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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

351:さよならっ!!!

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   翌日……

   朝日が昇るより早く、俺とカービィはグレコに叩き起こされた。
   なんでも、亡くなった鬼族達の葬儀が行われるとかで、俺たちも参列しなければならないらしい。
   まだ無理に動かない方がいいギンロをテントに残し、薄暗い中、俺とグレコとカービィは、白薔薇の騎士団の皆さんと一緒に紫族の村へと向かった。

「グレコ、プロジェクトから外れるんだってね?」

   道すがら、コソコソと話しかけてきたのは衛生班のサンだ。
   珍しく空気を読んだのか、かなりの小声である。

「うん。何だか……、いろいろ大変みたいだからね。次の島からは別行動になるわ」

   グレコの言葉にサンは、あからさまに寂しそうな表情をして、フーンと鼻を鳴らした。

   ノリリアは、俺たち四人が騎士団のプロジェクトから外れる事を、既にみんなに伝えたらしい。
   その為だろうか、みんな何処となく暗い表情をしていて、周りの空気が重い。
   いつもならペラペラと話しかけてくる飼育班のヤーリュとモーブも、珍しく黙っていた。

   先程ノリリアに確認したところ、昨晩、ギルド本部及び騎士団の団長さんに連絡をとって、どうにか俺たち四人の乗船許可は下りたそうだ。
   しかも、当初の予定通り、俺たちの分の乗船料も支払ってくれるらしい。
   ……まぁ、ザサーク船長も、一千万も貰っているんだから、わざわざ俺たちから、たかだか数十万を搾り取ろうとはしないだろう。
   プロジェクトには参加できないけど……、船には乗れる。
   それだけでも充分に有難い事だよ。

「でもグレコ、何か困った事があったらすぐに言ってね! 私はグレコの事、友達だって思ってるから!!」

   鼻息荒く、言い切るサン。

「ふふ、ありがとう。でも……、サン、ちょっと声が大きいね」

「あっ!? しまったぁ……」

   サンの天然に、近くにいたライラックとマシコット、チリアンとパロット学士が静かに笑う。
   
「大丈夫。プロジェクトに同行出来なくても、同じ船で旅する仲間である事には変わりないんだ。ノリリア副団長だって、きっとそう思っているさ」

   後ろを歩いていたアイビーが、先頭を歩くノリリアに聞こえないようにと、小声でそう言った。

   うん、そうだよね。
   ノリリアだって、本部の決定にはきっと不本意なはずだ。
   別行動する事にはなるけれど、目的は一緒なんだし……

「みんな、ありがとう! これからもよろしくっ!!」

   俺は、わざと大声でそう言った。
   ノリリアにも聞こえるように。
   
   騎士団のみんなは、ちょっぴり驚いた様子だったが、笑ってくれた。
   隣を歩くグレコとカービィは、やれやれといった表情をしながらも、笑っていた。






   紫族の葬儀は、村の外れで行われた。

   昨日、亡くなった鬼族たちを土葬したその場所には、墓石代わりであろう黒い岩石がいくつも立てられている。
   鬼達は、その岩の上に、動物から取ったのであろう白い脂の塊を置いていく。
   そして最後に、元巫女守り達を始めとし、呪術の得意な者たちが、その脂の塊に火を灯していった。
   その火は、俺の知っている普通の火ではない。
   鬼族……、いや、紫族の中に宿る呪力によって作り出された、紫色の炎だ。
   日の出前の薄暗い世界を、時折吹き抜ける風に揺られながら、いくつもの紫色の炎が照らしていた。

   今まではここで、雨の姫巫女である桃子が舞を舞って、亡くなった鬼達に最後の雨を届けていたらしいのだが……
   もはやその力を失った桃子は、この場に足を運んでいなかった。
   いや、もしかしたら、まだ体力が回復しきっておらず、あの小屋から出られないのかも知れない。

   その代わりといってはなんだが、騎士団のチリアンが鎮魂の儀を行った。
   両手に鈴を持ち、華麗に舞を舞うその姿は、鬼達に桃子の雨乞いの儀を彷彿とさせたに違いない。
   辺りには、鬼達のすすり泣く声が響いていた。

