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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

667:精霊裁判

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 さささっ!? 裁判っ!!?
 何それどういう事っ!?!?

 頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされた俺は、余りに理解不能な現状に、目を見開いたまま立ち尽くす事しか出来ない。

『被告人モッモ! 貴様は我らが皇王バルン・サラマンダーを物質界に召喚し、俗に旧世界の神と称される異形の異界神と対峙させた挙句、瀕死の傷を負わせた!! その罪により、本日、この精霊裁判にかけられたのだ!!! その罪状に異議は無いかっ!?』

 トンカチの様な物を机に叩きつけていた年老いた赤いトカゲが、ギョロリと鋭い視線を俺に向けて、そう言い放った。
 
 はっ!? えっ!?? なんっ!?!?
 ちょ、待って……、何が起きてるのっ!?!!?

『答えよっ! 被告人モッモ!!』

 ひっ!? 被告人てっ!!?
 お、俺が!!??

 何もかもが理解出来ず、オドオド、キョドキョドとする事しか出来ない俺。
 すると、周りを囲んでいる沢山の赤いトカゲ達が、俺に向かって野次を飛ばしてきて……

『答えろ罪人っ!』

『こんな奴、召喚師の風上にも置けねぇっ!!』

『極刑だぁあっ!!!』

 ひぃいぃぃ~っ!?
 な、なんなのぉおぉぉっ!!?
 何なのよいったいぃいいっ!!??

 痛烈な罵詈雑言をいくつもいくつも浴びせられて、俺は涙目になる。
 恐怖の余り、体はブルブル震え出すし、前歯はカタカタと鳴り始めるし、ちょっぴりちびっちゃうし……

『被告人モッモ! 答えるのだっ!! 弁明なくば、貴様は我ら全員の力でもって、今すぐここで、火炙りの刑に処する事になろうぞっ!? それでも良いのかっ!!?』

 火炙りぃいぃいっ!?
 そ、そそそ、そんなのっ!
 よっ、良くないに決まってるだろっ!!

「ぼっ!? うっ!?? しぇっ!!??」

 何か言わなくちゃと思えば思うほど、全く言葉が出てこない。
 心臓の鼓動が馬鹿みたいに速くなり、大量の汗が身体中から噴き出してきて……、そんな急激な体の変化に相反して、頭の中は時が止まったかの様にフリーズしている。
 あちこちで陽炎が立ち登るほどに熱されているこの場所は、とってもとっても暑いのに、心の中だけはヒンヤリと冷え切っていた。

 何が、どうなって、いるのでしょう……?

 もはや、何も理解出来ないし、為す術がない。
 見た感じ、ここは俺の知らない場所で、周りにいる赤いトカゲ達も(その正体に関しては大方の予想は付くものの)、誰一人として顔見知りでは無い。
 完全なるアウェー。
 そして向けられる、無数の、殺意にも似た憎悪。
 暑くて、煩くて、怖くて、どうしようもなくて……
 俺の目からは、自然と涙が零れ落ちていった。
 すると……

『ま~た、泣いてるうぉ?』

 すぐ後ろで、聞き覚えのある声が聞こえた。
 俺は、ズビッと鼻を啜りながら振り返る。
 そこにいるのは、小さな俺よりも更に小さい、赤いトカゲ。
 見覚えのある、優しげなつぶらな瞳が、俺を真っ直ぐに見つめている。

「うぅ……、ば、バルン~~~」

『あ~い。遅くなって、ごめんうぉ~』

 火の精霊サラマンダーのバルンは、そう言ってニカッと笑った。
 
『なっ!? バルン様!!? いつの間にっ!!??』

 バルンの登場に、周りを囲んでいる赤いトカゲ達がどよめく。
 皆一様に、先ほどまでの威圧的な態度ではなく、バツの悪そうな、それでいて怯えた様な表情で、こちらを見ている。

 バルンは、ザリザリと尻尾を引きずりながら、ゆっくりと歩き、俺の前に立って、顔を上に向け、周囲をぐるりと見渡した。

『だ~れがこんな事、しようって言ったうぉ?』

 バルンの言葉に、気温はめちゃくちゃ高いはずなのに、周りの空気が一瞬で凍りついた様に俺は感じた。
 赤いトカゲ達は皆揃って口をつぐみ、先ほどの俺のように身動きひとつ取れなくなって、その場で固まっている。

