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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

319:不法侵入

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   ここへ来るのは三度目だが、毎回この独特な雰囲気に飲まれそうになるな……

   そんな事を思いながら俺は、姫巫女様のお住まいの、だだっ広い庭を歩く。
   玄関口に辿り着いたところで、以前砂里がそうしていたように、勉坐が柱の一部を開き、中にある大きな鈴をシャンシャンと鳴らした。
   だがしかし、いくら待っても中からの返事はない。

「ふむ……。やはり、雨乞いの儀式の為に、皆出払っているようだな」

   そう言うと勉坐は、玄関扉を開けようと手を掛けた。

   げっ……、不法侵入っ!?

   だけど、やっぱりというか、当たり前に鍵がかかっており、開く事は出来ない。

「くそ……、難儀だな……」

   怖い顔をして、扉を睨みつける勉坐。

「我が蹴破ろうか?」

   馬鹿な提案をするギンロ。

   そんな事をしたら、器物損壊じゃないか……

 呆れる俺。

「……そうする他ないな」

   提案に乗る勉坐。

   そんな事をしたら! 器物損壊じゃないかっ!?

 驚き目を見開く俺。

「ちょっ!? 壊すなんて駄目よっ!?? それこそ姫巫女様や巫女守りの方々に怒られてしまうじゃないのっ!!!!」

   慌てて止めに入るグレコ。

   良かった、グレコがまともで……

「では、他に中に入る方法があるとでも?」

   鋭い目で、グレコを睨む勉坐。
 たじろぐグレコ。

   ……いやまぁ、勉坐は普通に見ているつもりかも知れないけど、やっぱり怖いよね。

「あの……、私、裏口を知っています」

   俺の後ろに立っていた砂里が、ボソッと言った。

「裏口だと? そんなものが存在するのか??」

「あ、えと……。正確には、裏口というよりも、窓から中に入る感じなんですけど……」

   それは……、いやそれも、不法侵入には変わりないよね?

「ふむ……。仕方あるまい、事は一刻を争うのだ。砂里、そこへ案内してくれ」

   ……勉坐って、案外アウトローなとこあるよね。
   もっとこう、めちゃくちゃ真面目って思っていたけど、そうでもないみたい。

   砂里に案内されて、玄関扉から離れ、庭を横切る俺たち五人。
   すると、この巨大な神社仏閣風の木造建築物の端っこ、周りを囲う外塀との間に、幅わずか30センチほどの隙間を発見した。
   この隙間はどうやら、この建物の側面に沿って、建物の裏側まで続いているようだ。

「ここを通って行けば、お屋敷の裏庭に辿り着きます。そこには巫女守り様達の寝室に続く大きな窓がいくつもあるので……、おそらく何処かの鍵が開いているはずです。でも、子供の頃は私も通れたけれど、今はもう……」

   ふむ、確かにこの幅だと、みんなは通れないな。

「ならば答えは一つだ。モッモ、そなたが行ってこい」

 勉坐がそう言った。

「え……、えぇっ!? 僕がっ!?? 一人でぇっ!?!?」

   命令にも近い勉坐の言葉に俺は、軽く飛び上がって驚く。

「小さき体のそなたならば、このような隙間、楽々と通れるであろ? ここより裏庭へ行き、屋敷内へ入れる窓から中に侵入して、玄関口の扉を開けに戻るのだ」

   え、えぇえ~……、マジかぁ……
 確かにこんな隙間、体の小さな俺ならダッシュで走り抜けていけるけどもさぁ。
 でも、一人でってそんなぁ……
 そもそもが、不法侵入としか思えないそんな犯罪行為を、俺は犯したくないのである!
 何か別の方法を探しませんかぁっ!?

 ……だけど、勉坐の鋭い瞳は、俺のそのような考えを許してくれなさそうだ。
 さぁ早く行け、もたもたするなっ! そういう勉坐の心の声が、俺には聞こえた。
 
 本当はしたくないけれど……
   でも、事は一刻を争う!
   モタモタしている間にも、悪魔ハンニは何か行動を起こすかも知れない。
 そうなってしまった方が、厄介厄介ご厄介だっ!!

「うぅ~……、もうっ! なるようになれぇっ!!」

   そう叫びながら俺は、お屋敷と外塀の間の隙間をピグモルダーシュ!
   一目散に駆け抜けて、お屋敷の裏庭へと向かった。

   裏庭は、表の庭と比べるとかなり狭くて、木々が植わっている他は殆ど何もない。
   お屋敷の方を見ると、そこにあるのは網戸もガラスもない、上下開閉式の木製の大きな窓が複数……

「あ~っと……。あれは~、俺には無理じゃないか?」

   お屋敷の縁側によじ登り、大きな窓を開けようと試みる俺。
   だがしかし……

「ふんっ! ぬぅっ!? ギギギギギッ!?? ……っつ、だはぁ~!!!! ……駄目だぁ~」

   案の定、木製の上下開閉式の窓は大きすぎて、重すぎて、力一杯持ち上げてみたけれどびくともしない。
   たとえ鍵がかかっていなかったとしても、非力な俺では窓を開ける事などそもそも不可能である。
   どこか開いたままの窓は無いものかと、キョロキョロと辺りを見渡すも、どれもピッタリ閉まっているのだ。

「参ったなぁ~。戻って勉坐に……、言ったらキレられそう」

   怒った勉坐の顔が容易に想像でき、俺の前歯がカタカタと鳴る。

   むむむ、どうしたものか……
   持ち上げるのは不可能だし、他に入れる場所もないし……
   う~ん……
   もしかしたら、誰か残っていたり……、しないかしら?

   俺は駄目元で、複数ある木製の窓を叩いて回る。

「すみませ~ん。誰か居ませんかぁ~?」

   そう声に出しながら、トントントンと。
   すると、一つの窓が、ギギ~っと音を立てながら開かれて……

「先程から何じゃ? うるさいのぉ……」

   そこからはなんと、しっわしわのしっわしわなお顔をした、志垣が現れたのだ。
   
「わっ!? ……ビックリしたぁ~」

   まさか、志垣本人が出てくるとは思っていなかった俺は、全身をビクッと震わせて驚いた。
   志垣の細い目が、そんな小さな俺の姿を捉える。

「おや? ……ほぉ、野ネズミかえ?? こりゃまた美味そうに丸々太って~。どこから迷い込んだんじゃろうなぁ~」

   ニッコリと笑ってそう言った志垣に対し、俺は一瞬何のことだろうと首を傾げたが……
   志垣の視線が真っ直ぐこちらに向けられている事から、どうやら俺の事を言っているらしいと気付いた。

   なっ!? 俺のことっ!??
   のっ、野ネズミだってぇ~!?!?

「しっ!? 志垣さんっ!?? 僕です! ピグモルのモッモです!! ……あ、時の神の使者の!!! モッモですぅっ!!!!」

   ひぃっ! 食べられるなんて真っ平御免だっ!!
   俺は野ネズミなんかじゃないですよぉっ!?
   可愛い可愛い、ピグモルのモッモですよぉっ!??
   食べたりしちゃ駄目ですよぉおぅ!!!!
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