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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

552:虹色の瞳のイグ曰く

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 サクサクサク……、ペタペタペタ……、ポンポンポン!

『モッモ様! 終わりました!!』

   俺に向かってニッコリと微笑みながら、ピシッと敬礼する土の精霊ノームのチルチル。
 チャイロの部屋に続く穴と、中部屋へと続く穴を、元通りの壁に戻してくれたのだ。

「あぁ……、ありがとね~」

   侍女の待機部屋に戻った俺は、どんよりした気分で壁にもたれかかった格好のまま、お礼を言った。

 なんか、ここ最近の疲れが今、ドッと押し寄せてきてますね、はい。
 頭がボーッとして、体が嫌に重い。

『大丈夫ですか? 随分とお疲れの御様子ですが……。いったい何者だったのですか?? この呪縛の間に封印されている者は……???』

   心配そうに尋ねるチルチル。
 そんなチルチルを、思わずジトっとした目で見てしまう俺。

 正直、今は話すのも面倒臭いほどなんだけど……
   でも、いろいろと協力してもらった手前、明らかになった事実を何も知らせずに帰れと言うのも可哀想である。

「あぁ……、えっとねぇ……。なんか、旧世界の神とか言ってたよ」

 ボソボソと説明する俺。
 すると……

『きゅっ!? 旧世界の神ぃいっ!??』

   驚いたチルチルの声が部屋中に響き、耳がキーーーン!
   俺は残念なお顔になりながら、両手で耳を塞いだ。

 オーマイガッド……
 今の俺には、そのボリュームのハイトーンはちょいとキツイっす……、ぐへっ。

『そんな!? まさかっ!?? 名はっ!?!? 名は何と名乗ってましたかっ!?!!?』

 俺の様子など御構い無しに、グイグイ質問してくるチルチル。

「えぇ~、えとぉ~……、イグ?」

『いぃい~!? ぐぅうぅぅ~~!!?』

   円な瞳が飛び出しちゃいそうなほどに目を見開いて、チルチルはまたしても大声で叫んだ。
 その声がまた高くて、よく通って、頭にぐわんぐわん響いて……

「ち、チルチル……。お願い、もうちょっとだけ、静かにしてぇ~……」

『はっ!? 失礼しました!! あまりの事に驚いてしまって。でもまさか、そんな……。いえ、あり得ない事ではないのですが……。でも、どうしてここに……?』

   かなり困惑した様子で、何かを考えているかのような表情を浮かべながら、部屋を不必要にウロウロするチルチル。
 
「僕にはその、旧世界の神とか、イグとか、全然分からないんだけど……。でも、友達を助けに来たって言ってたよ?」

『友達!? ……どんな友達なんだろう? 友達って、仲間?? 仲間だとしたら、他にも神代の悪霊がここに???』

 独り言の様にぶつくさと呟くチルチル。
 その視線は右往左往していて、どうやらとても焦っているらしい。
 
「……あの、神代の悪霊って何? まさかと思うけど、チャイロは悪霊なの?? 蛾神モシューラを助けたいって言ってたんだけど。なんか……、この金山の下に埋まってて、邪神になり掛けているらしいんだ」

『邪神!? 蛾神が邪神にっ!?? 埋まってるって、どうしてっ!?!?』

 いつもはほんわかとした雰囲気で可愛らしいチルチルだが、あれはどうやら外面らしい。
 敬語じゃなくなっているし、表情もどちらかというと怖い。
 きっと、今のこの状態が本来のチルチル……、つまり、素はこうなんだろうな。

「えと……、聞きたい?」

『勿論っ!!!』

   鼻息荒く、頷くチルチル。
 顔は真剣そのもので、ピリピリとした緊張感を漂わせてくる。

 なんだか……、グレコと話している様な気分になってきたぞ。
 後でグレコ本人にも同じ事を伝えなきゃならないので、正直チルチルに説明するのはとても面倒臭いのだが……
   どうにも話をしないと帰ってくれなさそうなので、俺は諦めて全てを打ち明けた。






 数分前。
 チャイロこと、虹色の瞳のイグ曰く……

『今より五百年の昔、この地に悪魔が飛来した。奴は事もあろうに、自らを白き神などと偽って、時代の王テペウにこう言った。蛾神モシューラを捕らえれば国は救われる、民は助かる、とな。当時は、かつてのムームー大陸が崩壊し、このピタラス諸島はどこもかしこも混乱の最中にあった。紅竜人の国も例外では無い。テペウは藁にもすがる思いで、白き神の助言を実行したのじゃ。それまで紅竜人の為に、この地に実りを与え続けていた蛾神モシューラを捕らえ、巨大な金山の中に閉じ込めた……。それが事の始まりじゃよ』

「つまり、悪魔が嘘をついて、蛾神モシューラを捕まえさせた……。どうして? 悪魔は何故そんな事を??」

『恐らく、モシューラの持つ神の力を奪い取る為じゃろう。しかしながら、相手は神。真っ向から出向いても勝敗は見えておる。そこで悪魔は、長年モシューラを敬い奉ってきた紅竜人を利用して、自らの手を汚す事なく、モシューラを封印する事にした。モシューラは神とて生き物じゃ。何年も何十年も封印され続ければ、腹は減るし精神も病む。悪魔は、モシューラが弱ったところを狙うつもりだったんじゃろうな。しかしながら、奴の思惑はそう上手くはいかなかった。紅竜人の危機が訪れし時、ククルカンはこの世に生まれ落ちる……、わしが創り上げたこの世の理じゃ。そしてその理通り、ククルカンの再来は出現し、たまたまそこに居合わせたロリアンと共に、悪魔はその身を滅ぼされた。本来ならば、そこで奴の魂は冥界へと向かい、復活する事も無かったはず。肉体の一部でもこの地に残っておれば話は別じゃが、ロリアンは賢く知恵があり、用意周到じゃった。奴が決して蘇らぬようにと、闇の精霊の力を使って、奴の肉体を全てこの世から抹消したのじゃ。そうする事で、ロリアンは悪魔の蘇りを封じた……、はずじゃった。だが奴はここに留まった、留まってしまった。愚かなテペウ王の進言によって、奴はテペウの体を我が者とし、その死後もなお、肉体の内に何百年も潜んでおったのじゃ。魂だけの存在でな』

「それって……? あの、ごめんなさい、よく分からないんですけど……。悪魔が復活するには、この世に肉体が残っていないと無理って事なんですか??」

『如何にもそうじゃ。だが、その肉体というのも、どこかに血の一滴でも残ってさえいれば、悪魔は蘇る事が出来る。それが奴らの恐ろしさの一つだとも言えよう。この世界には、悪魔の臓物や角、翼といった肉体の一部を、コレクションとして保有したがる馬鹿な輩がいるようじゃが、あれは自殺行為にも等しい。いつまた、冥界の渦より抜け出た悪魔の魂が、その残った肉体に宿るとも限らん。奴らの魂はわしら神のように不滅で不変じゃ。しかしながら、この世に肉体が残っておらぬ魂だけの存在ならば、本来は生まれた世界に戻る。つまるところ、この世界に悪魔を蘇らせぬ方法は二つ。神の力を持った者が、奴らの肉体も魂も、その全てを灰に変えてしまう事。これは実質、奴らの死を意味する。そして、神の力を持たぬ者であっても、奴らの肉片の一欠片も血の一滴も残さずにこの世から抹消する事で、この世界に悪魔が蘇る事を阻止出来るのじゃ。ロリアンは、神の力を持ってはいなかった。故に、後者の方法で悪魔を倒そうとした。闇の精霊の力を借りて、異次元の闇の渦へと悪魔の肉体全てを葬る事で、この世界での復活を阻止しようとしたんじゃよ』

「な、なるほど……。そんなルールがあったのか……。イゲンザ島のグノンマルと、コトコ島のハンニは、最後は灰になっていたから……、きっともう蘇らないはず。けど、ニベルー島の十番目のテジーは確か、白い炎に包まれて、骨だけになっていた……? あの、骨が残っていたら、ヤバいですか??」

『白い炎というのはなんじゃ?』

「あ、えと……。僕から神の力を奪って、自分の体に取り込んで……、そしたら勝手に発火して、自滅したんです」

『ふん、ならば問題なかろう。其奴は神の力をみくびっておったんじゃ。そもそもが、異界の魔物風情がちぃとばかり力を得てこちらに来たとて、神の力を己の体に取り込めるわけがないんじゃ。そんなのは阿呆がする事じゃ。欲する事自体間違っておるのじゃからな。今、この王宮に潜んでいる奴も同等に阿呆とみた。魂だけの存在じゃというのに、この世にしがみつくようにして居残っているその根性には感心するが……、いかんせん阿保じゃの、大阿保じゃ。蛾神の持つ神の力を我が物にしようなど、なんとも浅はかで低能な考えじゃて。奴もまた、神の力を手に入れたとて、その先には自滅の道しかあるまい』

「そ、そうなんだ……。え? じゃ、じゃあ、自滅させちゃえばいいんじゃ??」

『馬鹿者めっ! これだからお前は糞鼠なんじゃっ!! 脳味噌の小こい阿呆カスめがぁっ!!!』

「ひぃいっ!? なっ!?? なんでっ!?!?」

『モシューラはわしの友じゃっ! みすみす殺されて堪るかぁあっ!! ド阿呆めぇえぇぇっ!!!』

「ごぉっ!? ごめんにゃしゃいぃぃ~~~!!」

『謝るくらいなら、それ以前に頭を働かせんか! たくっ……』

「う、うぅ、怖い……。と、とりあえず……、五百年前に何があったのかと、悪魔の狙いが何なのかは、よく分かりました、ぐすん……」

『分かったのなら、お前は明日、セノーテに沈め』

「そ……、それは、どうしてなんですか? ぐすん……」

『あの泉には、ククルカンと共に、ロリアンも沈められたのじゃ。モシューラが封印された場所へと到達する為には、おそらく鍵が必要となる。わしが見ていた限りでは、その鍵はロリアンが持っていたはず。他の者の手にあらば、とっくに鍵は開かれているじゃろう。しかし、未だ誰にも開かれていないとなれば、鍵が見つかってないという事。つまり、ロリアンは鍵を誰に託す間も無く生贄とされて、鍵と共に泉に沈められたのじゃ。泉の底には、必ずやモシューラの元へと向かう為の鍵が存在するはずなんじゃ』

「はずはずって……、絶対では無いんですよね?」

『ふん、生意気言いおって。この世に絶対などありはせん』

「えぇ~……、そんなぁ……」

『しのごの言わずに泉に沈め馬鹿者めっ! お前、先ほどわしと友だとか抜かしておったな? 友ならば助け合うのが当然じゃろがっ!! 泉に潜って鍵を探せっ!!! わしは上手く泳げんのじゃ、助けろっ!!!!』

「そっ!? そんなぁ~!?? ぼ……、僕も泳げませんよっ!?!?」

『何じゃとっ!? この期に及んで、なんという役立たずじゃ……。ええい、ならば明日の夜までに泳げるようになれ!! ド阿呆めがっ!!!』

「そんな無茶なぁぁっ!?!!?」
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