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1章
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兎を押さえ込んでる自分の手が見える。俺の知ってる兎よりふた周りは大きいけど長い耳、うるうるの大きな目、柔らかな毛は全く兎と違いない。
俺は左手で兎を押さえて右手を腰の後ろに回してナイフをさぐる。
…いやだ、いやだ、やりたくない
兎が突然喋り出す。
「弟と妹が家で待ってるの。まだ小さくてわたしが帰らないと泣いてしまう」
俺の右手はナイフを握って
「い…いやだあぁぁぁっ!っ!っ!」
「カイト!目を覚ませ!!」
ハッと目を開けると目の前には眉間に皺を寄せて眉を下げた泣きそうな青い瞳。
ルーク…
俺の冷や汗に濡れた震える体は後ろからきつく抱きしめられて、肩口にぐりぐり押し付けられている額。
ギィ…
「ぁ…おれ…」
「目、覚めたか?…水飲もうな」
周りを見て俺のベッドの布の中で3人で居ることに気づいた。並んで横になっていたようで今も後ろからギィにがっちり抱き込まれてる。
「ギィ、カイトを離して。体を起こさないと水飲めないだろ」
ギィは無言のまま起き上がり、俺をそうっと起こしてくれると目尻を親指で擦るようにしながら両手で頭をがっちり掴んで、目の奥を覗き込むように見つめてきた。
「カイト」
「うん…。大丈夫。ちょっと怖い夢を見ただけ」
ちょっと口角を上げて笑ってみせる。
ギィが手を下ろしてくれたので、ルークからコップを受け取ろうと手を伸ばした。
「ルークも。起こしてくれてありがと」
ルークはコップを俺に渡すと寝台に上がりながら俺の肩をなでた。
水は乾いてひりつく喉を温めながら心地よく通っていき、飲み終わった俺は胸の奥からほおぅっと大きく息を吐きだした。
「落ち着いたか?…何があったか覚えてる?」
「無理に思い出す必要はない」
「ギィ、大丈夫だよ。覚えてるし、ちゃんと考えないと」
このまま狩りのたびに倒れてちゃ冒険者なんてできないし、自給自足で生きていくこともできないかもしれない。慣れるしかないんだろうけど、俺にあれができるようになるだろうか…。
俺は二人に顛末を話した。
狩りに連れて行ってもらったこと。
想像していたのとは全く違った狩りの様子。
血の臭い、獲物の断末魔。
「俺、ダメだった…。いつも食べてるお肉だって元は生きてた動物で、殺して食べてるんだってわかってるのに目の前で死んでいくのを見たらダメだった」
「怖かった?」
「…怖いっていうか、悲しかった。あの兎はもう家に帰れないんだ。今日死ぬなんて思ってなかったはずなのに…。俺、わかってなかったんだ。狩りをするっていうことがどういうことかちゃんとわかってなかった。
タチとヘキにも迷惑かけちゃった…謝らないと」
「大丈夫。謝ることなんてないさ。心配してたからカイトの目が覚めたことをお知らせしないとね」
ギィが俺の後ろからそっと離れて寝台を降りるとそのまま部屋を出て行った。
「ギィ、怒ってる?呆れちゃったかな…」
嫌われたかな。って小さく呟いてしまう。冒険者からしたらそんなことで倒れるなんてって感じだろうしな。
「魔王に知らせに行っただけだよ」
ギィがカイトを嫌うなんてあり得ないだろ。て半笑いでルークが俯く俺の前髪をかき回す。
「ギィに嫌われたらショックなんだ?」
「そりゃそうだろ!」
「ふーん?」
なんだよもう。ニヤニヤこっちを見てくるから顔が熱くなってくるだろ!
「そういえば、ルークもギィもなんで居るの?たまたまこっち来てたの?」
「魔王が知らせてくれたんだよ。カイトが倒れたって。だから急いでこっち来たんだぞ。俺は依頼が終わって補給で街にいたけど、ギィはたぶん依頼の途中で来たんじゃないか?」
「えっ。途中でって…いいの!?そもそも街からでもそんなすぐに来れるの?」
「…カイト、お前が倒れてから3日経ってるぞ」
「えええっっ!?」
ギィが魔王とタチ、ヘキを連れて部屋に戻ってきた。
俺は左手で兎を押さえて右手を腰の後ろに回してナイフをさぐる。
…いやだ、いやだ、やりたくない
兎が突然喋り出す。
「弟と妹が家で待ってるの。まだ小さくてわたしが帰らないと泣いてしまう」
俺の右手はナイフを握って
「い…いやだあぁぁぁっ!っ!っ!」
「カイト!目を覚ませ!!」
ハッと目を開けると目の前には眉間に皺を寄せて眉を下げた泣きそうな青い瞳。
ルーク…
俺の冷や汗に濡れた震える体は後ろからきつく抱きしめられて、肩口にぐりぐり押し付けられている額。
ギィ…
「ぁ…おれ…」
「目、覚めたか?…水飲もうな」
周りを見て俺のベッドの布の中で3人で居ることに気づいた。並んで横になっていたようで今も後ろからギィにがっちり抱き込まれてる。
「ギィ、カイトを離して。体を起こさないと水飲めないだろ」
ギィは無言のまま起き上がり、俺をそうっと起こしてくれると目尻を親指で擦るようにしながら両手で頭をがっちり掴んで、目の奥を覗き込むように見つめてきた。
「カイト」
「うん…。大丈夫。ちょっと怖い夢を見ただけ」
ちょっと口角を上げて笑ってみせる。
ギィが手を下ろしてくれたので、ルークからコップを受け取ろうと手を伸ばした。
「ルークも。起こしてくれてありがと」
ルークはコップを俺に渡すと寝台に上がりながら俺の肩をなでた。
水は乾いてひりつく喉を温めながら心地よく通っていき、飲み終わった俺は胸の奥からほおぅっと大きく息を吐きだした。
「落ち着いたか?…何があったか覚えてる?」
「無理に思い出す必要はない」
「ギィ、大丈夫だよ。覚えてるし、ちゃんと考えないと」
このまま狩りのたびに倒れてちゃ冒険者なんてできないし、自給自足で生きていくこともできないかもしれない。慣れるしかないんだろうけど、俺にあれができるようになるだろうか…。
俺は二人に顛末を話した。
狩りに連れて行ってもらったこと。
想像していたのとは全く違った狩りの様子。
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「俺、ダメだった…。いつも食べてるお肉だって元は生きてた動物で、殺して食べてるんだってわかってるのに目の前で死んでいくのを見たらダメだった」
「怖かった?」
「…怖いっていうか、悲しかった。あの兎はもう家に帰れないんだ。今日死ぬなんて思ってなかったはずなのに…。俺、わかってなかったんだ。狩りをするっていうことがどういうことかちゃんとわかってなかった。
タチとヘキにも迷惑かけちゃった…謝らないと」
「大丈夫。謝ることなんてないさ。心配してたからカイトの目が覚めたことをお知らせしないとね」
ギィが俺の後ろからそっと離れて寝台を降りるとそのまま部屋を出て行った。
「ギィ、怒ってる?呆れちゃったかな…」
嫌われたかな。って小さく呟いてしまう。冒険者からしたらそんなことで倒れるなんてって感じだろうしな。
「魔王に知らせに行っただけだよ」
ギィがカイトを嫌うなんてあり得ないだろ。て半笑いでルークが俯く俺の前髪をかき回す。
「ギィに嫌われたらショックなんだ?」
「そりゃそうだろ!」
「ふーん?」
なんだよもう。ニヤニヤこっちを見てくるから顔が熱くなってくるだろ!
「そういえば、ルークもギィもなんで居るの?たまたまこっち来てたの?」
「魔王が知らせてくれたんだよ。カイトが倒れたって。だから急いでこっち来たんだぞ。俺は依頼が終わって補給で街にいたけど、ギィはたぶん依頼の途中で来たんじゃないか?」
「えっ。途中でって…いいの!?そもそも街からでもそんなすぐに来れるの?」
「…カイト、お前が倒れてから3日経ってるぞ」
「えええっっ!?」
ギィが魔王とタチ、ヘキを連れて部屋に戻ってきた。
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