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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
636:変な夢
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「初めまして、新たなる時の神の使者よ」
……は? え?? 誰???
目の前に、見知らぬ、普通の男性が立っている。
なんの変哲もない黒い髪。
どちらかというと印象に残らなさそうな薄い塩顔。
瞳はこれまたどこにでもいるような焦げ茶色で、肌は白くも黒くも無い普通の肌色だ。
見た事のあるようなローブ姿であるからして、魔導師か何かだろうと推測出来るが……
ただ、彼の左半身は、この世のものとは思えない程に禍禍しい、異形な生き物に巣食われていた。
黒くて、とぐろを巻いているそれは、一見すると蛇の様にも見えるが、その先端にあるのは見た事の無い顔だ。
人のものでも無く、他の生き物でも無い。
その顔が、ニタニタと笑いながら、彼の左半身を蝕み続けてるのが俺には分かった。
だけど、そんな状態だというのに男性は、俺に向かって、優しげな笑みを称えていた。
余りに異様な光景に、俺の思考は完全に止まっていた。
しかし、何故だか分からないが、不思議と怖くは無かった。
目の前の男性は敵ではないと、俺は直感していた。
「就寝中失礼するよ。今しか君に話かけるチャンスが無いのでね」
就寝中? てことは……、これは夢!?
「そう、ここは君の夢の中だ。訳あってお邪魔させてもらったよ」
お!? お邪魔するなよっ!??
てか、誰だよあんた!?!?
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕の名はアーレイク・ピタラス。君を、今日この時、この場所へと導いた、元時の神の使者さ」
なっ!?
なんだってぇえぇええぇぇぇ~~~!??
「はははは! 良い反応をしてくれるね、嬉しいよ」
こっ!? こっちは何が嬉しいのかさっぱり分かんないけど!!
てか、アーレイク・ピタラス!??
本当に、本人なの!?!?
「ん~……、本人、っていう表現はどうだろうな? たぶんそれは正しく無い。僕は、魂の記憶だから」
えっ!? たまっ!??
……いや、余計に分からんわっ!!!
「はははは! そうだよねっ!? まぁ……、僕がどんな存在かなんてこの際どうでもいいんだ。僕は君に、伝えなきゃならない事がある」
お……、おう、何でしょうか?
「ところで、リュフトには会えたかい?」
あ、はい、会いました。
「そうか。なら、話はちゃんと聞けたかい?」
あ、はい、一応聞きました。
……正直、何が何だかよく分かってないですけど。
「そうかそうか。じゃあ問題は無さそうだね。彼の伝言通り、全ての真実は封魔の塔に隠されている。君の役目は、その真実を知る事にあるんだ」
あ、はい。
……その、真実っていうのは、今ここで教えてもらうわけには?
「ん~、そうしたい気持ちは山々なんだけどねぇ~。まず時間が足りないし……、それに今ここで話しても、君は起きたら夢を忘れるタイプだろう?」
あ……、そうですね、はい。
けど、それならあなたがここに現れた意味が無いのでは?
「はははは! それもそうだねっ!? けど、一目見ておきたかったんだよ。この世界を変える事の出来る、僕の頼もしい後輩君をね」
そ、そうですか。
……あの、すみません、質問いいですか?
「いいよ、どうぞ」
あの……、どうして僕なんですか?
その、僕は一応時の神の使者ですけど……、弱いんです。
今、僕の事を頼もしいって仰いましたけど、僕は最弱種族と名高いピグモルですし、あなたみたいに魔法とか、予知能力とか、何にも持っていないんです。
神様だって、僕にはピタラスさんの後継は務まらないって、言っていたし……
なのにどうして、こんな僕を、ここまで連れてきたんですか??
あなたは、未来が見えるんですよね??
だから、沢山のヒントを残して、僕をここまで導いたんですよね????
どうして僕なんですか?????
もっと他に、誰か……、適任者が居たんじゃ……??????
「それこそ、神のみぞ知る事だよ」
……ふぇ?
「正直に言うとね……。僕が見ていた未来には、君は居なかった」
お!? なんっ!?? えぇえっ!?!?
