上 下
338 / 800
★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

327:土の精霊ノーム

しおりを挟む
   白い肌にピンク色のほっぺ。
   パッチリお目々に、小さな鼻と小さな口。
   薄ピンク色のワンピースと、同色のとんがり帽子を身に着けて、茶色い革靴を履いている。
   一本の三つ編みにまとめた栗色の髪の毛を、右肩から前へと垂らしていて……
   チルチルと名乗ったその少女は、ピグモルの俺に負けずとも劣らない可愛さを兼ね備えていた。

「土の、精霊……、土の精霊っ!?」

   何それっ!? 初めましてじゃないか!??
   こんにちわっ!!!!

『はい、土の精霊ノームです。なかなか呼んでくださらないので、私なんて必要ないのかもと思っていたのですが……。モッモ様の心の叫びを聞いて、居ても立っても居られなくなって、勝手に来てしまいました!』

   可愛らしくも真剣な表情で、チルチルはそう言った。

「そん……、はっ! 君、もしかして、ここ掘れたりする!?」

   駄目元で地面を指差し尋ねる俺。

   こんな硬い岩の地面、俺がいくら血だらけになって引っ掻いてもビクともしない。
   土の精霊だと言うのなら、何とか出来るんじゃないかっ!?
   ちょっと……、可愛すぎる反面、かなりひ弱そうに見えるけど……
   でも!! 精霊なんだから何とか出来るでしょっ!??

『はい! 勿論ですっ!! 掘らせて頂きますっ!!!』
  
   そう言ってチルチルは、何処からかともなく、小さな薄ピンク色の、キラキラと輝くガラスのスコップを取り出した。

   ……いや、スコップてっ!?
   スコップじゃ掘れないだろうよっ!??
   とんでもなく輝いてはいるけども、お砂場遊びの玩具にしか見えませんよぉおっ!?!?

   だがしかし、チルチルはやる気満々だ。
   黒い岩の地面を、食い入るようにジッと見つめて……

『あ……、あれでしょうか? 何か、とても禍々しい物が埋まってます。あれを取り出せばよろしいのですねっ!?』

   あれと言われても……、俺には見えませぬ。
   でも、ここに埋まっていて、禍々しいのなら、それがハンニの心臓に違いない!

「そっ! それをお願いしますっ!!」
 
   俺の言葉に、チルチルはコクンと頷いて……

『はいっ!』

   両手で握りしめたスコップを、頭上高く、思いっきり振り上げた。

   うっわっ!?
   そんなに勢いよくやったら、岩にぶつかった反動で腕痛めないっ!??  
   てか、スコップが砕けないっ!???

   あわわわわっ! と心配する俺を他所に、チルチルのスコップはすんなりと地面に刺さって……  

   ザクッ……、ブワァアァッ!!!

「はぁあっ!?」

『よしっ!』

   小さくか弱そうなチルチルは、俺が必死に引っ掻いても傷すら付かなかった黒い岩の地面を、まるでプリンのように、いとも簡単にすくい上げた。
   それも、たったの一回で、馬鹿みたいに大量に……

   バラバラバラバラ

   宙に飛んだ大量の黒い岩の欠片が、大きな音を立てながら、地面のあちこちに落ちる。
   その音で俺の行動に気づいたハンニが、カービィに対する攻撃をやめて、こちらを振り返った。

「あぁんっ!? 何してんだてめぇっ!??」

   ひっ!? やべぇえっ!??

捕縛シュレープ

   ハンニが視線をずらした隙に、カービィが仕掛ける。
   瞬時に呪文を唱えて、赤い光を帯びた縄を、ハンニの体に巻き付けたのだ。
   すると、縛られたそばから、ハンニの体は赤い炎に包まれた。

「ぐわぁあっ!? 熱いぃいっ!!?」

   身体中の肉が焼け、煙に包まれながら、叫ぶハンニ。

「戦いの最中に余所見してんじゃねぇぞっ!」

   わざわざハンニを煽るカービィ。
   
   すげぇっ! 何だあの縄!? 
   なんちゅう恐ろしい魔法……、って、あれはカービィのムチじゃないかぁっ!??

   そう、ハンニの体に巻き付いているのは、魔法で作り出した特殊な縄かと思いきや、カービィがいつも腰に装備しているあのムチだった。
   普段は全く何に使うのかわからない、役に立たなさそうなそのムチで、ハンニの体をぐるぐる巻きにし、動かないようにと力一杯に引っ張るカービィ。
   赤い光を帯びているところを見ると、魔力を使ってはいるのだろうが……
   その仕組みは、俺にはよくわからん!

