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1章
29 side ギィ
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うきうき風呂に向かうカイトを見送る。ほんとうに風呂が好きだな。
俺は別にわざわざ湯に浸からなくとも洗浄魔法で充分だし、湯に浸かるのなら流れがあるかもっと広々してる方がいいがな。でもカイトが好きだというなら家には必ず風呂を付けなければ。
湯上がりのカイトもいいしな!
「倒れたと聞いて慌てたけど、ひとまず深刻な事にはならなくて良かったよな」
しっとり上気してほんわか蕩けた湯上がりのカイトを思い出してニヤけそうになるのを引き締める。悪夢に冷えて震える体を抱きしめたのはついさっきだ。ほんとうは今だって1人にはしたくなかったんだが本人が1人でゆっくり浸かりたいと言うのだから仕方ない。
「しばらく様子は注意して見ておかないといけないがな」
「そうだな。ギィはしばらく居れるのか?依頼途中か?」
「依頼は終わってギルドへ報告に向かうところだった。今回のパーティーメンバーに頼んで来たから問題はないが早めにギルドに顔を出しておかなければならないな…。お前は?」
「俺は補給でエリカに居たよ。部屋の窓を突き破られて壊しちまったから、帰ったら女将に謝らないと」
まさか伝書鳥が窓を突き破って宿の部屋に入って来るとは思わなかったよ。とぼやくルークに、そもそも個人宛に飛んでくる事が出来るとは思いもしなかったがな。と応える。
伝書鳥は手紙を運ぶ鳥だ。鳥の種類にもよるが手紙以外にも手のひらサイズ程度の小さな荷物なら送る事が出来る。伝書鳥は城やギルドが所有しており、行き先を示す実を食べさせて飛ばすことで指示された先に鳥が飛んで行く仕組みになっている。
全ての鳥がそのようなことが出来る訳ではなく、また種によって出来るというものでもない。調教には専門的な知識と技術が必要で家業としている一族がいる。
教え込んだ固定の場所間のみを行き来するはずの伝書鳥が直接俺の元に来たのは、最初に魔王領を立つ時に魔王に緊急時用に必要だと言われて渡した自身の魔力を込めた魔力鉱石を使ったのだろうと推測はできるが、それをどう使えばそんな事が出来るのかは謎のままだ。鳥に石を食べさせるのか?
飛んで来た伝書鳥は見たことのない種類で、到底人に慣れる事などないと思わせる強者の雰囲気を持っており、一瞬パーティーに緊張が走った。伝書鳥と気づいて足につけられていた手紙を読んだ後の記憶は曖昧だ。依頼報告は任せたと伝えるや否や魔王領に向けて全力で移動を始めていたので、その後のパーティーメンバーの様子はわからない。
彼らは固定でパーティーを組んで行動している上位冒険者達だったし、個人の技量もパーティーとしての練度も高く安定していたので俺が途中で抜けても問題なくギルドまで辿り着いているだろう。後日顔を合わせる事があれば詫びに奢るくらいはしたいと思う。
ルークの元に行ったのも同種の個体だったようだ。確かにあれなら窓など簡単に突き破れるだろうな。
「俺、考えたんだけどさ…」
風呂上がりのほかほかになったカイトの髪を乾かす。カイトがソファに座る俺の足の間に当然のように座って濡れた頭を差し出すのは、俺が魔王領に居る間に植え付けることに成功した習慣だ。
ルークに頼んだことはないらしいから、カイトの中で髪を乾かすのは俺だけになってるってことだ。
それでいい。
「魚が平気で動物がダメなのは、向こうの世界で魚は丸ごと料理されてることもあったけど、動物はなかったからじゃないかと思うんだよね。見慣れてるかどうかかなって。
ただ、今さら動物の丸焼きとか料理で出されても食べられるとは思えないんだけどさ…」
カイトの髪の手触りを楽しみながらほんのり色づいたうなじを眺めて堪能していたら、深刻そうな雰囲気でそんなことを言い出した。
まだ考えてたのか。
俺は別にわざわざ湯に浸からなくとも洗浄魔法で充分だし、湯に浸かるのなら流れがあるかもっと広々してる方がいいがな。でもカイトが好きだというなら家には必ず風呂を付けなければ。
湯上がりのカイトもいいしな!
「倒れたと聞いて慌てたけど、ひとまず深刻な事にはならなくて良かったよな」
しっとり上気してほんわか蕩けた湯上がりのカイトを思い出してニヤけそうになるのを引き締める。悪夢に冷えて震える体を抱きしめたのはついさっきだ。ほんとうは今だって1人にはしたくなかったんだが本人が1人でゆっくり浸かりたいと言うのだから仕方ない。
「しばらく様子は注意して見ておかないといけないがな」
「そうだな。ギィはしばらく居れるのか?依頼途中か?」
「依頼は終わってギルドへ報告に向かうところだった。今回のパーティーメンバーに頼んで来たから問題はないが早めにギルドに顔を出しておかなければならないな…。お前は?」
「俺は補給でエリカに居たよ。部屋の窓を突き破られて壊しちまったから、帰ったら女将に謝らないと」
まさか伝書鳥が窓を突き破って宿の部屋に入って来るとは思わなかったよ。とぼやくルークに、そもそも個人宛に飛んでくる事が出来るとは思いもしなかったがな。と応える。
伝書鳥は手紙を運ぶ鳥だ。鳥の種類にもよるが手紙以外にも手のひらサイズ程度の小さな荷物なら送る事が出来る。伝書鳥は城やギルドが所有しており、行き先を示す実を食べさせて飛ばすことで指示された先に鳥が飛んで行く仕組みになっている。
全ての鳥がそのようなことが出来る訳ではなく、また種によって出来るというものでもない。調教には専門的な知識と技術が必要で家業としている一族がいる。
教え込んだ固定の場所間のみを行き来するはずの伝書鳥が直接俺の元に来たのは、最初に魔王領を立つ時に魔王に緊急時用に必要だと言われて渡した自身の魔力を込めた魔力鉱石を使ったのだろうと推測はできるが、それをどう使えばそんな事が出来るのかは謎のままだ。鳥に石を食べさせるのか?
飛んで来た伝書鳥は見たことのない種類で、到底人に慣れる事などないと思わせる強者の雰囲気を持っており、一瞬パーティーに緊張が走った。伝書鳥と気づいて足につけられていた手紙を読んだ後の記憶は曖昧だ。依頼報告は任せたと伝えるや否や魔王領に向けて全力で移動を始めていたので、その後のパーティーメンバーの様子はわからない。
彼らは固定でパーティーを組んで行動している上位冒険者達だったし、個人の技量もパーティーとしての練度も高く安定していたので俺が途中で抜けても問題なくギルドまで辿り着いているだろう。後日顔を合わせる事があれば詫びに奢るくらいはしたいと思う。
ルークの元に行ったのも同種の個体だったようだ。確かにあれなら窓など簡単に突き破れるだろうな。
「俺、考えたんだけどさ…」
風呂上がりのほかほかになったカイトの髪を乾かす。カイトがソファに座る俺の足の間に当然のように座って濡れた頭を差し出すのは、俺が魔王領に居る間に植え付けることに成功した習慣だ。
ルークに頼んだことはないらしいから、カイトの中で髪を乾かすのは俺だけになってるってことだ。
それでいい。
「魚が平気で動物がダメなのは、向こうの世界で魚は丸ごと料理されてることもあったけど、動物はなかったからじゃないかと思うんだよね。見慣れてるかどうかかなって。
ただ、今さら動物の丸焼きとか料理で出されても食べられるとは思えないんだけどさ…」
カイトの髪の手触りを楽しみながらほんのり色づいたうなじを眺めて堪能していたら、深刻そうな雰囲気でそんなことを言い出した。
まだ考えてたのか。
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