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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

500:ゴチャゴチャ

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「おい、スレイ。……おい、起きろって!」

「んぐっ!? がっ!?? ってぇ~? ……なんだ、クラボじゃねぇか」

「なんだじゃねぇよ、ぐっすり眠りやがって……。じじぃと話がついた。お前、メーザとバレのとこ行って、ゼンイが戻ってきたって伝えろ。そんでもって、反乱を起こすからお前達も協力しろって言ってこい」

「なるほど……、って、なんで俺が? お前が行きゃいいじゃねぇかよ。俺は難しい話はてんで駄目だぜ」

「何も難しかねぇだろうが。メーザもバレも、当時の事は知ってんだから、細けぇ事は言わなくていいさ」

「ふ~ん……、で、お前はどうすんだよ? まさか、ここで寝るつもりじゃねぇだろうな?? 俺を顎で使っておいて……」

「馬鹿か、そのつもりだよっ! こっちは徹夜で走った後だってのに、あの糞じじぃ共の長ったらしい話に付き合ってやったんだぞ!? それに、お前今寝てたじゃねぇかっ!?? 交代だ!! 出発まで眠らせろっ!!!」

「あ~も~、分かった分かった! じゃあ……、あ、お前はどうすんだよ? 俺と一緒に来るか、モッモ」

   スレイとクラボの視線が、同時に俺へと向けられる。

「えっ!? うっ!?? ど……、どうしよっかな~? ははは~」

   俺は、引きつり笑い気味でそう言った。

   モーロク達の元を去った後、俺はクラボに連れられて、最初の建物へと戻ってきた。
   中ではスレイが、地面に直に敷いたボロ布の上で、グースカと眠りこけていた。
   その姿を見たクラボは少しばかりイラっとしたらしく、スレイの小さな鼻の穴に二本の指を思いっきり突き刺して、無理矢理に起こしたのだった。   
   そして、どうやらクラボは今から仮眠をとるらしい。
   その間にスレイは、なんとかっていう奴隷仲間の元へ行って、ゼンイの作戦を話さねばならない、と……
   それに同行しないかと、俺に尋ねたのである。

   正直言うと……、俺は眠くない。
   一晩中籠の中にいたとはいえ、しっかりと熟睡出来ていたようなのだ。
   体に疲労感は残ってない。
   だがしかし……、しかしだな……
   あのモーロクじじぃの昔話を聞いたせいで、心がとても疲れているのですよ。
   なんていうかこう、ズーンって沈んでる感じ。
   だから、出来ればここで、ボーッとしていたいですね、はい。

   しかしながら、クラボがそんな俺の様子を汲み取ってくれるわけもなく……
   
「モッモ、お前はスレイと一緒に行って来い。ゼンイの策には、お前が必要不可欠。つまりお前は、ゼンイの策の肝なわけだ。だから自己紹介でもして来いや。俺たちの仲間と顔見知りになっておけば、いざって時には助けてくれるかも知れねぇぜ?」

   いやぁ……、自己紹介って、そんなそんな……
   今から国王様の元へ献上品のペットとして差し出されるモッモです、どうぞよろしく! ……とか言えってか?
   シュール過ぎるわそんなの。
   それに、いざって時には助けてくれるかもって……、いざって時って何よ、どんな時よ??
   そんな、誰かに助けてもらわなきゃならないような状況には、絶対の絶対の絶対に、置かれたくないんですけどねっ!

   ……しかしまぁ、一人で見知らぬ王宮に潜入する俺にとっては、この先何が起こるか全く分からない状況なのだ。
   仲間が多いに越した事はない。
   ただでさえも今回は、レイズン改めゼンイの、個人的かつ完全なる私情による作戦に、俺は参加してしまっているわけで……
   白薔薇の騎士団のみんなは何にも知らないわけだし、俺の仲間は事情を知ってても、再会できるのがいつになるのか分からない。
   それまで俺は、たった一人で行動しなければならないのである。
   もしも……、本当にもしもの時は、逃げるしか道はない。

   ……いやまぁ、そもそも何から逃げるのか、どこに逃げるのかすら全く分からないのだけどね。
   例えば、王様に正体がバレて(何の正体だ?) 、兵士達に追っかけられて、命からがら城の外に逃げおおせたとして、その先で助けてくれる者がいなければジ・エンドだ。
   さっきの話だと、スレイとクラボ、その他にも何人かの奴隷仲間達がゼンイの作戦に協力してくれそうだから、ここでその紅竜人達と顔見知りになっておけば、俺の身に危険が降りかかってきた時に助けてもらえるかも知れない、うん。

   ……いやいや、危険なんて降りかかられちゃ困るけどね!!

「じゃあ……、うん、分かった。僕も行くよ!」

   頭の中でゴチャゴチャと考えを巡らせた結果、どのみち断る勇気もない俺は、決心したかのようにそう言った。

   正直、紅竜人を見たのは昨日が初めてで、更には出会いが拉致だったもんだから、彼等に対して良い印象など全くなくて、あんまり大勢の紅竜人達と顔見知りになる事に抵抗感があるのだけど……
   でもやっぱり、背に腹はかえられぬ、とはこの事である。
   自分の身を自分で守れない以上、俺は誰かに守ってもらうしかない運命なのだ!
   危険を回避する為に、守ってくれる相手を増やしておく事は良い事に変わりない!!
   
「ギャギャギャ! あんまり妙な期待をかけねぇ方がいいぞぉ~!?」

   一人納得する俺を横目で見て、ニヤニヤと笑うスレイ。

「な、何も期待なんてしてないよ! ただ……、本当に困った時はその……、頼れる人が多い方がいいな~って思って……」
   
   唇を尖らせ、若干口籠もりながら俺がそう言うと……

「まぁあれだ……。深い意味はねぇが、今から会いに行くメーザもバレも、鼠の丸焼きが大好物だな」

   そう言って、厭らしく笑うスレイ。

   ……え? 何それ、どうゆう事??

   俺は、全身が石になったかのようにピシッと固まった。

   鼠の丸焼きが、大好物?
   そんなの、味方じゃなくて……、もはや敵じゃない??

   固まってしまった俺をヒョイと抱え、竹籠へと入れてそれを背負い、既に舟を漕いでいるクラボをこの場に残して、スレイは外へと向かった。
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