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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

599:世界を見てみたくなった

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 夕刻、白薔薇の騎士団及びモッモ様御一行は、島の東端にある港町ローレへと辿り着いた。
 のだが……

「オラァッ! よこせぇっ!!」

「キャーーーー!!!」

「隠してねぇだろうなっ!?」

「有りったけ出しやがれっ!」

「た、助けてぇ~!!」

 港町ローレは、荒れに荒れていた。
 食べ物やその他の物資を奪い合い、争う紅竜人達。
 商店を開いていたのであろう建物は、軒並み崩壊している。
 そこかしこで、武器を手にした者達が暴れていて、死者も多数出ているようだ。
 力の無い女子供達は、自分の命を守る為に、必死に逃げ惑っていた。
 
「何これ……? 国が崩壊すると、こんなになっちゃうの??」

 目の前の光景に唖然とし、グレコが呟く。
 ミュエル鳥の背に乗って、空中から眼下を見下ろす俺たち。

 さすがに、この混乱はどうにも出来ないな。
 下手に仲介しても、簡単に治るとは思えない。
 それに数が多すぎるし、こっちの身が危ない。

「ポポ!? 町に降りるのは危険ポよ!! このまま港の商船まで行くポ!!!」

 ノリリアの指示で俺たちは、港に停泊している商船タイニック号まで飛んで行った。
 しかし、港も町さながら、大混乱だった。
 他の島から商売にやって来ている船に、紅竜人が群がっているのだ。

「乗せてくれぇっ!」

「この島はもう駄目だっ!!」

「連れてってくれぇっ!!!」

 船を取り囲み、口々に叫ぶ紅竜人達。
 大人しく乗船交渉している者はまだいい方で、船員を襲い、無理矢理に乗り込もうとしている者までいる。
 中には既に、勝手に船に乗り込んでいる者も……

「タイニック号、大丈夫かしら?」

 不安気な声を出すグレコ。

「大丈夫だよ。ザサーク船長は強いから」

 一抹の不安を抱えながらも、そう答える俺。

 夕日に照らされてオレンジ色に染まる空を飛び、港の端にあるタイニック号を目指す俺たち。
 そして、俺たちの目に映ったものは……

「なっ!?」

「うっわ~……、ある意味酷いわね」

 驚き、苦笑いする俺とグレコ。
 船上には、沢山のテーブルと椅子、酒樽が並べられていて、恒例の出航前夜の宴会準備が綺麗に整っている。
 そこには勿論、ワニ型獣人ダイル族の船員達も揃っていて、既に出来上がってるのか、ジャッキを片手にヘラヘラと笑っているではないか。
 一際大きな体の船長ザサークが、こちらに気付いて手を振った。

「おうっ! お前ら無事だったかっ!!」

 ザサークの笑顔に、俺たちはみんなホッと安堵した。

 甲板に降り立つミュエル鳥。
 随分とこの船に慣れたのか、俺たちを背から降ろした後、ミュエル鳥達は自ら荷穴から船内へと入って行った。

「ザサーク船長! 無事で良かったポよ!!」

「おうよっ! 一時危なかったんだがな……。さすがの紅竜人も、アーレイク島に向かう船なんぞには乗りたくなかったみたいだぜ?」

 ノリリアの心配を他所に、ニヤニヤと笑うザサーク。

「それより……、ダーラ! 料理を作ってくれ!! あのガキだけじゃ腕が足んねぇんだよっ!!!」

「まったく、仕方がないねぇ……。ちょっと待ってな!」

 俺達と一緒にトルテカから帰ったばかりのダーラは、ザサークに急かされてそのまま船内の食堂へと向かった。
 配給で疲れているだろうに、ご苦労様です。

「て事で……。みんなよく帰ったな! 予定通り明日の朝、この船はアーレイク島に向かって出発する!! 今夜は派手に盛り上がろうぜぇっ!!!」

「うぉおぉぉーーーー!!!!」

 ザサークの号令に、雄叫ぶ船員達。
 白薔薇の騎士団のみんなは、さすがに疲れている様子だが……

「イェーイ! 宴だぜぇ~!!」

 尻尾のないお尻を振って、小躍りするカービィ。

「ダーラ殿のスイーツが食べたいっ!」

 フンッと鼻を鳴らし、願望丸出しのギンロ。

「私は先にお風呂~♪」

 超絶マイペースなグレコ。

「僕は……、あっ! ダーラにオムレツ作ってもらおっ!!」

 俺たち四人は、案外元気だった。
 
 こうして無事商船タイニック号に辿り着いた俺たちは、最後の島アーレイク島に向けて、町の喧騒を背に、酒を片手に大盛り上がりした。 
 夜空には満点の星が輝いて、沢山の笑い声と共に夜は更けていった。






