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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

697:誕生日パーティー

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「モッモ……、モッモや、朝だよ」

「んぁあ~???」

 優しい声に、俺は瞼を開く。
 薄暗い天井と、懐かしい匂い。
 そして、傍にいるのは、見覚えのある丸いフォルム……

「え? か、母ちゃん?? ……あれ??? なんで????」

 そこには母ちゃんが立っていた。
 訳が分からず、慌てて身を起こす俺。
 キョロキョロと周りを見渡して、現状を把握する。

 ここは……、間違いなく、俺の部屋だ。
 故郷であるテトーンの樹の村の、樹上に設けたツリーハウスの一室、ごちゃごちゃと色んなものが雑多に詰め込まれた、狭くて居心地の良い俺の部屋。
 その部屋の壁際にある、使い古して体にジャストフィットするベッドの上に、俺はいた。

「この子ったら、何寝ぼけてんだい? 早く起きて支度をしな」

 母ちゃんはそう言って、小窓にかかっているカーテンを開けた。
 眩しい太陽の光が射し込んできて、俺は思わず目を細める。

「支度? 支度って……、なんの??」

「あははは、決まってるだろう!? あんた達の誕生パーティーのだよ! コッコ、モッモ、トットの三人が生まれて、今日でちょうど15年目!! 今日からあんた達は大人の仲間入りだよ!!!」

 満面の笑みで、母ちゃんはそう言った。

 誕生日パーティー?
 え、それって……、あれ??

 起きたばかりでまだ覚醒していない頭の中が、グルグルと回り始める。
 なんだか心の中に、モヤモヤした感覚があるのだ。
 しかしながら、母ちゃんは待ってはくれず……

「さぁさっ! パーティーの前に顔洗っといで!! 主役がそんなんじゃ盛り上がらないよっ!!!」
 
 半ば放り出されるように、俺は自室を後にした。

 母ちゃんに言われるまま、顔を洗おうと家を出て、階段を下って樹から降り、近くの小川まで歩く俺。
 すると、小川に行くまでの道すがら、何匹もの顔見知りのピグモル達が、俺に声を掛けてきた。

「おはようモッモ! ようやくお目覚めかいっ!?」

「モッモ、お誕生日おめでとうっ!!」

「モッモも今日から大人だね!!!」

「モッモの為にクッキーを焼いたよ~♪ 後で食べてね♪」

「今日は盛り上がるよぉっ!!!」

「モッモ! ばんざーーーいっ!!」

 皆、笑顔で俺を祝福してくれる。

 そっか……、俺、今日で15歳なんだ。
 ピグモルは15歳で成人する。
 人じゃ無いから、成人っていうのは変だけど……、つまり、大人だ。

 でも、何だろうな……?
 何か、大事な事を忘れているような……??

 なんだか釈然としないままに、小川に辿り着いた俺は、静かに流れる清らかな水を手ですくい上げ、顔をパシャパシャと洗った。
 すると、モヤモヤしていた気持ちが、幾分かスッキリしたように感じた。
 
 正直、記憶が曖昧で、ハッキリしないけど……
 でも、今日から俺は大人なのだ!
 これまで以上に、村を発展させる為、頑張って働かないと!!

 朝靄の中、群生するテトーンの樹の隙間から、朝日が差し込んでいる。
 テトーンの樹特有の、スンとした匂いが鼻腔をかすめる。
 空は快晴、気候は爽やかで……
 今日も穏やかな一日になりそうだなと、俺は思った。
 





「モッモ! モッモ!! モッモ!!!」

「モッモを讃えよぉ~!」

「モッモ! モッモ!! モッモ!!!」

「モッモを崇めよぉ~!!」

「モッモ! モッモ!! モッモ!!!」

「神の子モッモに祝福をぉ~!!!」

「モッモーーーーーー!!!!」

 ……いや、全然穏やかじゃねぇなこりゃ。

 真昼間から始まったドンチャン騒ぎ!
 村の中央にある広場には、村中のピグモル達が集まって、飲めや歌えやでハッチャメチャッ!!
 大量に積まれた山の様な料理と、沢山のお酒。
 酒を煽り、食べて、騒いで、また酒を煽って、また食べて、踊って……

「モッモーーーーーーーーーー!!!!!」

 ……いや、うっせぇえわっ!!!

「コッコ、モッモ、トットの誕生日パーティー♪」で、史上最高に盛り上がるピグモル達。
 モッモコールの前は、コッココールがなされて、次は恐らくトットコールだろう。

「トット! トット!! トット!!!」

 ほらやっぱり、始まったよ……
 こういう時は決まって、必ずグレコも騒ぎ出すんだよな~。
 楽しいのが好きなのはいいけどさ、程々にしないと酔い潰れるぞ?

 楽しそうなピグモル達を前に、やれやれといった様子で、俺はそう思った。
 が、しかし……

「ん? グレコって……、誰だっけ??」

 ふと心に浮かんだ名前だったが、それが誰なのか思い出せない。
 確か、可愛くて、でもちょっと怖くて……、凄く頼りになる女の子だったような気がするが……
 んん~? 前世の記憶だろうか??

「モッモ! 僕らも踊ろう!!」

「あ……、うん!!!」

 コッコとトットに手を引かれ、踊り狂うピグモル達の輪の中心に入る俺達三人。
 
「ひゃっふ~! 今日から大人だぁっ!!」

「イェーーーイ!!!」

 テンション上げ上げのコッコとトット。
 俺も負けじと、お尻をフリフリして踊ってみる。
 そしたら……

「なんだその踊り!? おまい、踊りのセンスねぇぞっ!!? おいら様のラブリーダンスを見よっ!!!」

 えっ!?!?

 見知らぬ誰かの声が聞こえた気がして、俺は動きを止めた。
 辺りを見回してみるものの、そこにいるのは顔見知りのピグモル達ばかり。

 さっきの声は……?
 そういや、ずっと前に、誰かと一緒にドンチャン騒ぎの中で踊った様な気が……??

「モッモ~!」

 すると今度は、幼なじみのロアラとソアラの二人組が、少し離れた場所から手を振っているのが見えた。

「新作の料理が出来たの! 食べてみて!!」

 そう言って、木の皿に盛られた何かをこちらに見せている。

「あ……、うん! 今行く!!」

 そう返事をして、歩き出そうとした時……

「甘味であると良いな」

 んんっ!?!?

 低くて渋い口調の誰かの声が聞こえた気がして、俺は立ち止まった。
 再度辺りを見回してみるものの、やっぱりそこにいるのは顔見知りのピグモル達ばかりだ。
 
 俺は……、俺も、甘い物は好きだけど……
 もっと大好物な奴が、他にいたような……?
 
 なんだか不思議なモヤモヤした感覚に襲われて、俺は頭をポリポリと掻きながら、みんなの輪からそっと離れた。






 静かな小川へと戻ってきた俺は、ふと水面を見やる。
 そこに映るのは、いつもの俺。
 身体中が艶のある黄土色の毛に覆われた、クリクリお目目の、可愛らしい顔をした鼠型獣人、ピグモルの俺だ。
 ただ一点、いつもと違うところが……

 ん? なんだこれ??

 いつ付けたのか分からない、青い宝石の様な装飾がついた耳飾りを一つ、身に付けているのだ。
 しかも、触っても取れそうに無い。
 というか、取っちゃいけない気がするのだ。
 これは、とてもとても大事な何か……、だったような気がする。
 
 なんだろう? どうしたんだろう俺??
 疲れてるのかなぁ……???

 穏やかなせせらぎと、吹き抜ける風の音を聞きながら、俺は一人、ぼんやりと時を過ごしていた。
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