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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

616:ドロロロンポッ!

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「ポポポポッ!? 気持ち悪いポゥッ!??」

 頭を掴んだまま凍ってしまったハーピーの足を、自らの手で鷲掴みにし、背負い投げするノリリア。
 凍ったハーピーの足は、ピョーンと何処かへ飛んでいってしまった。
 
「……えっ!? 何なの今の!??」

 突然の事に驚いて、目を見開いてギンロを見上げる俺。
 ギンロは、かなりのドヤ顔でニヤリと笑った。

 よ~く見ると、ギンロが両手に握っている二本の魔法剣は、水色の魔力のオーラを帯びているではないか。
 それはヒンヤリとした冷気を周りに放っている。

「モッモが村に帰っている間に、私がギンロに教えたのよ。武器に魔力を纏わせる方法をね」

 なんとっ!? グレコがっ!??

「先刻のティカとの手合わせにて、なかなかに思うような結果が出せなかった故な。更なる強さを求めて、この技をグレコより教わり、見事会得したのだ。我が母より受け継ぎし氷の魔力。この魔力でもって、我は更なる高みに至った。そして、魔法剣が魔法剣たる力を発揮させたのだ。名付けて……、冷凍魔法剣!」

 ブワッ! と魔法剣を掲げるギンロ。
 勿論、その様はカッコいいのだが……
 珍しく長文を喋ったかと思えば、内容が中二病丸出しで恥ずかしいし、何より名前がダサい。
 冷凍魔法剣って……、なんか、冷凍食品みたい。

「おまいら、のんびりお喋りしている時間はねぇぞ! 上見ろっ!!」

 カービィの言葉に、頭上を仰ぐと……

「ギィエェー!」

「ギェギェギェッ!!」

「ギィエッ! ギィエェエェェー!!」

 ひぃいぃぃいぃっ!?!?

 恐ろしい数のハーピーの大群が、鬱蒼と生茂る木々の枝に止まって、こちらを見下ろしているではないか。
 ざっとみた感じ、五十羽はいると思われるが、その全てが未だに興奮状態らしく、赤く目を光らせて、牙の生えた口からはボタボタと涎を垂らしている。

「ポポ! 何がどうなってるポか!? カービィちゃん、何かしたポかっ!??」

「なぬっ!? おいらは何もしてねぇぞっ!!? 前方にユーザネイジアっぽい木を見つけたから、一番乗りしようと全速力で飛んでたら、急にこいつらが襲ってきたんだ!!!」

「ポッ!? もうユーザネイジアの所まで行ってたポかっ!??」

「行ってたけど、行けなかった! 見えたけど、まだ随分遠くだった!!」

「ポポ、でももう空は飛べないポね……。みんなに通達するポ!」

 そう言ってノリリアは、杖を頭上に掲げて、何か呪文を唱えた。
 そして……

「総員に告ぐポ! 各自、東に向かい、ユーザネイジアの木を目指すポ!! ハーピー達の攻撃に気を付けてポよ!!!」

 おそらく、通信魔法を行使したのだろう。
 ノリリアの言葉は、耳で聞こえる声意外にも、頭の中に直に響いてきたのだ。

「これでいいポッ! みんな、行くポよ!!」

 走り出すノリリア。
 しかしカービィは……

「おまい一人で行け、ノリリア!」

 えっ!? なんでっ!??

「ポポッ!? どうしてポッ!??」

「ハーピー達の目を見てみろ! あいつら全員、モッモしか見てねぇっ!!」

 ええっ!? 嘘っ!?? ほんとっ!?!?

 俺は再度頭上を仰ぎ見る。
 確かに、ハーピー達はみんな俺を見て……、るとは限らないぞっ!?
 みんなこっち向いてるけど、どこ見てるかまでは分からないじゃないかっ!??

「ポポッ!? カービィちゃん!?? こんな時までデタラメ言うんじゃないポよっ!?!?」

 そうだぞカービィ!
 ビビってちょっぴりちびっちまったじゃねぇかっ!!

「いや、カービィが正しい。敵の狙いは時の神の使者のみ……。ノリリア、先に行けっ!」

 カッコよく言っているつもりだろうけど、意味分かんないからなギンロ!
 お前まで何を言い出すんだっ!?

 困惑する俺とノリリア。
 するとグレコが、魔法弓に魔力を込めながら言った。

「ここは私達で食い止めるわ。ノリリア、先に行って頂戴!」

 ハッ!? なるほどそういう事かっ!??
 俺達で、ここにいるハーピーを倒そうって事なんだなっ!?!?

