異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

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2章

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宿木に戻って来た。
見覚えは…ない。ほとんど周り見てなかったしな。只々不安で心細かったことだけ覚えてる。

「カイト、今晩はここで泊まってもいいし、もっと先へ進んでもいいぞ」

宿木を見つめて立ち尽くす俺の肩をギィがそっと後ろから引き寄せる。背中にあたるがっしりした体の固さと温もりに、あの時の不安な気持ちを思い出し始めていた心がフッと軽くなった。

「ここにしようよ。2人に会った思い出の場所だしさ」

横から見下ろしてくるギィとその後ろでこちらを心配そうに見ていたルークに、ニッと笑いかける。
そうだ、俺はあの時とはもう違うんだ。今はもう心細いことなんてない。だって迎えに来てくれる人だっているんだ!

5日前、半年過ごした魔王領を出発した。もの凄く濃い毎日だった。

「まだここに居ていいのに…ルークもギィも迎えに来るのが早すぎるのよ!まだまだ一緒にやりたい事がいっぱいよ!?」

子どもが独り立ちする時ってこんな感じなのかしら。とルークとギィを睨みつけながら文句を言う魔王はどう見ても俺より年下なんだけどな…。

「覚えも良く頭の回転も悪くなく、欠点らしきは素直過ぎるところぐらい。もうしばらく時間をかければそこも克服できたかと思うと惜しいですね」
「セイ殿の教えを受けたにも関わらず、あの腹黒さが伝染らなかったのは素晴らしいことですよ。健やかな心と身体は良質な食事と睡眠が作ります。羽目を外しすぎてはいけませんよ」

ハク、母親みたいになってるぞ。あと意外と毒舌なんだよな。セイとしょっちゅう嫌味合戦してたけど、あれって絶対同族嫌悪だよな。仲良くしろよ。

「鍛錬は続けるように」
「次会ったときに腑抜けてたらイチからやり直しだからな!」

得体の知れない俺を拾って連れて来てくれたのはギィとルークだけど、保護してこの世界での生き方を教えて導いてくれたのは魔王領のみんなだ。ここはもう俺にとって安全で安心できるこの世界での実家になってる。
離れるのは寂しいけれど、ギィやルークが暮らす街や外の世界を見てみたいって俺から言い出して魔王領から出ることにした。

魔力には慣れてきてもう眩しく感じずに見る事ができるようになった。対象の魔力の多さみたいなものを眩しさ度合いで見分けることもできるくらいに視界の切り替えに熟練できてる。魔力の多い野菜は美味しいから、主に食べ頃を見極めるために使ってます。
魔力を自分に溜めることはできないままだけど、そこは魔王が色々考えてくれて俺用のモバイルバッテリーを作ってくれた。
ランプやコンロなどの一般に普及している道具は魔力が動力になってる。魔力が溜まってる魔力鉱石を電池みたいに本体に取り付けてるんだけど、起動するのに自分の魔力を使うらしい。最初にちょっと魔力を流して電池の魔力を起こすみたいな感じ。俺は魔力がないからそれができなくて使えない。そこで、持ち運べて自由に中の魔力を取り出して使えるバッテリーがあればいいんじゃないかってなった。
本来、他人の魔力を取り込むのは自身の魔力と反発して不快なものだから、これまで魔力鉱石から直に魔力を取り込む仕組みはなかった。でも俺は自分の魔力っていうのがないからな!誰の魔力でも取り込めます!
魔王が作ったのは触れると魔力が流れ込んでくる機械みたいなもの。それに電池の魔力鉱石を嵌めて、俺が触ると中の魔力が流れ込んでくる。俺は流れ込んできた魔力をそのまま使う。という感じ。

電池の魔力鉱石は普通に売られているから、最初はそれから魔力を取り込めないか試してみたんだけど取り込む先から消えていってしまって全然魔力量が足りなかった。
色々試して最低でも5倍くらいの大きさの魔力鉱石がないと容量が足りないことが判明。道具を1個起動するのにその道具の動力になる魔力の5倍の魔力が必要ってことだから、恐ろしいほど燃費が悪いってことなんだけど、それでも俺には必要で。
魔王とセイは嬉々として研究と改良に取り組んでた。妖が出現したときの最終兵器として待機している以外は特にすることがないらしい魔王は、こういう道具とかを作るのを趣味にしてて一般に普及している物もあるんだとか。

久々にチヤ様が楽しそうにしておられていて嬉しい限りです。ってハクがにっこりしてた。
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