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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

348:神々にまつわる話

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「昔から、ああいうお方でな……。悪気はないのだろう、許せモッモ」

 蛇神がいなくなった泉を見つめて、祢笛はそう言った。

「昔からって……、ネフェ、あなた……?」

 グレコの戸惑った表情に、祢笛は優しく微笑む。

「話さねばならぬ事がいろいろとあってな……。一度、そこの小屋にでも入ろうか」

 祢笛の提案に、俺とグレコは頷いた。
 砂里は、とても不安気な顔で、小屋へと向かう祢笛の後をついて行った。

 俺は再度、神様の世界地図に目を落とす。
 しかし、やはりそこには黄色い光はなくなっていた。
 これが意味する事はいったい……?

「モッモ、行きましょ。きっと……、ネフェが答えを知っているわ」

 グレコに促されて、俺たちも泉守りの小屋へと向かった。






 泉守りの小屋の中で、椅子に座る祢笛と砂里。
 俺とグレコは、ほぼほぼただの板である大きなベッドに腰掛けた。

「さて……、何から話せば良いか……」

 祢笛は、自分の右手の甲にある、あの不思議な紋章を見つめながら大きく息を吐く。
 それは祢笛が、この泉に初めて来た時に現れたものだ。
 あの時の祢笛は、何者かに乗り移られたかのように、始祖のお告げを口にしていたが……

「私は、紫族の始祖の生まれ変わりだ」

 ……はっ!?

「えっ!?」

「……姉様?」

 一様に驚く俺とグレコと砂里。
 
「生まれ変わりって、そんな……。どういう事なの?」

 かなり困惑した様子で尋ねるグレコ。

「俄には理解し難いだろうが……。グレコは、前世というものを信じるか?」

「前世って、そんな……」

 答えに困るグレコ。

   そりゃそうだ、普通の人は、前世なんて言われても、なにラノベみたいな事言ってんだ? そんなもの信じるわけないだろう!? てなもんだろう。
   それは仕方ないさ、経験した事ないんだもの。

「モッモはどうだ?」

「僕は信じるよ」

 ……うん、信じるよ、信じますとも。
 だって、俺自身が転生者ですからね、はい。
   前世の鮮明な記憶こそないけれど、知識は山ほどありますから。
   信じますよ、経験者ですから。

「そうか、ありがとう。……現世の私の記憶は、この林の中から始まっている。誰から生まれたわけでもなく、ただここに、一人で立っていたんだ」

 立っていたって……、それはまた、お釈迦様もビックリな始まり方だね。
 俺は一応、母ちゃんからプリッと生まれてきたから……、うん、仮死状態だったけどね。

「初めは勿論、自分が何者かわからず不安だった……。だが、父と母が、私を娘として育ててくれた。そして砂里も、私を姉として慕ってくれた。だから私は、今日までを生きて来られた」

 ニコリと微笑む祢笛に対し、砂里は何故だか泣きそうな顔をした。

「先日ここで、白様の創り出しし護幻ごげんを目にした時に、全てを思い出した。自分が何者であったのか、そして何をせねばならぬのかをな……。モッモが、時の神の使者である事は知っている。だが、白様の言っていた調停者というのは、正直私には何の事だかさっぱり分からない。ただ……。先ほどの様子から察するに、二人は、この世界に存在する数多の神々を探し求めて、旅をしているのか?」

   袮笛の言葉に、グレコは一瞬躊躇うも、俺と目を合わせ、俺たち二人は同時に頷いた。

「やはりそうか……。だとすれば、私が為すべき事は一つだ。私には前世の記憶がある。その記憶を、二人に伝えたいと思う。お前たちが探し求めている、神々にまつわる話だ」

 そう言って、祢笛は話し始めた。
 紫族の歴史、前世の自分が始祖と呼ばれた所以、そして、悪魔との戦いの話を……
 それらは大層長い話だったので、俺が、わかりやす~く、以下に要点をまとめよう!

   その昔、鬼族である紫族は、こことは別の世界に存在していた。
   しかし、他種族との争いに敗れ、先ほどの白という名の蛇神の力で、千年ほど前に、この世界へとやって来たのだという。

   当時の袮笛は、紫族の首長として、かつての大陸で、紫族が平和に暮らせるようにと新たなる戦いを繰り広げていた。
   というのも、紫族がこの世界へとやってきたその当時、大陸には大地の化身と呼ばれる怪物が存在したそうだ。
   今現在、勉坐の家の囲いみたいになっている、あのどでかい頭蓋骨の主の事だ。
   大地の化身は、元々は何かの神様だったらしい。
   しかし、より多くの力を求めた為に、悪魔に付け入られて……
   他の神様を喰らうことで力を増すと思い込み、大陸に存在していたとある神を、無残にも喰らってしまったそうだ。
   つまり、大地の化身は、己の欲の為なら他をも犠牲にする、正真正銘の邪神だった。
   体は山のように大きく、その力は強大で……
   大陸に暮らす全ての種族が、為す術もなく怯えて暮らす毎日だったという。

   そこで袮笛は、紫族の戦士の大軍を率いて、大地の化身の討伐に向かった。
   戦いは数十年に及んだ。
   多くの戦士が命を落としたが、最終的には袮笛が、破邪の刀剣でもって大地の化身を倒した。
   しかし、袮笛自身もその戦いで深手を負って、この聖なる泉のすぐそばで命を落としたという。
   それ以降、紫族の未来を守った者として、前世の袮笛は始祖と呼ばれ、讃えられたのだそうだ。
   
「私の記憶が正しければ、当時の大陸には、神と呼ばれる者が四体存在した。我ら紫族の守り神である蛇神、白様。大陸に暮らす全ての生き物に万獣の王と崇められつつも、悪魔の甘言により邪神に身を落とし、大地の化身と化した河馬神ほましん。その河馬神に喰らわれた小さき神、蘑菇神もごしん。そして、竜人族に守られし、蛾神がしんだ」

   よっ!? 四人も神様がいたのっ!??
   それはそれは……、神様だらけだなほんと、この世界は……

   てかさ、今、モゴ神とか言った?
   それって……、あのモゴ族の神様って事??
   キノコの、神様???
   
「蛇神である白様は、未だこの世界と異界を行き来されている。あのお方は一所に留まることなく、常に世界を繋いでおられるのだ。その入り口となるのがこの泉。故に、大陸が分かたれようとも、火の水が迫ろうとも、この泉だけは決して失われない」

   なるほど、そういう事か……
   ここはつまり、超超強力なパワースポットなわけね。

「四体の神々のうち、私の手によって河馬神は滅び、蘑菇神も亡き者となった。竜人族に守られていた蛾神のその後は分からぬが……。一つ言える事は、神はその身が滅びようとも、魂までもが滅びる事は決してない。白様がそうであったように、一度肉体を失っても、同じ魂でもってこの世に再び現れるのだ。それが意味する事が何なのか……、わかるか?」

   ふむ、あの蛇神とやらは一度滅んでいるのか。
   だけど、再び蘇ったと……
   つまりそれは、滅んだはずの他の神様も、きっと……

「河馬神と蘑菇神は、いずれ蘇る……。いいえ、既に蘇っているかも知れない、って事かしら?」

   グレコの言葉に、袮笛は大きく頷いた。
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