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★寄り道・魔法王国フーガ編★

472:嫌な結界

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   受付カウンターを挟んで左右に位置するエレベーターらしき金属製の箱に乗り込む俺とカービィ。
   魔導式昇降機と呼ばれるこの機械は、中央に透明な水晶があって、乗客が自らの手でそこに魔力を流し込んで動かすらしい。
   つまり、魔力のない者がこれに乗る事は想定されてないのである……、けっ!

   カービィが短い腕を目一杯伸ばして水晶に触れると、透明だった水晶はピンク色の光を帯びた。
   そして、ガガガガガーと鈍い音を立てながら、昇降機はゆっくりと上昇を始めた。

「……ねぇ、本当に大丈夫かなぁ? さっきのセーラさん、めちゃくちゃ怯えてたよ??」

「なははっ! ビビり過ぎなんだよセーラのやつ!! 大丈夫だって。ここには凄腕の魔導師がごまんといるんだ。ローズがキレようもんなら、総出で止めてくれるさ」

   それって、ローズがキレる事前提に話してない?
   まぁそりゃそうか、どう考えても……、やっぱりキレられるよね??

   ヘラヘラと笑うカービィを、ハラハラと見つめているうちに、昇降機は目的の三階へと到着した。
   昇降機を降りて、廊下へと出る俺たち。
   ここからは中央ホールが一望できる。
   特に先程までと変わった様子はないし……、どうやらまだ騒ぎにはなってなさそうだ。
   ローズが戻って来る前に、ノリリアを連れ出さないと!

   前を行くカービィに続いて、廊下をひた走る。

「第三、第四……、あそこだ! 第五会議室!!」

   さほど大きくもない扉の前で、カービィは足を止めた。
   扉の上部には《第五会議室》というプレートが貼られている。
   そしてその扉の表面には、淡い光を放つとても複雑な白い魔法陣が浮んでいた。

   コンコンコンコン

   お上品にノックするカービィ。
   どうやら、この魔法陣は触れる分には無害らしい。

「ポ? はいポ」

   中から、ノリリアの声が返ってきた。

「ノリリア、おいらだ、カービィだよ」

「ポポ!? カービィちゃんっ!?? な……、なんでそこにいるポかっ!?!?」

   扉の向こう側で、途端に慌て出すノリリア。

「いや~、ローズに見つかっちまってよ。今からトンズラするから、おまいも来い!」

「ポポポッ!? 見つかった!?? 団長は今どこにっ!?!?」

「あ~……、知らねぇ」

   濁すカービィ。

   知らないわけないでしょうが!
   あんた、魔法でぶっ倒してたでしょうっ!?

「知らないって……、でも、あたちはここから出られないポ。団長が扉に禁錮魔法をかけたポね。とてもじゃないけれど……、いくらカービィちゃんでも、団長の魔法を解くのは無理ポよ」

   なるほど……、この白い魔法陣はローズが創ったものなのか。
   禁錮魔法って事は、ノリリアは監禁されてるんだな。

「確かに、おいらじゃ無理だろうな。けど、ここにはモッモがいる!」

   ……はい? 俺??

「ポポッ!? ま、まさかカービィちゃんっ!?? そんな事しちゃ駄目ポッ!?!?」

   再度慌て始めるノリリア。
   そんな事しちゃ駄目って……、カービィは俺に何する気なの!?

「モッモ、闇の精霊呼んでくれ」

「闇のっ!? ……あ! あぁっ!! この魔法陣を吸い込んで貰うってことっ!?」

「そういう事だ☆」

   なるほどそういう事ねっ!
   闇の精霊ドゥンケルのイヤミーは、いろんなものを吸い込む事が出来るのだ。
   その対象は物質のみに限らず、魔法で生成された魔法陣や結界も可能だ。
   けど……、あいつ呼ぶの嫌だな、いっつもドヤされるから……

「駄目ポッ! モッモちゃん駄目ポよっ!? 王都内での精霊召喚は特例を除いては禁止されてるポ!! そんな事したら……、このギルドに警備隊が大勢駆けつけてくるポッ!!!」

   なぬっ!? さっきのドカドカした感じの警備隊達がっ!??
   それは良くないのではないかっ!?!?

