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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

432:スケスケ

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   狭い小部屋に一人、取り残された俺。
   すぐそばには、床に寝かせたままのメイクイとポピーがいる。
   未だに二人とも意識は戻らないけれど、穏やかな表情で、しっかりと呼吸をしているから、恐らくは命に別状はないだろう。

   だけど……、さてさて困ったぞ。
   ここからいったい、どうすりゃいいんだ?

   俺はおもむろに鞄を漁って、たまたま手に取った干物を引っ張り出す。
   コトコ島の港町コニャで購入した干物の、最後の一つである。
   独特な磯の香りを放つそれを、俺は遠慮なく口へと運び、自慢の前歯で噛みちぎって、モシャモシャと食べた。

   腹が減ってはなんとやらだ!
   ここからは知能戦になる気がするから、脳に栄養を送らないと!!

   と、かなり馬鹿げた事を考えながら干物を食べ尽くし、多少なりとも小腹が満たされた俺はスクッと立ち上がった。

   メラーニアは、ここで待っていろって言っていたけど……
   俺はジッとしているのが苦手なんだ。
   何より、全く何も状況が掴めないこんな場所になんて、止まっていたくない。
   せめて、外の戦況を知りたい。

   そう思った俺は、耳についている絆の耳飾りを一撫でする。
   
「グレコ……、聞こえる?」

   小さく声に出して尋ねると……

「モッモ!? うん、聞こえるよっ!! 大丈夫っ!??」

   すぐさまグレコが返事をしてくれた。

「僕は大丈夫。そっちは? カービィとカサチョが、城壁にある鉄扉を開きに向かったんだけど??」

「えっ!? そうなのっ!?? でも……、まだ開いてないわ!! さっきからずっと、何か……、戦っているような音は聞こえるんだけど……」

   ふむ……、とりあえずカービィとカサチョは、今もなおホムンクルス達と交戦中というわけか。
   外に音が漏れているのなら、きっと鉄扉の前までは辿り着いているはずだ。
   しかし、肝心の鉄扉はまだ開かれていない……
   となると、もしかしたら、鉄扉を開ける鍵は、どこか別の場所にあるんじゃないだろうか?
   前世のテレビゲームなんかだと、そういった仕掛けのあるお城のダンジョンはよくあったからな。

「モッモ、メイクイとポピーは!? 無事なのっ!??」

「あ、うん……。二人とも生きているよ。だけど意識がないんだ」

「そうなのっ!? なら急がないと……、あぁ、でもどうすれば!??」

   グレコの声が狼狽えている。
   何気にグレコは、ポピーとも仲良くしていたからな。
   とても心配しているに決まってるよね。

「大丈夫、僕がなんとかするよ!」

   俺はそう言って、アルテニースの地図を広げた。
   どこかに鉄扉の開閉のヒントがありはしないかと、そこに描かれている地図を隅から隅まで探す。

「なんとかって、無茶はしないでよっ!? あなたに何かあったら取り返しがつかないんだからっ!!?」

   グレコの声が張り上がる。
   しかしながら、そう思うのなら、俺に一人で行動させたカービィを後でこっ酷く叱ってくれ! と、心の中で思って、俺はニヤリと笑う。

   それと同時に、何やら怪しげなマークを地図上に発見した。
   レバーのようなそのマークは、地図上にそれ一つしかない。
   わざわざこんなものを一つだけ描き込むという事は、このマークのある場所にはレバーがあって、それが重要な物だという事に違いない。
   そしてそれは、この研究室の向かい側にある、製造室の中にあった。

「たぶんこれだな……。グレコ、待ってて! 僕が扉を開くからっ!!」

   俺はそう言って、グレコの返事を待たずに、絆の耳飾りの交信を切った。

   よ~っし! 行くぞぉっ!!

   鼻息荒く、小部屋の外に飛び出そうとした、その時だった。

『お待ちなさい、小さな時の神の使者よ……』

   背後から、聞き覚えのある声がして、俺はピタリと体を止めた。
   背筋を走る嫌な悪寒……
   恐る恐る振り向いた先にいたのは、見覚えの無い御婦人だった。

   年の頃は五十半ばほどだろうか?
   小じわの目立つお顔はとても整っていて、若い頃はさぞお綺麗だったでしょうといった顔立ちだ。
   気品のあるドレスを身に纏い、髪を後ろで束ねたその姿は、まるでどこぞの貴族のよう。
   ただ……、その体は……

「す……、スケスケ……?」

   半透明に透けていて、体は少し宙に浮いていた。
   たぶん、この御婦人は……、俺の苦手なあれに違いない。

「あ、あなたは……、おば……、お化け、です……、か?」

   全身から血の気が引くのを感じながらも、俺は声を振り絞り、尋ねた。
   すると彼女は……

『私の名は、テジー・パラ・ケルースス。大錬金術師、ニベルー・パラ・ケルーススの妻です』

   そう言って、丁寧に頭を下げた。

   だがしかし、その行為は俺に更なる恐怖を与えた。
   半透明な体の彼女の後頭部には、見るからに痛々しい……、いや、もはやグロテスクな域に達している、打撲の跡が残っているのだ。
   色こそ無いが、皮膚は破け、頭蓋骨は陥没して、中のオミソがちょっぴり見えちゃっている……

   ひぃいいぃぃ~~~!?!??

   先程までの意気込みはどこへやら。
   俺の全身はブルブルと震え出し、前歯はカタカタと鳴って、オシッコがチョロっと漏れました。
   
   おっ!? お化けっ!??
   テジーのお化けだぁあぁあっ!?!?

『……驚かせてしまったようね、ごめんなさい。けれど、お前は来るなと、私があれほど警告したと言うのに、ノコノコここまでやって来たあなたが悪いのですよ? こうして姿を見せなければ、あなたはまた、私の警告など無視するでしょう??』

   呆れたような表情で、冷ややかに俺を見るお化けの御婦人。

「警告って……、何の、事? ……ですか??」

   ビビっているせいなのか、元々の記憶力が悪いせいなのかは分からないが、俺には御婦人の言う警告とやらは、全く身に覚えがなかった。
   と言うか……、怖くて何も思い出せないぃっ!!!

『よくもまぁそれで……、ここまで生きてこられたものですね。感心しますよ』

   嘲笑うかのような表情を見せる御婦人に対し、何故だか俺は恐怖心が少し和らぐのを感じた。
   ……別に、ドMなわけじゃないからねっ!?
   その笑い方がちょっと、人間らしい感じがしたから、緊張が解けたんだよっ!!!

「え、と……、何か、ご用ですか?」

   相手が貴族っぽい格好なので、言葉が改まる俺。
   すると、自らをテジーだと名乗るこのお化けの御婦人は、キリッとした目を俺に向け、こう言った。

『小さな時の神の使者よ。あなたはこの部屋から出てはいけない。あなたの仲間が救出に来るまで、ここで待つのです。でないと、十番目のテジーの手によって、あなたは奈落の底へと突き落とされます!』

   御婦人が放つ、迫力満点の目力とその言葉に、俺は耳の先から足の先まで、全身の毛が逆立つのを感じた。
   だけど、心の内では……

   十番目のテジー!?
   何それっ!??
   誰それっ!?!?
   てか、奈落の底って……
   何処それぇっ!?!!?

   ピーーーーーーー、プスンッ
   
   もはや何が何だか分からなさすぎて、俺は、体の全機能が停止するのを感じた。
   
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