570 / 801
★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
557:別の方法
しおりを挟む
「チャイロ~? おはよぉ~??」
少しだけ開かれたままだった扉の隙間から、俺はチャイロの部屋へと入った。
いつもなら薄暗い部屋の中が、今はとても明るい。
何故なら、締め切られていたはずのカーテンが全て開かれており、窓から眩しいくらいの朝焼けの光が差し込んでいるからだ。
窓際に立ち尽くすチャイロは、こちらに背を向けたまま、外に広がる景色を見つめていた。
その光景に、俺は違和感を覚える。
「え? ……あれ?? 結界は???」
そうなのである。
この部屋唯一のあの大きな窓の前には、結界があったはずなのだ。
宰相イカーブが創り上げた、電気ビリビリな結界が……
それが今、綺麗さっぱり無くなっている。
消えた、のか? どうして??
「おはよう、モッモ」
困惑する俺に対して、チャイロはこちらを振り向く事なくそう言った。
声の感じからして、今はイグではなくチャイロのようだ。
「ここにあった、あのビリビリしたやつ……。僕が触れると消えちゃったんだ。不思議だよね。モッモは気絶しちゃったのに、僕には痛くも痒くも無かったよ」
独り言のように呟くチャイロ。
触れたら消えたって……、マジか?
じゃあ、俺がビリビリになったのは何だったんだ??
それとも、チャイロはイグで、旧世界の神様だから、あんな結界くらいなら簡単に破れちゃうって事なのか???
いずれにせよ、チャイロの言い方だと、俺の事をちょっぴり小馬鹿にしてる感じだけど、全然悪気は無さそうだから深くは考えないでおこう。
「太陽の光って、こんなにも暖かくて、優しいものだったんだね。僕……、ずっと、光を見る事が怖かったんだ。忘れていたい何かを、思い出しちゃいそうで……。けど……、うん、もう大丈夫だ」
チャイロは、自らを納得させるかのように、こくんと一回頷いた。
そして、ゆっくりとこちらを振り返って……、あれ?
「モッモ、昨日はありがとう。僕の事、助けるって言ってくれて。本当に……、本当に嬉しかった。僕の中には、もう一人の誰かがいる。それがいったい何者なのか……。本当は、ずっと前から気付いていたんだ。だけど怖くて、認めたくなくて……。でも、昨日モッモと彼が話すのを聞いて、僕が生まれた意味、彼が生まれた意味が、少しだけ分かった気がするよ」
そう言ったチャイロの、その大きな丸い瞳は、これまでと違っている。
紅竜人特有の血のように真っ赤な色をしていたはずのチャイロの瞳は、昨晩イグに出会った時のまま、虹色に光り輝いているのだ。
「チャイロ、その目……、どうして?」
動揺する俺に対し、チャイロはニコッと笑う。
「モッモ、僕はね……。もう二度と、死にたいなんて言わない。自ら命を投げ出そうなんて、そんな愚かな事、もう二度としないよ。その為にも僕は、僕を受け入れようと思う。今の僕も、僕の中にいるもう一人の僕も、全部ひっくるめて僕なんだって。やっと分かったんだ。僕は僕のまま、ありのままでいいんだって。僕はチャイロだ。そしてイグでもある……。それが僕なんだよ。僕は僕を認めるよ、ありのままの僕をね」
出会ってから一番の、とても自信に満ち溢れた表情で、チャイロはそう言った。
虹色に輝く瞳を、キラキラと煌めかせながら。
どういう事なのかは、さっぱり分からないけれど……
あれか? チャイロとイグの気持ちが一つになったから、真っ赤だった瞳が虹色に変わったのか??
心が一つになった、とでも言った方がいいか???