「ごめん、少し言い方が雑だったかな? 勿論、時の神の使者がこのピタラス諸島にやって来て、僕が成し遂げられなかった事の後片付けをしてくれる、その未来は見えていたよ。ただ、それがどういう者なのか……、性別もそうだし、何の種族でどんな風貌をしているのか、なんていう詳細な事は、全く見えなかったんだ」
な、なんと、まぁ……
つまり、ピタラスさんにも、最弱種族のピグモルである僕が、時の神の使者に選ばれてここへ来るって事は、分からなかったと……?
「そういう事だよ。だけど、ここまで来てくれる事、世界の調和を取り戻してくれる事は、確信していた」
ほ、ほう……?
あの、でも、なんて言うか、その……
「確かに、僕にも不安はあるよ。なんたって君は、あのピグモル族だろう? 怠惰で楽天的な、繁殖力だけは強い鼠型魔獣。正直、今回ばかりは僕の未来予知が外れたんじゃないかって、ここへ来るまでヒヤヒヤさせられたよ」
怠惰で、楽天的って……
まぁ正解だけど、繁殖力だけはって酷くない?
「はははは! ごめんごめん!! けど、僕の時代ではそうだったんだよ。今は少し違うみたいだけどね。……とまぁ、余計な話はここまでにしておいて」
余計な話って、あんたねぇ……
「君が何者で、どれだけ無力なのかは、さして問題では無い。この先にある戦いは、腕力や魔力に頼る事の出来ないものだからね」
腕力や魔力に頼る事の出来ない、だと?
それってつまり……、知力が必要だと??
いやぁ~、知力もそんなに自信無いぞぉ~???
「とにかく、君ならきっと大丈夫だ。だけど一つだけ……。過去の僕の言葉に、どうか惑わされないで欲しい」
……え? それってどういう??
「リュフトに伝言を頼んだのは、今から五百年以上前の事だ。その段階で僕は、僕が考え得る最善の道を選んでもらう為に、君をここまで導けるよう様々な準備をした。だけど……、今は少し、当時とは考えが変わっているんだ」
は? え?? ちょ待って、何が???
「僕は、君が正しいと思う道を、選んでくれれば良いと思っている」
な? 正しいと思う道??
え、全然そんなの考えた事ないんだけど???
「大丈夫。君の心は正義に満ちている。君ならばきっと、僕が選べなかった道、得られなかったこの世界の真実を、知る事が出来るはずだ」
……あの、ごめんなさい、何言ってるかさっぱり分かりません。
あなたは、いったい僕に何を望んでいるのでしょう?
僕はいったい、何をすればいいんでしょうか??
「ただし、敵は待ってはくれないよ。奴の目的が何であれ、思い通りにさせる事だけは、なんとしても回避して欲しい。僕達と違って奴は、世界の平和、均衡、調和なんてものは、全く考えていないだろうからね」
奴っていうのは……、クトゥルーとかいう、旧世界の神の事でしょうか?
あの……、こう言っちゃなんですけど、ピタラスさんを、その……、死に追いやったような相手に、僕が太刀打ち出来るはずが無いんですけど……??
そう思いませんか???
「確かに、君自身は無力だし、君だけの力で何とかなるとは思っていないよ。だけど、君には仲間がいるだろう?」
あ……、はい、仲間はいます。
「僕の弟子達も相当の手練れだったし、みんな自慢の弟子だった。けどね、君の仲間はもっと凄い。何が凄いのか、君にもいずれ分かる時が来るだろう。彼らが側に居てくれるのだから、大丈夫。君は一人じゃ無い」
……はい。
……そうですね。
……そうなんですけど。
なんか、アバウト過ぎません?
「さて、そろそろ時間だね」
げっ!?
「大丈夫、僕も目覚めたら後を追うから」
え? それって、どういう??
ピタラスさん、来てくれるんですか???
「う~ん……、今はまだ何も言えないな。だけど大丈夫、僕を信じて。そして君自身を……、自らが選んだ道を、信じてくれ」
は? え?? な???
「それじゃあ、頑張ってね。小さな時の神の使者くん」
「え? ちょ??」
自分の寝言で、俺は目を覚ました。
視界の先にあるのは、見慣れたテント一階の天井だ。
辺りはシンとしていて、窓から見える外の景色はまだ薄暗い。
むくっと体を起こすと、いつの間にか、体には薄い毛布が掛けられていた。
「……なんか、変な夢、見たなぁ~」
眠気まなこを擦りながら、俺はぼんやりとした頭で考えていた。
だけど、どんな夢だったのか、そこで誰に会ったのか……、全然思い出せなかった。
……は? え?? 誰???
目の前に、見知らぬ、普通の男性が立っている。
なんの変哲もない黒い髪。
どちらかというと印象に残らなさそうな薄い塩顔。
瞳はこれまたどこにでもいるような焦げ茶色で、肌は白くも黒くも無い普通の肌色だ。
見た事のあるようなローブ姿であるからして、魔導師か何かだろうと推測出来るが……
ただ、彼の左半身は、この世のものとは思えない程に禍禍しい、異形な生き物に巣食われていた。
黒くて、とぐろを巻いているそれは、一見すると蛇の様にも見えるが、その先端にあるのは見た事の無い顔だ。
人のものでも無く、他の生き物でも無い。
その顔が、ニタニタと笑いながら、彼の左半身を蝕み続けてるのが俺には分かった。
だけど、そんな状態だというのに男性は、俺に向かって、優しげな笑みを称えていた。
余りに異様な光景に、俺の思考は完全に止まっていた。
しかし、何故だか分からないが、不思議と怖くは無かった。
目の前の男性は敵ではないと、俺は直感していた。
「就寝中失礼するよ。今しか君に話かけるチャンスが無いのでね」
就寝中? てことは……、これは夢!?
「そう、ここは君の夢の中だ。訳あってお邪魔させてもらったよ」
お!? お邪魔するなよっ!??
てか、誰だよあんた!?!?
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕の名はアーレイク・ピタラス。君を、今日この時、この場所へと導いた、元時の神の使者さ」
なっ!?
なんだってぇえぇええぇぇぇ~~~!??
「はははは! 良い反応をしてくれるね、嬉しいよ」
こっ!? こっちは何が嬉しいのかさっぱり分かんないけど!!
てか、アーレイク・ピタラス!??
本当に、本人なの!?!?
「ん~……、本人、っていう表現はどうだろうな? たぶんそれは正しく無い。僕は、魂の記憶だから」
えっ!? たまっ!??
……いや、余計に分からんわっ!!!
「はははは! そうだよねっ!? まぁ……、僕がどんな存在かなんてこの際どうでもいいんだ。僕は君に、伝えなきゃならない事がある」
お……、おう、何でしょうか?
「ところで、リュフトには会えたかい?」
あ、はい、会いました。
「そうか。なら、話はちゃんと聞けたかい?」
あ、はい、一応聞きました。
……正直、何が何だかよく分かってないですけど。
「そうかそうか。じゃあ問題は無さそうだね。彼の伝言通り、全ての真実は封魔の塔に隠されている。君の役目は、その真実を知る事にあるんだ」
あ、はい。
……その、真実っていうのは、今ここで教えてもらうわけには?
「ん~、そうしたい気持ちは山々なんだけどねぇ~。まず時間が足りないし……、それに今ここで話しても、君は起きたら夢を忘れるタイプだろう?」
あ……、そうですね、はい。
けど、それならあなたがここに現れた意味が無いのでは?
「はははは! それもそうだねっ!? けど、一目見ておきたかったんだよ。この世界を変える事の出来る、僕の頼もしい後輩君をね」
そ、そうですか。
……あの、すみません、質問いいですか?
「いいよ、どうぞ」
あの……、どうして僕なんですか?
その、僕は一応時の神の使者ですけど……、弱いんです。
今、僕の事を頼もしいって仰いましたけど、僕は最弱種族と名高いピグモルですし、あなたみたいに魔法とか、予知能力とか、何にも持っていないんです。
神様だって、僕にはピタラスさんの後継は務まらないって、言っていたし……
なのにどうして、こんな僕を、ここまで連れてきたんですか??
あなたは、未来が見えるんですよね??
だから、沢山のヒントを残して、僕をここまで導いたんですよね????
どうして僕なんですか?????
もっと他に、誰か……、適任者が居たんじゃ……??????
「それこそ、神のみぞ知る事だよ」
……ふぇ?
「正直に言うとね……。僕が見ていた未来には、君は居なかった」
お!? なんっ!?? えぇえっ!?!?
「ごめん、少し言い方が雑だったかな? 勿論、時の神の使者がこのピタラス諸島にやって来て、僕が成し遂げられなかった事の後片付けをしてくれる、その未来は見えていたよ。ただ、それがどういう者なのか……、性別もそうだし、何の種族でどんな風貌をしているのか、なんていう詳細な事は、全く見えなかったんだ」
な、なんと、まぁ……
つまり、ピタラスさんにも、最弱種族のピグモルである僕が、時の神の使者に選ばれてここへ来るって事は、分からなかったと……?
「そういう事だよ。だけど、ここまで来てくれる事、世界の調和を取り戻してくれる事は、確信していた」
ほ、ほう……?
あの、でも、なんて言うか、その……
「確かに、僕にも不安はあるよ。なんたって君は、あのピグモル族だろう? 怠惰で楽天的な、繁殖力だけは強い鼠型魔獣。正直、今回ばかりは僕の未来予知が外れたんじゃないかって、ここへ来るまでヒヤヒヤさせられたよ」
怠惰で、楽天的って……
まぁ正解だけど、繁殖力だけはって酷くない?
「はははは! ごめんごめん!! けど、僕の時代ではそうだったんだよ。今は少し違うみたいだけどね。……とまぁ、余計な話はここまでにしておいて」
余計な話って、あんたねぇ……
「君が何者で、どれだけ無力なのかは、さして問題では無い。この先にある戦いは、腕力や魔力に頼る事の出来ないものだからね」
腕力や魔力に頼る事の出来ない、だと?
それってつまり……、知力が必要だと??
いやぁ~、知力もそんなに自信無いぞぉ~???
「とにかく、君ならきっと大丈夫だ。だけど一つだけ……。過去の僕の言葉に、どうか惑わされないで欲しい」
……え? それってどういう??
「リュフトに伝言を頼んだのは、今から五百年以上前の事だ。その段階で僕は、僕が考え得る最善の道を選んでもらう為に、君をここまで導けるよう様々な準備をした。だけど……、今は少し、当時とは考えが変わっているんだ」
は? え?? ちょ待って、何が???
「僕は、君が正しいと思う道を、選んでくれれば良いと思っている」
な? 正しいと思う道??
え、全然そんなの考えた事ないんだけど???
「大丈夫。君の心は正義に満ちている。君ならばきっと、僕が選べなかった道、得られなかったこの世界の真実を、知る事が出来るはずだ」
……あの、ごめんなさい、何言ってるかさっぱり分かりません。
あなたは、いったい僕に何を望んでいるのでしょう?
僕はいったい、何をすればいいんでしょうか??
「ただし、敵は待ってはくれないよ。奴の目的が何であれ、思い通りにさせる事だけは、なんとしても回避して欲しい。僕達と違って奴は、世界の平和、均衡、調和なんてものは、全く考えていないだろうからね」
奴っていうのは……、クトゥルーとかいう、旧世界の神の事でしょうか?
あの……、こう言っちゃなんですけど、ピタラスさんを、その……、死に追いやったような相手に、僕が太刀打ち出来るはずが無いんですけど……??
そう思いませんか???
「確かに、君自身は無力だし、君だけの力で何とかなるとは思っていないよ。だけど、君には仲間がいるだろう?」
あ……、はい、仲間はいます。
「僕の弟子達も相当の手練れだったし、みんな自慢の弟子だった。けどね、君の仲間はもっと凄い。何が凄いのか、君にもいずれ分かる時が来るだろう。彼らが側に居てくれるのだから、大丈夫。君は一人じゃ無い」
……はい。
……そうですね。
……そうなんですけど。
なんか、アバウト過ぎません?
「さて、そろそろ時間だね」
げっ!?
「大丈夫、僕も目覚めたら後を追うから」
え? それって、どういう??
ピタラスさん、来てくれるんですか???
「う~ん……、今はまだ何も言えないな。だけど大丈夫、僕を信じて。そして君自身を……、自らが選んだ道を、信じてくれ」
は? え?? な???
「それじゃあ、頑張ってね。小さな時の神の使者くん」
「え? ちょ??」
自分の寝言で、俺は目を覚ました。
視界の先にあるのは、見慣れたテント一階の天井だ。
辺りはシンとしていて、窓から見える外の景色はまだ薄暗い。
むくっと体を起こすと、いつの間にか、体には薄い毛布が掛けられていた。
「……なんか、変な夢、見たなぁ~」
眠気まなこを擦りながら、俺はぼんやりとした頭で考えていた。
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