「うぅ……、おぇえ~」 

 甲板の端で、海に向かって嘔吐する俺。
 いつの間にか夜が明けてたらしく、辺りには朝靄が立ち込めている。
 東の空が薄らと白んで、間もなく夜明けだ。

 あぁ……、飲み過ぎた、気持ち悪い……

 いつも通り、楽しく飲んで歌って踊って騒いで、更に飲んでた俺は、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 目を覚ました時には、船の甲板の手摺りギリギリにいたのだ。
 海に落ちなかったのが奇跡だな、ははははは。

 甲板の上には、酔い潰れているカービィと、犬のように丸まって眠るギンロの姿がある。
 グレコは……、いないから、たぶん船室に戻ったのだろう。
 騎士団のみんなは、さすがにここには居ないな。
 船員達は、言わずもがな、いつもの二日酔いで死にそうな顔で出航の準備中だ。

 フラフラと甲板を横切り、町が見える所まで移動する俺。
 柵に寄りかかり、その景色をボーッと眺める。
 紅竜人が暮らすロリアン島の、東端に当たる港町ローレ。
 最初にここに着いた時は夜だったし、すぐに拉致されちゃったから、ちゃんと見るのは初めてなわけだが……、なんだろう、残念極まりないな。
 赤岩の建物が立ち並ぶ町は、至る所から白い煙が上がっている。
 たぶん、争いが激化して、火を付けた奴がいるんだろう。
 建物も、昨日よりも更に、随分と壊れてしまっていた。

「あ~あ……、もっと、綺麗な町が見たかったなぁ~」

 一人呟き、ムスっとしていると、背後から誰かが近寄って来た。
 聞いた事のある足音だから、仲間の誰かだろうと思って振り返らないでいると……
 
「そう気落ちするな。次に来る時には、きっと元の姿を取り戻しているだろう」

 聞き覚えのある声に、俺の耳がピクリと動く。

 ん? あれ??
 この声って……、まさかっ!??

 バッ! と振り向くと、そこにはなんと、ティカが立っているではないか。

「はっ!? ティ!?? なんっ!?!?」

 驚き過ぎて、言葉にならない俺。

 なんでティカがここにっ!?
 トルテカに居るんじゃなかったっけ!??
 え、幻っ!!??
 てか、どうやって船に乗ったわけ!?!??

 ティカは、その格好が随分と様変わりしている。
 兵士の鎧を脱ぎ捨てて、マントを纏ったその姿はまるで旅人だ。
 背には長い槍を背負い、左腕には小さな鱗の盾を装備している。
 そしてそのお尻には、ちょん切られて無くなったはずの、太くて立派な尻尾が見事に生えていた。

「少々迷ったのだがな……。王国が失われた今、自分が為すべき事はもはやここにはない。勿論、トルテカに留まり、チャイロ様をお守りする事も考えたのだが……。トエトとゼンイが居れば充分だろう。それよりも自分は、世界を見てみたくなった」

「世界をって……、え? どういう事??」

 まだ状況が飲めない俺に対し、ティカはニヤリと笑う。

「モッモ、自分は君について行く。共に世界を旅しよう!」

 はっ!?
 えぇっ!??
 ティカが、一緒に!?!?

 紅竜人特有の赤い鱗が、朝日に照らされてキラキラと輝く。
 差し出された手は、指先に鋭利な爪が生え揃う、まるで恐竜の様な恐ろしい手だ。
 しかしながら、その真っ赤な瞳は優しく、俺を真っ直ぐに見つめていた。

 こうして思い掛けず、旅の仲間がまた一人、増えたのでした。

 チャラララ~ン♪
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