上 下
508 / 800
★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

495:真夜中の移動

しおりを挟む
   ゆっさゆっさゆっさゆっさ。

   ザッザッザッザッ、ザッザッザッ。

   森の中に響く、二体の紅竜人の足音と、その背で荷物が揺れる音。
   その音に合わせて、体を上下に激しく揺らしながら、俺はボンヤリと辺りの景色を眺めていた。
   
   周囲に立ち並ぶ木々は、ある程度生い茂ってはいるものの、そこに生えている葉には潤いがない。
   幹肌もかなり干からびていて、もはやパキパキである。
   その理由は、地面が大層渇いているから。
   後にも先にも、岩とも砂とも言えない、干からびた地面が延々と続いているのである。
   例えるなら……、そう、サバンナのような景色だ。
   ピタラス諸島第四の島であるロリアン島の内陸部には、荒涼とした乾いた大地が広がっていた。

「あとどのくらいかかるの? ……ですか??」

   ちょっぴりびびって、語尾を丁寧に言い直した俺。

「あぁ? まだ半分しか来てねぇよ。なんだなんだ、時の神の使者様とやらはせっかちだなぁっ!? ギャハハ!!」

   クラボはそう言って、右肩に背負っている竹籠を大きく揺すった。
   無論、その中には俺が入っていて……

「わわわっ!? 揺らさないでよぉおっ!!」

   俺は小さく悲鳴を上げる。
   辺りはまだ真っ暗で、夜空には星が瞬いていた。

   騎士団のレイズン改め紅竜人のゼンイが去った後、スレイとクラボに連れられて、俺は一人、とある町へ向けて出発した。
   町の名はトルテカ。
   ここ紅竜人の暮らす国リザドーニャにおいて、最も貧しく最も不衛生な、奴隷の町だそうだ。
   何故そのような場所に、俺が連れて行かれるのかと言うと……

「モッモ君。君にはこの国の現状を、その目でしかと見て欲しい。トルテカの町は、ここから都を目指す途中で経由できる。この国で起きている事、奴隷とは何なのかを、君にはちゃんと理解してもらいたいんだ」

   ゼンイは俺にそう言っていた。

   今回の王宮潜入&王族暗殺作戦が、明朝に港町ローレを出発する予定のノリリア含め騎士団のみんなにバレては困る。
   なので、みんなと鉢合わせしないように、俺はみんなより早く都へと辿り着く必要がある為、真夜中だというのにトルテカの町へ向けて出発したのだった。

   正直なところ、貧しくて不衛生な町になんて全然立ち寄りたくない。
   しかも奴隷の町だなんて、想像するだけで恐ろしい。
   でも、ゼンイに協力すると言ってしまった手前、彼の提案を拒否するのもおかしな話だと思った俺は、思わずコクンと頷いてしまったのでした。

   本当に、これで良かったのだろうか?
   勢いに任せて、いろいろオッケーしちゃったけど……
   なんかさ、かなり危険な道を選んじゃったんじゃない? 俺ってば。

   そう、俺は言ってしまったのです、協力すると。
   そして、乗ってしまったのです、王族暗殺、及び悪魔の討伐の為に、自らが国王に差し出される献上品になるという、あの恐ろしい計画に……

   つっ……、あぁああぁぁっ!?
   何故に俺は、協力するなどと言ってしまったのかぁあっ!!?
   何故に俺はぁああぁぁあっ!?!?

   今になって、後悔の波が押し寄せてくる。

   だけど……、仕方がないじゃないか。
   あの時は、とってもとっても、ゼンイに協力してあげたくなっちゃったんだもん。
   ゼンイの言葉がかっこ良くて、真っ直ぐで……、ここで断るなんざ男じゃねぇえっ! 少しでも役に立てる事があるのなら、全力で協力しなくちゃ!! とか思っちゃったんだもん。

   彼の言った通り、俺は妙に正義感が強い。
   非力で無力で自分一人じゃ何にもできないくせに、どうしてだか周りの為に何か出来ないかと考えてしまう。
   俺に出来る事であれば、何でも喜んで引き受けますよ! という感じで……
   そして、毎度の事ではあるけれど、後で激しく後悔するのだ。
   何故に俺は、こんな事をしているのか? と……
   
