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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

537:僕とティカで

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「チャイロ様を救う? 助けるだと?? ……モッモ、君はいったい何を言っているんだ??? チャイロ様は明日、蝕の儀式の生贄となられるのだ。何があっても、会議の決定は覆らないぞ」

   少々困惑した様子で、ティカはそう言った。

「分かってる。けど、チャイロ様を生贄になんてしちゃいけない。僕とティカで、なんとか阻止するんだ! 確かに僕は、この耳でチャイロ様の夜言を聞いたし、その言葉の意味も分かったし、チャイロ様が酷い言葉を叫んでいたのは事実だ。だけど……、あれはきっと違う、違うんだよ。僕が聞いた言葉は、チャイロ様自身の言葉じゃないと思うんだ」

   俺の言葉を聞いて、ティカは顔をしかめる。

「なん、だと……? チャイロ様のお言葉ではない?? どういう意味だ???」

「あの時チャイロ様は、ぐっすり眠ってた。すっごくぐっすりね。たぶん、夕食のオムレツに振りかけた薬が原因だと思う。睡眠薬か何かだったんだよ。だから……、チャイロ様は眠っていたわけだから、夜言にチャイロ様の意思は無いと思うんだ」

「何を……? 睡眠薬だと?? それは本当か???」

「うん。確証は無いけど……、でも、あの眠り方はおかしいよ。ご飯を食べてすぐ、気絶するみたいに眠っていたから。それに……、普通、あれだけの寝言を大声で叫んでいたら、いくらなんでも自分で気付いて起きると思うよ。それを何分も、何十分も、何時間も連続で叫び続けて、尚且つまったく起きないなんて……、普通じゃない」

「では……、普通じゃないとしたら、何だと言うのだ? チャイロ様の夜言というのは、いったい何なのだ??」

「それは……、まだ、僕にも分からないけれど……。けど、これだけは言えるよ。昼間に会話したチャイロと、眠りながら夜言を叫んでいたチャイロは、全くの別人だった!」

   鼻息荒く、自信を持って、俺はそう言い切った。
   あの夜言は絶対に、チャイロ自身の意思によるものではないと、なんとかティカに理解して欲しかったのだ。
   しかしティカは、何故か眉間をピクリと動かして、俺を睨みつけた。

「モッモ、貴様……。またしてもチャイロ様を呼び捨てにしたな?」

「あ……、はぅっ!?」

   しまった! 力説する余り、「様」を付けるの忘れてたっ!!

「いやっ!? これはっ!!? そのっ!!??」

   あたふたとする俺。

「第一王子であらせられるチャイロ様の名を、軽々しく呼び捨てにするなど言語道断! 金輪際するなっ!!」

「ひぃっ!? ごっ! ごめんにゃさいっ!!」

   キャアァァッ! こっ、怖いぃっ!!

   ティカに怒られた事で、先ほどまでの勢いがどこかへ吹っ飛んでしまい、俺は身を縮こめて小さく小さくなってしまう。

「しかし、睡眠薬とはいったい……? 誰の指示でそれを??」

   震える俺とは裏腹に、切り替えの早いティカは、すぐさま通常運転に戻って俺に尋ねる。

「あ、えと……、ト……、トエト様の指示でっ!」

   付けなくてもいいのに、びびってトエトに「様」を付けてしまう俺。
   ティカは怪訝な顔をするも、それに関して怒鳴る事はしなかった。

「トエトの? トエトがチャイロ様に睡眠薬を……??」

「あ、えと……、違うよ。トエトは、宰相であるイカーブの命令だって言ってた」

「何っ!? イカーブ様のっ!!? ……どういう事だ? イカーブ様は何故そのような事を??」

   驚いた様子のティカは、何かを考えるかのように、顎に手を置いたポーズで固まる。
   その姿はまるで静止画のようだ。
   瞬きも忘れ、呼吸すらしていないかのように、身体中の動きがピタリと止まっていた。

   ……し、死んだ? まさかね、ははは。

「モッモ、君は……、創造神ククルカンを知っているか?」

   唐突に動き、俺に向かってそう尋ねたティカ。

「くっ!? ……う、うん。知ってるよ。トエトから少しだけ教えてもらった」

「そうか……。我ら紅竜人の祖であり、破壊と恵みの神と称される、大昔より崇め奉られてきた創造神ククルカン。この国に暮らす紅竜人ならば知らぬ者などいない程に、偉大な絶対神様だ。そして、紅竜人の長き歴史の中で、我らが危機に瀕した際には、必ず救いが訪れる。それがククルカンの再来と呼ばれる者達なのだが……、姉が残した日記には、チャイロ様は神だと書かれていた。モッモ、君もそう思うか? チャイロ様は、我ら紅竜人を生み出した創造神ククルカンの、その再来であると、そう思うか??」

   興奮した様子で、ティカは俺に尋ねた。
   が、しかし……

「それは……、えと……。分かんないけど、たぶんそうだと思うよ」

   アバウトな俺の返答に、ティカはまたしても顔をしかめる。

   だって、仕方がないじゃないか。
   確証なんて無いんだもの。
   確かにトエトは、チャイロのその姿形から、チャイロがククルカンの再来であり、王家を……、ひいてはこの国に暮らす紅竜人全てを滅ぼす可能性があると考えていたみたいだ。
   だからトエトは、チャイロの身を案じつつも、国を守る為に、チャイロの夜言の真意をイカーブに伝え、チャイロが蝕の儀式の生贄とされる事を選んだのだろう。

   しかしながら、正直にいうと、未だに確証は何一つない。
   チャイロが夜な夜な発する夜言が、猟奇的かつ暴力的な内容だとはいえ、姿形が似ているというだけで、チャイロをククルカンの再来と決め付けるのはちょっと違う気がする。
   何かもっと、別の何か……、真実が、まだ隠れているような気がするのだ。

   するとティカは、再度顎に手を当てて、難しい顔をしたまま固まった。

「創造神ククルカンは、恵みと破壊を司る神。時代の節目に現れるというククルカンの再来と呼ばれる者達は皆、これまでの歴史の中で、国に恵みを与える事もあれば、破壊をもたらし我ら紅竜人を滅亡寸前まで追いやった事実もあると聞く。そして、現王族の血筋は、過去に破壊をもたらしたククルカンの再来を滅したという由緒ある一族。その一族の後継者として生まれたチャイロ様が、ククルカンの再来であるかも知れないという事は、もしかしたら何か大きな意味があるのかも知れない……」

   そう言ったティカは、俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「よし、分かった。何が出来るかは分からぬが……、自分とモッモで、チャイロ様をお守りしよう。明日の蝕の儀式までに、チャイロ様をこの王宮より救い出すのだ!」

   決意のこもったティカの言葉に、俺は思わず笑みが溢れる。

「うん! 僕とティカで、チャイロを!!  ……あっ!? チャイロ様をっ!!! 助け出そぉ~うっ!!!!」

   意気揚々と拳を振り上げた俺だったが、またしてもチャイロのことを呼び捨てにしてしまった為に、白い目でティカに睨まれてしまった。
     
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