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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

438:美味しそうっ!?

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   年の頃は推定二十代前半……、いや、十代に見えなくもない。
   身長は1.5トールほどだろうか、並みの人間の成人女性ほどはある。
   だがしかし、彼女は間違いなく、人ではなかった。

   鮮やかな緑色の肌。
   髪は漆黒で、瞳は血のように真っ赤だ。
   そしてそのお顔は紛れもなく、先程まで俺と一緒にいた、あのお化けのテジーにそっくりだった。

   おいおい……、これって、ヤバくないか?
   緑色の肌に、テジーそっくりのお顔って……
   もしかして……、いや、もしかしなくても、こいつは……!??

「ねぇ? 聞こえてる??」

   彼女は、にこりと微笑みながら、俺に問い掛けた。
   よく通るその高い声も、テジーにそっくりだ。

「えっ!? あ……、なっ、何の!?? ……用ですか???」

   俺は、こんがらがっている頭の中を整理しながら、必死に言葉を発した。

   落ち着け俺。
   とにかく落ち着くんだ。
   まだそうと決まったわけじゃないじゃないか……

   ドキドキドキと、俺の小さな心臓の鼓動が速くなる。
   緊張からか、息がし辛い。
   足元がふらついて、何処からか冷気が漂ってきているかのように、全身がスーッと寒くなった。

「何の用か、ですって? うふふ……、それは、私が教えなくちゃ分からないかしら??」

   彼女は、わざと小首を傾げ、困った顔をする。
   
   くぅ……、やっぱり? やっぱりそうなのねぇっ!?

   ガタガタと震え出す俺の体。
   しかし、俺だって、だてにここまで幾多の死線を潜り抜けてきたわけじゃない。
   やるべき事は分かっている。

   俺はサッと、鞄の中からエルフの盾を取り出して左手に装備し、右手には万呪の枝を構えた。
   今の俺にできる唯一の、精一杯の防御である。
   
「うふふふふ……、さすがは時の神の使者だわ。私が何者なのか、言わずとも理解できたのね」

   ……いっ!? いいえっ!!
   あなたが何者なのかは存じ上げませんっ!!!
   だから名乗ってくださいぃいっ!!!!
   
「だけど……、そんな物で、この私をどうにか出来るとお思いなのかしら? だとしたら心外ね。仮にも私は、悪魔の力を持っているのだから」

   ひぃいっ!?
   やっぱりぃいっ!??

「おっ!? お前はっ!?? だっ、誰……、ですかぁあっ!?!?」

   全身から滝のような汗を流し、もはや俺の足元にだけ地震が起きているのではないかと思うほどにガタガタと震えながらも、俺は叫んだ。
  
   お願いっ!
   違っていてっ!!
   自分はテジーだって、言わないでぇえっ!!!

「うふふ、礼儀正しいのね。いいわ、自己紹介をしましょう。私はかつてホムンクルスだった者……。目障りな九人の姉達を殺して、とあるお馬鹿な悪魔の心臓を喰らい、自らの身も心も悪魔化させた……、テジー・パラ・ケルーススよ」

   ぎゃあぁあぁぁ~!!!!!

   やっぱり!?
   やっぱりぃっ!??
   やっぱりぃいいぃぃっ!?!??

   俺の目の前に現れた緑色の肌を持つ彼女は、悪魔ヴァッカの心臓を喰らって悪魔となったホムンクルス……、十番目のテジーだった。
   
「あぁ……、ヴァッカが言っていた通りだわ。あなたって本当に、美味しそうな匂いがするのねぇ~」

   俺を真っ直ぐに見つめて、じゅるりと舌舐めずりする悪魔テジー。

   美味しそうっ!?
   なっ、まさかっ!??
   俺を食べる気っ!?!?

   あまりの恐怖に、俺は思わずちびってしまう。
   そんな事は知ってか知らずか、悪魔テジーはゆっくりと、こちらに歩き始めた。

   ひぃいっ!?
   やばいやばいやばいやばいっ!!?
   にげっ、にげげげっ、逃げないとぉおっ!!??

「モッモ!? 大丈夫!??」

   はっ!? この声はグレコ!??
 助けに来てくれたのかっ!!??

   不意に聞こえたグレコの声に、俺の目にはブワワッ! と涙が浮かぶ。
   辺りをキョロキョロと見回して、その姿を必死に探す俺。
   だけど、グレコはどこにも見当たらない。
   何故ならその声は、絆の耳飾りから聞こえてきているのだから……
   しかしながら、俺の頭はもはや完全にパニックなので、俺は何度も視線を周囲に巡らせて、グレコを探し続ける。

「グレコ!? 何処っ!??」

   思わず叫んだ俺に対し、悪魔テジーの眉毛がピクリと動く。

「何処って……、まだ外よ? 今鉄扉が開いたわ! 凄いわね、モッモ!! こんなにすぐ扉を開けられるなんて!!! 今から私達も城内へ突入するから!!!!」

   はんっ!? 外っ!?? マジかっ!!??

「グレコ! お願いっ!! 急いでぇえっ!!!」

「え? ……どうしたの??」

「それがっ! 悪魔がっ!! テジーの悪魔がぁあっ!!!」

   なんとかグレコに状況を説明しようとした……、その時だった。

絶望の檻クルヴィ・アペルピサー

   悪魔のテジーが、こちらに両手の掌を向けながら、何かの呪文を唱えた。
   すると、俺の体を赤い光が包んだかと思うと、グレコとの交信が、強制的にプツンと途切れたではないか。  
   そして、足元がグラリと揺れて、バランスを崩した俺は横向きに倒れる。
   しかし、俺の体が冷たい床に触れる事はなかった。
   何故なら俺は、見覚えのある丸いガラスの大きな球体の中に閉じ込められてしまっていたからだ。

   なななっ!? なんだこれっ!??
   これは……、地下の保管庫で、眠るホムンクルス達が閉じ込められていたあの球体ではっ!?!?

「うふふふふ、捕まえたぁ~♪ やっとこの時が来たのね……、待ちに待った瞬間よ。さぁ、他の奴らに邪魔されちゃ堪らないわ。一緒に玉座の間へ行きましょうねぇ~♪」

   悪魔のテジーは、俺が入っているガラスの球体を優しく撫でると、それをふわりと宙に浮かせた。
   
   わわわわっ! 浮いてるぅっ!?
   すっげぇ妙な感覚だな、無重力みたい……

   はっ!? そんな呑気な事を言っている場合ではないっ!!?
   すっげぇやばい状況じゃないか、俺ってばよぉっ!?!?

   悪魔のテジーは、足取り軽く製造室を出て行く。
   とても上機嫌で、ふんふんと鼻歌を歌いながら……
   そして、俺が入ったガラスの球体は、ふわふわと宙に浮かびながら、彼女の後について行くのだった。

   や……、やべぇぞっ!?
   完全に捕まってしまったぞっ!??
   だ、誰かぁあっ!!!!
   助けてぇええぇぇっ!!!!!
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