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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

678:ちょっと休憩しましょう!

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「おうおうおうっ! しけた面してちゃ先には進めねぇぞっ!? 試練に敗れたからって死ぬわけじゃねぇんだ。もっと楽しく行こうっ!! ほいっ!!!」

 パンパンッ! と手を叩いてそう言ったのはカービィだ。
 その表情はいつになくにこやかで、緩くて、ヘラヘラしてて……、緊張の「き」の字も無い顔だった。

 なんだなんだ、まるでどこぞの運動系クラブのキャプテンみたいな物言いだな。
 今日は練習試合なんだから楽しくやろう! 的なさ。
 まぁカービィの言う通り、試練に敗れたとしても、塔の外に弾き出されるだけで、死ぬ事は無いわけだし……
 
 そうは言っても、インディゴが脱落してしまったせいで、ノリリア達騎士団メンバーは、かなりテンションが下がっているようだ。
 みんな俯き加減で、視線が下がっている。
 かく言う俺も、インディゴが拉致される現場を見ていながら、何も出来なかった自分が情けなく、ちょっぴり気分がネガティブになっていて……

「はぁ……」

 思わず溜息が出てしまった。
 すると、隣に立っていたグレコが……

「ちょっと休憩しましょう!」

 両手を腰に当てた偉そうなポーズで、突然そう言った。

「きゅ……、休憩、ポ?」

 目をパチクリさせるノリリア。

「おぉ! いいなそれ!! おいら賛成~♪」

 ノリノリで挙手するカービィ。

「我も賛成だ。甘味が食べたい」

 めちゃくちゃ個人的な理由で、同じく挙手するギンロ。

「そうね、私も何か食べたいわ! お腹が空いちゃった!!」

 腹ペコグレコ。

「しかし……、休憩なんて、そんな……。塔の攻略の真っ最中だというのに?」

 そう言ったのはパロット学士だ。
 三人の、余りにマイペースな発言に唖然としている。

「硬いこと言うなって! 急がば休めだ!!」

 えっと……、カービィ? 
 それは、急がば回れでは??

「でも……、ここで休憩して、いいのかい?」

 マシコットはそう言って、チラリと横目でリブロ・プラタを見る。
 相も変わらずフワフワと宙に浮いているリブロ・プラタは、その一つ目を細めて……

『我はこの塔の番人、兼案内役であるからして、その役目は貴様ら挑戦者を試練に導く事である! よって、その事に支障がない限りは、貴様らの行動は自由だ!!』

 どうやら、休憩を取る事に問題は無いらしい。

「ノリリア、まだ先は長い。少し休憩して、次に備えるのも良いと思うが……」

 珍しく、ロビンズがこちらの意見に賛同してくれた。
 さすがは白魔導師、休む事の大切さを知ってるってわけか。

 しかしながら、ノリリアとパロット学士はまだ迷っているようで、なかなかうんとは頷いてくれない。

 まぁ、普通そうだよね。
 だって、ノリリア達にとって、この塔の攻略はクエストの遂行……、つまりお仕事なのだ。
 お仕事中だというのに、のんびり休憩なんて、なかなか出来ないよね~。

 ……なんて、思っていた俺だったが。

 キュウゥゥ~~~

「はっ!?!!?」

 俺のポヨンポヨンのお腹から、小動物の鳴き声のような、可愛らしい音が鳴ったではないか。
 腹が減った時に鳴る、例のあれである。
 一斉に、みんなの視線が俺に集まってしまう。

 キャア~~~!?
 は、恥ずかしいぃ~~~!!!

 すると、それまで不安気な表情だったノリリアが、ふっと笑って……

「分かったポ。みんな、少し休憩するポよ」

 少し肩の力が抜けたかの様に、そう言った。

「それじゃあこれを……、ここにお座りくだせぇ」

 背負っていた荷物から、お洒落な柄の敷物を取り出して床に敷くライラック。
 見た目に反して女子力高いな。

「よぉ~っし! 休憩~!!」

 いの一番にそう言って、敷物の上に腰を下ろすカービィ。
 グレコとギンロ、俺、ノリリア達がその後に続く。
 巨大昇降機の中で俺たちは、お洒落な敷物を敷いて、その上に小さな円を描いて座り込み、さながらピクニックのような状態で、しばし休憩する事にした。

「モッモ~、なんか食いもんねぇか? 腹が減ったぞ~」

 当たり前のように、俺に食べ物をねだるカービィ。

「あ、じゃあ……、なんか出すね」

 鞄の中をゴソゴソと漁る俺。

「ダーラ殿手製のスイーツはないか?」

 マイペースを通り越して我儘なギンロ。

「そういやお昼ご飯がまだだったものね。お茶も飲みたいわ。あ……、けど、ここじゃさすがに火が焚けないかしら?」

 周囲を見渡すグレコ。
 こんな密閉された空間で火なんて焚いたら、一酸化炭素中毒であの世行きですよ?

