上 下
425 / 800
★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

414:第一級禁呪魔法

しおりを挟む
   
   邪魔だった廃材が綺麗さっぱり無くなって、赤い小箱の鍵を手にした俺たちは、そこに出来た平坦な場所で野営する事にした。
   今から里に戻ろうとすると、到着が朝方になってしまう。
   なので、このままここに留まって、明日こちらに向かって出陣してくるケンタウロス達を待とう、という事になったのだ。
   幸いにも、俺の神様鞄の中にはグレコのテントが入っていたので、今夜はその中で休む事にした。

   ただここは、ホムンクルスとそのペットである凶暴な野鼠の縄張り……
   つまり、そんな場所で野営をするなんて、彼らに対し、さぁどうぞ食べてください、と言っているようなものである。
   なので……

「カサチョ~、そっち準備できたかぁ~?」

「出来たでござる! いつでもいけるでござるよ!!」

   テントを設置したその四方に、カービィとカサチョは少し大きめの石を四つ配置して、それを支点に何やら魔法陣のような物を地面に描き上げた。

「よ~しっ! じゃあいくぞっ!? せーのっ!!!」

   杖と魔導書を手に、カービィとカサチョは同時に呪文を唱える。

守護アミナ 結界コーラ

   すると、テントの周囲に配置した四つの石が七色に輝き出したではないか。
   その光は、流れる水のように、地面に描かれた魔法陣へと広がっていき、やがて煙のように上へと立ち上り始める。
   そして最後には、テントとその周辺をすっぽりと包み込む、淡い水色を帯びた光のドームへと姿を変えた。

「うわぁ~……、何これ? 凄いね」

「即席だけど、守護結界だ。こうしておけば、怪しい奴はここから中へは入れねぇのさ」

   なるほど! これが守護結界かっ!?
   初めて見たぞっ!!!

「助かったでござるよ、メラーニア殿。杖をお返しするでござる」

   メラーニアから杖を借りていたカサチョは、丁重にそれを返す。

「しっかしおまい、杖が無いなんて丸腰もいいとこだよな。敵に遭遇したら真っ先にお陀仏だぞ?」

   ケタケタと笑うカービィ。
   ……うん、たぶんそこ、笑うとこじゃ無いよ?

「なぁ~に、心配には及ばぬでござるよ、カビやん。杖が無く、魔法が使えずとも、拙者には妖術がある故、逃げる事は可能でござる!」

   ドーン! と胸を張るカサチョ。
   ……あんたさ、出会ってからずっと思ってたんだけど、基本逃げる事しか考えてないよね?
   人のこと言えた義理じゃ無いけどさ、曲がりなりにも白薔薇の騎士団の一員なんだから、もうちょい戦う事を考えたらどうかね??

「モッモさん、僕……、お腹が減った」

   子供みたいな事を言うメラーニア。
   ……まぁ、見た目は子供なんだけどね。
   でも君、もう結構長いこと生きてるんでしょ?
   ならね、お腹減った~とか言うんじゃなくて、何か自分で用意しようとか思おうよ??

「モッモ、我も腹が減った故……、甘味が食べたい」

   此の期に及んで、甘い物を欲するギンロ。
   ビノアルーンのとこで、あの甘くて美味しいオカカの実をたらふく食べてたじゃないか。
   なのにまだ甘い物が欲しいと?
   ……子供かっ!?

「モッモ様、私も少々小腹が空いて……」

「俺っちも! なんか食べてぇえっ!!」

   レズハン、ゲイロン……、お前らもかぁっ!?

   すると、俺のお腹がキューっと鳴りました。

   あら? あらら?? 
   あらららららら???
   
   という事で……
   神様鞄の中にあった食材をいろいろと取り出して、焚き火を起こし、料理を始める俺。
   和気藹々と会話をし、料理が出来上がるのを待つみんな。
   さぁ、楽しい楽しい晩御飯の始まりです♪

   ……こんな事してて大丈夫なのかなぁ? 
   あれ?? なんか、大事な事を忘れてるような???
     
   こうして俺たちは、カービィとカサチョが創った安全な守護結界の中で、普通に、堂々と、楽しくキャンプをするのであった。






「ふぅ~、食った食った~♪」

「もうお腹いっぱいでござるよ~」

「僕、もう眠い……、ふぁ~あ~あ~」

   いつもならとっくに就寝している時間なのだろう、メラーニアは大欠伸をし、目をこすりながら、一足先にテントの中へと入っていった。
   ゲイロンとレズハンも、足を折って腰を下ろし、目を瞑って休んでいる。

   焚き火がパチパチとくすぶる中、俺たちはのんべんだらりと過ごしていた。
   辺りはとても静かで、リーンリーンと、何処かで虫が鳴いている。
   頭上にあるのは満点の星空。
   そこに光る星々を眺めながら、俺はふと、その存在を思い出す。
   ここへ来た理由、その目的の物の事を……

「あぁっ!? 鍵っ!! 小箱開けなきゃっ!!?」

   我に返ったかのように叫ぶ俺。

「がっ!? やっべ忘れてたっ!!?」

   忘れるなよカービィ! 俺もだけどぉっ!!

