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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

420:モッモ無双

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   ぎゃあぁ~!?
   火がぁああっ!??

「うぉら~っ!!!」

   勇ましい雄叫びを上げながら、シーディアは崩れ落ちた国門の間を駆け抜ける。
   アイビーの爆破魔法によって粉々になった国門の残骸は、真っ赤な炎に包まれて、轟々と激しく燃えていた。
   しかし、それを物ともせず、まるでサーカス団の火の輪くぐりの如く、シーディアは全速力でフラスコの国へと突入した。

「あちちっ!? ……えっ!??」

   降り掛かる火の粉を払いながら俺は、目の前に広がる光景に驚き、高速で瞬きをした。
   想像していたのと全く違う風景が、そこに広がっていたからだ。

   巨大なガラス容器のような物体の中に存在する、ホムンクルスの巣食うフラスコの国。
   その内部は、まるでどこぞの立派な王国の様に、綺麗に整備された美しい街並みが広がっていた。 
   国門を抜けたすぐ先にあったのは、噴水のある小さな広場だ。
   ただし、そこから流れ出る水は普通のものではないらしく、不気味な濃い青色をしていた。
   広場からは通りが幾本も伸びていて、茶色い煉瓦造りの小さな家々が所狭しと立ち並んでいる。
   道も煉瓦で綺麗に舗装されていて、これまで旅してきたピタラス諸島のどの場所よりも、文明としては高度だろうと思われた。
   
   なんだっていったい、こんな綺麗な場所に、あんな化け物が住んでるんだ……?

   俺は、周りにひしめいている、この素敵な街の風景に全くそぐわ無い彼らを、ビクビクしながら見渡した。

   造出生命体、またの名をホムンクルス。
   彼らの外見は様々ながらも、酷く醜かった。
   国の中の者はローブを身に纏っておらず、その全身が顕著に見て取れる。
   姿形は、ハイエルフに似ている者から、人間やその他の獣人など……、果てはケンタウロス型のホムンクルスまでいるようだ。
   しかし、そっくりではあるものの、やはり彼らは異質だった。
   体の一部、もしくは全身が黒く変色し、腐敗しかかっているのだ。
   酷い者だと、目元より上の頭部以外が真っ黒になり、既に皮膚がジュクジュクと膿んでいる者もいる。
   あれはもう……、生命体と言うよりは、歩き回る腐乱死体に近い。

   カービィの言葉を思い出しながら俺は、あまりに醜い彼らの姿に、恐怖を通り越して呆然としていた。

「敵襲! 敵襲っ!!」

「国門が破られたぞぉっ!?」

「戦える者は武器を取れぇっ!!!」

   口々に叫ぶホムンクルス達の声が、辺りに響き渡る。
   逃げ惑う者、驚いて腰を抜かし動けなくなる者、武器を手にこちらに向かってくる者……
   ざっと見ただけでも、数十……、いや、百を超えるホムンクルスがこの場にいるようだ。

「うわぁ~!?!?」

   叫び声をあげながら、こちらに突進してきたのはハイエルフ型のホムンクルスだ。
   その手には槍を持ち、シーディアの体を側面から突き刺そうとした。

「さぁ~っ!!!」

   聞き覚えがある様な無い様な、勇ましい声を上げながら、シーディアは剣を一振りする。
 ビュンッ!という、刃が空を切る音が聞こえたかと思うと、槍を持ったホムンクルスは、その腹部を切り裂かれ、赤黒い血飛沫を上げながら、後ろへと吹っ飛んだ。

 なんという威力!?
   だてに次期族長を名乗っているだけあるな、シーディアすげぇっ!!?

   しかし、相手はホムンクルスである。
   すぐさま起き上がり、また槍を手に向かってくるではない。
   その腹部から、見てはいけない内臓を飛び出させたままの格好で……

   あぁあぁぁっ!?
   グロテッスクぅうぅぅっ!!?
   あんな状態でも普通に立って走ってくるぅうぅぅ!?!?

   そしてすぐさま、シーディアは周りを囲まれてしまう。
   前も横も後ろも全部、腐敗しかかった体躯のホムンクルス達で埋め尽くされた。

   ぎゃあぁああぁぁっ!?
   バイオハザードぉおおぉぉっ!??

守護アミナ!!」

   魔導書を開き、呪文を唱え、杖を振るうアイビー。
   杖の先から放たれた光は薄い膜となって、俺たちもろともシーディアの体をすっぽりと覆った。

   これはおそらく、守護結界の簡易バージョン!?

