異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

文字の大きさ
上 下
32 / 87
1章

32 side ルーク

しおりを挟む
丘の上に立つカイトの後ろ姿を眺める。

初めて会ったときより少し身体に厚みがでてしっかりしてきたか?それでもこの辺りの人種から見れば華奢で小柄になることは間違いないが。
すっきりと伸びた背筋はカイトの素直で明るく強い心根を現しているように見えた。

「はぁ」

隣に立つギィから小さな吐息が聞こえてきた。ちらりと横に目線をやると、ぼんやりというかうっとりというか表現に迷う表情が見える。

カイトの後ろ姿に見惚れちゃってるな…。

ギィにこんな一面があるなんて、そこそこ長い付き合いのある俺ですら知らなかった。

ギィも俺も冒険者の中では上位のランクにいる。多くの冒険者が上位ランクを目指すがそう簡単には辿り着けない。戦闘力だけでなく客観的に己を見れる冷静さや知識や経験に裏打ちされた判断力が無ければ生き残れないからだ。
そんな上位ランカーの中でギィは最も上位ランカーらしい冒険者だと思っていた。
戦闘力は折り紙付きな上に常に冷静。付き合いが悪い訳ではないが誰とも深く交わることはなく、誰にでも平等な対応。実力があり容姿も女よりは男に憧れられる事の多いタイプだとしてもモテないはずもなく、人気の高さは当然なのに浮いた話の1つすら聴いたことがない。
個人的な情報として知られているのは都出身でエリカでの定宿が銀鹿亭だという事くらいか?余暇の過ごし方なんて存在しないワーカホリックぶりは有名だ。

そんなギィがあっという間にカイトに惹かれていくのを目の当たりにした。冒険者は上位になるほど命懸けの依頼が増える。それを厭う訳ではないけれどどうしても心は疲弊していく。カイトの素直で真っ直ぐな心のもつ明るさに俺達はどうしようもなく惹かれた。
最初は困っている子どもを助けようとする冒険者として当然の行動だったと思う。俺だってそうだったんだから。
小さな身体に色白の細い手足。弱々しい子どもは、見るからに慣れない様子ながら弱音を吐くことも諦めることもなく森を歩き野営を受け入れ、きっと辛いだろうに周りへの配慮を忘れない強い心を持っていて。惹かれていく自分に気づいたとき、同じようにカイトを見ているギィにも気づいた。


ギィのカイトへの距離の詰め方はちょっと強引にも感じる程だったけど、戸惑いつつも受け入れ始めたカイトを見て自分の気持ちと立ち位置を変えることにした。
ギィがそこを目指すなら、俺は反対の隣に立てるようにしよう。兄貴分で親友で、ある意味一番頼られるポジションだ。
ただ、何もせずに引き下がるのは癪だったので、カイトの最初の武器として俺とお揃いのナイフを贈ってやった。カイトが俺からもらったとナイフを見せた時のギィの顔が直接見られなかったのが残念だ!

横で寝そべっていた駱の方がカイトより早く俺たちに気づいて小さく鳴く。
振り向いて俺たちに気づきカイトが満面の笑みで丘を駆け降りてくる。
小造りな顔の中で大きな黒い瞳が嬉しさを隠さず映すのはほんとうにかわいい!


「ルーク殿はそれでよろしいんですか?」

ギィに新しく習ったという体術を試しているカイトを少し離れて眺めているとセイ殿が話しかけてきた。
セイ殿からこちらに話しかけてくるのは珍しい。

「それで。とは?」

言いたいことはわかっているけどはぐらかす。

「定命の貴方方には難しいことやもしれませんが、我等のような在り方もお二人であれば可能かと思うのですよ」

魔王とその眷族達か。一般には支配者と従属する者ととらえられているが魔王自身は伴侶達と言っていたな。だがな…。

「カイトが望むようにしたいと思っていますよ」
「カイトはまだまだ子どもです。元の世界でもその辺りを考えるのは10年は先のことだったようですよ。…自覚する前に囲い込んでしまうというのもかえってカイトの為になるかもしれません」

ここから出れば間違いなく多くの者を惹きつけることになるでしょう。と続く言葉に不本意ながら頷くしかない。
単に容姿や能力だけに惹かれて近づいてくる者の排除は簡単だ。だがカイトの在り様や心に惹かれる者の排除は一筋縄ではいかないだろう。俺自身が立ち位置を変えてでも側に居ようとしているくらいなのだから。

「見える番犬はギィに任せますよ」
「なるほど。流石と申し上げておきます。
カイトの幸福が保障されていて安心です」

セイ殿はうっすらと微笑んで会釈と共に去っていった。
立ち位置的にはタチ殿の下になるはずだが一番読めない恐ろしさがある。カイトの害になると判断されれば一瞬で切り捨てられるだろうな…。

ま、そんなことにはなり得ないけども!
ギィ、お前がカイトに捨てられたらいつでもその位置に入ってやるぞ。精々カイトを甘やかして可愛がって捨てられないよう頑張れよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

【完結・BL】12年前の教え子が、僕に交際を申し込んできたのですが!?【年下×年上】

彩華
BL
ことの始まりは12年前のこと。 『先生が好き!』と、声変わりはうんと先の高い声で受けた告白。可愛いなぁと思いながら、きっと僕のことなんか将来忘れるだろうと良い思い出の1Pにしていたのに……! 昔の教え子が、どういうわけか僕の前にもう一度現れて……!? そんな健全予定のBLです。(多分) ■お気軽に感想頂けると嬉しいです(^^) ■思い浮かんだ時にそっと更新します

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...