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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

551:ここにいる理由

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   毎度のことながら、話が急展開過ぎてサッパリ分からん。

   蛾神が邪神てどういう事っ!?
   モシューラってなんか聞いた事ある響きなんだけど気のせいっ!??
   てか……、あんたはそもそも何なのよっ!?!?

   あわあわと、心の中で慌てふためく俺。
   その気持ちを外に出さない理由はただ一つ。
   目の前に座る、虹色の瞳をしたチャイロが非常におっかないから。
   
   こいつ……、俺に対していろいろ酷くないか?
   阿呆とか腑抜けとか、溝鼠とか言ったよな??
   それに、暴言吐くだけならまだしも、回し蹴りを食らわすとは、もはや暴行じゃないか。
   加えて言えば、この世界一愛らしいピグモル族である俺にだぞ???
   完全に頭おかしいだろこいつ。

『お前……。今腹の内で、わしの事を罵りおったな?』

   そう言って、大層人相の悪い表情と、何もかもを見透かしているような目付きで、ギロリと俺を睨みつけるチャイロ。

「ふぁっ!? とととっ! とんでもないっ!! そんなそんなそんなっ!!!」

   両手をバタバタさせて否定する俺。

『嘘をつくな。お前如き虫ケラの考えなど、わしには全てお見通しじゃ、ド阿呆めが』

   俺は、また横っ腹を蹴られるのではと構えるも、チャイロは偉そうに胡座をかいたままの姿勢で、そこから動く気はなさそうだ。

『まぁ良い、虫ケラでも使い道はある……。いいか糞鼠、お前は明日、生贄となれ。そして北の地の彼の泉の底へと沈むのじゃ。そこにこそ、お前が求める者が待っておる』

「いっ!? えぇっ!??」

   なななっ!? 何言ってんのっ!??
   生贄になれって、馬鹿じゃないのっ!?!?

『なんじゃ、不服か? 神であり、この国の次期国王であるわしの命令が、聞けんというのか??』

「いやっ!? いやいやっ!!? ちょ……、ちょっと待ってください!!!」

   眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな目付きで俺を睨むチャイロに対し、俺はまたもや両手をバタバタとさせる。

   全くもって意味が分からんっ!
   生贄になる? ……俺が??
   いやいやなんでっ!? どうしてっ!??
   てか……、二度目だけど、あんたはそもそも何なのよっ!?!?

「あああっ!? あなたはっ!?? 何者なんですかっ!?!?」

   ぷるぷると小刻みに震えながら俺は叫んだ。
   また暴力を振るわれては困るので、出来るだけ身を縮めた格好で。

『何者かじゃと? さっき教えてやったではないか、もう忘れたのか?? 物覚えの悪い奴じゃなぁ。わしは旧世界の神、イグじゃ』

「そ、それはさっき聞いたけど……。えと……。ぼ、僕の知ってる範囲では、神様はみんな、金色の瞳を持っているはずなん……、ですけど?」

『それはお前の知識が浅いだけじゃ』

   なっ!? ……マジかぁ。
   つまり、世界には、虹色の瞳を持つ神様もいるってこと??
   うわぁ~、何それ知らないしぃ~。

「えっとぉ……。ごめんなさい、まだ分からないんですけど……。仮にその、あなたが神様だとして、どうしてチャイロの中にいるんですか?」

『チャイロの中にいる? わしがか??』

「は……、はい」

   だってそうだろ? 
   なんで神様がチャイロの中にいるんだよ??
   どっから入り込んだんだ???
   
『阿呆め。これだから脳味噌の小さい奴は嫌いなんじゃ』

   ななっ!? なんだとぅっ!??

   呆れ返った様子で俺を見るチャイロに対し、心の中で憤慨する俺。

『チャイロは……、この体は、産まれた時からずっとわしじゃ。わしは神ゆえ、自分の意思でこの時代に生まれ落ちた。しかし、幼い体に幾千年の記憶を宿す事は難しい。精神が破綻し兼ねん。じゃから作ったのじゃ、何も知らない無垢な人格をな。それが、お前の言う昼間のチャイロじゃ』

   は? 何それどういう事??
   作ったって……、はっ!?!?

「え~っ、とぉ~……。ご、ごめんなさい、まだその……、え? 作った?? ……じゃあ、二重人格、とか???」

『そう言った方が解りやすいのならそれで良い。ともかく、わしはイグである事と同時にチャイロでもある。勿論、もう一つの人格も、自らがイグでありチャイロである事を認識しておるはずじゃ。受け入れているかどうかは知らんがな』

   ひゃあぁぁ~!? 全然分からん~!??
   それって完全に二重人格じゃんっ!?!?
   ……え? チャイロって、自分が神様だって知ってたの??
   いやいやいや、そんな事は一言も聞いてませんよ???
   どうなってんだいったい……

『まぁ落ち着け小鼠。わしが何者なのか、それを理解するにはお前の頭も心も小さ過ぎる。更にはこの世の理に関する知識も無いときた。何故お前が時代の時の神の使者などに選ばれたのかは知らぬが、そんな事はどうでも良い。わしは、友との約束を果たす。その為には、お前は北の聖なる泉セノーテへと沈まねばならんのじゃ』

「あ~……。ごめんなさい、全然分からないです、ほんと」

   馬鹿にされた事はさておき、言っている事の意味が全く理解出来ない。
   なんで俺が、泉に沈まにゃならんのだね?

『本当に馬鹿じゃな。お前、何しにここへ来たんじゃ?』

   怪訝な顔で俺を睨み付けるチャイロ。

「何しにって……。ゼンイが、王族を抹殺するっていうから、先に王宮の内情を探るって名目で……。でも、ゼンイは結局僕を裏切ったから、もはや僕は用済みで……。だけど、僕はチャイロと友達になったから……。生贄になるのを止めようって、助けようって思って……」

『あ~も~よい。お前の長ったらしい説明など聞きとうないわ。グダグダとぬかしおって、胸糞悪い。己が何故ここにいるのか、そんな事すら分からんとは……、ド阿呆め』

「そっ!? そんな事、言われても……」

   表情が酷く歪んだままのチャイロに対し、俺はしゅんとして俯く。

   よくよく考えてみたら、本当にふんわりとした理由で、ここにいるのよね俺。
   チャイロが言っている事もよく分かんないけど、自分がどうしてこんな所に居るのか、何の為にここに居るのかって事の方が、ほんと全然分かんない。
   俺は何故、ここに……?

   するとチャイロは、ふ~っと大きく溜息をついてこう言った。

『いつの時代も、時の神が世界に使者を放つ理由はただ一つ……。この世界の均衡を保つ為じゃ。殊に、かつてのムームー大陸であったこのピタラス諸島には、悪しき前例がいくつもある。再度、異界への扉が開かれる可能性は高い。そこへお前が現れたのも偶然では無かろう。世界の均衡を保つ調停者……。お前がそうなのだろう? モッモよ』

   チャイロの言葉に、俺はハッとして顔を上げる。

   世界の均衡を保つ、調停者……
   なんかそれ、聞いたことあるぞっ!?

   そんな俺を見てチャイロは、虹色の大きな瞳をキラリと輝かせながら、ニヤリと笑った。

『過去、ロリアンが言っていた事は現実となった。数百年の後、生き長らえた悪魔は蘇り、己を封じたククルカンの末裔を根絶やしにするだろう、とな……。しかしながら、次代の時の神の使者は必ず現れる。その時を待ち、必ずや約束を果たす。わしはその為に生まれたのだ。この時代に、この体で……。この世で唯一の我が友であったモシューラを、この金の檻から救う為にな』
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