「ポポポッ!? なら、あたちも一緒にっ!!!」

「駄目だっ! おまいは行けっ!! みんなに指示を出すのはおまいだ、みんなを導くのがおまいの仕事だっ!!! 誰よりも早くユーザネイジアの木に辿り着いておかないといけねぇだろっ!!??」

 お、おぉう……
 カービィが、至極まともな事を言っている。
 明日は槍でも降るのだろうか?

「ポ……、で、でも……」

 頭上を覆い尽くすハーピーの大群に、ノリリアは躊躇する。
 確かに、この数を俺達だけでなんとかするのは不可能なんじゃないか? とも思えるけど……
 でも! やるっきゃないっ!!

 俺は、神様鞄の中から、エルフの盾を引っ張り出して左手に装備し、右手で万呪の枝を握り締めた。

「ノリリア行って! 僕達なら大丈夫!! 後で会おう、ユーザネイジアの木の下で!!!」

 ……カッコつけて言ってみたけど、恐怖で声は震えているし、なんなら体はガタガタだ。
 それでも、世界一のピグモルスマイルで、俺はニカッと笑って見せた。

「ポポ、モッモちゃん……。分かったポ! みんな、必ず後から来るポよっ!?」

「分かってる! 行けぇっ!!」

 叫ぶカービィ。
 するとノリリアは、ローブの内側から何の変哲もない、茶色い枯れ葉を一枚取り出して、自分の頭の上に乗せた。

 ……な、何をするつもり?

 そして、まるで忍者の様に、胸の前で手を合わせたかと思うと……

「ドロロロンポッ!」

 ハッ!? なっ!?? 何っ!?!?

 変な呪文みたいな言葉を口にしたノリリアは、足元から突然ボンッ! と噴き出した煙に、全身を包まれた。
 その煙の中から姿を現したのは、いつものノリリアではなく、四足歩行のピンクの狸だ。
 ローブも身に付けていないし、体の大きさもなんだか縮んでいる。

 ま、まさか、とは思うけど……
 ノリリアが、狸になった?

「先に行って待ってるポンッ!!!」

 そのまさかだった!?
 しかも、語尾が「ポ」じゃなくて「ポン」になってる!??
 狸感が満載っ!?!?

 狸になったノリリアは、森の中を一目散に駆けて行った。

 確かにこの森だと、二足歩行で走るよりも、四足歩行で獣の様に走って行った方がずっと速いとは思うけど……
 まさか、ノリリアが狸になれるだなんて、思ってもみなかったぞ。
 しかも、ドロロロンとか言ってた?
 ドロロロンて……、何?? 忍者なの???

「ギィエェー!!!」

 ひぃっ!?

 ボヤボヤ考えている俺に向かって、一羽のハーピーが奇声を上げながら急降下してきた。
 両足を振り上げて、その爪で俺の柔なボディーに襲い掛かろうとしている。
 が、しかし、その爪が俺に触れる事は無かった。

 シュン……、トスッ!

「ギェッ!?」

 グレコの放った荊の矢が、ハーピーの額を貫いた。
 ハーピーは一瞬の間に絶命し、バサリと地面に落下した。

「ねぇ!? ハーピーって絶滅危惧種だから、殺しちゃ駄目なのよねっ!??」

 えぇっ!? グレコ、倒した後でそれ言うっ!??
 支離滅裂過ぎないっ!?!?

「んだ! けどな、それは魔連(世界魔法連盟の略)の規定だ!! 騎士団は魔連に属してっから、その規定を守らにゃならんだろうが……、おいら達は違う!!!」

 えぇえっ!? そ、そういう解釈なのっ!??
 本当にそれでいいわけカービィ!?!?

「なるほど、そういう事であったか……。ならば、遠慮なく斬り捨てようではないか。我が冷凍魔法剣の威力、とくと見よっ! うぉおぉぉ~~~!!」

 ひぃっ!? 冷たいっ!!?

 ギンロ!
 全身から冷気発しないでっ!!
 こっちまで凍っちゃうっ!!!

「ギィギェエェェェーーーーー!!!!!」

 キャアッ!?
 仲間を殺されて、怒ってるぅうっ!??

 真っ赤な目を光らせて、怒り狂うハーピー達。
 
「来るぞっ!? おまいら、全力でやっちまえぇっ!!!」

 ぜっ!? 全力でっ!??
 ……いや、俺の全力って何っ!?!?

 戸惑う俺。
 弓を構えるグレコ。
 魔法剣に冷気を纏わせるギンロ。
 魔導書を開き、杖を構えるカービィ。 
 そして、こちら目掛けて急降下してくる、ハーピーの大群。

 嫌ぁあぁぁっ!?
 や、やめ、やめてぇっ!!?
 こっち来るなぁあぁぁ~!?!?

 ハーピー VS モッモパーティー。
 地上戦、開始。
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