最弱種族に異世界転生!?小さなモッモの大冒険♪ 〜可愛さしか取り柄が無いけれど、故郷の村を救う為、世界を巡る旅に出ます!〜

玉美-tamami-

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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

700:ボケーッと

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「み……、みつ……、見つからんっ!!!」

 俺は、草原の上に豪快に倒れ込んだ。
 草についていた朝露が宙を待って、倒れた俺の顔にパラパラと落ちてくる。
 空は白んでいて、もうすぐそこに夜明けが迫っていた。

 俺は一晩中、フェニックスの一部を探し続けた。
 村のあちこちを走り回って、炎という炎全てを確認した。
 広場の焚き火の炎、畑にある松明の炎、家々の外灯である小さなランプの炎などなど……
 しかしながら、どれもこれといった特別感はなく、フェニックスの一部とは考え辛いものばかりだった。
 その証拠に、それらの炎に近付いても、熱いのを我慢してそっと触れてみても、何も起きなかったのだ。
 仕方なく俺は村を出て、周辺の森の中を手当たり次第彷徨ってみたのだが……
 結局、何も見つからなかった。

 くっそぉ~、ヤバいぞこりゃ!
 何処にあるのか皆目検討もつかんっ!!
 そして、もはや何を探しているのかすら、怪しくなってきたぞ!!!

 そもそも、フェニックスの一部ってなんぞっ!?
 炎を探せって言ってたけど、全部違ったじゃん!??
 いったい何が、何処にあるのさっ!?!?

 東の空が明るくなってきた。
 太陽が登り始めたのだ。
 
「思ったよりもマズイ状況ジェ~」

 ポケットの中から、紫ウンコゴラの声が聞こえる。

「マズイも何も、もうどうしたらいいのか分かんないよぅ」

 力無くそう言った俺は、草原に大の字で寝転んだまま動けずにいる。
 
 本当の俺の体は今、あの空の神殿の樹の下にある、見るからに硬そうな石の寝台の上で眠っているはず。
 だから間違いなく、ここは俺の夢の中なのだ。
 それだというのに、この疲労感……
 一晩中あちこち駆けずり回っていたせいで、体が物凄く疲れているのだ。
 加えて目がシパシパするし、眠気が半端ない。
 
「夢の中で寝るって、どうなんだ……?」

 俺はポツリと呟いて、そっと目を閉じた。

「ジェッ!? モッモ!!? 寝ちゃ駄目だジェッ!!?? モッモーーーーー!!!!!」

 マンドラゴラ特有の、耳障りなゴラの甲高い雄叫びが聞こえたものの、疲れ切った俺の瞼は開きそうにない。
 俺はそのまま、夢の中の夢へと落ちていった。







「いい加減にぃ~……、起きろジェーーーッ!!!」

 プスッ!

「痛ぁあぁぁぁっ!?!?」

 小さな針で突き刺されたかのような痛みを太腿に感じ、俺は飛び起きた。
 辺りはとても明るくて、真上から太陽の光が燦々と降り注いでいる。

「やっと起きたジェッ!? モッモ! 寝てる場合じゃないジェッ!! 早く探せジェッ!!!」

 ズボンのポケットの中から急き立てる、紫ウンコゴラ。
 どうやら随分と眠ってしまっていたらしい。
 太陽の位置からして、時刻は恐らく正午を回っているだろう。
 急がないとヤバいぞっ!?

 俺は立ち上がり、周囲にキョロキョロと視線を巡らせる。
 
 急がないとヤバい!
 急がないとヤバいのにっ!!
 どっちに行けばいいんだぁっ!!?

「右は村、左は森……。うぅ~!? どっちだぁあっ!!?」

「闇雲に探しても時間の無駄だジェ! モッモの夢幻世界がここである理由がきっとあるのジェ!! それを考えるんだジェ!!!」

 俺はポケットに手を突っ込んで、紫ウンコゴラを取り出す。

 いつ見ても、どっからどう見ても、ウンコだなおいっ!?

「ここである理由? そ、そんなの……、そんなの分かんないよっ! なんでここなのっ!?」

「ゴラに聞くなジェっ!!!!」

 くぅうぅぅ~~~っ!?
 ゴラのやつ、偉そうなのに肝心な所は俺任せかよぉっ!??
 何をどう考えろってんだぁあっ!?!?

 と、その時、俺はふと気付いた。

「あれ? この場所って……??」

 ぐるりと周囲を見渡して、この草原が何処なのか、ようやく気付く俺。
 
「ここは、ガディスの家だ」

 そう、ここは、長年に渡ってピグモルを見守ってきた、テトーンの樹の村の守護神、フェンリルのガディスの棲家なのだ。
 以前はもっと離れた西の森に暮らしていたが、ピグモルをもっと近くで見守る為(ピグモルと仲良くしたいだけかも知れないけど……)、近くに引っ越してきたのだった。

 しかし今、ここにガディスはいない。
 いないというか、居た形跡すらないのだ。
 つまり、この夢の中で、ガディスはここに住んでいない……

「ガディスが住んでいない……。そして、昨日は僕の誕生日だった……。となると、この世界は、僕が旅に出る前のピグモルの村、なのかな……?」

 でも、村の様子は俺が旅立ってからの、テッチャが発展を促してくれた後のものだった。
 井戸があったし、広場や畑の整備も進んでいた。
 だけど、よくよく考えてみると、旅先で出会って諸々の理由からこのテトーンの樹の村に招いた、ポポやダッチュ族の子供達、青いトカゲのバーバー族達の姿は、誰一人として、何処にも見当たらなかった。
 これが意味する事とは、いったい……?

