
どんよりとした匂いの空気が辺りに漂い、ウネウネとする真っ黒な煙と共に奴は現れた。
闇の精霊ドゥンケルのイヤミーは、今日はいつも以上に不機嫌そうな顔で、俺を睨み付けている。
……てか、登場早々、召喚主を睨み付けるってどういう事さ?
毎度の事だけど、久しぶりだからか凄く不愉快だ。
お喋りで偉そうなゼコゼコもムカつくけど、無言で睨み付けてくるイヤミーもなかなかイラっとするよね。
だけど、イヤミーの存在自体がちょっぴり怖いので、その態度に関しては何も言えない俺。
『お呼びでしょうかぁ~、御主人様ぁ~?』
うっわ~、めちゃくちゃ棒読みじゃん。
俺も召喚する時棒読みだったけどさ、それより酷いぞ。
何? 仕返しなの??
心の中ではきっと、何の用だよクソ鼠!?とか、思ってるに違いない。
なんだろう、呼ぶタイミングが悪かったのだろうか。
何故にこんなに不機嫌なんだ???
イヤミーの黒い煙のような額には、薄らとだが青筋が走っている。
イライラしている時に浮かび上がるあれだ。
精霊のくせに……、血管があるのだろうか????
「あ~っとぉ~……、この、扉の結界を解いて下さい」
イヤミーの琴線に触れないようにと、恐縮しつつ、敬語で丁寧にお願いする俺。
そんな俺の様子を、眉間に皺を寄せて不思議そうに見つめるノリリア。
まぁ……、普通の精霊召喚師なら、使役する精霊に敬語など使わんのでしょう。
しかしながら俺は、精霊召喚のなんたるかも全く知らない、なんちゃって精霊召喚師なので、時には精霊様のご機嫌を伺う必要があるのです。
特にこのイヤミー様は、世にも恐ろしい(勝手な妄想です)闇の精霊なので、尚更でございます、はい。
『……ちっ』
舌打ちっ!?
舌打ちしたよね今っ!!?
『もたもたしやがってこの野郎……。思考も行動も亀並みに遅いな……。何度忠告しても危機感すら持てねぇとは……。こんな塔さっさと出て、早く先へ進みやがれってんだ……』
ぶつくさと文句を言いながら、片手を頭上に掲げるイヤミー。
その掌の上に、ボーリング球くらいの大きさの、赤と青の光を帯びた、禍々しい黒い球を出現させた。
黒い球はグルグルと渦巻きながら、その中央に歪な穴をポッカリと空けている。
それは闇の精霊であるイヤミーが作り出す事の出来る、亜空間へと繋がる入り口……
その名も、虚無の穴!
吸い込まれた数多の者達の阿鼻叫喚が、その穴の中から聞こえてくるような、聞こえてこないような……
『もう本当に、時間がねぇんだ……。こんな結界、お望み通りすぐさま消してやる!吸引!!』
ズゾゾゾゾォ~~~~~!!!
ギャアッ!?
始まったぁあっ!!?
イヤミーの手にある虚無の穴が、辺りのもの全てを吸い込もうと、グルグルと回転し始める。
その吸引力は半端じゃなく、俺は思わず柱の近くにいたライラックの元まで走り、その逞しい足にしがみついた。
身の危険を感じたらしいノリリアも、俺に習ってライラックの反対の足にしがみつく。
肝心のライラックは……、さすがは筋肉馬鹿! 微動だにせず仁王立ちし、事の行方を見守っている。
リブロ・プラタは、自ら天井近くまで高く浮かび上がって、吸引を免れていた。
ピリピリ……、バリッ! バリリリッ!!
ベリベリベリィッ!!!
鈍い破裂音を響かせながら、扉にかけられていた結界が引き剥がされる。
光を帯びたそれは散り散りとなって、虚無の穴の中へと一つ残らず吸い込まれていき……
後に残ったのは、金色に光り輝く扉だけだった。
イヤミーが掌をギュッと閉じると、虚無の穴はスッと消えた。
そして、いつもなら仕事が終わるとすぐ、何か悪態を残して姿を消すイヤミーが、何故だかこちらをジッと見て……
『気を付けろ』
と言った。
「え? ……あ、うん。わ……、分かった」
突然の事に戸惑った俺は、何が何だか分かってないが、とりあえずそう返事をした。
イヤミーは、ユラユラと体を左右に揺らしながら、周りの景色に同化するように、静かにその場から姿を消した。
鈍い音を立てて、昇降機が止まる。
ライラックが、ハンドルからゆっくり手を離す。
封魔の塔の最上階に当たる、第八階層。
そこに現れたのは、今まで見てきたものとは少し違う、小さな金の扉だった。
「ポポ、これは……、守護結界?」
扉を見つめて、ノリリアが呟く。
目の前の金の扉には、幾本もの光の糸が張り巡らされており、それは魔法陣のような不思議な模様を描き出していた。
『最上階! 最上階へ到着~!!』
リブロ・プラタが叫ぶ。
言われなくても分かってるってば……
「ポ、リブロ・プラタに問うポよ。この守護結界はどうすればいいのポ?」
ノリリアの問い掛けに、リブロ・プラタは宙をフワフワと飛びながら、その一つ目を細めた。
『貴様達は、七つの試練に打ち勝ち、塔の制覇者となった! 即ち、その結界を解くに相応しい者達である!! 我が解決策を教えずとも、その知恵と勇気で、打開してみせよ!!!』
……なんか難しい事言っちゃってるけど、要は自分らでなんとかしろって事よね?
毎度毎度の事だけど、案内役のくせに、ここに来るまでほとんど案内してねぇじゃねぇかっ!?
