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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

421:防護砦

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   ガキーーーン! ……ガラガラガラガラ

「ふぅ……、カービィ! こちらは大方片付いたぞ!?」

   ドォーーーン! ……バラバラバラバラ

「おうギンロ! こっちもだっ!!」

   不気味な青い水が流れる噴水の石垣に腰掛けて、俺はみんなの作業を見守っていた。
   俺が石化したホムンクルス達を、粉々にする粉砕作業だ。
   ケンタウロス達は、積年の恨みを晴らすかのごとく、力一杯容赦なく、ホムンクルス達を破壊した。
   それはもう、見るも恐ろしい、憎しみに溢れた鬼の形相で……
 なんかちょっと、自分で石化しておいてあれだけど、あんな風に生涯を終えるのは可哀想だな~と、俺はボンヤリ考えていた。

「それにしてもこの水……、気味悪いわね」

   隣に座るグレコが、噴水から流れ出る青い水を見てそう言った。

「あぁ、うん……。それね、たぶんあんまり体に良くないと思う。変な臭いがするから」

   戦っていた時は無我夢中で気付かなかったけど、この国はとっても変な臭いがする。
   なんだろうな? 前世の記憶で例えると、殺虫剤みたいな??
   なんかこう、ツーンというか、フーンというか、あんまり長時間嗅いでいると体に害を及ぼすような、そんな臭いが国中に立ち込めているのだ。
   そしてその臭いの原因は間違いなく、この噴水の青い水だった。

「えっ!? ならこんな場所で座ってちゃ駄目じゃないっ!??」

   慌てて立ち上がり、俺をヒョイと小脇に抱えるグレコ。

「わわっ!? 降ろして~、恥ずかしいよぉ~!!!」

   ワタワタともがくも、寝不足と疲労によって俺の動きは小さく鈍い。
   ちょっと仮眠が必要そうです、はい。

「カービィさん! 皆さん!! こっちへ来てください~!!!」

   何処からともなく声がして、視線を向けると、通りを駆けてくるエクリュの姿があった。
   一応、彼は二本足で立って歩いているわけだけど、走っているお顔はもう、まんまアルパカだ。
   それでもまぁ、森で馬面に変えられていた人間たちに比べれば、数倍可愛いけどね。

「どうした!? なんかあったか!??」

「こっちに……、はぁはぁ……。この道を北に進んで行くと、城が見えまして……、はぁ……、そこにノリリア副団長の防護砦アミナ・フルリオが!」

「なんだって!?」

   エクリュの言葉に、カービィが駆け出す。

「モッモ、私達も行きましょう!」

「あ……、は~い」

   グレコは俺を抱えたまま、カービィの後を追った。






   騎士団のみんなは、数名でパーティーを組み、町中に残党がいないかを手分けして探していた。
   そして、俺の石化を逃れたホムンクルス達が逃げ込んだであろう、国の北側に位置する城の前に、それを見つけたのだ。
   丸くてでっかい、土の塊を……

「わぁ~……、お城だぁ、すげぇ~」

   グレコに抱えられたまま、ホムンクルスの城の前に辿り着いた俺は、思わず感嘆の声を上げた。
   大きな建物なら、港町ジャネスコでも見た事がある。
   けれど、城を見るのは、モッモとして生まれてからは今が初めてだった。
   とても立派なその城は、街の建物と同じく茶色い煉瓦で作られていて、正面にある巨大な鉄扉以外には、扉も窓も一つも見当たらない。
   つまり、完全なる城塞であった。

   そして、その城の真ん前に、その巨大な土の塊は存在していた。
   まるでそれは、でっかいフンコロガシが一生懸命作ったような……、ほぼほぼ真ん丸な形をしている。
   その周りには騎士団のみんなが勢揃いしていて、何やら重々しい雰囲気に包まれていた。

「何かしらね、あれ……?」

   ゆっくりと俺を地面に下ろしながら、眉間に皺を寄せて、それを見つめるグレコ。

   まぁ、正解を求めて尋ねたわけではないだろうけど……、俺に聞かないでよ。
   知らないよ、あんなでっかいフンコロガシの玉。

「あれは守護結界の一種で、別名防護砦とも呼ばれている。名前の通り、僕たち魔導師が戦場において、成す術がなくなった時に最終手段として使う魔法さ」

   いつの間にかすぐそばに居たマシコットが、俺達に説明してくれた。
   その表情は、いつもよりも固く暗い。

「取り分けあの防護砦は土で出来ているから、きっとノリリア副団長の……。今、カナリーが通信魔法で中に呼び掛けている」

   マシコットの言葉通り、その大きな土の塊に向かって、杖を向けるカナリーの姿があった。
   その表情は真剣そのもので、額には薄っすらと汗が浮かんでいる。

「じゃあ……、ノリリアはあの中に?」

   グレコの問い掛けに、マシコットは一層顔を暗くする。
   心なしか、燃える炎も縮こまっている。

「分からない。けど……、あの魔法は本当に、最後の切り札として使うものなんだ。本当にどうにもならなくなった時に行使する、最初で最後の、最大の防御魔法。全魔力を消費して、全ての攻撃を防ぐ為の最終手段。そのような状況に、彼らは陥って居た。つまりは……、中にいるノリリア副団長、もしくは他のメンバーが、深手を負っている可能性が高い……」

「そんな……、あっ!? 崩れるわよっ!??」

   バキバキバキ、ベキベキベキと音を立てながら、土の塊に亀裂が走る。
   そして、その表面の一部がガラガラと崩れていって……

「ノリリア!? 無事かぁっ!??」

   カービィが、いの一番に穴に飛びかかり、中を覗いた。
   
「ポポ……、カービィちゃん、来てくれたのポね!」

   離れた場所に立つ俺の、よく聞こえる耳が、弱々しいながらもしっかりと答えるノリリアの声を聞き取った。

「みんな! 生きてるぞっ!! 救出だっ!!!」

   カービィの呼び掛けに、騎士団のみんなはホッとした表情を浮かべて、力を合わせて土の塊を壊し始めた。
   丁寧に、中にいる者たちが傷付かないように、ゆっくりと。

「なに? どうなって……、みんな無事なの??」

   胸の前で祈るように手を合わせ、不安気な表情で前を見つめるグレコ。

「大丈夫だよグレコ。ノリリアの声が聞こえた」

 「ほんと!? あぁ……、良かったわ」

   そう言ったグレコの目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。

   本当に良かった、ノリリアが無事で。
   だけど……

   俺は、ギュッと唇を噛みしめる。

   この時俺は、既に気付いていた。
   土の塊が崩れ、中の音が外に漏れ出た瞬間に、分かってしまった。
   防護砦の中にいる者たちの呼吸、微かに聞こえる言葉と、すすり泣く声。
   それらから推測できる、最悪の事態。
   そこにいる人数が、とても少ない事に……
   
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