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第10章:銀竜の巣

7:最大の秘密

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 リオの決意に、心動かされたのはテスラだ。
 下唇をギュッと噛みしめて、これまで言えなかった事実を、皆に打ち明けようと大きく息を吸った。

「私……、まだ皆さんに、言っていない事があります」
 
 緊張した面持ちのテスラを、皆不思議そうに見る。
 ルーベルだけは、優しい眼差しでテスラを見つめている。
 テスラはようやく自分自身を受け入れられたのだな、と、ルーベルは思っていた。

「私……、私の父は……、先代国王、ホードラン様なのです」
 
 意を決してそう言ったテスラに対し、四人は何ともいえない表情になる。

「えっと……、知ってましたよ?」
 
 マンマチャックが、遠慮がちに言った。

「えっ!?」
 
 驚くテスラ。

「ごめんねテスラ。でも……、だって、テスラのお母様であるロドネス様の隣の部屋で、先代国王であるホードラン様が眠っていたって聞いたもんだから……。そうなのかな~って、思っていたの」
 
 エナルカも、申し訳なさそうな笑顔をテスラに向ける。

「そ、そうだったのですか……?」
 
 テスラの頭の中は、やや混乱している。
 テスラにとっては、最大の秘密であり、最大の告白であったのだ。

「まぁ、ここまできて、驚くほどの事ではねぇな。薄々気付いてはいたし……。まぁなんだ、気負うな!」
 
 ジークは、にやにやと笑いながら、テスラの背をドンっと叩いた。
 よろめくテスラ。

「僕はさっきまで知らなったよ。イルクナードが教えてくれたんだ。……あ、でもさ、そうなると、テスラって次の王様なの?」
 
 姿かたちが変わっても、変わらぬリオの間抜けな言葉に、テスラはふっと笑った。
 この者達となら、命を懸けて、竜の子と戦える……

「さぁ、魔心石を食べましょう、みんなで」
 
 テスラの言葉に、四人は頷いた。





「これを……、どうやって食うんだよ?」
 
 リオが握りしめている、銀の塊にしか見えない魔心石を見つめて、ジークが言った。
 どこからどう見てもそれは、硬い鉱物にしか見えないのだ。

「このままガブッと……、食べたら歯が折れるかしら?」

 眉間に皺を寄せるエナルカ。

「とりあえず、五つに分ける?」
 
 適当にそう言ったリオが、魔心石を両手で割ろうとする。

「いやいや、それはさすがに無理……、えっ!?」
 
 リオの行動に苦笑いしたマンマチャックだったが、その光景に驚き、目を見開いた。

「これは、いったい……?」
 
 テスラも、目にしている物が信じられないと言った表情だ。
 
 リオは、手にしていた魔心石を、一見すると鉱物にしか見えないそれを、いとも簡単に、パンでも千切るかのようにして五等分にした。

「おぉ、思ったより柔らかかった……。はい、どうぞ」
 
 リオ本人も驚きつつ、四人にそれらを手渡していく。

「魔心石は、手に取った者の心の持ちようで、その形状を変えると言われている。ならば恐らく、お前達は容易にそれを食べる事が出来るはずだ」
 
 ルーベルの言葉に対し、皆半信半疑のままだが……

「いただきま~す」
 
 またしてもリオは、あまり深く考えず、いの一番に魔心石を食べた。
 その様子を見守る四人。

「んん、パンだねこれは!」
 
 リオの言葉に、四人はそれぞれ怪訝な顔になりながらも、恐る恐る魔心石を口へと運んだ。

「……あ? なんだこりゃ? ほぼ水じゃねぇか」
 
 そう言ったのはジークだ。
 魔心石を口に含んだ瞬間に、それは液体となってしまったようだ。
 ジークは躊躇うことなく、それをごくんと一飲みした。

「私のは、お菓子みたい。甘くて美味しい」
 
 サクサクと咀嚼しながら、顔をほころばせるエナルカ。
 エナルカの魔心石は、故郷の母がよく作ってくれた焼き菓子のようになった。

「何かの……、果物ですね。甘酸っぱい」
 
 テスラの魔心石は、爽やかな酸味が残る、果物のように変化したようだ。
 こちらもいとも簡単に、それを食することが出来た。
 しかし、マンマチャックは……

「ぐふっ……、えほっ、えほっ! ぐぐぐ……」

 むせながらも、何とか喉の奥へと、魔心石を流し込むマンマチャック。
 すかさずジークが、魔法陣を発動させて、マンマチャックの手の平の上に水を生成した。
 ジークの水をゴクゴクと飲み干したマンマチャックは、一言こう言った。

「ただの、砂でしたよ……」
 
 マンマチャックの言葉に、リオとエナルカとジーク、ルーベルと、そしてテスラまでもが、思わず笑ってしまった。

「何か、体に変化を感じるか?」 
 
 ルーベルの問い掛けに、五人はそれぞれの両手にある魔法陣を見つめる。

「特にこれと言って……。けれど、なんだかこう、体の奥が温かく感じます」
 
 エナルカが答える。

「あぁ、俺もそんな感じがするな。何て言うか……、力が湧いてくるっていうか……」
 
 ジークがエナルカに同意する。

「もっと、どこか痛んだり、苦しくなったりするのかと思っていましたが……」
 
 ホッとした様子のマンマチャック。

「どこも、何ともないですね。本当にこれで良かったのでしょうか?」
 
 テスラが疑問を投げかけた。
 するとリオは……

「試しにやってみよう」
 
 そう言って、魔法陣を発動させて、いつものように炎の魔法を行使した。
 次の瞬間。

「うわぁあっ!?」
 
 驚き、たじろぐリオと、炎から身を守ろうと、リオから離れる四人。
 今までとは比べ物にならないほどの巨大な、溢れんばかりの炎が、魔法陣より発生していた。
 それは、今までの炎とはまるで違っていて、赤く燃え盛る中に白い炎が入り混じった、恐ろしく強い炎だった。

「これは……、想像以上に、凄まじい威力だな……」
 
 少しばかり後退りながらも、ルーベルは笑った。

「凄い……。これならきっと、ワイティアに対抗できる。国を救える!」
 
 リオの言葉に、四人は力強く頷く。

「さぁ、準備は整った……。ワイティアは王都にいるはずだ。急ぎ向かおう!」
 
 ルーベルの号令で、皆は洞窟を後にした。
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