上 下
68 / 87
2章

68

しおりを挟む
ギィのいない毎日は特に変わり映えなく過ぎていく。
あんなに波立っていた俺の気持ちも時間と共に落ち着いてきて、今はギィの事を考えても寂しくなったり悲しくなったりはしない。

…嘘だ。
本当はちょっと胸の奥の方が痛くなったりするけど、それも小さくなってきてると思う。きっともっと時間が経ったらもっと小さくなってそのうち痛むこともなくなるだろう。

毎日、朝起きたら木に水を遣ってギルドで依頼をこなして、暗くなる前に帰って来てお風呂に入って寝る。
変わったことがあるとしたら、あの種の木はもう俺の背丈を越えてちゃんと木って言える大きさになった。あと、俺はあんまりお腹が空かなくなってお昼にちょっと食べるくらいで大丈夫になった。それも1人で依頼中とかだったら無しでいける。今日の一杯は変わらず飲んでるから、ミルク一杯で活動できる省エネ体質になったってことかな。経済的だ。

今日は牧場に配達依頼。運ぶ荷物が大量だったので荷車を2台借りて俺、ヤック、グレン、ティナの4人で運んできた。後は空の荷車をギルドに戻せば完了だ。

街の大通りは馬車がすれ違える幅があるので荷車を引きながら端っこを歩いても大丈夫。おやつにもらったチーズを齧りながらのんびり歩く。今日もティナのおしゃべりは絶好調だ。

「あ、カイト!あの人!ギィの」

ギルド近くの商業区でティナが俺の袖を引っ張った。

「ほら、八百屋さんの前の黒っぽい髪の人」

言われて見れば、ギィが椅子を持ってた日に見た人らしき女の人だ。
八百屋のおばさんと楽しそうに話しながら、野菜を吟味してる。

明るくてよく笑う感じの小柄な女の人。

なるほど。かわいいな。

俺とティナの後ろを空の荷車を引きながら歩いてたヤックとグレンもその人を見ながら八百屋の前を通り過ぎた。

「今の人がどうした?」
「あぁ、ギィの結婚相手」
「「はぁ??」」

ヤックとグレンが特大の驚き声を上げて目を剥いて俺を見てくる。ヤックはともかく、グレンもそんなに大きな声出せたなんてそっちの方が驚きだ。

「いや、だってカイト、拠点…」

びっくりさせないでよ!って怒るティナをいなしながらヤックが俺に聞いてくる。ヤックとグレンは俺がギィと拠点で一緒に住んでるって知ってる数少ない人の中に入ってる。ギィが2人に話してた。ティナは知らないからはっきり聞けなくてモゴモゴになっちゃってるけど、驚くのはわかる。ホームを2つ持つなんて珍しいだろうしね。しかも同じ街にだ。
まあ、自宅と事務所みたいな感じかな?

「俺もびっくりしたよ。さすがA級って感じなのかな」

家2軒だもんね。

「…カイトは聞いてなかったのか?」
「今もまだちゃんと話してもらってはいないんだけどね」
「間違いじゃね?」
「いや、俺もギィとあの人が一緒に買い物してるの見たし。仲良さそうだったよ?」
「同じ家に帰ってるんだしあの人で間違いないって!お似合いよね!」
「ティナは黙ってろって」
「カイトはそれでいいのか?」

何?グレン怒ってる?

「ぇ?俺は別に…ギィが決めることだし…」

事務所の方に住まわせてもらってる俺に何か言う権利はない。

「ほら、ギルド着いたよ。完了報告しよう。
3人はこの後狩りの訓練だろ?急がないと」
「ちゃんとギィに聞いた方がいいと思うぞ?」
「んーでもなー。本人が言わないのに俺から聞くのも変だろ?」
「「変じゃないだろ!!」」
「…なんでヤックとグレンが怒ってるんだよ…。
俺はこの後書類整理だからもう行くよー。またなー」
「おい!カイト!」

なんで俺が怒られないといけないんだ。全く!

カウンター横から中に入って受付担当のギルド員さん達に挨拶してから2階に上がる。
ギルド長室では珍しく難しい顔をしてギルド長と副長が話し込んでた。

「おはようございます。あの、俺、出直します?」
「あぁ、カイト君。おはようございます。大丈夫ですよ」
「おぅカイト。早いな。昼飯はちゃんと食ったのか?」
「大丈夫です。今日の分の書類片付けますね?」
「もっとゆっくりでいいのに、お前もワーカーホリックだな」
「あなたはもうちょっと働いて頂きたいですがね」

さっきは難しい顔してたけど、ギルド長と副長は今日も通常運転だ。大丈夫そう。

「カイト、近隣の村での子どもの行方不明が増え続けててな。組織的に狙ってる奴らがいると思われるんだ。村には冒険者を派遣して警戒と調査に当たらせてるけど、カイト達も怪しいのを見かけたらすぐ知らせてくれ」
「はい。わかりました」
「下に通知も貼りますし、エリカは人の目も多いので大丈夫だと思うのですが用心に越したことはありませんからね」

副長が去ってギルド長も渋々書類仕事を始めた。俺もお仕事お仕事。

エリカは住人も多いけど、外から立ち寄る人も多いから警戒は難しそう。住人以外の街への出入りは門で必ずチェックされるから街中から子どもを連れ去るのは無理だよな。外の依頼の時に注意しておくようにしないと。でも子どもを攫ってどうするんだろ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

セックスの快感に溺れる男の子たち【2022年短編】

ゆめゆき
BL
色々なシチュエーションで、愛し合う男の子たち。 個別に投稿していたものにお気に入りや、しおりして下さった方、ありがとうございました!

処理中です...