   けれどもホムンクルス達は、そんな守護結界など御構い無し、なりふり構わずシーディアに襲いかかる。
   結界に触れたホムンクルスは、触れた部分の体がドロリと溶けて、ぼたぼたと地面に落ちた。
   しかしそれをも無視して、ホムンクルス達はなおも攻撃を仕掛け続ける。

   シーディアは、敵の攻撃をうまく交わしつつ、次々と奴らの体を斬り上げた。
   そのどれもが急所狙いで、相手がホムンクルスでなければ一撃で仕留めているだろう。
   でも、何度も言うように、相手は不死のホムンクルスなのだ。
   手足がもがれようとも、皮膚がめくれて肉が裂け、骨が剥き出しになろうとも、ホムンクルス達は血反吐を吐きながらこちらに向かってくる。

   これではキリがないっ!?
 そしてエグいっ!!?
   ななな、何とかしなくちゃっ!?!?

「モッモ君! 石化魔法をっ!!」

   背後のアイビーが叫び、俺は我に帰る。

「はっ!? はいぃ~っ!!!」

   そうだよっ!
   俺がやらなきゃならんのだよっ!!

   右手に持った万呪の枝を、ギュッと握り締める俺。
   
   大丈夫、出来るさ。
   前だって出来たんだから。
   やってやる……、やってやるぞっ!!!

「う~……、え~~~いっ!!!!!」

   俺は、とっても格好悪い声を上げながら、万呪の枝をホムンクルスへと向けた。
   本当は、カービィの魔法みたいに、何か呪文でも唱えようかと思ったのだけれど……
   必要ないし、思い付かないしでやめておいた。

「グァッ!? なんだっ!?? ああぁっ!?!?」

   たまたま枝を向けた先にいたケンタウロス型のホムンクルスが、呻き声を上げながら動きを止めた。
   武器を掲げたままの格好で固まり、その目は光を失って見る見るうちに白く変色した。

「おぉ!? 効いてるっ!?? よ~し……、えいっ! えいっ!! えぇ~いっ!!!」

   これまたなんとなく……、たまたま視線を向けた先にいるホムンクルスに向かって、俺は万呪の枝を振るった。
   すると……

「うぐっ!? 体が、動かなっ……!??」

「ががっ!? 何がどうなって……、るっ!?? がぁあぁぁっ!?!?」

   ホムンクルス達は、悲痛な呻き声を上げながら、次々と動きを止めていき、その瞳を真っ白に染めていった。

「まさか……、石化魔法っ!?」

   ハイエルフ型のホムンクルスの一人が、目を見開き驚いて、そう口にした。
   すると、その言葉を聞いたホムンクルス達は、明らかに動揺し始める。
   そして……

爆破エクリクシー!」

   最初に石化したケンタウロス型のホムンクルスに向かって、アイビーが小さな光の玉を飛ばした。
   光は、ケンタウロス型ホムンクルスの胴体部分に着弾し、ドォーーーン! という爆発音を上げながら、ケンタウロス型ホムンクルスの体を粉々に砕いた。
   飛び散った体の破片は肉片ではなく、まるで石のように鋭利な形をしている。

「ま……、まずい……。石化魔法だぁっ!?」

「にっ!? 逃げろぉ~!!!」

   悲鳴を上げながら、逃げ出すホムンクルス達。

「馬鹿者っ!? 戦えぇっ!!? 残って戦うのだぁあっ!!!!」

   ホムンクルスの中でも、司令役っぽいハイエルフ型のローブを着た奴が、逃げ出すホムンクルス達を制止する。
   その結果、ホムンクルス達は半狂乱に陥って……

「わぁああ~!?」

「あぁあぁぁ~!!!」

   奇声をあげながら、なおも攻撃を仕掛けてきた。
   しかし、奴らの武器がシーディアに届く事はない。
   何故なら……、俺がいるからだっ!

「え~~~いぃっ!!!」

   万呪の枝を、思いっきり振り回す俺。
   頭の中で、石になれ! 石になれ!! 石になれ!!! と連呼しながら。

「うぉらぁあ~っ!!!!」

   シーディアが剣を振るい、石化したホムンクルスの体を粉々に砕く。
   戦況は、一気に逆転した!

「いいぞモッモ君! もっとだっ!!」

「はいぃっ!!!」

   アイビーに鼓舞されて、俺は舞い上がる。

   俺ってば……、戦えちゃってるじゃないっ!?
   めちゃくちゃ役に立ててるじゃないっ!??
   ひゃっほぉ~いっ!!!

   ホムンクルス共め、来るなら来いっ!
   このモッモ様が全員、石に変えてやろうぞっ!!
   モッモ無双じゃあぁっ!!!
   ふはははははっ!!!!

   次々に、ホムンクルス達を石化していく俺。
   寝不足によるナチュラルハイも手伝って、感じる快感が半端ない!
   アドレナリンが出まくってるぅっ!!
   ヒーーーハーーー!!!

   そうして戦う事数分。
   残りのケンタウロスと騎士団のみんな、カービィ、グレコ、ギンロにメラーニアが、フラスコの国の内部へと突入してきた時にはもう、その場にいるホムンクルスの半数が、俺の万呪の枝によって石化され、動かなくなっていた。
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