上 下
417 / 800
★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

406:共闘

しおりを挟む
「只今より、ホムンクルス殲滅計画の作戦会議を開く! 皆の者!! 姿勢を正せぇえっ!!!」

「うおぉおぉぉっ!!!!!」

   日暮れ時。
   橙色に染まる穏やかな夕焼け空の下、ケンタウロスの蹄族の里は、荒々しくいきり立つケンタウロス達で溢れ返っていた。

   族長であるタインヘンのテントの前に集結したのは、およそ二百頭のケンタウロス。
   男も女も入り混じってはいるが、全員に共通して言える事は、皆かなり戦闘能力高めの者たちであるという事。
   顔は揃いも揃って厳つくて、腕なんか丸太みたいに太い者ばかりである。
   そして何より、馬のものである下半身がもう……、ムッキムキのビッキビキ。
   あんなので踏まれた日にゃもう、一思いにあの世行きもいいとこだな……

   そんな彼らは皆、完全武装状態である。
   頭には兜を、人の形をしている上半身には鎧や鎖帷子くさりかたびらを装備して、馬である下半身部分には、なんていう名前の防具なのかは分からないけれど、これまた頑丈そうな鉄の掛物を装着している。
   どれもこれも金属製で、かなり重そう……
   けれど、みんな当たり前のように平然としているので、やはりケンタウロスも鬼族に劣らぬ戦闘民族なんだな~と、俺は思った。
   そして、そんな彼らの背中には、弓矢、短剣、長剣、大剣、槍、中には斧や鎌を背負っている者までいて……
   みんな、戦う準備は万端です。

   まぁ、俺が総じて言いたい事はというと……
   やっべぇ~!? こっ、怖えぇえぇ~!??
   って事ですね、はい。
   もはや、強そう! だとか、カッコいい!! だとかは通り越して、ただただ怖い。
   先程からずっと、俺の体は小刻みにプルプルと震えていて……
   すぐ隣にギンロが居てくれなければ、きっと今頃失神していた事でしょう。
  
   彼らを統率するのは、族長タインヘンの娘で、あのおっかない美人ケンタウロスのシーディアだ。
   鋭い目付きで周りのケンタウロス達に睨みを利かせながら、輪の中心に立って、今回の作戦の概要を大声で説明している。
   でも、俺からしてみれば……、なんていうか、説明しているのか、みんなを煽っているのか分からないような話し方です、はい。

   そして、そのシーディアの背の上に立つ、ピンク色の毛玉が一匹。

「いいか野郎どもっ! ホムンクルスは無敵!! 感情もなければ痛みも感じねぇっ!!! よって、生半可な覚悟じゃこっちがやられちまうっ!!!! ギッタギタのメッタメタになるまで、斬って殴って蹴り上げろぉおぉっ!!!!!」

「うぉおおぉぉぉっ!!!!!!!」

   いやぁ~、いつもながらにほんと、肝が座ってますねぇ~、カービィさんや。
   シーディアの背の上で、ケンタウロス達を煽るお手伝いをしているなんてねぇ~。
   さすがです……、バーカ!!!

「私達の仲間を救う為に、最後の一匹までやっつけちゃってぇ~!!!」

「うぉおぉぉっ! グレコ姉さん最高~!!」
  
   おやまぁ、グレコや……、君もかね?
   君のコミュ力の高さは重々承知しているけれど、仮にも嫁入り前の君が、そんな見ず知らずのお馬さんに跨ってはいけないよ??
   ほら見てみなさい、ケンタウロス達が注目しているのは、君の発する言葉ではなくて、上半身で揺れている君のお胸ですよ???
   ……そこから降りなさいっ!!!!

「我はいつも思う。カービィやグレコのように、誰とでも分け隔てなく心を通わせられるというのは、まさに天性の才能ではないかと……。我も二人のような、明け透けな性格で生まれたかった」

   隣に立つギンロは、羨望の眼差しで、ケンタウロス達の輪の中心にいるグレコとカービィを見つめる。

   ……ねぇギンロ、憧れるところ間違えてない?
   あれは別に、彼らの長所ではないと思うよ??
   しかも、明け透けな性格って……、あ、もしかして小馬鹿にしてるのかな???

   俺は、大きな溜息をつきながら、少し離れた場所で、作戦会議の行方を見守った。






   ……さて、ここまでの経緯を説明しよう。

   浄化されたヒッポル湖にて、河馬神タマスが姿を消した後、俺たちはこれからどう行動するかについて相談した。

   ニベルーの隠れ家を調査して分かった事は、大魔導師ニベルーはここで、世界的に禁止されている造出生命体、別名ホムンクルスの製造に着手し、その製造を成功させていた事。
   小屋で見つけたテジーの日記から推察するに、その後に何らかのトラブルがあったという事。
   カービィ曰く、小屋の地下にあった九つの遺体から得た記憶から考えるに、あの遺体は全て、ニベルーの妻であったテジーの体から作られたホムンクルスであって、仲間割れの末に殺されたのだろう、という事。
   そして、河馬神タマスが残した最後の言葉。
   それら全てを熟考し、その結果……

「フラスコの国はホムンクルスの国だ。ノリリア達が危ねぇ」

   という事になった。

「その、ホムンクルスという奴らが何者なのかは知らぬが……。十年前、この森の入り口で暮らす我ら蹄族を襲いし輩と、同一犯であるのだな?」

   俺たちの護衛に着いてくれている、ケンタウロスのレズハンが尋ねた。

「その可能性は大いにある……、というか、おいらは間違いなくそうだと思ってる。魂を抜かれて、食欲ばかりが旺盛になったリーラットを、ホムンクルス達は森へと連れて行き……、そこでお前達が襲われたんだろう」

「なんと……。ならば奴らは、我らの敵でもあるという事になるな」

   そう言った時のレズハンの表情を、俺はきっと、生涯忘れないだろう。
   額に青筋を立て、ギリリと歯を食いしばり、その瞳には溢れんばかりの殺意が籠っていたのだ。  

   ……後で、もう一頭の護衛のケンタウロス、ゲイロンに聞いた話なのだが、レズハンのお母さんは、ホムンクルスとリーラットの襲撃を受けた際に命を落としたらしい。
   里には他にも、奴らの襲撃で身内を失った者が多数いるという。
   だから……

「そうか……。なら、一緒に戦うかっ!? おいら達は仲間を助ける為、おまい達は敵である奴らを討つ為、協力して戦おうっ!!」

   カービィの言葉に、レズハンとゲイロンは迷わず頷いた。
   
   こうして俺たちは、ノリリアを助ける為、そして、心のない怪物と呼ばれるホムンクルスを倒す為に、フラスコの国へ向かう事を決めたのだった。

   その後俺たちは、急いでケンタウロスの里に戻った。
   族長のタインヘンに、共闘の申し入れをする為だ。 
   フラスコの国に潜んでいるホムンクルスの、その数は知れない……
   こちらの人数が多いに越した事はない、というわけだ。
   レズハンとカービィとマシコットの三人が、真っ直ぐに族長のテントへと向かった。
   
   その間俺は、ゲイロンの家だとかいう掘っ建て小屋で、ニベルーの小屋の中で見た物と、テジーの手帳の内容と、地下室で見た遺体の事などを、グレコとギンロとカナリーに、詳しく説明して聞かせた。
   途中、ホムンクルスの製造に関する難しい説明は、ほとんどカサチョに任せた。
   俺の化学的な説明だと、みんなには伝わらないだろうからね。

   一通り説明が終わった頃に、カービィとマシコット、レズハンが戻ってきて、族長から共闘の許可が下りたとの事だった。
   俺たちは立ち上がって、作戦会議が開かれる、里の広場へと向かった。





   ……かくして、フラスコの国に潜む、ホムンクルス殲滅計画が実行されようとしているわけなのだが。
   作戦会議と称した雄叫び合戦にて、これでもかってくらいにいきり立つケンタウロス達を、俺は冷やかな目で見つめていた。

   何が作戦会議だよ。
   ただ叫んでるだけじゃねぇかよ、こんにゃろめ。
   ちゃんと作戦立てろよ、馬鹿野郎め。

   心の中で、目の前の全てに悪態をつく俺。

   ……はい、皆さんの御想像通りですよ。
   俺、今、めちゃくちゃビビってますよ。

   え、何? なんなの??
   ホムンクルスとかいう化け物を、どうして俺が倒さなきゃならないの???
   
   確かにさ、ノリリア達の事は心配だよ?
   でもさ、俺なんかが行ってさ、どうにかなると思う??
   これまでの経験から考えても、足手まとい決定ですよ???

   なのにさ、なんで誰も、「危ないから、モッモはここに残って!」とか、「後の事はおいらに任せておけ!」とか、「我が安全な港町ニヴァまでモッモを連れて帰っておこうぞ!」とか、言ってくれないのかな……
   なんで俺も、共闘する前提なのぉおぉっ!?

   怖くて、悔しくて、腹立たしくて……
   プルプル、わなわなと震える俺。
   すると、そんな俺の肩を、誰かが優しくツンツンした。

「ホワァアッ!?!?」

   例によって、敏感過ぎる体質の為に、かなり過剰な反応をしてしまう俺。

「ご!? ごめん!?? そんな驚くと思わなくて……」

   恐る恐る振り返ると、そこには白髪に赤目の少年、メラーニアが立っていた。
       
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

聖人様は自重せずに人生を楽しみます!

紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。 人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。 そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。 助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。 裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く! 『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』 ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!

【絶対攻略不可?】~隣の席のクール系美少女を好きになったらなぜか『魔王』を倒すことになった件。でも本当に攻略するのは君の方だったようです。~

夕姫
青春
主人公の霧ヶ谷颯太(きりがたにそうた)は高校1年生。今年の春から一人暮らしをして、東京の私立高校に通っている。  そして入学早々、運命的な出逢いを果たす。隣の席の柊咲夜(ひいらぎさくや)に一目惚れをする。淡い初恋。声をかけることもできずただ見てるだけ。  ただその関係は突然一変する。なんと賃貸の二重契約により咲夜と共に暮らすことになった。しかしそんな彼女には秘密があって……。 「もしかしてこれは大天使スカーレット=ナイト様のお導きなの?この先はさすがにソロでは厳しいと言うことかしら……。」 「え?大天使スカーレット=ナイト?」 「魔王を倒すまではあなたとパーティーを組んであげますよ。足だけは引っ張らないでくださいね?」 「あの柊さん?ゲームのやりすぎじゃ……。」  そう咲夜は学校でのクール系美少女には程遠い、いわゆる中二病なのだ。そんな咲夜の発言や行動に振り回されていく颯太。  この物語は、主人公の霧ヶ谷颯太が、クール系美少女の柊咲夜と共に魔王(学校生活)をパーティー(同居)を組んで攻略しながら、咲夜を攻略(お付き合い)するために奮闘する新感覚ショートラブコメです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...