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★寄り道・魔法王国フーガ編★

469:麻痺

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「カービィ……、アド・ウェルサぁああぁぁっ!!!!!」

   ぎゃああぁあっ!?
   はっ、半端ねぇええぇっ!??

   目の前にいる美少女がカービィだと知るや否や、ローズの怒りは頂点に達した。
   身体中からドス黒い緑色の魔力を大量に放ちながら、沸騰したかのように顔を真っ赤に染めて、カッ! と目を見開いて叫んだ。

「二度とわたくしの前に現れるなと! 言ったはずよっ!? なのにノコノコとよくもまぁっ!! この町に足を踏み入れられたものねっ!?? あなたのその図太さが許せないっ!!! それに、何よその姿は!?!? 何故女の姿にっ!?!?? この……、この変態っ!!!!!」

   ワナワナと、怒りで体を小刻みに震わせるローズ。

「別に、おいらからおまいの前には現れてねぇぞ? おまいが勝手に探しに来たんだろう?? それに、女になんかなってねぇぞ。ほれ」

   ヘラヘラと、いつも通りに笑う美少女カービィは、上半身の服をまくって見せた。
   そこには、真っ平らな男性のお胸がありました。

「なっ!? きゃあぁっ!!! なんてものを見せるのっ!?!? 破廉恥破廉恥破廉恥っ!!!!!」

   顔を真っ赤にして、更に声を荒げるローズ。
   
   なんだよカービィのやつ。
   可愛い顔して女の子っぽくしてたくせに、体は男のままだったのか!?
   何度かドキッとして損したわっ!!!
   あれか!??
   今流行りの可愛い系男子だなっ!?!?
   ……誰に需要があんだよそれっ!?!!?

   てか、ローズ団長……
   男性の上半身を見たぐらいで赤面するなんて、あなた意外とウブなんですね、ぐふふ。

   ……とまぁ、そんなどうでもいい事を、俺が考えていられたのもここまでだった。
  
「許さないっ! 許さないっ!! 許さないっ!!!」

   ヒステリックな金切り声を上げながら、ローズは魔導書と杖を取り出した。
   その魔導書は、これまで俺が目にしてきたどの魔導書よりもボロボロで、とても年季が入っているように見える。
   杖は、先端に薔薇の形を模した、キラキラと輝く白い鉱石が付いている、可愛らしい風貌のローズにぴったりの、とてもラブリーな杖だ。
   だがしかし、それらを取り出したという事は……?

最大級メギストス! 爆破エクリクシー!!」

守護アミナ!!!」

   ドッ……、カァアーーーーーン!!!

「ぎゃあぁっ!?!??」

   俺は思わず悲鳴を上げた。

   ローズは、躊躇うことなく魔法を行使した。
   杖から飛び出した緑色の閃光は、一直線にカービィ目掛けて飛んでいき、カービィが作り上げた守護魔法の壁にぶち当たって……、文字通り、大爆発を起こしたのだ。
   巻き起こる爆風に、店内の机や椅子は盛大に吹っ飛んで、食器や酒瓶、火が灯っていたガラスランプなどは粉々に砕け散り、辺りは白い煙に包まれた。
   
   余りに一瞬の出来事、余りに凄まじい爆発に、店内は残っていた店員や客達の悲鳴で溢れ返る。
   かく言う俺も、ビックリしたやらビビったやらで、体が完全に固まっている。

   な、なんちゅう無茶苦茶な事をしやがるんだ……?
   ここは町中だぞ?? 屋内だぞ???
   なのに爆破魔法をぶっ放すなんて……、どんな神経してんだよローズこの野郎っ!?!?

   明かりが無くなった事で辺りは暗くなり、ローズの体から発せられる緑色の光と、カービィを創り上げた守護魔法の青い魔法陣の光だけが、この場を照らしていた。

「なっはっはっ! おまいのしょぼい魔法なぞ効か~んっ!!」

   魔導書と杖を手にし、守護魔法の青い光に守られたカービィが、ローズを嘲笑う。

   ばっ!? 馬鹿野郎カービィ!!?
   挑発すんなよ馬鹿っ!!!!

「しょっ!? しょぼいですってぇえっ!?? なんて事……、なんて事っ!?!? 殺してやるぅううっ!!!!!」

   案の定、火山が大噴火したかの如く、怒り狂うローズ。
   背後からコニーちゃんが制止するのも無視して、目にも留まらぬ速さで、魔法を次々と行使する。
   幾筋もの緑色の閃光が、シュンシュンと音を立てながら暗闇を走る。
   ドカンッ! ドカンッ!! と、至近距離で大砲が撃ち続けられているかのような爆音が鳴り響き、周りの物が次々と倒壊していく。

   店内に残っていた者は皆、悲鳴を上げながら慌てて屋外へと避難していった。
   俺もなんとか外に出たいのだが……、無理だ。
   何故なら、俺が今いる場所は、攻防を繰り広げるローズとカービィの間、そのど真ん中なのだから。

   だだ……、誰か助けてぇっ!!!

   俺を隠してくれていた机は、とうの昔に何処かへ飛び去ってしまった。
   つまりは、透明でも何でもないそのまんまモッモの姿で、俺は床に伏せていて……
   もはや震える事しか出来ません、はい。
   
   攻防が続く事数十秒。
   辺りは白い煙で包まれて、全く何も見えなくなってしまった。
   そうなってようやく、ローズは魔法を止めた。

「はぁ……、はぁ……、これでも……? これでも、私の魔法が……、しょ、しょぼいと……??」

   さすがの俺でも、煙の中にいる者の姿は見る事が出来ない。
   しかしながら、その息遣いと声の様子から、ローズはどうやらかなり疲弊しているようだ。
   煙の中のそのシルエットは、肩で大きく息をして、胸に手を当てている。

   だけど、カービィはその言葉に答えない。
   
「……なんとか、お言いなさいよ?」

   苛立っているのがよく分かる声色で、ローズが尋ねる。
   でも、やはりカービィは答えない。
   それに、白い煙の中には、先程までそこにあったはずの美少女カービィの影が無くなっている。

   ま、まさか……、嘘でしょ?
   やられちゃったの??
   
   一抹の不安が脳裏によぎる俺。
   だがしかし、すぐさまそれは払拭される。
   嗅ぎ慣れた、マーゲイ族であるカービィの獣臭が、ふわっと俺の鼻に届いたのだ。

「まぁ……、しょぼいってのは撤回しようか。だけどな……」

   カービィの声が聞こえたと同時に、タタタタッ! と、俺の目の前を小動物が駆け抜けていった。
   そして……

麻痺ナルク!!」

   カービィの声が聞こえて、ローズの影の前で赤い光がピカッと光ったかと思うと、バタンッ! と音がして、その影は後方へと倒れ込んだ。
   何が起きたのか分からず、キョロキョロする俺。
   すると、すぐ側から、ヘラヘラとしたいつもの声が聞こえてきて、マーゲイ族の姿へと戻った、ピンク色毛玉のカービィが現れた。

「ツメが甘いんだよ、おまいは」

   その勝ち誇ったような笑みが、俺の目にはしっかりと写っていた。
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