役に立つ気は無いのかこんにゃろめっ!!?
「ポポゥ、打開……。でも、魔法は使えないポね。となると……」
リブロ・プラタの言葉に、ノリリアはジーッと金の扉を見つめる。
そして、くるりと俺の方を振り返った。
「モッモちゃん! 出番ポ!!」
「なぬっ!?」
突然の要請に、俺は変な返事をしてしまう。
だけど、そんな事は全く気にも止めずに……
「闇の精霊を呼ぶポ! 結界を解いてもらうポよ!!」
「あ……、なるほどそういう事ねっ!」
封魔の塔の内部では、魔法は使えないが、精霊を呼ぶ事は可能なのだ。
闇の精霊ドゥンケルは、物体も結界も、何もかもを吸い込む技を使える。
だけども……
いや~、ここに来てあいつかよ~。
出来れば、あいつには会いたくないんだよな~。
毎回嫌味ったらしいし、陰気臭いし、怖いし……
しかし、他に方法が思い付かない以上、奴を呼ぶしか無い。
俺は、抑揚のない声でその名を呼んだ。
「イヤミー、出てきて~」
どんよりとした匂いの空気が辺りに漂い、ウネウネとする真っ黒な煙と共に奴は現れた。
闇の精霊ドゥンケルのイヤミーは、今日はいつも以上に不機嫌そうな顔で、俺を睨み付けている。
……てか、登場早々、召喚主を睨み付けるってどういう事さ?
毎度の事だけど、久しぶりだからか凄く不愉快だ。
お喋りで偉そうなゼコゼコもムカつくけど、無言で睨み付けてくるイヤミーもなかなかイラっとするよね。
だけど、イヤミーの存在自体がちょっぴり怖いので、その態度に関しては何も言えない俺。
『お呼びでしょうかぁ~、御主人様ぁ~?』
うっわ~、めちゃくちゃ棒読みじゃん。
俺も召喚する時棒読みだったけどさ、それより酷いぞ。
何? 仕返しなの??
心の中ではきっと、何の用だよクソ鼠!?とか、思ってるに違いない。
なんだろう、呼ぶタイミングが悪かったのだろうか。
何故にこんなに不機嫌なんだ???
イヤミーの黒い煙のような額には、薄らとだが青筋が走っている。
イライラしている時に浮かび上がるあれだ。
精霊のくせに……、血管があるのだろうか????
「あ~っとぉ~……、この、扉の結界を解いて下さい」
イヤミーの琴線に触れないようにと、恐縮しつつ、敬語で丁寧にお願いする俺。
そんな俺の様子を、眉間に皺を寄せて不思議そうに見つめるノリリア。
まぁ……、普通の精霊召喚師なら、使役する精霊に敬語など使わんのでしょう。
しかしながら俺は、精霊召喚のなんたるかも全く知らない、なんちゃって精霊召喚師なので、時には精霊様のご機嫌を伺う必要があるのです。
特にこのイヤミー様は、世にも恐ろしい(勝手な妄想です)闇の精霊なので、尚更でございます、はい。
『……ちっ』
舌打ちっ!?
舌打ちしたよね今っ!!?
『もたもたしやがってこの野郎……。思考も行動も亀並みに遅いな……。何度忠告しても危機感すら持てねぇとは……。こんな塔さっさと出て、早く先へ進みやがれってんだ……』
ぶつくさと文句を言いながら、片手を頭上に掲げるイヤミー。
その掌の上に、ボーリング球くらいの大きさの、赤と青の光を帯びた、禍々しい黒い球を出現させた。
黒い球はグルグルと渦巻きながら、その中央に歪な穴をポッカリと空けている。
それは闇の精霊であるイヤミーが作り出す事の出来る、亜空間へと繋がる入り口……
その名も、虚無の穴!
吸い込まれた数多の者達の阿鼻叫喚が、その穴の中から聞こえてくるような、聞こえてこないような……
『もう本当に、時間がねぇんだ……。こんな結界、お望み通りすぐさま消してやる!吸引!!』
ズゾゾゾゾォ~~~~~!!!
ギャアッ!?
始まったぁあっ!!?
イヤミーの手にある虚無の穴が、辺りのもの全てを吸い込もうと、グルグルと回転し始める。
その吸引力は半端じゃなく、俺は思わず柱の近くにいたライラックの元まで走り、その逞しい足にしがみついた。
身の危険を感じたらしいノリリアも、俺に習ってライラックの反対の足にしがみつく。
肝心のライラックは……、さすがは筋肉馬鹿! 微動だにせず仁王立ちし、事の行方を見守っている。
リブロ・プラタは、自ら天井近くまで高く浮かび上がって、吸引を免れていた。
ピリピリ……、バリッ! バリリリッ!!
ベリベリベリィッ!!!
鈍い破裂音を響かせながら、扉にかけられていた結界が引き剥がされる。
光を帯びたそれは散り散りとなって、虚無の穴の中へと一つ残らず吸い込まれていき……
後に残ったのは、金色に光り輝く扉だけだった。
イヤミーが掌をギュッと閉じると、虚無の穴はスッと消えた。
そして、いつもなら仕事が終わるとすぐ、何か悪態を残して姿を消すイヤミーが、何故だかこちらをジッと見て……
『気を付けろ』
と言った。
「え? ……あ、うん。わ……、分かった」
突然の事に戸惑った俺は、何が何だか分かってないが、とりあえずそう返事をした。
イヤミーは、ユラユラと体を左右に揺らしながら、周りの景色に同化するように、静かにその場から姿を消した。
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