『モッモ様! これを!!』

   チルチルに呼ばれて視線を戻すと、チルチルはいつの間にか自分で掘った穴の中へ降りて、その手に何やら気持ち悪~いものを持っている。
   それは、ピクピクと痙攣しながら、ドクドクと脈を打っている……、心臓。
   それも、俺の知っているものとは程遠い、真っ黒な禍々しい悪魔の心臓だ。

「ぎゃっ!? よく触れるねっ!??」

   あまりの気持ち悪さに、俺は一歩引く。

   めっちゃ可愛いのに、そんなグロテスクな物を平気で持てるなんて……
   ギャップがあり過ぎるよチルチル!!!

『早く! マグマへと投げ入れてくださいっ!!』

   俺よりも数倍、現状を把握しているらしいチルチルが必死に叫ぶ。

「はっ! そうだった!! うぅ……、気持ち悪いけど……、くそぉ……。うっ、うわぁあぁ~!!!」

   目を瞑り、声を上げながら、勢いに任せて黒い心臓を掴みにかかる俺。
   すると、思っていたよりも俺の握力が強かったのか、心臓が脆かったのかはわからないが……
   黒い心臓から、これまた黒い血液が、ブシュゥッ! と勢いよく噴き出した。

「ぎゃあぁっ!?」

「ぎぃやぁあぁぁっ!??」

   俺とハンニは同時に叫んだ。
   俺はあまりの気持ち悪さに、ハンニは心臓を握り締められた苦しさに、あらん限りの声で叫んだ。

「ぐはっ!? おえぇっ!?? ぐっ、ぐぅ~、はぁはぁ……。おのれぇ~、えぐっ……。野ネズミ風情がぁ……。覚悟しろぉおぉっ!!!」

   真っ赤な額に、青筋を立てるハンニ。
   カービィに縛られて体の自由は効かないが、唯一動かせる先端が鎌状の三本の尻尾を、ブワッ! とこちらへ振った。
   それは真っ直ぐに、俺の首元目掛けて飛んできて……  
   
   なんっ!? 避けられないっ!!?

   為す術なく、逃げる事ももはや叶わない俺は、死を覚悟してギュッと目を閉じた。

「うっ……、ううう……。 ん……、あれ?? 生きて……、ひっ!??」

   一瞬、首が吹っ飛んだかと思ったが、何者かがハンニの尻尾を、俺の顔の真ん前で止めてくれていた。
   しかし、ハンニの尻尾はギリギリと、未だ此方に向かってこようとしている。
   それを防いでいるのは、何処からともなく現れた、ポワーンとした水色と黄色のオーラの塊だ。
   いったいこれは何なんだ? と目をパチクリしていると、何やら小さな人型が二人、姿を現した。
   しかも……、浮いている!?

『メリル!? グロリア!!?』

   穴の中からチルチルが叫ぶ。

   めり……、ぐ……、は???

   よく見ると、俺の目の前に浮かんで、ハンニの尻尾を止めている二人は、色こそ違えど、チルチルとよく似た感じの服を着ている。
   だが、二人は男性のようだ。
   ワンピースではなく、上下が別々で、下は長ズボンを履いている。

   ……え? もしかして、また土の精霊ノーム!?
   精霊って、そんなに沢山呼べちゃうの!??

   驚く俺の方を、ゆっくりと振り返る二人。
   そのお顔は……

『チルチルを危険な目に遭わすんじゃねぇよ、このクソ馬鹿鼠がぁっ!!!』

   開口一番、唾をいっぱい飛ばしながら怒鳴ったのは、水色服のノームだ。
   なんとそのお顔は、可愛くもなんともない、何処にでもいる小汚い無精髭の親父。

『このような輩にチルチルを使役させるとは……。時の神は何を考えおられるのか。わしゃ~、誠に遺憾じゃ』

   大きく溜息をつく、黄色服のノーム。
   こちらは更にご年配で、真っ白なふさふさの眉毛とお髭が、まるでサンタクロースのよう。
   だがしかし、なかなかに目力が凄い……

   どちらも宙に浮いたまま、さも不機嫌なご様子で、俺を睨んでいらっしゃいます。

   ……えっ!? 助けてくれたんだよねっ!??
   敵じゃないよね君達っ!???
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...