348 / 800
★ピタラス諸島第二、コトコ島編★
337:アーレイク・ピタラスの手紙
しおりを挟む夕食後、俺とグレコとカービィは、ギンロの看病をロビンズに任せて、一階の談話室に集まった。
そこにはノリリアとアイビー、パロット学士の三人が待っていて……
「モッモちゃん、グレコちゃん……。二人に、話さなくちゃならない事があるポ」
かなり神妙な面持ちで、ノリリアがそう言った。
……だがしかし、もう俺は、話なんて聞いていられるような状態ではなかった。
もう、本当に、限界なんだ。
この四日間、飯もろくに食わずに、この見知らぬ土地を走り回っていたのだ。
疲れが出て当たり前である。
海で遭難し、危険だと言われる鬼族に出会って、グレコの暴走で火山の麓の泉を目指す事となり、それからそれから……
自分よりも何倍もでかい体を持つ、怖~い紫族という鬼族達に囲まれながら、やれ碑文の解読だ、怪物の討伐だとこき使われて、挙句の果てには二度と会いたくなかった悪魔と対峙。
決死の思いで戦い抜くも、仲間のギンロは重傷を負い、気持ち悪いけど良い奴だったアメコは消滅した。
もう、なんていうか……、たった四日間の話だというのに、(いったい何話書いたんだって作者が溜め息つくくらいの……)かなり濃い~い時間を過ごしたのである。
ようやくホッとできる時間、更には美味しい夕食の後となってはもう……
瞼がほら、自然と閉じてきてますよ……、すやぁ~。
「モッモ、しっかりなさい」
グレコが遠慮なく俺の背中を叩く。
ハッ! と目を見開いて、現実に引き戻される俺。
眠いの~、本当に眠いの~、寝させて欲しいのぉ~。
「まずは……、これを読んで欲しいのポ」
そう言ってノリリアは、字が沢山書かれた紙を三枚、俺とグレコの前に出してきた。
字が……、沢山……
今のこの状態で、これを読むのはかなりきつい。
だがしかし、一番下に書かれた文字を目にし、ちょっとばかし目が覚めた。
「これって……、アーレイク・ピタラスさんの?」
「そ、手紙ポ。これは実物を念写した物ポが、内容はそっくりそのまま同じポよ。グダグダ説明するよりも、これを読んでもらった方が……。二人なら理解できるポね」
俺とグレコは、ノリリアに差し出された手紙を読み始めた。
-----+-----+-----
愛するマティヘ
君とコルメンを残していく僕を、どうか許して欲しい。
当初計画していた予定が大幅に狂い始めた。
そこで、弟子たちには止められたが……、この手紙を送ることにした。
君にだけは、真実を伝えたいんだ。
私が今いるムームー大陸には、魔界と繋がる時空穴が発生している。
この世界と別の世界とを繋ぐ、とても危険な大穴だ。
原住種族である有尾人族、鬼族、馬人族、竜人族、有翼人族の間で争いが絶えないのも、どうやらこの時空穴の影響らしい。
そこで私は、弟子たちと相談した結果、この時空穴を破壊する為に、このムームー大陸を消し去ることにした。
消し去ると言っても、大陸を分断するだけだ。
土地は狭まるだろうが、原住種族達に対する被害は最小限で済むように考えている。
だが、もちろん大掛かりな作業だ。
無事に帰れる保証はない。
ギルド本部、および学会に報告したが、国王の許可を得るまでは行動するなと言われた。
あいつら、みんな怖いんだろうな……、国王にこの真実を伝える事が……
そもそも国王は、ムームー大陸の探索に否定的だった。
それが何を意味するのか……、マティ、頭の良い君ならわかるだろう?
