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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

658:守銭奴の勘

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「ポポ、また分かれ道ポ……。モッモちゃん、どっちポ?」

「左だよ~」

「了解ポ!」

 アーレイク・ピタラスの墓塔改め封魔の塔、第二階層にて。
 第二の試練に挑戦中の白薔薇の騎士団調査探索班及びおまけのモッモ様御一行は、建物の中とは思えないような、暗い洞窟を歩いていた。
 目の前には何処までも続く真っ暗な通路、そして壁際には眠る原初の小鬼たち。
 奴らを起こさぬようにと慎重に進む俺たちの歩みは遅く、洞窟に入ってから既に小一時間が経とうとしていた。

 洞窟は実に難解で、まるで迷路のように通路が枝分かれしている為に、俺の神様アイテム望みの羅針盤が大いに役立っている。
 もしこれがなかったら、この暗い洞窟の中を永遠に彷徨う事になっていたかも知れないと思えるほどに、洞窟内は入り組んでいた。

「む!? 何か見えるぞ!??」

 先頭を行くギンロが、前方に何かを捉えて、小声ながらも興奮した様子でそう言った。

 何? 何が見えたの??

 後方に控える俺には、まだ何も見えないが……

「ポッ!? 扉!??」

 何やら扉が現れたらしい。
 ようやく出口が!?

 幾分か早歩きになるみんな。
 そして辿り着いたその場所には、頑丈そうな鉄扉が設置されていた。

「これは……、普通の扉のようですが……。んん? ここに何か書かれておりますね」

 扉を調べるパロット学士が、扉の表面に記された文字らしき物を発見し、虫眼鏡のような物で繁々と観察する。 
 なんだなんだ?と、扉の前に集まるみんなの後ろから、チラッと前方を確認するも、暗いし距離があるしで、何が書かれているのかよく分からない。
 それに何より、それは俺には読めない文字のようだ。

「これはエルフィラン文字ですな。必要……、持ち出す……、むむむ? グレコさん、力を貸して頂けますかな??」

 パロット学士に呼ばれて、前方に向かうグレコ。
 どうやら扉に記されている文字は、ハイエルフだけが扱う事の出来る言語、エルフィラン語の文字らしい。
 
 方角支持の役目が終わって、突然暇になった俺は、みんなの後ろでグレコの解読が終わるのをぼんやりと待つ。
 すると隣に立つテッチャが……

「なんじゃろな? 何か、金目の匂いがするでの……??」

 と、訳の分からない事を口にした。

「え? 金目の匂い?? 何それ、どんな匂いなのさ???」

 半笑いで尋ねる俺。

 そんな匂い、俺は全く感じてませんけど?
 強いて言うなら、目の前の扉が鉄製だから、鉄の匂いならしてますけど??

「なんちゅうかこう……、採掘師の勘じゃよ。この扉の向こうには、金銀財宝がザックザクありそうな予感がするでの」

 へぇ~、そう……
 ほんとかなぁ?
 もし本当なら嬉しいけど、試練だというのに金銀財宝は無いんじゃない??
 それに、今俺たちに必要なのは金銀財宝ではなくて、次の階層に進む為の鍵なんだよね。
 テッチャの奴め、金目の匂いとか言って、完全に目的を忘れてるなぁ???
 これだから困るんだよな、金に目のくらんだ守銭奴ドワーフはさ~。

「ほぉ? 金銀財宝ですと?? それはそれは……、楽しみですな」

 ニヤニヤとしながらそう言ったのはカービィだ。
 こちらも本来の目的を忘れているのか、締まりのない顔で鉄扉を見つめている。

「お二人とも、しっかりしてください。僕たちの目的は上階への鍵であって、金銀財宝ではないですよ?」

 しっかり者のマシコットに釘を刺されるも、にやけ顔をやめない二人。
 人の欲の、なんと浅ましい事か……
 なんとも情け無い気持ちで二人を見ていると、前方から声が聞こえてきた。

「えっと……、汝らが真に必要な物のみ持ち出す事を許可する、って書かれているわ」

 扉のエルフィラン語を解読したグレコがそう言った。

 真に必要な物のみって事は、つまり……、この扉の先に、第二の試練の目的物である、上階へ向かう為の鍵が隠されていそうだな。
 試しに望みの羅針盤で確認してみたが、金色の針は真っ直ぐに、目の前の鉄の扉を指している。

「ポポゥ、真に必要な物のみ、ポかぁ……。ポ! 悩んでいても仕方ないポね、扉を開けてみるポよ!!」

 ノリリアの言葉に、ライラックとギンロの二人が頷いて、力一杯に扉を押し開く。
 ギギギ~っと音を立てて、ゆっくりと開かれる鉄扉。
 すると中から、様々な匂いが漂ってきた。
 察するにそれは、貴金属や布の匂い、あと微かに精油のような品の良い油の匂いもするな。
 たぶん中には、何か物が沢山存在しているはずだ。
 もしかすると、テッチャの採掘師の勘……、いや、守銭奴の勘が当たったのかも知れない、と俺は思った。
 しかしながら、向こう側は更に真っ暗で、中がどうなっているのかは全く見えない。

「行くポよ!」

 勇敢にもノリリアは、先陣切って真っ暗闇へと一歩を踏み出した。
 ランプの灯りを手に、後に続く俺たち。 

「ポポ、何かの台座があるポよ。みんな、ここに集まってポ」

 ノリリアの指示で、暗闇の中にポツンと在る丸くて白い台座の周りに、俺たちは全員集まった。

 真っ暗闇の中にあって、唯一ランプの光を反射するその台座は、石造りで、大きくも小さくもなく、表面に線状の溝が複数見られるものの、これと言って特徴のない、何の変哲もないただの台座だ。
 それ以外は周りに何にも見当たらない……、というか、何も見えない。
 だけど、なんだろうな? ここは、嫌にだだっ広い空間な気がするぞ。
 近くに壁も天井も見当たらないし、何より、さっきまでの洞窟内と空気の流れがまるで違うのだ。
 すぅ~っごく広い空間が、この先に広がっているような気がする……、勘だけど。
 
 落ち着き無くキョロキョロと周りに視線を巡らせていると、台座を調べていたノリリアとパロット学士が何かを見つけた。

「おや? ここに何やら仕掛けがありますな」

 ほう? 仕掛け??
 ……罠ではありませんかな???

「押してみるポよ」

 えっ!? いきなり大丈夫!??

 止める間もなく、台座の仕掛けとやらを押すノリリアとパロット学士。
 カチッと何か音がしたかと思うと、台座の中央部分がズズズ~っと盛り上がってきた。
 それと同時に、後方の鉄扉がギギギ~っと閉まってしまい、俺たちは退路を断たれたのだ。

 だだだっ!? 大丈夫なのっ!??
 と、閉じ込められたよぉおっ!!??

 暗闇故に、ビビる俺。
 しかしノリリアは、全く臆する事なく、盛り上がった台座の中央部分をジッと見つめて……、何かに気付いた。

「ポ? これはもしかすると……?? マシコット!」

「はい、何でしょう?」

「ここに火を灯してポ!!」

 ノリリアの言葉に、マシコットは盛り上がった台座の中央部分に手をかざし、精霊の力で炎を放出した。
 すると、台座の中央に宿った炎は、瞬く間にボーッ! と激しく燃え上がり、台座の表面にある線状の溝を伝って、台座全体が燃え始めたではないか。

 ひょえぇぇえっ!?
 燃えてるぅうっ!!?

 だが、炎はそれだけでは収まらなかった。
 暗くて全く気付かなかったが、ここの地面には台座の表面と同じく線状の溝が複数あって、炎はその線に従って周囲に燃え広がっていくのだ。

 やべぇえぇっ!?
 かっ、火事っ!!?
 死んじゃうぅうっ!!??
 
 アワアワと慌てる俺をよそに、警戒しつつも炎の行方を見守っていたノリリアが叫ぶ。

「ポポゥ!? 思った通りポ!!」

 何がっ!?!!??

 意味が分からず焦っていると、地面の溝を進んでいった炎の先には、新たなる台座があって、そこにも炎が灯ったのだ。
 台座は一つではなく、四方八方にいくつも存在していて……

「おぉお~! 明るくなってく!!」

 見える範囲で数十個ある台座に炎が灯り、周りは一瞬にして明るくなった。
 それと同時に明らかとなる、この部屋の全貌は……

「のほほほっ!? 金銀財宝じゃあっ!!?」

 テッチャが歓喜の声を上げる。
 それもそのはず、守銭奴の勘が見事的中したのだ。

 山のように積み上げられた煌めく宝石、見るからに価値がありそうな絨毯や置物、武器に鎧に絵画などなど……
 だだっ広くて、馬鹿みたいに天井が高いこの部屋は、金銀財宝がザックザクに詰まった、夢のような宝物庫だった。
 
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