「気にすんなモッモ! やっちまえっ!!」

   本日、無責任が絶好調なカービィさん。

「いや、でも……、さすがに警備隊が集まってくるのはまずくない? 僕たち捕まっちゃうんじゃ……??」

「バーカ! 捕まる前に逃げるんだよっ!!」

   ばっ!? 馬鹿とはなんだよこの無責任変態がっ!!
   どうせその逃げるのも俺頼りのくせにっ!!!   
   ちょっとは俺を敬え馬鹿野郎っ!!!!

「よ~し……、やっちゃうよっ!?」

「やっちゃえやっちゃえぇっ!!!」

「駄目ポォオォォッ!?!??」

   ええい、ままよっ! 
   どうせ何したってローズはもう怒ってんだ!!
   カービィの言うように、ノリリア助けて、すぐさまトンズラだぁあっ!!!

「イヤミー!!!」

   闇の精霊の名を叫ぶ俺。
   すると、あのなんとも言えないどんよりとした臭いと共に、黄色い目玉のあいつが現れた。

『お呼びですか? ご主人様よぉ~??』

   例によって、いつも通りの陰険顔で、いつも以上に不機嫌そうだ。

「あっ!? とっ!?? そっ!!!! そこの魔法陣を消してぇっ!!!!!」

   イヤミーの威圧に負けないように、精一杯叫ぶ俺。
   すると、何処からともなく、鳥の鳴き声のような、それでいてサイレンのような音が、辺りに響き出した。

   ケケケケケケー! ケケケケケケケケケー!!

「なんだっ!?」

「あ~……、鳴ったな。なはは」

「ポポポポッ!? 国営警備隊の非常事態警報ポッ!?? 精霊召喚がバレたポよぉおっ!!!」

   もうっ!? もうバレたの!??
   はっやっ!!!?

「イヤミー! 急いでっ!!」

『言われなくても急いでやるよ。お前と違って、俺はせっかちなんでね。虚無の穴ブラックホール!』

   イヤミーが両手を頭上に掲げると、何もないその空間に、禍々しい真っ黒な球が現れた。
   ぐるぐると渦を巻くそれは、真ん中にぽっかりと穴が空いている。

『仮のものを虚空へと誘え……。吸引ザーゲン!!』

   イヤミーの言葉を合図に、ズモモモモ~! っという轟音を上げながら、虚無の穴は周りの空気を吸い込み始める。
   バリバリバリッ! と鈍い音を立て、バチバチと火花を散らす白い魔法陣。
   しかしながら、やはりローズが創ったものだけあって、一筋縄ではいかないようだ。
   魔法陣は微動だにしない。

『こんのぉ……、時間がねぇんだよっ! 剥がれやがれぇえっ!!』

   額に青筋を走らせながら、イヤミーは更に力を込めて、虚無の穴を一回り大きくさせた。

   うぉおおぉっ!?
   でっかっ!??

   てかやばいっ!!! 
   俺も吸い込まれちゃうぅっ!?!?

   俺とカービィは共に伏せ、床にしがみ付いて耐える。
   そうこうしていると、ベキベキベキィッ!! と嫌な音がして……

「んなっ!? それはやべぇっ!??」

「わわわわわっ!?!?」

   見ると、扉を囲っている壁にヒビが入って、壁紙がめくれて柱が剥き出しとなり、更にはその柱も虚無の穴の吸引に耐え切れず、大きく湾曲し始めたのだ。
   最終的には……

   ベキベキ……、バッコーーーーン!!!

   扉の両側の柱は、まるで爆破魔法でもくらったかのように粉々になり、虚無の穴へと吸い込まれてしまった。
   それを見たイヤミーは、ハッと我に返ったかのように、すぐさま虚無の穴を消滅させる。
   そして……

『くっそぉ~……、嫌な結界だぜ』

   ガチギレな表情で捨て台詞を残し、その場からスッと姿を消してしまった。

   後に残ったのは、白い魔法陣が貼られたままの第五会議室の扉と、床に這いつくばる俺とカービィ。
   そして、柱があった場所からこちらを覗く、引きつり笑いのノリリア。
   辺りにはまだ、けたたましい警報の音が鳴り響いていた。
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