しかし、もう待ってはいられない。
既に何匹もの悪魔が、時空穴よりこちらへと入り込んで来ている。
もう時間がないんだ。
私たちは、正しいと思う事をすることにした。
例えそれが、国家の意志に背くことであってもだ。
君も知っての通り、私は使者だ。
私の使命は、この世界の均衡を保つ事。
この時空穴は、放置すれば、この世界の均衡を必ずや乱す。
それだけは何としても避けなければならない。
この手紙が届いて後、一年間の内に、もし私が戻らなければ……
その時は、この手紙をビダ家のサルテル氏に届けて欲しい。
彼ならば、事の重大性に気付き、国に……、いや、国民に働き掛けてくれるはずだ。
魔界の魔族たちは確実に、こちらの世界へと進行してきている。
もしかすると、時空穴は一つではないのかも知れない。
世界の均衡を保つためにも、奴らの侵入は決して許してはならないんだ。
最後になったが……
マティ、僕は君を伴侶として迎えられた事を、人生最大の誇りに思う。
コルメンの事を頼んだよ。
僕は来世でもきっと、君を見つける。
VH2261.12.29 アーレイク・ピタラス
-----+-----+-----
手紙を読み終えた俺とグレコは、揃ってごくんと生唾を飲み込んだ。
先ほどまでの眠気は、俺の中から消えていた。
「この手紙が見つかったのが二年前。アーレイク・ピタラスの子孫であるジューチ・ピタラスが、山奥の別荘を売り払う際に、先祖代々の遺品を整理していた時に見つけたのポ。封が空けられていなかった事から察するに、アーレイクの妻であるマティは、この中身を見ないままにこの世を去ったのポね。そして、ジューチが中身を確認し、慌てて国王に提出したのポ。手紙の中に出てきた、ビダ家のサルテルという人物は、フーガの現国王であるウルテル様の曾々々祖父に当たる人物なのポ。この手紙が出てきた事で、兼ねてよりピタラス諸島の探索を希望していたあたち達白薔薇の騎士団に、クエスト決行の許可が下りたのポよ。その目的は、あくまでも島の探索、アーレイク・ピタラスの残した遺産を見つける事ポ。だけどもう一つ……。もし今現在も、アーレイク・ピタラスが遭遇した、魔界からの侵入者である悪魔が存在していた場合、直ちに奴らを消滅させる事。あたち達のプロジェクトには、残党悪魔の討伐も、最初から含まれていたのポ。それを、ここまで言わずにいた事を、許して欲しいポね」
そう言ってノリリアは、テーブルに額が付きそうなほど、深く頭を下げた。
アイビーもパロット学士も、同じように頭を下げた。
「じゃあつまり……、え? この先の島にも、その悪魔がいる可能性があるって事なの??」
「確定ではないポが、可能性は否めないポ。悪魔に寿命はないポから、五百年間生きていたって不思議じゃないポね」
「そんな……」
言葉を失うグレコ。
「おいらの予想じゃあ、たぶんいると思うぞ。そして、必ずおいら達を襲ってくるな」
カービィの言葉に、俺とグレコは驚き、ノリリア達は罰の悪そうな顔になる。
「えっ!? 何それっ!?? なんでよっ!???」
「グレコさん、イゲンザ島での出来事を覚えているか? 悪魔サキュバスであるグノンマルが、死に際にした事」
「グノンマルが……? あっ!? 悪魔の号令!??」
「そう……。正直なところ、これは予測でしかねぇが、数百年に一度、腹を満たす為に眠りから覚めるはずの悪魔ハンニが、たった二十年ぽっちで自然と目を覚ますなんておかしな話だ。だけど、グノンマルの放った悪魔の号令を感じ取ったとしたらどうだ? 自分の体から心臓を奪い、この地から離れられぬように封印した憎むべきコトコは、時の神の使者であるアーレイク・ピタラスの弟子だった。その時の神の使者が再び、このピタラス諸島にやって来た。そうなれば……、復讐しようと思ったに違いねぇ」
……えっ!? ちょっ!??
グレコとカービィが、揃って俺を見る。
待って!? それって!?? えぇえっ!???
「も……、もしかして……。今回の事は全部、僕のせい……?」
俺の言葉に、ノリリア達三人は黙りこくる。
ま……、マジかぁ……
余所様の争いに巻き込まれたとばかり思っていたのに、悪魔を呼び覚ました元凶は、俺だったわけ?
なんちゅう申し訳ない事を……
顔面蒼白になって、俯く俺。
しかし……
「いや、おまいのせいじゃねぇよ、モッモ」
いつものようにヘラヘラと笑いながら、カービィがそう言った。
「そうね、モッモのせいじゃないわ。数百年に一回目覚めるなら、遅かれ早かれ、あいつは復活していたわけでしょ? だったら、結局は誰かが倒さなければならなかったんだし。モッモがここにいてもいなくても、眠っているあいつを叩き起こして、ノリリア達が倒していたわよ、ねぇ??」
グレコも、案外あっけらかんとした口調でそう言った。
「モッモちゃんのせいではないポ。悪いのは、可能性が低いにしろ、そういう事実を隠して、みんなをここまで連れてきてしまったあたちポね。正直、グノンマルが大した事なかったポから、あ~悪魔なんてこの程度ポかと、あまり気に留めてなかったポ……。けれど、ギンロちゃんが怪我を負ってしまった今、これ以上あなた達を危険な目に遭わせるわけにはいかないポよ」
ノリリアは、ギンロの怪我に対して、一際責任を感じているようだ。
俯き加減の暗い表情で、反省の意を示していた。
0
お気に入りに追加
497
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる