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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

666:バババババババッ!!!

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「そ、んな……、テッチャ……?」

 扉の前で、愕然と立ち尽くす俺。
 すると、再度扉がゆっくりと開き始めたではないか。

 まさか……、テッチャ!?

 しかし、扉からこちらに飛び込んできたのは……

 ボボボボボーーーーー!!!

「ひっ!? ぎゃあぁぁあっ!!?」

 勢いよく燃え上がる真っ青な炎に全身を包まれた、上半身が裸の青年。
 カッ!と見開かれたその目は、彼が正常では無い事を示していた。
 その証拠に、俺がそこに立っている事などお構い無しに、全速力で突っ込んできたのだ。
 燃える彼の体から俺の頭に、無数の火の粉が降り掛かる。
 
 もっ!? 燃えるぅうっ!!?

「モッモ!?」

 すぐさまグレコが駆け寄って、俺の頭で燻っていた火の粉を払い除けてくれた。

「ポポッ!? マシコット!!?」

 そう、彼はマシコットだ。
 小鬼を倒す為、自分の炎の勢いを最大限にまで引き上げた事で、興奮状態に陥ってしまい、俺たちの制止など耳に届かずに、洞窟内ではぐれてしまったマシコットだ。
 そして恐らく、彼は今もなお興奮状態で……

「止まれマシコット!!」

 ロビンズが叫ぶ声も虚しく……

「あわわわわわっ!?」

 何故だか標的にされて逃げ惑うパロット学士。
 勢いそのままに、追い駆けるマシコット。
 二人は円形の昇降機内を、壁に沿ってぐるぐると回り続けている。
 それはまるで、楽しい楽しい鬼ごっこのようで……

「止めませんとっ!!!」

 そうは言うものの、マシコットを止める術など見当たらないらしいインディゴ。
 ライラックも、肩の上にノリリアを乗せたまま固まってしまっている。

「モッモ! 精霊を呼べっ!!」

 カービィが叫ぶ。

「せいっ!? 精霊っ!!?」

 えっ!? 今っ!!? ここで!!??
 ……どの精霊をっ!?!!?

「モッモ! 魚を呼ぶのだ!!」

 今度はギンロが叫ぶ。

「魚!? さかっ……、あぁあっ!!!」

 そうかっ! ゼコゼコの事ねっ!?

 パッと思い浮かんだ、不細工なあいつの顔。
 そして俺も叫ぶ。

「ゼコゼコ! 助けてっ!!」

 すると、何処からともなく、光るシャボン玉が現れて、プワンプワンと空中を漂った後、床に着地してパシャンと割れた。
 その中から現れたのは、水の精霊ウンディーネのゼコゼコである。
 例によって、魚類のハゼのような姿をしていて、今日も絶好調に不細工だ。

『ぬぬっ!? 水が無いっ!??』

 床でピチピチと跳ねながら、慌てふためくゼコゼコ。
 だがしかし、そこはさすがに精霊である。
 すぐさまボウルのような半透明の入れ物を出現させ、その中を水で満たし、自ら飛び込んだ。

『ふぅっ! 助かった!! ……して、朕に何用だ?』

 ゼコゼコは、真っ直ぐに俺を見てそう言った。
 口調はまだ偉そうではあるものの、以前のように小煩く悪態をつく気は無さそうだ。

「あ……、あの! 消して!! マシコットの!!!」

 めっちゃ分かりにくい指示を出す俺。
 一応、走るマシコットを指差しているものの、もうちょい言い方があるだろ?って、自分でも思った。

『ぬっ!? あの半霊の炎を消せと!?? 構わぬが……、良いのか?』

 ファッツ!? 良いのか、とは!!?

「いいから早く消しなさいっ!!!」

 焦ったくなったのであろう、グレコが命令した。
 するとゼコゼコは、一瞬ギョッ!?とした顔になるも、すぐさまいつもの不細工面に戻り、逃げ回るパロット学士を追い続けているマシコットに向かって、大きく口を開けた。
 そして、口の中に水をいっぱいいっぱい溜めて……

『ほぼぼ……、ぼへぇえっ!!!』

 めちゃくちゃ汚い音を立てながら、口から大量の水をマシコット目掛けて噴射した。
 それはまるで、消防隊が火事の際に使う消化器の如き凄まじさで……、余りの勢いに、直撃したマシコットはそのまま壁に叩き付けられる。
 マシコットの体の炎は一瞬にして消え、この時初めて、炎に包まれていない彼のお顔を拝見する事が出来ました。
 露わになった赤黒い肌と、雪のように白い髪。
 爽やかなイケメン顔はそのままに……
 そして、ずぶ濡れのまま、ビタンッ!と床に落ちたマシコットは、ピクリとも動かない。

「まずいっ!」

 ロビンズが慌てて駆け寄り、マシコットの体を抱き起こす。
 その口元に耳を当てて、呼吸の有無を確かめるも……

「駄目だっ! 息をしてないっ!!」

 なっ!? なんだってぇえっ!!?

「くっそ! そういう事かっ!?」

 カービィも慌ててマシコットに駆け寄る。
 そしてローブの内側から小さな皮袋を一つと、火打ち石のような物を取り出した。
 皮袋の中から出てきたのは、真っ赤な色をした草だ。
 カービィは、その草を床に置き、火打ち石をカチカチと打ち鳴らして、火を付けようとしているのだが……、如何せん慣れていない為に、なかなか火が付かない。

『だから朕が、わざわざ是非を尋ねたと言うのに……、言わんこっちゃない……』

 まだそこにいたらしい、ゼコゼコがぶつくさと呟く。

「どういう事よっ!?」

 グレコが食ってかかる。

『ギョギョッ!? そっ、そのままの意味であるっ!』

「そのままって何っ!? あなたまさか、こうなる事が分かってたの!!?」

『グギョッ!? 知ってたか知らぬかで言えば……、し、知っていた。しかし! 貴様が命令したのではないかっ!??』

「なっ!? 私は、こんな事になるなんて知らなかったのよ! あなた、知ってたなら何故先に言わなかったの!!?」

『ゲギョッ!? そのような事を今更言われてもっ!!? 朕は言われたままにしたまでのことっ!!!』

「何それっ!? 最低ねっ!!!」

『さっ!? 最低とは無礼なっ!!』

 激しく言い争う二人。
 だけど、今はそんな事をしている場合ではない。
 見兼ねた俺は、間に入って……

「そ、そんな事よりも……。と、どうやったら!? マシコットは助かるの!!?」

 半泣きでそう言った。

 俺が呼んだゼコゼコのせいで、マシコットはあんな事になっているのだ。
 ロビンズとカービィの焦り様から察するに、急を有する事態である事は間違いない。
 一刻も早く、マシコットを助けないとっ!

『ギョッ!? かっ……、彼の者は、炎の精霊サラマンダーの力を有しし半霊であるな? とすれば、サラマンダーの炎を今一度その身に宿せば、すぐさま救う事が出来ようぞ』

 サラマンダー!? サラマンダーってつまり……

「モッモ! 火の精霊呼べっ!!」

「モッモ! トカゲを呼ぶのだ!!」

「バルンよっ!!!」

 カービィ、ギンロ、グレコが同時に叫ぶ。

 そうかっ! 火の精霊サラマンダーのバルン!!

「ばっ!? バルンーーーーー!!!」

 大声で叫ぶ俺。
 すると次の瞬間、目の前が真っ暗になって……

 バババババババッ!!!

「……え?」

 ノイズの様な、物凄く大きな雑音が耳元で聞こえたかと思うと、目の前が一変していた。
 
 周りを囲う、大小様々な大きさの、無数の赤いトカゲ達。
 彼らは皆、尻尾の先に赤い炎を灯していて、そのつぶらな瞳で、じ~っと俺を見つめている。

 な、何が……、どうなって……?
 え?? てか、ここどこ???

 初めて見る景色に、俺の思考は完全にフリーズしている。
 目の前の光景は、明らかに、先ほどまでの昇降機内部とは全く異なっているのだ。

 ここは、すり鉢状になっている部屋のようで、斜め上へと空間が広がっていっている。
 そこにある階段状の座席のようなものに腰掛けて、赤いトカゲ達は、中心の最下層にいる俺を見下ろしているのだ。
 それはまるで、蟻地獄の中から、上へと続く砂の坂を見上げているかの様な光景で……
 そこかしこから、赤い炎が立ち上り、水蒸気のような白い煙と、むわっとした熱気が辺りを包んでいた。

 あ、暑い……、まるでサウナの中みたいだ。
 なんで急にこんな場所に……?
 てか、みんなはどこ……??
 グレコ、カービィ、ギンロ……??? 

 周囲に視線を巡らすも、先ほどまで一緒だったはずの皆の姿はどこにも見当たらず、そこにいるのは赤いトカゲだけ。
 理解不能な状況に、俺の頭は混乱し始める。
 すると……

 カンカンカン!

 聞き慣れない、けたたましい音が辺りに響き渡った。
 音の出所に視線を向けると、そこには数匹の年老いた赤いトカゲが座っていて、その内の一匹が、トンカチの様な物を机に叩きつけていたのだ。
 そして……

『只今より、精霊裁判を始めるっ!』

 年老いた赤いトカゲは、声高々に、そう宣言した。
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