「きっとこの世界は、モッモの都合の良いように形成されてるジェ。モッモが暮らしやすいように……、夢に囚われ、全てを忘れて、ボケーッとしやすいようにジェ」

 ……おいゴラ、ボケーッととか言うなよ。
 本当にそうなりかけていただけあって、笑えねぇわっ!
 でも、そうなるとだなぁ……

「この世界は、僕をボケーッとさせる事が目的なわけ?」

「たぶんそうジェ。だって、三日間ここでボケーッとしてると、試練に敗れるジェ?」

「なるほど。じゃあ……、逆に考えると、ボケーッと出来ない何かを、探せばいいんじゃないのかな?」

「ジェジェ、そうかも知れないジェ……。モッモがボケーッと出来ない何かが、フェニックスの一部なのかも知れないジェ!」

「ふむ……。でもさ、じゃあなんで、リブロ・プラタは炎を探せって言ったの?」

「知らないジェ! ゴラに聞くなジェ!! それに、あいつは好かんジェ。たかだか紙束のくせに偉そうに……、ムカつくジェッ!!!」

 紙束って……、まぁあってはいるけどさ。
 ゴラ、今の自分の姿、分かって言ってるのかな?
 あんた今、ウンコだよ??

「確かに、あいつはムカつく奴だね、なんとなくだけど……。でも、今はそんな事より、探さないと! 僕がボケーッと出来ない何か、かぁ……」

「畑仕事とかジェ?」

「だとしても、昨日畑仕事用の資材置き場に行った時は、何も無かったよ?」

「ジェジェ、じゃあ違うジェ」

 ボケーッと出来ない何か……?
 しかも、燃えてるもの……??
 駄目だ、全然思い付かない。

「この村がモッモにとって、ボケーッと出来る場所だとすると、この村から出ればいいジェ?」

「村から出る? ……いや、もうほとんど出てるよ。旅に出る前だったら、近場とはいえ、こんな場所まで一人で来なかったもん」

「ジェジェ、そうかジェ……。何か、他に考えられる事はぁ……?」

 ゴラはそこまで言うと、黙ってしまった。
 掌の上のゴラを、ジーッと見つめる俺。
 そして、ふと気付いた。

「ん? あれ?? ここが旅立つ前のテトーンの樹の村なら、ゴラと出会う前だよね。なのに……、なんで居るの???」

「そんなの、理由なんてゴラが知るわけ無いジェッ! ここは夢の中ジェ、どうせモッモの都合の良いように作られているのジェッ!!」

 プリプリと怒っているような口ぶりだが、いかんせん見た目がウンコなので、感情が読み取り辛い。

「それに、そんな事言うんなら、旅立ってから手に入れたはずの他の物も、そのままモッモにくっ付いてるジェ!?」

「旅立ってから手に入れたって……、あっ!? ほんとだ!!? 望みの羅針盤も、隠れ身のマントも、導きの腕輪もある!!!? 今の今まで気付かなかったよ……、って……、ん? お??」

 そこで俺は、ようやく気付いたのである。
 いつもそこにあるはずの物が、失くなっている事に。

「万呪の枝が、ない……???」

 そう、まるで短剣のようにして、いつも腰のベルトに引っ掛けている万呪の枝が、いつの間にか無くなっているではないか。
 取り出した記憶は無いし、何処かに置いた覚えもない。
 いったい、何処へ……?

「ジェッ!? もしかして、それジェッ!??」

「え? ……えっ!? 万呪の枝が、フェニックスの一部!?? そんなまさかっ!?!?」

 あんな、何の変哲も無い木の棒がっ!?
 ま、まぁ……、どんな相手にも呪いをかけられる優れ物ではあるけども……
 けど、仮にあれがそうだとしたら、炎なんて絶対無理じゃねっ!??
 木だから、燃えるんじゃねっ!?!?

「だけど、他の装備はそのままなのに、あの棒切れだけ無くなってるのは変ジェ!? あの棒切れは、ゴラと出会った時には既に、モッモは手にしていたジェ!?? 何処で手に入れたのジェ!?!?」

 ゴラに問われて、俺は記憶を遡り……

「何処って、あれは長老から託されて……、はっ!?!!?」

 そう、万呪の枝は、ここテトーンの樹の村最高齢の長老より、旅立つ前日に託された物。
 なんでも、ピグモルの奴隷迫害の歴史を断ち切った、「自由の剣」なんていう大層な名前がついた木の棒である。
 そして、万呪の枝を手にしたその次の日から、俺のボケーッと出来る日常は崩れ去り、過酷な旅へと出る羽目になったのだ。
 つまり……

「フェニックスの一部はきっと、万呪の枝だぁっ!!!!!」

「ジェジェジェッ!? ほんとジェッ!??」

 俺は急いで紫ウンコゴラをポケットに戻し、テトーンの樹の村の方角へと、全速力で走って行った。
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