「お湯なら僕が用意するよ。モッモくん、ポットに水を入れたら貸してくれ」

 手袋を外して、燃える手を露にするマシコット。
 ありがとう、便利ですね。

「僕の故郷のテトーンの木の村で作った紅茶と、小魚の干物と、味付け干し肉と……。あ、ダーラのマフィンがあるよ、良かったねギンロ」

 お茶のポットと茶葉、人数分の食事と食器などを取り出す俺。 

「食料ならこっちにもあるでさ。みんなで食べやしょう」

 ライラックも、背負っていた荷物から、パンやら果物やら、いろいろと出してくれた。

 さぁ、楽しいピクニックの始まり始まり~♪
 ……景色は全く良くないけどね。
  
 すると、隣に座っていたカービィが、服の内ポケットから懐中時計を取り出して……

「なぁノリリア、今何時だ?」

 ノリリアに問うた。

「ポポ、それが……。あたちの時計、壊れちゃったみたいポ」

 カービィの物とよく似た懐中時計を取り出して、こちらに見せるノリリア。
 カチカチと音を立てるそれは、秒針は変わらず進んでいるようだが、長針と短針が思わぬところで止まっている。
 二つの針が示す時刻は、8時15分だった。

 ふむ、確かに壊れているようだ。
 俺達が墓塔に入ったのは午前7時くらいだったはず。
 そこから第一の試練、第二の試練、第三の試練とやっていって……、第一の試練はさほど時間がかからなかったものの、第二と第三の試練はそれぞれ少なくとも三時間ずつくらいかかっているはずだ。
 即ち、半日は時間が経っているのである。
 現在の時刻は、遅くとも午後の3時を回っていなければならないし……、夜の8時を指しているのだとしたら、時間の経過が早過ぎる。

「なっはっはっ! そいつは奇遇だな!! 見ろ、おいらのも同じ時間だ!!!」

 え???

 カービィはそう言って、俺たちに自分の懐中時計を見せた。
 懐中時計の針は、ノリリアのそれと同じく、8時15分だ。
 あ……、今、8時16分になりました。

「どういう事ポ? 全く同じように、壊れている……??」

「いんや、こりゃ壊れたわけじゃねぇだろうな」

「壊れてない? ……どういう事ポ??」

 困惑する俺達を他所に、カービィは絆の耳飾りに手を当てる。

「もしも~し! こちらカービィ、こちらカービィ!! テッチャ隊員、応答せよ!!!」

 げっ!?
 何故今、隊員ごっこを始めるんだ!??

 突然に、塔の外にいるテッチャに向かって、絆の耳飾りで交信を試みるカービィ。
 怪訝な顔でカービィを見つめる俺達。
(マシコットはメラメラ燃える手で水の入ったポットを温めながら、ライラックは小さなナイフで果物の皮を剥きながら……)

「おうテッチャ! そっちにインディゴいるか!?」

 なっ!? 
 いきなり、インディゴの名前を出すんじゃないよ!
 あっ、ほら見てっ!!
 ノリリアの眉間に皺がっ!!!

「そっか! 無事で良かった!!」

 お? インディゴ無事なのか!?
 それはそれで良かったな。
 あ……、ノリリアもホッとしてる。

「ほんでさ、インディゴに聞いてくれねぇか。今の時間って何時だ?」

 ん? なんだよカービィの奴、そんなに時間が知りたいのか??
 まぁ懐中時計が壊れてちゃ、時間の知りようがないしな、うん。

「あ~、やっぱそうか~。うん……、分かった! ありがとな~!!」

 カービィはそう言って、テッチャとの交信を切った。
 そして……

「やっぱ壊れてねぇ! 今の時刻は、午前8時15分だっ!!」

 えっ!?
 ええぇっ!!?
 そうなのっ!?!?
 な……、なんでっ!!?!?

 俺も、ノリリアも、その他もみんな、訳が分からんといった表情で、カービィを見つめていた。
(もう8時16分になったけどね。え、そこ重要じゃない? そっか……)
 
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