……まぁどっちにしろ、凡人の俺には全く意味が分からん現象だな。
チャイロの気持ちも、イグの気持ちも、俺には全然理解出来ない。
自分の中に別の人格がいて、自分が知らない間に好き勝手行動されて、好き勝手喋られるなんざ、考えただけでも頭がおかしくなっちゃいそうだ。
だけど、チャイロはそれを受け入れると言う。
自分の中にイグがいて、自分もまたイグなのだと……、それが自分なのだと。
なんともまぁ、体の大きさは俺と然程変わらないくせに、チャイロは俺の何倍も大きな心の器をお持ちだったようだ。
なんだか悔しいような、羨ましいような……
ちょっぴり複雑な気持ちになった俺だったが、チャイロの清々しい表情を前にして、そんな事は考えるだけ野暮だと思い直した。
「それで……、それでね、モッモ。前にも話した事があったと思うんだけど……。僕の中にいるもう一人の僕、イグはね、これまでずっと、僕にこう言い続けてきたんだ。『破壊しろ。全てを破壊しろ』ってね。今までは怖くて、その言葉の真意もよく分からないままに怯えていたけど……。でも、ちゃんと理由があったんだね。僕の中にいるイグは、友達のモシューラさんを助けたいだけなんだ。つまり……、僕を助けたいと言ってくれるモッモと、モシューラさんを助けたいって言っているイグは、同じだよね? 同じように、優しいんだよね??」
チャイロに問い掛けられた俺は、あまりよく考えずに、コクコクと頷いてしまう。
……ん~? ま、まぁ~、同じかしらね??
だけど、俺はチャイロを助ける為だとしても、全てを破壊しようとまでは思わないけどね。
「そっか……。じゃあ、僕がやるべき事は一つだ。イグが望んでいる事を、僕も望むよ。モシューラさんを助ける為に、全てを破壊しなくちゃ」
……ファッツ???
「え? は、破壊って……??」
突然のチャイロの破壊宣言に、俺は眉間に皺を寄せる。
「実は……、昨日の夜、夢の中でイグが僕に教えてくれたんだ。モシューラさんは、この王宮が建てられている金山の中に閉じ込められているんだって。だからモシューラさんを助ける為には、この王宮ごと、金山を壊さなきゃならないんだよ」
「はっ!? えっ!?? そうなのっ!?!?」
待って待って!
それは初耳だわっ!!
イグ、俺にはそんな事言ってなかったけどっ!!!
「だけど、壊すって言っても僕にそんな力は無い。勿論モッモにも無いでしょ?」
「うっ!? ……力は、皆無だね」
チャイロよ、勿論とか言わなくて良くない?
その言い方だと、俺には力が無いって鼻から決め付けてたよね??
……いや、正解なんだけどね。
「そこで必要となるのが鍵なんだよ。大昔に、生贄の泉に沈んだロリアンさんって人が持っていた鍵が。それを使って、扉を開くんだ」
「扉を? えっとぉ……、え?? 鍵が必要なのは聞いていたけれど、扉っていうのは……、どこの扉のなの???」
「金山の内部へと繋がる扉だってイグは言っていたけど……、どこにあるのかまでは言ってなかったな。また後で聞いてみるよ」
また後でって……、どういう仕組みになってるのさ君たちは? 今聞けないのか??
「わ、分かった……。えと、じゃあ……、やっぱりチャイロは、一度、泉に沈む気なんだね?」
「……うん、そうしないと鍵が手に入らないからね。でも僕、その……。実は、泉が何なのかもよく分かってないんだ。水が沢山あるって事は、絵本を読んで知っているんだけど……、そうなの?」
おっとぉ~? まさかのここで、超絶世間知らず発言ですかぁ~??
でもまぁ確かにそうか、チャイロは生まれてからずっと、この暗い部屋の中だけで生活してきたんだもんな。
外の世界の事なんて、何も知らなくて当然だ。
「う~んとねぇ~……。一応その、世間一般的にいう泉っていうのは、地面にポッカリ開いた穴に水がたっぷり溜まっている場所の事を言うんだけど……。僕はその生贄の泉には行った事が無いから、実際にどんな場所かはよく分からない。だけど、十中八九、泉と呼ばれる場所は、沢山の水で満たされているよ」
「そうなんだ。ん~、どうしよう……。イグは泉の底に行かなくちゃならないって言っていたけど、水の中だと息が出来ないんだよね?」
「あ~、うん。水中で息は出来ないね。だから、本当に泉の底まで沈むつもりなら、息を止めるしかないと思う」
「息を止める? う~ん……、モッモ、そんな事できるの?? 大丈夫かなぁ???」
俺の言葉を真に受けて、不安気な様子で顎に手を当てて首を捻るチャイロ。
俺はというと、悩むチャイロを横目で見つつ、「そんな事は絶対に不可能だよ」という答えを既に導き出していた。
そもそもが、俺は泳げないし、チャイロも泳げない。
そんな二人で水の中に飛び込む事自体が無謀なのだ。
仮に泳げなくても、目的地は泉の底だから、じっと耐えて沈んでいけば、或いは底には辿り着けるかも知れないが……
いくら長く息を止められたとしても、せいぜい1分くらいが限界だろう。
そんな短時間で、どれほどの深さがあるのかも分からない泉の底まで行って、更にはどんな物かも分からない鍵を探すなんて事は、どう考えても到底不可能だ。
もはやそれは、生贄という名の自殺に等しいだろう。
そこで、俺は考えた。
どうにかして、自らが沈む事とは別の方法で、泉の底にあるはずの鍵とやらを探せはしないかと。
例えば、泉の水を全て吸い取って、底を露わにするのはどうか? と……
そして思い出したのだ、あのオコゼのような不細工な魚面と、お馴染みの『ギョギョ!?』という口癖を。
あ~……、なるほど、その手があったか。
久しく呼び出していないような気がするが……、正直、あいつには会いたくない。
態度がでかいし、煩いし、何より不細工だから。
だけど今、あいつを使う以外に良い方法が思い付かない。
俺は諦めたかのように、フーッと大きく息を吐く。
「ねぇチャイロ。要はさ……、その、鍵が手に入ればいいんだよね? とりあえずは」
「え? あ~……、うん、そうだね。イグは、ロリアンの鍵が必要だって言っていたから」
「ふむ。じゃあ、鍵さえ手に入るなら、別に泉の底まで僕達が沈む必要は無いわけだよね?」
「そう、だね。けど……、う~ん」
なんだか歯切れの悪いチャイロを他所に、『無礼者っ!』というお決まりの台詞を脳裏に思い出しつつ、俺はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
少しだけ開かれたままだった扉の隙間から、俺はチャイロの部屋へと入った。
いつもなら薄暗い部屋の中が、今はとても明るい。
何故なら、締め切られていたはずのカーテンが全て開かれており、窓から眩しいくらいの朝焼けの光が差し込んでいるからだ。
窓際に立ち尽くすチャイロは、こちらに背を向けたまま、外に広がる景色を見つめていた。
その光景に、俺は違和感を覚える。
「え? ……あれ?? 結界は???」
そうなのである。
この部屋唯一のあの大きな窓の前には、結界があったはずなのだ。
宰相イカーブが創り上げた、電気ビリビリな結界が……
それが今、綺麗さっぱり無くなっている。
消えた、のか? どうして??
「おはよう、モッモ」
困惑する俺に対して、チャイロはこちらを振り向く事なくそう言った。
声の感じからして、今はイグではなくチャイロのようだ。
「ここにあった、あのビリビリしたやつ……。僕が触れると消えちゃったんだ。不思議だよね。モッモは気絶しちゃったのに、僕には痛くも痒くも無かったよ」
独り言のように呟くチャイロ。
触れたら消えたって……、マジか?
じゃあ、俺がビリビリになったのは何だったんだ??
それとも、チャイロはイグで、旧世界の神様だから、あんな結界くらいなら簡単に破れちゃうって事なのか???
いずれにせよ、チャイロの言い方だと、俺の事をちょっぴり小馬鹿にしてる感じだけど、全然悪気は無さそうだから深くは考えないでおこう。
「太陽の光って、こんなにも暖かくて、優しいものだったんだね。僕……、ずっと、光を見る事が怖かったんだ。忘れていたい何かを、思い出しちゃいそうで……。けど……、うん、もう大丈夫だ」
チャイロは、自らを納得させるかのように、こくんと一回頷いた。
そして、ゆっくりとこちらを振り返って……、あれ?
