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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

619:軽症

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「いいかモッモ、いくぞ? 深く息を吸ってぇ~??」

「スゥーーーー」

 ドキドキドキ

「今だ!」

「はいっ!」

 カービィの合図で、仰向けに寝転がったままの俺の両腕は、スッと上へと引き上げられた。
 そして……

 ガコンッ!

「あだぁあぁぁ~~~!?!?」

 両肩を襲う激しい痛み、無理やりはめ込まれた感満載のそのあまりの違和感に、俺は悲鳴を上げると共に涙をちょちょぎらせた。

 痛いぃいぃぃ~~~!
 半端なく痛ぁあ~~~いっ!!
 ヒィーーーーーン!!!

「大丈夫だよモッモさん! もう元の位置に戻ってるよ!!」

 いつも以上に元気な声のサンのにこにこ笑顔が、嫌味なほど眩しい。
 頼むから……、今、この状態の俺に向かって、親指を立てて見せないでくれ。
 むかついちゃうからぁっ!

 穴の中で身動きが取れず泣いていた俺は、運良く、白薔薇の騎士団が一人、アーレイク島の現地調査員ボナークに遭遇。
 というか……、モグラ獣人であるボナークが掘っていた地下通路に、俺は落下していたらしい。
 そのボナークの助けがあって、無事グレコに居場所を知らせる事が出来た。

 グレコは、俺を探す内にはぐれてしまったカービィやギンロに居場所を知らせる為に、以前ザサークから貰った信号弾を上空に放った。
 すると、カービィやギンロのみならず、ザサークとビッチェ、それから白薔薇の騎士団メンバー数名もこちらに来てしまったのだ。
 つまり今、俺の落っこちたボナークの地下通路は、信号弾の赤い光に釣られて集まってしまった者達でギュウギュウ詰めになっている。

「ふぅ~。良かったぜ軽症で」

 ヘラヘラと笑うカービィ。

 くっ……、これのどこが軽症だっ!?
 両肩脱臼だぞっ!??
 プランプランで、さっきまで腕が全く動かなかったんだぞっ!?!?
 これのどこが軽症だって言うんだよぉおっ!?!!?
 
「そうですね! 亜脱臼だけで済んで良かったです!! 下半身の痺れは腰が抜けていただけみたいですしね!!! あっ、傷口の手当ては私がしましょうか!?」

 えっ!? やめてっ!
 なんか、サンの治療って、いっつも荒々しいんだよねっ!!
 この間はちゃんとした治癒魔法だったから、全身打撲による体の痛みが取れたけど……、今回はちょっと違う、刺し傷とも呼べよう怪我なのである。
 俺は見てたんだ、コトコ島の鬼族の村で、叫ぶ患者の傷口に大量の液体ぶっ掛けて、笑っているサンの姿を……
 たぶん、それでもちゃんと治るんだろうけど、なんか怖いんだよねっ!!!

「いや、おいらがやるよ」

 うむ、そうしてくれカービィ君。
 白魔法に関しては、俺は君に絶大な信頼を寄せているのだ。
 ギンロのあの内臓が飛び出しそうな大怪我でさえも、カービィはきっちりと治した。
 だから俺の肩の傷もきっと、綺麗に治してくれるに違いない。

 ……そう、俺は怪我を負っています。
 生まれてこの方、こんな酷い怪我をしたのは初めてです。
 痛みもそうですが、ショックでなかなか心が沈んでいます。
 ハーピーに肩を掴まれ、上空へと連れ去られたあの時、俺の両肩の前後には、奴の鋭く凶暴な爪が深く食い込みました。
 その後、俺の判断ミスで、石と化したハーピーは落下。
 エルフの盾のマーテルのお陰で、地面に直撃する事は避けられたけど、石になったハーピーの足に引っ張られたせいで、俺の両肩は脱臼し、両腕は使い物にならなくなりました。
 腰から下の感覚がなかったのは、ただ単に腰が抜けていたかららしいけど……、まだ腰が抜けているのか、なかなか起き上がれそうにありません。
 一番酷いのが、爪が食い込んでいた両肩の傷で……
 ドバドバと赤い血が流れ出て、失血死しちゃうかもって心配するほどに、とてもとても、酷い傷なのです。

 何度も言いますが、こんなに酷い傷を負ったのは、生まれて初めてで……

「そうですか? こんな擦り傷くらいなら、私でもチャチャっと治せますよ!?」

 おいサン!?
 擦り傷とか言うなっ!??
 めっちゃ痛いんだぞっ!?!?

 お茶目に笑うサンを、横目でキッ!と睨み付ける俺。

「まぁまぁ、おいらに任せなって。それよかほれ、アイビー達と今後どうするか話し合ってきてくれ」

 顎でクイクイっと前を指すカービィ。
 そこには騎士団のアイビーとカナリー、パロット学士と、モーブとヤーリュのベースボールコンビに加え、グレコとギンロ、更にはモグラ獣人のボナークが、これからの行動について話し合っていた。

 ハーピーの攻撃を回避する為、地上に降りた騎士団のメンバーは、ノリリアの通信魔法によって、東にあるユーザネイジアの木を目指して進もうとしていた。
 が、その直後、空に赤い信号弾を発見し、そちらに向かった方がいいのでは? と思った者達が今ここにいるらしい。
 もしくはまぁ、信号弾に気付けなかった者達が、そのままユーザネイジアの木に向かって行ったとも言える。

「モッモ~、ちょいと冷んやりするぞ~」

 俺の頭のすぐ上で、魔導書と杖を手に、白い魔法陣を空中に浮かび上がらせたカービィ。
 白い魔法陣からは白い光の糸が何本も垂れ下がり、両肩の傷口の周りをサワサワと撫で始めた。
 俺にしては珍しく、とても心地良い感触なのだが……、確かに、なんとなく冷んやりとしていた。

「ごめんなさい、私が信号弾なんか上げたばっかりに、みんなをここに誘導してしまって……」

 謝るグレコ。

「いや、謝る必要はないよグレコさん。現にこうして、ボナークさんとも再会出来たのだからね」

 爽やかに返すアイビー。

「それではやはり、悪魔がユーザネイジアの木にいると?」

 パロット学士が尋ねる。

「そうだど。しかし、昼間は眠っとるようだで、ハーピー達も今日までは、昼間は大人しかったど。それが今朝、急に森が騒がしくなったっけ、きっと何か起きたんだど」

 ボナークの言葉は訛りが酷いが、なんとか意味は汲み取れた。

「となると、今ユーザネイジアの木に向かうのは危険ではないでしょうか?」

 天使のようなカナリーが、眉間にシワを寄せてそう言った。

「そうだども、半分は向かっちまったけ?」

「はい。ノリリア、インディゴ、ロビンズ、チリアン、マシコット、ブリック、ライラック、エクリュ……。それと、カサチョと、モッモさんのお仲間であるドワーフ族のテッチャさん。少なくともこの十名は、今ここに来ていない時点で、ユーザネイジアの木に向かったと考えられますね」

 周囲を見渡しながら、アイビーが言った。

 あ……、えと、うちのティカもいません。
 すみません、新参者ですが、数に入れてやってください。

「そうけ……、困った事になったど……」

 貫禄のあるお腹をボーンと膨らませて、腕を組むボナーク。

「ボナークさん、あなたは今まで何をしていたのですか? 私やインディゴさんの通信に応えもしないで」

 ボナークの方が格上だろうに、かなり攻めた口調で問い詰めるカナリー。
 久しぶりに見るけど、怒った天使ほど恐ろしいものはないな。

「だぁ~、すまんかったど。実は杖をハーピー共に折られてしまったっけ、返事が出来なかったんだど」

 そう言ってボナークは、懐から無残にも真っ二つに折れた杖を取り出して見せた。

「そうだったのですか、それは失礼しました」

 ちゃんと謝るカナリー、偉いね。

「はいはい、ボナークさん! ハーピー達とは絆が結べたと聞いていましたが、その悪魔のせいで全部おじゃんになっちゃった感じですかねっ!?」

 モーブがせかせかと尋ねる。

 モーブとヤーリュの二人は、最後の最後まで空中に残り、ミュエル鳥達を落ち着かせようと奮闘していたものの、ハーピー達のあまりの猛攻に降参し、ミュエル鳥達に帰還命令を出したそうだ。
 ミュエル鳥達は既に、タイニック号を現在の帰還場所と認めている為に、恐らく今頃はもう船に戻っているだろうという事だった。

「そうだど。せっかく仲良くなれただに、あいつのせいで振り出しに戻ったっけよ」

 言葉ではそう言うものの、何故かボナークは笑っている。

「それで……、この地下通路は何なんですか? 何か作戦でもあると??」

 アイビーの問い掛けに、ボナークはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
 その笑い方は、良からぬ事を企む悪党って感じだ。
 すると、話を聞いていたらしいカービィが、ヘラヘラと笑いながら言った。

「ボナークおまい、地上はハーピーがいて邪魔だから、ユーザネイジアの木まで地下通路を掘る算段だったんだろ?」

「お? ゲハハッ! さすがカービィっけ、ご名答だど。あいつに近付く為にゃ地下を行くのが一番安全だど。五日間無心で地下を掘っていただどぉ!!」

 おぉマジか、五日間も……

「それでは、相手に気付かれないように地下を移動して、一気に攻め落とす作戦だと?」

 カナリーの質問に、ボナークはちょっぴり怪訝な顔になる。
 ……ちょっぴりというのは、目が小さ過ぎて表情が読み取りにくいからだ。
 
「いんや、攻め落とすんじゃねぇど。あんの悪魔と絆を結んでぇ、捕獲キャプトしてやるんだどぉっ!」

 少年のようなキラキラとした表情で、とんでもない事を口にするボナーク。
 「やっぱな~」と呟いてヘラヘラと笑うカービィ以外、周りの全員が沈黙した。
 
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