   太陽が東の空から顔を出すと同時に、鎮魂の儀は終了した。
   土葬され、墓石を立てただけの殺風景な鬼達の墓地は、鎮魂の儀でチリアンが蒔いた植物の種によって、その風景が一変した。
   これまでのコトコ島には無かった新しい景色に、鬼達はみんな感服の表情だ。
   岩山に突如として現れるその場所は、惨劇の後とは思えないほどに美しい、色取り取りの花々が咲き乱れる豊かな草原となったのだった。




 
  
「このご恩は一生涯……、いえ、我等紫族が滅ぶその時まで、忘れは致しませぬ」

「そなたらの勇気、その優しき心と慈悲を、我等が後世まで伝えていこう」

   野営地に戻り、騎士団のテントを片付け終えて、出発直前の俺たちの元に、砂里を含めた数名の鬼達を引き連れてやって来た勉坐と野草が、深々と頭を下げながらそう言った。
   村を救ってくれたお礼にと、少しではあるものの、食料を持って来てくれたのだ。

   ……まぁ、こちら側としては、食べる物には困っていないし、むしろ村があんな状態で食べ物渡しちゃって大丈夫なのかしら? なんて不安になるような、なんとも受け取り難い心境ではあるのだけどね。
  それでもノリリアは、相手の感謝の気持ちを無碍には出来ないと、有難く頂戴していた。

「あたちたちも、あなた方の事は決して忘れないポ。魔法王国フーガは、様々な種族が暮らせる国ポ。いつになるかは分からないポが、一緒に暮らせるような未来が来ることを、あたちは祈っているポね」

   ニッコリと笑うノリリアに対し、 勉坐と野草は優しく微笑んだ。

「……オマルさんは、来ていないみたいだけど?」

   グレコが砂里に話し掛ける。

「雄丸さんは、やっぱり自分が許せないって言って……」

「まさかっ!? ……自害を?」

   ぬぁっ!? 雄丸が、死っ!??

「あ、ううん、違うの。とても村には居られないって言うから、姉様の旅に同行するって」

   はっ!? ほうっ!??
   袮笛と雄丸が一緒に旅に!???
   何それ……、最強コンビじゃねっ!?!??

「それで、今朝早く……、二人とも旅立ったの」

「えぇっ!? もう行っちゃったのっ!??」

   目をまん丸に見開いて驚く俺に対し、砂里は寂しそうに笑って頷いた。

「そう……。寂しくなるわね」

「うん……。でも、姉様の決めた事だから。私はここで、この村を……、姉様の帰るべき場所を、守ります!」

   決意のこもった砂里の言葉、柔らかなその笑顔に、俺とグレコは揃って頷いた。






「それじゃあ皆さん! また会える日まで、さよならポ!!」

「さよならっ!!!」

   ミュエル鳥や箒に乗って、空へと舞い上がる白薔薇の騎士団のみんな。
   俺とグレコはモーブと共に、ギンロはブリックと共に、ミュエル鳥の背に乗せてもらった。
   カービィは、ちょっぴり不機嫌そうな顔で、ノリリアに渡された普通の箒に跨った。

「砂里、元気でねっ!」

「グレコさんも、モッモさんも、お元気で!!」

   空の上から、見送ってくれる鬼達に向かってヒラヒラと手を振る俺とグレコ。
   すると、視界の端に、見覚えのある大きなシルエットが映り込んで……

「あ! グレコ!! あれ見てっ!!!」

   驚いて声を上げ、俺は後方を指差す。
   野営地より程遠い、木々が生い茂るその場所にいるのは、巨大な白いアンテロープ。
   そして、その背の上には……

「モッモ~! 達者でなぁ~!! また会おうぞ~!!!」

   元気に手を振る桃子と、その隣で優しく微笑む志垣の姿があった。

「桃子! 志垣!! 見送りに来てくれたんだ!!!」

   思わぬ二人の登場に、はしゃぐ俺。

「姫巫女様!? ……う~ん、遠過ぎて、私にはちょっと見えないわ」

   目を細めて、顔をしかめるグレコ。

   あらま? なるほど、俺だから見えるのかあれ!?
   という事は、声も聞こえてない???
   ……うん、まぁ~いっか!

「ははっ! 手を振っておけばいいよっ!!」

「そうよね。さよなら~! モモコさ~ん!!」

   ブンブンと、大きく手を振る俺とグレコ。

   爽やかな青空の下、ミュエル鳥の背に乗って、俺たちは紫族の村を後にした。
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