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1章

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「カイト、食事に行こう」
お風呂を出て布に囲われたベッドでゴロゴロしてたら、ノックの後にギィの声がした。

急いで目隠ししてベッドから飛び出て扉を開ける。
1人で居たのは短い時間だったはずなのにギィの顔を見たらほっとした。
ギィもここ風の服に変わってる。
前ボタンの立襟シャツに袴。袴の裾は絞ってある。足元は草履の方がしっくりくる気がするけど、柔らかい皮の靴。

あ、俺、急ぎすぎて裸足だった。

「ギィもお風呂入った?
この部屋のお風呂凄かった!あそこの布団のとこと同じ布かかってて、中にいたら魔力がほとんど見えなかった!
魔王が作ったんだって!俺より年下っぽいのに凄いよなー」

ベッドまで戻ってお風呂を出たときに用意されていた着替えと一緒に置いてあった靴を履く。
お風呂出た後もう一度スニーカー履くの微妙だったから嬉しい。ハクって気が利く!

反応ないなーと思って振り向いたら、ギィは入り口で立ったまま微妙な表情でこっちを見ていた。

「ん?
何か変かな?服、おかしい?」
「…いや。似合ってる。
とりあえず髪は乾かした方がいいな」

ソファーに座るよう促される。
髪はとりあえず拭いた後は自然乾燥にするつもりだったんだけど、ダメだったようだ。
横に座ったギィが頭に触ったと思ったら、一瞬暖かくなって乾いてた。

「えっ。凄い。これ魔法!?」
「そうだな。体におかしな感じはないな?」

興奮する俺の頭をギィは自分の肩口に引き寄せ、指で後ろ髪を漉いた。

乾燥具合の確認かな?

無言で髪を漉くギィの雰囲気に声を掛けられなくなってじっとしていると開けっ放しだった扉からルークの声がした。

「遅いから迎えに来たよ。…ギィ、何してんの」
「…髪が濡れててな…」
「…ふぅん。乾かしたんだ。ま、扉も開けてたし、カイトも嫌がってないみたいだから追及はしないであげましょうかね」

追及って何を?

「カイトはゆっくり休めたみたいだね。ツヤツヤになってる」
「ルーク!ギィが魔法で一瞬で髪乾かした!
俺、魔法初めて見たんだけど、凄いな!
ルークも出来るの?」
「乾かすくらいなら出来るよ。次の時は俺が「いらん」…なんでギィが言うんだよ」

ルークも出来るのかー。
俺もそのうち出来るようになるかなー。

「火の玉出したり竜巻出したりも出来るの?」
「んー。それは魔王レベルかな。
俺たちの魔法は色んなことがちょっと便利になるくらいのものだね。
カイトは魔力のない国から来たのに魔法は知ってるんだ?」
「物語とかでよく書かれてたから。使えないからこそ憧れるって言うか」
「へぇー。魔法のことは魔王に聞くのが一番だよ。なんといっても魔王だしね」

確かに!

食堂には既に魔王側は全員揃ってた。
フローリングに絨毯を敷き詰めて、その上に大皿料理が色々置いてある。その周りに円形の座布団みたいなのが並んでて3箇所空いてた。

「あ、カイト!いいね!かわいい。似合ってる!」

かわいい…のか?女の子のかわいいの基準って謎だよな。

魔王の言葉に曖昧に笑いながら示された席に着く。
ギィとルークは両隣。向かい側に魔王たち。

「カイト殿はひと通り全ての料理を試してみてください。食べられる食材や魔力量との関係を確認させていただきますね」
「さ、食べましょ」
「いただきまーす」
俺は手を合わせて口の中で呟きながら視線は皿の料理を吟味。
携帯食以外の料理は初めて見るけど虫っぽいのとかは無さそうでちょっとほっとする。
見慣れない形の野菜っぽいのはあるけど色はちゃんと緑だしな。大丈夫そう。

「やっぱりサトと同じだねー。
挨拶とその座り方」

手元の皿に料理をとりながら魔王がニコニコ言う。
言われて周りを見ると俺だけ正座。他の皆は胡座だった。

「カイトの国では床に直接座るときはそう座るのか?足が痛くなりそうだが」

ギィが横から俺の皿にも料理を盛りながら正座を不思議そうに見てきた。

「足は痛くなるけど、ちゃんとした場ではこう座るよ」
「足が痺れて立てなくなる前に崩したらいいよー。
床に座るのってこっちではわたしの母国くらいなんだけど、カイトは馴染みあるんでしょう?
服装も建物も似たところがあるって聞いたよ」

魔王の皿には横からタチとセイも勝手に色々盛っていってて量が凄いことになってるんだけど、食べきれるんだろうか…。

「カイトの着てた服はどちらかと言うと俺らのに似てたから、ここの文化には馴染みないかと思ってたよ」

ルークも横から盛ってくる。自分で取らなくていいのは楽だけど、この量食べきれるか…。

「ちょっと似てる感じ。椅子も使うよ。両方ある」

肉はとっても野生の味っていうか臭いがする。野菜も味が濃くて緑の臭い。魔力の味ってこんな感じなのかな?呑み込むときに熱いのはもうわかってるから大丈夫。

「カイトはこちらの方が過ごしやすいのか?」

野生味溢れるお肉を持て余し気味にしていると、そっとギィが皿を取り上げて代わりに果物が乗った皿を渡してくる。
あ、食べてくれるのか。残せないから頑張ろうと思ってたから助かった。

「普段は椅子の方が多いかなー。服もさっきまで着てた様なのが普段の服だよ。あ、でも家の中では靴は履かない」
「この様式は東の島国独特の物なんですよ。彼の国以外ではここぐらいでしょうね」
「なんか落ち着くんだよねー」

国を出て大分経つのにね。って笑いながら大盛りの皿を空にしていく魔王に驚きだ。あんな小さい体のどこに入ってんだ。

久しぶりに大勢で囲む食卓は美味しくて楽しくて、今は遠くなってしまった家族を思い出して胸の奥が小さく軋んだ。
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