「モッモ、昨日はありがとう。僕の事、助けるって言ってくれて。本当に……、本当に嬉しかった。僕の中には、もう一人の誰かがいる。それがいったい何者なのか……。本当は、ずっと前から気付いていたんだ。だけど怖くて、認めたくなくて……。でも、昨日モッモと彼が話すのを聞いて、僕が生まれた意味、彼が生まれた意味が、少しだけ分かった気がするよ」
そう言ったチャイロの、その大きな丸い瞳は、これまでと違っている。
紅竜人特有の血のように真っ赤な色をしていたはずのチャイロの瞳は、昨晩イグに出会った時のまま、虹色に光り輝いているのだ。
「チャイロ、その目……、どうして?」
動揺する俺に対し、チャイロはニコッと笑う。
「モッモ、僕はね……。もう二度と、死にたいなんて言わない。自ら命を投げ出そうなんて、そんな愚かな事、もう二度としないよ。その為にも僕は、僕を受け入れようと思う。今の僕も、僕の中にいるもう一人の僕も、全部ひっくるめて僕なんだって。やっと分かったんだ。僕は僕のまま、ありのままでいいんだって。僕はチャイロだ。そしてイグでもある……。それが僕なんだよ。僕は僕を認めるよ、ありのままの僕をね」
出会ってから一番の、とても自信に満ち溢れた表情で、チャイロはそう言った。
虹色に輝く瞳を、キラキラと煌めかせながら。
どういう事なのかは、さっぱり分からないけれど……
あれか? チャイロとイグの気持ちが一つになったから、真っ赤だった瞳が虹色に変わったのか??
心が一つになった、とでも言った方がいいか???
……まぁどっちにしろ、凡人の俺には全く意味が分からん現象だな。
チャイロの気持ちも、イグの気持ちも、俺には全然理解出来ない。
自分の中に別の人格がいて、自分が知らない間に好き勝手行動されて、好き勝手喋られるなんざ、考えただけでも頭がおかしくなっちゃいそうだ。
だけど、チャイロはそれを受け入れると言う。
自分の中にイグがいて、自分もまたイグなのだと……、それが自分なのだと。
なんともまぁ、体の大きさは俺と然程変わらないくせに、チャイロは俺の何倍も大きな心の器をお持ちだったようだ。
なんだか悔しいような、羨ましいような……
ちょっぴり複雑な気持ちになった俺だったが、チャイロの清々しい表情を前にして、そんな事は考えるだけ野暮だと思い直した。
「それで……、それでね、モッモ。前にも話した事があったと思うんだけど……。僕の中にいるもう一人の僕、イグはね、これまでずっと、僕にこう言い続けてきたんだ。『破壊しろ。全てを破壊しろ』ってね。今までは怖くて、その言葉の真意もよく分からないままに怯えていたけど……。でも、ちゃんと理由があったんだね。僕の中にいるイグは、友達のモシューラさんを助けたいだけなんだ。つまり……、僕を助けたいと言ってくれるモッモと、モシューラさんを助けたいって言っているイグは、同じだよね? 同じように、優しいんだよね??」
チャイロに問い掛けられた俺は、あまりよく考えずに、コクコクと頷いてしまう。
……ん~? ま、まぁ~、同じかしらね??
だけど、俺はチャイロを助ける為だとしても、全てを破壊しようとまでは思わないけどね。
「そっか……。じゃあ、僕がやるべき事は一つだ。イグが望んでいる事を、僕も望むよ。モシューラさんを助ける為に、全てを破壊しなくちゃ」
……ファッツ???
「え? は、破壊って……??」
突然のチャイロの破壊宣言に、俺は眉間に皺を寄せる。
「実は……、昨日の夜、夢の中でイグが僕に教えてくれたんだ。モシューラさんは、この王宮が建てられている金山の中に閉じ込められているんだって。だからモシューラさんを助ける為には、この王宮ごと、金山を壊さなきゃならないんだよ」
「はっ!? えっ!?? そうなのっ!?!?」
待って待って!
それは初耳だわっ!!
イグ、俺にはそんな事言ってなかったけどっ!!!
「だけど、壊すって言っても僕にそんな力は無い。勿論モッモにも無いでしょ?」
「うっ!? ……力は、皆無だね」
チャイロよ、勿論とか言わなくて良くない?
その言い方だと、俺には力が無いって鼻から決め付けてたよね??
……いや、正解なんだけどね。
「そこで必要となるのが鍵なんだよ。大昔に、生贄の泉に沈んだロリアンさんって人が持っていた鍵が。それを使って、扉を開くんだ」
「扉を? えっとぉ……、え?? 鍵が必要なのは聞いていたけれど、扉っていうのは……、どこの扉のなの???」
「金山の内部へと繋がる扉だってイグは言っていたけど……、どこにあるのかまでは言ってなかったな。また後で聞いてみるよ」
また後でって……、どういう仕組みになってるのさ君たちは? 今聞けないのか??
「わ、分かった……。えと、じゃあ……、やっぱりチャイロは、一度、泉に沈む気なんだね?」
「……うん、そうしないと鍵が手に入らないからね。でも僕、その……。実は、泉が何なのかもよく分かってないんだ。水が沢山あるって事は、絵本を読んで知っているんだけど……、そうなの?」
おっとぉ~? まさかのここで、超絶世間知らず発言ですかぁ~??
でもまぁ確かにそうか、チャイロは生まれてからずっと、この暗い部屋の中だけで生活してきたんだもんな。
外の世界の事なんて、何も知らなくて当然だ。
「う~んとねぇ~……。一応その、世間一般的にいう泉っていうのは、地面にポッカリ開いた穴に水がたっぷり溜まっている場所の事を言うんだけど……。僕はその生贄の泉には行った事が無いから、実際にどんな場所かはよく分からない。だけど、十中八九、泉と呼ばれる場所は、沢山の水で満たされているよ」
「そうなんだ。ん~、どうしよう……。イグは泉の底に行かなくちゃならないって言っていたけど、水の中だと息が出来ないんだよね?」
「あ~、うん。水中で息は出来ないね。だから、本当に泉の底まで沈むつもりなら、息を止めるしかないと思う」
「息を止める? う~ん……、モッモ、そんな事できるの?? 大丈夫かなぁ???」
俺の言葉を真に受けて、不安気な様子で顎に手を当てて首を捻るチャイロ。
俺はというと、悩むチャイロを横目で見つつ、「そんな事は絶対に不可能だよ」という答えを既に導き出していた。
そもそもが、俺は泳げないし、チャイロも泳げない。
そんな二人で水の中に飛び込む事自体が無謀なのだ。
仮に泳げなくても、目的地は泉の底だから、じっと耐えて沈んでいけば、或いは底には辿り着けるかも知れないが……
いくら長く息を止められたとしても、せいぜい1分くらいが限界だろう。
そんな短時間で、どれほどの深さがあるのかも分からない泉の底まで行って、更にはどんな物かも分からない鍵を探すなんて事は、どう考えても到底不可能だ。
もはやそれは、生贄という名の自殺に等しいだろう。
そこで、俺は考えた。
どうにかして、自らが沈む事とは別の方法で、泉の底にあるはずの鍵とやらを探せはしないかと。
例えば、泉の水を全て吸い取って、底を露わにするのはどうか? と……
そして思い出したのだ、あのオコゼのような不細工な魚面と、お馴染みの『ギョギョ!?』という口癖を。
あ~……、なるほど、その手があったか。
久しく呼び出していないような気がするが……、正直、あいつには会いたくない。
態度がでかいし、煩いし、何より不細工だから。
だけど今、あいつを使う以外に良い方法が思い付かない。
俺は諦めたかのように、フーッと大きく息を吐く。
「ねぇチャイロ。要はさ……、その、鍵が手に入ればいいんだよね? とりあえずは」
「え? あ~……、うん、そうだね。イグは、ロリアンの鍵が必要だって言っていたから」
「ふむ。じゃあ、鍵さえ手に入るなら、別に泉の底まで僕達が沈む必要は無いわけだよね?」
「そう、だね。けど……、う~ん」
なんだか歯切れの悪いチャイロを他所に、『無礼者っ!』というお決まりの台詞を脳裏に思い出しつつ、俺はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
497
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。


器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる