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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

503:金ピカピラミッド

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「見えるか? あれがこの国の都、チーチェンだ」

   クラボにそう言われて、竹籠から顔を出した俺は、ゆっくりと眼下を見下ろす。
   俺たちが立っている小高い丘より少し標高が下がった場所にある広大な窪地、その真ん中に、大きな町が存在していた。

   荒涼とした大地に突如として現れたその町には、これまで見てきた殺風景な景色とは全く異なり、緑に溢れた自然豊かな景色が広がっている。
   巨大な赤岩の壁に守られて、同色の四角く整った家々が無数に立ち並び、その間を縫うように巨大な木々が青々と生い茂っているのだ。
   微かに吹く風に乗って運ばれてくるのは、爽やかな植物の香りと、薪が燃える匂いと、何かの穀物が炊かれているような朝ご飯の匂い。
   朝日が昇る少し前、俺たちはリザドーニャ王国の都、チーチェンへと辿り着いた。   
 
   辺りはまだ薄暗く、朝靄に覆われた景色の中では全てが霞んで見える。
   しかしながら、その中にあって、一際目立つ存在が一つ……
   都の中央にそびえ立つ、巨大な三角形の建物。
   それは、これまで見てきたどの建造物よりも大きく、偉大で、とてつもない威圧感を放っていた。
   
「な、何あれ? めっちゃでかいし……、金ピカだし……、す、凄いな」

   俺は生唾をゴクリと飲み込んで、思わずそう呟いた。

   町の中央にあるそれは、黄金のピラミッド。
   金色に輝く巨大な岩が階段状に積まれた、見るからに荘厳な建造物だ。
   ただ、そのてっぺんは尖っておらず、窓や扉のある四角い金色の建物が建っているのが見える。
   前世の記憶の中で例えるならば、その形はエジプトのピラミッドではなく、中南米辺りの……、そう、マヤ文明なんかの遺跡に見られるピラミッドの形だった。

「あれが、国王及び王の一族が暮らす王宮だ。あの王宮こそが、王が王たる証……、富の象徴とされている」

「お……? え、王宮!? あれがっ!?? で……、でかくないっ!?!?」

   クラボの言葉に、俺は目をパチクリさせながら、王宮と呼ばれた黄金のピラミッドを見つめた。

   あんなに巨大な金ピカピラミッドが、王宮だとっ!?
   そんな……、大き過ぎだろっ!??
   いったい何人の王族が住んでるっていうんだ!???
   それに、あの大きさだと、警備している兵士の数も半端じゃないはず。
   あれの内部を俺一人で調査とか……、無理じゃねっ!?!!?

   心拍数が一気に跳ね上がった俺は、身体中から大量の汗が噴き出すのを感じた。

「あ……、いや……、金山きんざんの全部じゃねぇぞ。てっぺんに四角い建物があるだろ? あれが王宮だ」

   クラボは、冷や汗タラタラの俺を気遣ってか、少し優しげな声で、黄金のピラミッドのてっぺんにある四角い建物を指差してそう言った。
   
   ほ!? てっぺんだけっ!??
   ま、まぁあれだけなら……、まだなんとかなりそう……
   え? でも、じゃあ……、そこまでの金ピカは何なのさっ!?!?

「王族達が暮らしてんのは、あの金山のてっぺんにある四角い建物部分だけなんだ。前に、国王軍に所属していたって奴から聞いた事があってな。俗に金山と呼ばれるあの金の山は、大昔に王族がその富と地位を誇示する為だけに造られたもので、実用性はないんだと。つまりは見掛け倒しで、その実、表面だけが金に覆われているただの岩山らしい」

   ほう!? 
   あのピラミッドは外だけ金ピカのハリボテとなっ!??

   ……いやいや、それが本当なら、その当時の王様は見栄っ張り過ぎやしないかい?
   あんだけの大きな岩山を四角く削って、更にその上から金箔貼るなんて……、さぞ大変な作業だろうに。
   きっと、当時の奴隷達にやらせたんだろうな、酷い話だぜまったく!

   けどまぁ、とりあえず……、王宮があのてっぺん部分だけで助かった、本当に助かった。
   金ピカピラミッドは、ここから見てもあの大きさなんだ、近くに行けばもっともっとでかくて広いに決まってる。
   そんな所を一人で探索なんて……、体力のない俺には無理無理、途中で行き倒れて終わっちゃいますよ。
   だけど、てっぺん部分の四角い建物のみなら、そこまで広くはなさそうだ、たぶん。
   あぁ神様……、どうかあの王宮が、狭い王宮でありますように。

   そんな事を考えながら、俺は多少なりともホッとして、胸を撫で下ろした。

「王宮に入る道はただ一つ。正面にある階段が見えるか? 俗に王の道と呼ばれるあの階段だけが、てっぺんにある王宮へ向かう唯一の手段なんだ。ここからじゃ遠過ぎて分かんねぇだろうが、金山は大まかに五つの階層に分かれていて、一層毎の壁の高さはおおよそでも人三人分以上の高さがある。どう足掻いても、王の道以外に金山を登る術はねぇ。つまり、入口も出口も一つって事だ。しかも、そのたった一つの出入り口には、いつだって数十人の兵士達が見張りで立ってやがる。まさに、難攻不落の王宮なのさ」

   ふむ、なるほど……
   なかなかに歯応えのあるダンジョンというわけですな?

   俺のよく見える目には、クラボの言う王の道とやらがハッキリと見えていた。
   金山の南側の面にあると考えられる王の道は、朝日に照らされキラキラと輝きながら、真っ直ぐにてっぺんの王宮まで伸びている。
   それに、金山と呼ばれた金ピカピラミッドが、てっぺんの王宮も含めて五つの階層に分かれているのも、俺は既に見て取れていたし、あれを登ったり降りたりする事が不可能なのは重々理解していた。

   しかしながら、恐るるに足らず……
   俺には風の精霊という強力な味方がいるのである。
   空さえ見えれば敵はいないも同然だ。
   高かろうが低かろうが、関係ないぜっ!

   何故だかは分からないが、ちょっぴりポジティブシンキングになって、調子に乗る俺。
   グレコと連絡が取れてから、気持ちが断然軽くなって、更には王宮が金山のてっぺんのみと聞いて、何とかなりそうな気がしてきたのだ。
   漠然と、楽観的に……

「ま、あんまり難しく考えても仕方ねぇ。なる様にならぁ! もし本当に命が危なくなったら、その丸い体を使って上から転げ落ちて来いや!! ギャギャギャギャ!!!」

   はんっ!? 何言ってんだよスレイこの野郎っ!??
   こんな丸い体してるけど、俺にだって骨はあるんだぞっ!!!
   あんなに長い階段を、てっぺんから下まで転げ落ちたりなんかしたら、全身の骨がバッキバキのめっためたになるわっ!!!!

   恨めしげな目をスレイに向ける俺。

「ギャハハ! さすがにそいつは無理だろうが、最終手段として覚えとけ、モッモ!!」

   なっ!? クラボまでっ!??
   あんたはスレイよか頭の出来がマシだと思ってたのに、とんだトンチキチだなっ!!!
   最終手段が自殺行為って……、馬鹿かっ!? 馬鹿めっ!!!!
   
   ギャギャギャと、ギャハハハと笑いながら歩き出す二人。
   ユッサユッサと揺れる竹籠の中で、俺は一人、口を真一文字にキュッと結んで考える。

   こいつら……、俺を助けてくれる気なんかさらさらなさそうじゃないか?
   なんなら捨て駒とでも思っていそうな雰囲気じゃないか??
   くそぅ、なんてこった……、こんな奴らを信じた俺が馬鹿だったぜっ!
   紅竜人は、フェンリルに次ぐ世界蛮族指定常連上位の野蛮な種族なのだ。
   そんな奴らが、いくらゼンイの友達とはいえ、囮に使われる俺の身を案じてくれているなんて……、どうして俺は、今の今まで思ってたんだ!?
   こいつらにとって俺はただの献上品なのだ。
   そもそもが、俺は拉致された身でもあるし、その事を二人には謝罪して貰ってない。
   つまりは、俺の生き死になど興味がないのだ。
   挙げ句の果てには、ゼンイの策の肝だと囃し立てたにも関わらず、ピンチの時はクソ長い階段を転げ落ちて逃げろだと???
   そんな事……、そんな事になって堪るかよっ!!!

   そして、俺が出した結論は……

   グレコ達が助けに来てくれるまで、何が何でも王宮の中で生き抜こうっ!
   それしか生き延びる道はないっ!!
   その為なら、献上品だろうがペットだろうが、なり切ってやる。
   この際プライドなんざ関係ねぇ……、持って生まれた可愛さを最大限に活かす時が来たのだ。
   ピグモルの誇りに掛けて、世界最強の愛玩動物に、俺はなるっ!!!

   ……自分でも、頭がおかしくなったんじゃないかと思うほど異常な決意を、俺は胸に抱いたのだった。
     
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