   ちなみに、スレイとクラボも、ゼンイの計画に協力するらしい。
   三人は元々が仲良しなようなので、そうなるかなぁ~とは思ってたけど……
   スレイもクラボも、文句一つ言わずに、真夜中に大荷物背負って駆け足しているところを見ると、案外律儀で真面目なんだなと俺は思う。
   俺だったら……、カービィに提案されたって、真夜中の森を荷物背負ってランニングなんてしない、絶対嫌だ、100パー断るね。
 けど、スレイとクラボは違う。
 出発してからずっと、前だけを見て、無駄口も叩かずにもくもくと、一所懸命に走っているのだ。
 ゼンイの立てた計画を、成功させる為に……
   三人は、本当に固い絆で結ばれているんだな、と俺は思った。

   ゼンイの立てた計画の全容はこうだ。
   まず、俺は一足先に都へと向かい、王宮に献上品として差し出される。
   スレイとクラボの見立てだと、十中八九俺はペットにされるだろうとの事で、食べられる心配は今のところなさそうだ。
   そして、能天気なペットのフリをしながら、王宮の中の様子を探る、と……
   具体的に何をするのかいうと、広い王宮の何処に国王やその他大勢の王族達の寝室があるのか~とか、彼等の生活スタイルなんかを探って欲しいとゼンイは言っていた。
   更には、王宮内でも警備が手薄で侵入しやすそうな場所はないか、その他に隠れられそうな場所など、とにかくいろいろとリサーチして欲しいらしい。

   一方ゼンイは、一度レイズンとしてタイニック号に戻り、周りに怪しまれないように細心の注意を払いつつ、当初からのプロジェクトの予定通り、騎士団のみんなと共に明日の朝一で都へと出発。
   騎士団はトルテカの町ではなく、隣のユカタンの町を経由し、そこで一泊するらしい。
   二日目の昼頃には、都へと辿り着く予定だそうだ。
   そして、ロリアンの遺物を持っていると考えられている国王、リザドーニャ九世に謁見を申し入れるという。
   その謁見に向かう際、王宮内でゼンイは俺と密会し、王族の情報を得た後に暗殺を実行に移す、という算段だ。

   それからゼンイは、この計画を、グレコ、ギンロ、カービィの三人には話すと言っていた。
   俺の無事を伝える為と、計画の協力者を増やす為だろう。
   おそらく、カービィはノリノリになるだろうし、ギンロも正義感の強い中二病だから……、うん、この二人は大丈夫だ、きっと簡単に協力してくれるだろう。
   問題はグレコである。
   ただでさえも最近、過保護に拍車がかかっているのに、俺一人で潜入捜査だなんて絶対に許さないだろうなぁ。
   ブチ切れてゼンイに暴言を吐かなきゃいいけど……

   兎にも角にも、始まってしまったものは仕方がない。
   もう後戻りは出来ないのである。
   果たして、思い通りに上手くいくのかどうかは全く分からないし、なんなら全然自信ないけど。
   ……本当に、不安しかないし、今にもオシッコちびっちゃいそうだけど。
   でも、俺は確信していた。

   男には、やらねばならぬ、時がある!

   何故なら、俺の首に下げられている望みの羅針盤の金の針が、真っ直ぐに進行方向である北西を指しているからである。
   俺が今、心に思うこと……、それは、このロリアン島に存在する何かしらの神様の居場所を知りたい、という事。
   つまり、これから向かう奴隷の町トルテカ、もしくはリザドーニャ王国の都にこそ、求める神様がいるのかも知れないのだ。
   どのみち行かなくちゃならないなら、ゼンイの計画に協力しようがしまいが同じ事だ。

   (……いや、全然同じじゃないけどね! みんなと一緒の方が安全だし!! 献上品とか、ペットとか……、本当はめちゃくちゃ嫌だからねっ!!!)

   俺は覚悟を決めて、大人しく竹籠の中で、トルテカの町に到着するその時を待つのであった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...