「早く開けるでござるよっ!」

   カサチョはなんでまた、ふんどし一丁なんだよっ!?

「……我は覚えていたぞ」

   覚えていたなら言いなさいよギンロこの野郎っ!!!

   鞄の中から急いで赤い小箱を取り出す俺。
   カービィとカサチョが興味津々で覗き込む中、先ほど拾った銀製の鍵を、小箱の裏にある小さな鍵穴に差し込む。

   キキ……、カチャリ

「おぉっ!? 開いたぁっ!??」

「中身はなんだっ!?」

   パカリと開いた赤い小箱の中、押し込められている羊皮紙の束を、俺は取り出す。
   そこに描かれているのは……、地図?

「これは……、どこの……?」

   地図の枚数はおよそ十二枚にのぼり、かなり詳しく、とても細かい部分まで描かれている。
   その上には、小さな文字も沢山書き込まれていて……
   たまたま俺が見ている箇所には《製造室》と書かれていた。

   製造室て……、何の製造ですかな?
 お菓子……、なわけないしな。
   なんだろう、既に嫌な予感がするのですが……

   すると、隣で地図を見ていたカービィが、羊皮紙の左上の隅にその文字を見つけた。

「ん~……、あっ!? ここっ!?? ここ見てみろっ!! フラスコって書いてあるぞっ!!!」

「えっ!? どっ!?? あぁっ!! ほんとだっ!!!」

 カービィの指差す先にある、《フラスコ国》の文字。
   つまりこれは……、ホムンクルスの国の詳細な地図!?

「つまりそれは……、ホムンクルス共が巣食う仮の国の、詳細な地図!?」

   それ今俺が心の中で思ったしっ!
   被らないでよカサチョ!!

「どうやったのかは知らねぇけど、アルテニースはフラスコの国に潜入して、これだけの詳細な地図を描き起こしたって事だな。お? 最後の羊皮紙……、なっ!? これはぁあっ!??」

   驚愕の表情を浮かべるカービィ。
   そこには、沢山の文字が書かれていて……、だけどおそらく、重要な部分はここだろう。

《造出生命体を倒す為には、石化魔法が最も有効である。その体を芯から石化させ、その場で粉々に砕く事が出来れば、奴らは復活できない》

「これって……、ホムンクルスの倒し方、だよね?」

「そういう事だな……」

   うわぉっ!? やっと見つけたのかっ!??

   パーッと喜ぶ俺とギンロ。
   しかし、カービィとカサチョは眉間に皺を寄せて、浮かぬ顔をしている。
   
「ど……? 二人とも、どうしたの??」

「何を悩んでおるのだ? 石化の魔法をかければ、奴等を倒せるのであろ??」

   俺とギンロの問い掛けに、カービィは苦虫を噛み潰したような顔でこう言った。

「参ったなぁ……。石化魔法は、第一級禁呪魔法に認定されている魔法でな……。他者に向かって行使する事を禁じられた魔法なんだ」

   ほ? 禁じられた魔法??

「え……? でも、相手はホムンクルスだよ?? 他者ってそんな……、いくらなんでも、ホムンクルスは使っちゃいけない相手には含まれないでしょ???」

「ホムンクルスは全世界の敵。故に、奴等を相手に石化の魔法を行使する事は認められるでござる、が……。その……、禁呪魔法故、行使出来る者は世界的にも数が少ないのでござるよ」

   へ? 少ないって、それ……、どういう事??

「多分だけど……、今、俺たちの中で石化魔法を使えるのは、おいらとカサチョと、ノリリアくらいだろうな」

   ふぁっ!? 三人だけっ!??
   他は!???

「三人だけでは数が足りぬ故、戦況は……、厳しくなるでござろう……」

   えっ!? そんなぁあっ!??
   それじゃあ……、どうしたらいいのぉっ!?!?
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

いじめられっこが異世界召喚? だけど彼は最強だった?! (イトメに文句は言わせない)

小笠原慎二
ファンタジー
いじめられっこのイトメが学校帰りに攫われた。 「勇者にするには地味顔すぎる」と女神に言われ、異世界に落とされてしまう。 甘いものがないと世界を滅ぼしてしまう彼は、世界のためにも自分の為にも冒険者となって日々のお金を稼ぐことにした。 イトメの代わりに勇者として召喚されたのは、イトメをいじめていたグループのリーダー、イケメンのユーマだった。 勇者として華やかな道を歩くユーマと、男のストーカーに追い回されるイトメ。 異世界で再び出会ってしまった両者。ユーマはイトメをサンドバッグ代わりとして再び弄ぼうと狙ってくる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...