『第一大臣ドゥマ、お前の提案うぉ?』

 バルンは、先ほど俺に向かって「被告人!」と叫んでいた、トンカチを持っている年老いた赤いトカゲに対し、そう問いかけた。
 そいつは冷や汗をダラダラと流しながら、口を真一文字に結び、何も答えない。
 ……いや、きっと、答えられないのだ。
 その顔は、恐怖一色に染まっている。
 何故ならば、俺の前に進み出たバルンの体が、少しずつ、少しずつ、大きくなっていっているから。

『ここにいる全員……、分かっているうぉ? モッモは、時の神に選ばれし、世界に変革をもたらす使者。故にうおが、自ら使役する事を決めたのだ』

 体が大きくなるにつれて、バルンの全身を覆っている鱗はトゲトゲしくなり、尻尾の先にある炎は勢いを増して燃え上がって、背中からはバキバキと音を立てながら翼が生えていく。
 そして、バルンの声はドンドンと低く、渋くなり、その口調は厳かになっていって……

『それだというのに……。我が主を、このような場所に無断で転移させ、詰問する権利が誰にある? 否、主の召喚霊である我に断りもなく、この様な愚行を働くとは……、万死に値する』
 
 最終的にバルンの姿形は、いつぞやの戦いの時と全く同じ、さながらドラゴンの様なものになっていた。
 加えてその全身からは、真っ赤に燃える炎の様な、魔力のオーラによく似た何かが、バンバン放出されている。
 その後ろ姿からはひしひしと、バルンの激しい怒りが伝わってきた。
 
 ……いや、てか、万死に値するて!?
 バルン、あんたもなかなかに物騒な事仰ってますけど!!?
 いつもはヌボーンとしてるくせに、どうされたのっ!?!?
 てかあんた……、え、結構お偉いさんなわけっ!?!??

 またもや頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる俺。
 すると、次の瞬間。

『もももっ! 申し訳ありませんっ!! バルン様ぁあっ!!!』

 第一大臣と呼ばれた赤いトカゲが、手に持っていたトンカチを放り投げて、スライディング気味にその場で土下座をし、地面に額を擦り付けた。
 そして、それに倣うかのように……

『申し訳ありませんっ!』

『どうかお許しをっ!!』

『ご慈悲を!!! バルン様ぁあぁぁっ!!!!』

 俺を取り囲み、罵りまくってた周りの赤いトカゲ達は、口々にそんな事を叫びながら、一斉に土下座し始めたではないか。

『どうか、どうかお許しを! 我ら一同、心よりバルン様をお慕いしております!! それ故に、先日のお怪我は余りに痛々しく……。査問会を開き、その責任を持つべきは召喚師であり、その者に罪を償わせねばならぬと、皆の全会一致で決議致しまして!!!』

 第一大臣が、土下座をしたままの格好で、アセアセと説明するも……

『はぁ……。それが大いなる過誤であるという事に、何故誰も気付かぬ? 貴様らは勘違いしてるようだが、精霊契約における主権は、我らに有るのでは無い。召喚霊は、召喚主の命令に従い、その力の限り尽くす事が契約として結ばれている。これは、精霊界と物質界において結ばれた、正式なる契約にして絶対の約束である。それだというのに、たかだか数日眠れば治るような怪我如きでこのように大騒ぎし、召喚主にまでこの様な多大なる難儀をかけるとは……、恥晒しにも程がある。このような愚行が国外に漏れれば、他国に示しが付かぬではないか。よもや、そこまで気が回ってなかった、とでも言うまいな?? ドゥマよ、貴様……、それでも我がサラマンダー皇国の第一大臣か???』

 静かに……、だけど、ものすぅ~っごく相手に恐怖心を抱かせる喋り方で、バルンはそう言った。
 バルンの言葉は、赤いトカゲ達にとってかなり効果があったらしく、土下座をしたまま誰も頭を上げる事が出来ずにいる。
 第一大臣のドゥマも、まるでこの世の終わりかの様な絶望的な表情で、下を向いたまま黙ってしまった。

 俺はというと、バルンが来てくれてホッとしたのと、バルンの体が小さい時と大きい時とでのギャップが激し過ぎる様がなんだか面白くって、随分と余裕な表情でボーッと突っ立ってる。

 う~んと……、まだ何が何だか分からないけど……
 とりあえず、窮地は脱せたのかしら?
 ふぅ~、良かった良かった。
 
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